ピコ太郎の音楽の底力を見た “過剰なエンターテインメント”繰り広げた武道館公演映像から探る
それは、間違いなく「異常な空間」だった。
「奇祭」と言ってもいい。演出も、構成も、出演者も、そこで展開されているのは、通常のアーティストのライブの常識とは全く違うものだった。2017年3月、ピコ太郎が行った初の武道館公演。最初に開催のニュースが報じられた時に率直に思ったのは「一体何をやるつもりなんだろう?」という感想だったが、実際に足を運んで痛感したのは「まさかここまでとは!」という驚きだった。
4月18日にリリースされた映像作品『PPAPPT in 日本武道館』を観ても、その思いは改めて蘇る。
まずはゲストが豪華だ。前説に登場したのはくりぃむしちゅーの上田晋也。開会宣言は有田哲平。太田光と田中裕二扮する「爆チュー問題」や、高須クリニックの高須院長、マス寿司三人前(from ももいろクローバーZ)、東京スカパラダイスオーケストラ、LiSA、SILENT SIREN、さらにはシークレットゲストに登場した五木ひろしなどなど。観覧していたアンジャッシュの児嶋一哉もたびたびステージに引っ張り上げられイジられる。お笑い芸人、ミュージシャン、芸能人やセレブリティが顔を揃え、「PPAP」をメタルバージョンやバラードバージョンでカバーした海外のYouTuberも顔を揃える。幅広い、というか、もはやカオスな面々だ。
ステージ構成も、常識はずれなものだった。公演の前半は彼のソロパフォーマンス。1曲目に「PPAP」のロングバージョンを披露し、その後も「I LIKE OJ」や「ヒヨコ選別」などオリジナル曲を続けていくのだが、だいたい曲の長さは1分程度。むしろ曲間の語りや漫談のほうが長かったりする。クスリとする小ネタがどんどん放り込まれる。「音楽とお笑いの融合」と言ったら話は簡単なのだが、今までにないタイプのステージだ。
後半は、さまざまなゲストと共に「PPAP」をコラボしていくという展開。SILENT SIRENは「フジヤマディスコ」、LiSAは「Rising Hope」、マス寿司三人前(from ももいろクローバーZ)は「ミライボウル」と「PPAP」をマッシュアップする。さらには五木ひろしが登場し、自身の楽曲「契り」を披露してから「よこはま・たそがれ」と「PPAP」をマッシュアップ。さらにはスカパラが登場し「Paradise Has No Border」から、ラストはゲストが全員集合しての「PPAP」。祝祭感あふれるクライマックスを経て、「歓喜の歌」と「PPAP」のマッシュアップで締めくくった。
結果、当初は1時間半の予定だったというステージは2時間半という大ボリュームに。「PPAP」は計10回披露するという構成となった。
個人的に最も印象的だったのが中盤の海外YouTuberが登場したセクション。イタリアのダニー・メタルはメタルバージョン、ドイツのモリッツ・ガースはバラードバージョンを披露(インドの振り付けグループAwez Darbar Choreographyは出演が決まっていたのだがビザが下りず来日が叶わなかったそうだ)。彼らにピコ太郎が「いつ頃に動画を見てコピーしようと思ったか?」と問いかける。「ビフォー・ジャスティンかアフター・ジャスティン」と問うと、共に「ビフォー・ジャスティン」と答えていた。つまり、ジャスティン・ビーバーがTwitterで紹介したことでブームが広がったと言われている「PPAP」だが、それ以前にすでに世界中に二次創作の輪が広がっていたわけである。
ともかく、おそらく最初で最後の武道館公演は、過剰なほどのエンターテインメントが繰り広げられた場だった。