武藤昭平 with ウエノコウジが語る、音楽に対する探究心「曲に向かう姿勢が10年前と全然違ってる」
安心と、鋭いところもある(ウエノコウジ)
ーー今まで武藤昭平 with ウエノコウジでやってきた、マリアッチとかメキシコ音楽とか、中南米の音楽やスペインの音楽も、そうなんでしょうか。本物そのものじゃなくて、あえて言えばフェイクに魅力があるというか。
武藤:そうそう。ホンモノはできないからね。
ウエノ:ギターラ(ポルトガルギター)だっけ? あれ持ってこなきゃいけなくなる(笑)。
武藤:そもそもドラマーのオレが、ギター持って弾き語りするならば、っていうのが武藤ウエノっていう形になったんだけど、たまたま家にあったのがガットギターなんですよ。フラメンコとか好きだったからそういう奏法も参考にしつつ、その時好きだったロドリーゴ・イ・ガブリエーラを見て、アコースティックでこんなにパーカッシヴでできるなら、ただの弾き語りとは全然違うものが出せるかな、と思ったんです。マヌ・チャオとかチェ・スダカとか、ああいうフランスやスペインのインディものも参考にして、アコースティックなんだけど情熱的、というのをやろうと思って、それが武藤ウエノになった。その形式で3枚出して、次にどうしようか何も考えてなかったんで、ウエノ君からアイデアを聞いて、それは面白いな、と思ったんです。オレ、ドラムも叩けるし(笑)。
ウエノ:オレ、たまたまエレキベース持ってるし(笑)。
ーー今回はメキシコから北上してアメリカ南部に移動したっていう……。
ウエノ:(笑)。そうそう。そんな感じ。南部への憧れっていうのは、歳をとるとより強くなっていくんだね。
ーーどういうところに魅力を感じるんですか。
ウエノ:なんだろうなあ……若い時ってさ、スピードとか激しいものとか暴力的なものとかさ、そういうのがかっこよく思えちゃうんだね。昔からレコードを持っていたし知ってはいたんだけど、その良さ、隙間の良さっていうかさ、そういうのに遅ればせながら気づいたって感じじゃないの? 年齢もあるし、今まで聞いてきたものの積み重ねでやっとそこにいけたのかもしれないし。
ーーTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのあとにいきなりここにはこないよね。
ウエノ:(笑)。そうそう。
ーーそういう音楽をやってると、自分の中のどういう部分が出てくるんですか。
ウエノ:なんか安心するんだね。で、安心と、鋭いところもあると思う。グラム・パーソンズ自身もそんなにいい人じゃないっていうかさ(笑)、カントリー音楽なんて当時は時代遅れだった音楽を好きになってTHE BYRDSに飛び込んでさ。どこかに鋭さを感じてたんじゃないかな。
ーーグラム・パーソンズとThe Rolling Stonesが付き合ってた時代って、ストーンズが一番尖ってた時代じゃないですか。
武藤:うんうん。
ウエノ:ああ、でもそういうことだと思うんだよね。
ーーまだ若くてギラギラのエネルギーを発していたストーンズがそういう音楽に惹かれた。
ウエノ:そうそう。そういう音楽の鋭さにストーンズは惹かれたんだと思う。
ーーのんびりしてるように見えて。
ウエノ:そうそう。その両側が好きなんだよね。さっきも言ったように、オレらはどうやっても「本物」じゃないんだよ。カントリーで育ったわけじゃないからさ。でも、というか、だからこそ惹かれるのかもしれないね。……ま、煎じ詰めていうと歳とったってことか?(笑)。
ーー歳をとるって色んな意味がありますけど、ひとつには「過剰な自己主張がなくなる」というのもある気がします。
ウエノ:ああ! 今回のレコーディングもそうだったんだけど、「すごくいい所」に音を置きたいわけよ。歌があって、それに対して「いい所」に音を置きたい意欲がすごくあった。前は歌よりも前に、誰よりも先にいってやるぜ、みたいな。
ーーとにかく目立ってやる、と。
ウエノ:そうそう(笑)。今は歌に対して一番いいところに音を置きたい。その感覚と、スワンプとかカントリーの音の置き方が、うまくマッチしたのかもしれない。
ーー「オレがオレが」ではなく、「曲にとって一番いい演奏」をするようになった。
ウエノ:そうそう。そこはすごく感じてるかも。歌を押し出してあげる時に、必ずいいところってあるんだよね。そういう風にレコードを聞き出すと、スワンプとかカントリーが、今のオレにはぴったり合ったのかもしれない。