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アルバム『Vu Ja De』インタビュー

細野晴臣が語る、音楽の歴史への好奇心「知らないことばかりなんだから、飽きてる場合じゃない」

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好奇心はずっと続いていく

ーー「Essay」には、「悲しみのラッキースター」「Neko Boogie」のセルフカバー、映画『モヒカン故郷に帰る』のために制作された「Mohican」のほか、CMのために作った楽曲なども収録されています。

細野:とにかく曲数を増やさなくちゃと思って、かき集めたんですよ(笑)。未発表の曲もいっぱいあったから、いいチャンスだとも思ったしね。断捨離ではないけど「持っておいてもしょうがないから、いま出しておこう」っていう。どういうアルバムになるかわからなかったから「Essay」というタイトルを付けたんです。そうすれば「徒然なるままに並べました」って言えると思ったんだけど、曲が揃ってみると意外とまとまってましたね。

ーーなかでも新曲「洲崎パラダイス」は素晴らしいですね。この曲は1956年の日活映画『洲崎パラダイス赤信号』にインスパイアされて制作されたとか。

細野:映画のなかで聴こえてくる断片的な音楽がすごく不気味なルンバなんですけど、その印象を自分のなかで膨らませて作ったんです。映画自体も素晴らしいんですよ。全部ロケで撮影されていて、かつて東京にあった洲崎という赤線地帯が舞台なんです。映画ができた2〜3年後に赤線が廃止されて、街自体も消えて。記録としても価値があると思いますね。アーチ型のネオン看板だったり、勝鬨橋から洲崎に向かうバスだったり。「ここに洲崎というバス停があったのか」とか、いろんな発見があるんですよ。

ーー1940年代、1950年の音楽と同じく、いまは存在していない街なんですね。

細野:そうそう。やっぱり、そういうことに憧れますよね。ずっと東京にいるけど、景色がどんどん変わっていくんですよ。変わらないものは何もないし、以前の風景は幻想として自分の中に残っていて。でも下町にいけば昔と変わらない風景もある。僕の気持ちはそっちにつながっているんでしょうね。

ーーその話は『Vu Jà Dé』(ヴジャデ)というタイトルの意味にもつながっていると思います。

細野:“知ってるはずなのに、じつは知らない”ということですね。カバーをやっているときに感じていたことなんだけど、たとえば1940年代のブギウギは「知ってるようで知らない音楽」だったんです。聴けば馴染みがあるんだけど、いざやろうとするとなかなかできない。手が届かない音楽、再現しようがない音楽だったんだけど、さっきも言ったように、ライブを続けているうちに少しずつやれるようになったわけですけど。

ーー“知らないはずなのに知ってる”という意味の“デジャヴ”とは反対ですね。

細野:“知ってるのに知らない”のほうが深刻ですよ。音楽だけではなくて、人もそうでしょ。親しい人であっても、じつは知らないことがあったり。それがおもしろいし、楽しいんですよ。好奇心を刺激されるというかね。40代の頃に「もうすべて聴いてしまった」「飽き飽きした」と思っていた時期があったけど、それは間違いだったんです。知らないことばかりなんだから、飽きてる場合じゃないっていう。ブギウギやラテンもそうだし、ロックもそうだと思うんですよね。近頃では本当のロックは聴こえてこないし、消滅したと思いますね、日本でもアメリカも。

ーーロックはやり尽くされたと勘違いしているだけというか。

細野:そうそう。掴みどころがないから上手く取り出せないんだろうし、はっきりしたことは言えないんだけど、だからこそおもしろいんです。大衆音楽は全部そうですよね。クラシックは一人の天才が作った楽曲が多いけど、大衆音楽、ポップスはたくさんの人が寄ってたかって作ってるから、いろんなものが入っていて。分析は不可能なんだけど、聴いて「いい!」「おもしろい!」と感じるし、そのなかにすごいものがあるというのはわかる。それが何か? という興味があるんですよね、その好奇心はずっと続いていくと思います。


ーーアルバム『Vu Jà Dé』の後、細野さんが追求しようと思っているのはどんな音楽ですか?

細野:「洲崎パラダイス」もそうだけど、ラテンをやりたいですね。いまや気分はラテンです(笑)。

ーー夏のツアーでもラテンのレパートリーが増えてましたよね。

細野:そう、その頃からラテンの曲をカバーすることが増えたんです。だから今回のアルバムはブギウギ時代の記録と言えるかもしれない。いま思ったんだけど、戦後の日本の大衆音楽はブギウギから始まったんですよね。それが廃れるとラテン、マンボが流行った。それと同じことをやろうとしてるのかもしれないな。昭和30年代の歌謡曲もますます好きになってるんですよ。民謡からきたものではなくて、洋楽に影響されている歌謡曲がいっぱいあって。演歌と思われている曲でも、リズムはラテンのハバネラ、バイヨンだったりね。そういう曲もやりたいですね。

ーーアルバム『Vu Jà Dé』を引っ提げたツアーも楽しみです。

細野:“ヒエー!”だね(笑)。せっかくアルバムを出したからには、新曲をやらないといけないから。

ーーやっぱりカバーのほうが楽しいですか?

細野:それはそうですね。自分が作る曲は歌うのが難しいんですよ。「洲崎パラダイス」はすぐやれそうだけど、「Retort」なんかはメロディが複雑だから大変だろうね。ちょっとシリアスな曲だから、楽しくやれるかどうか……。

ーーライブは楽しくやりたいと。

細野:もちろん。まず自分自身が楽しいほうがいいから(笑)。あとね、あんまり緊張したくないんですよ。その場で思い付いたことをすぐにやれる感じが好きなんですよね。ホントはリハを舞台でやりたいんです。一度やったことがあるんだけど、ステージの上で譜面を渡して、その曲を演奏するっていう。みんな緊張するだろうし、一生懸命にやるでしょ(笑)。またどこかでやりたいですね、それも。

ーー中野サンプラザ公演では、ゲストとしてナイツが出演。ナイツの塙宣之さんも細野チルドレンですよね。

細野:以前から僕に影響されてるって言ってくれていて。テクノのリズムが“ヤホー漫才”を生んだっていう(笑)。そんな縁もあって、YMOの「インソムニア」を漫才の出囃子用にアレンジしたんですよ。そのお返しに細野ネタの漫才の台本を送ってくれて。自分ではやれないし(笑)、ナイツも他のところではやりづらいだろうから、ライブでやってもらおうと思って。楽しみですね。

(取材・文=森朋之/撮影=小田部伶)

■リリース情報
『Vu Ja De』(ヴ ジャ デ)
発売:2017年11月8日(水)
CD 2枚組¥3,300(税抜)
セルフライナーノーツ付き 初回生産分デジパック仕様
Disc 1<EIGHT BEAT COMBO> ※カバーサイド
01. Tutti Frutti
02. Ain’t Nobody Here But Us Chickens
03. Susie-Q
04. Angel On My Shoulder 
05. More Than I Can Say
06. A Cheat
07. 29 Ways
08. El Negro Zumbon(Anna)

Disc 2<ESSAY> ※オリジナルサイド
01. 洲崎パラダイス
02. 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Ja De ver.~
03. ユリイカ 1
04. 天気雨にハミングを 
05. 2355氏、帰る
06. Neko Boogie ~Vu Ja De ver.~
07. 悲しみのラッキースター~Vu Ja De ver.~
08. ユリイカ 2
09. Mochican ~Vu Ja De ver.~
10. Pecora
11. Retort ~Vu Ja De ver.~
12. Oblio

■ライブ情報
『細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー』
11月11日(土) 岩手・岩手県公会堂 大ホール (thank you, sold out)
11月15日(水) 東京・中野サンプラザ (thank you, sold out)
11月21日(火) 高知・高知県立美術館ホール (thank you, sold out)
11月23日(木祝) 福岡・都久志会館 (thank you, sold out)
11月30日(木) 大阪・NHK大阪ホール (thank you, sold out)
12月8日(金) 北海道・札幌市教育文化会館 大ホール

『細野晴臣新作發行紀念公演』
2018年
1月13日(土) 台湾・台北 Legacy台北
出演:細野晴臣(Vo,G), 高田漣(G), 伊賀航(B), 伊藤大地(Drs)

オフィシャルサイト

      

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