関ジャニ∞『ジャム』は“転機”となるか 楽曲提供陣とグループの個性による音楽的な広がり

 関ジャニ∞(以降、関ジャニ)の新アルバム『ジャム』は、一見して豪華なミュージシャン陣が目につく。ニセ明、菅野よう子、蔦谷好位置、BEGIN、岡崎体育、池田貴史、UNICORN、水野良樹などである。メジャー領域におけるアイドルソングの聴きどころのひとつに、このようなプロのミュージシャンとのぶつかり合いというものがある。名のあるミュージシャン陣は音楽的に自分の特徴を発揮し、一方で、歌い手は歌い手としてそれを表現する。お互いを意識しつつ、かと言って、自分の音楽的特徴を消去することもない。その微妙なせめぎ合いが面白い。

 「今」をはじめて聴いたとき、それまでの関ジャニとは一味違った印象を受けたが、作詞作曲は「akira nise」(ニセ明)とのことだ。ニセ明は、星野源のライブでおなじみの存在である。星野源の楽曲と言えば、あまり言葉を詰め込めずのびやかなメロディでありながら、少し引っかかりのある譜割りが特徴的だと思っているが、この曲もまさにそのような特徴を備えている。菅野よう子のアレンジはアコースティックなサウンドを基本にブラスが入って、ソフトロックっぽくなっている。そこに、ストリングスが多く絡んでいくのは、菅野よう子っぽさとも言えるか。「今」という曲は、関ジャニと作曲者のニセ明、アレンジの菅野よう子も含め、それぞれの個性がぶつかり合っているようだ。しかし重要なことは、とは言え、「今」が結果的に、関ジャニの曲としか言いようのない仕上がりになっていることである。

 同じような個性のぶつかり合いは、作詞作曲がUNICORNの「S.E.V.E.N 転び E.I.G.H.T 起き」にもある。ナンセンスな詞とメロディライン、そして過剰にエモーショナルなコーラスは、UNICORNを強く連想させる。奥田民生の声で歌われたら、そのままUNICORNの曲になってしまいそうだ。しかし、この曲もまた結果的に、やはり関ジャニにぴったりとはまるような楽曲になっているから不思議である。その他、池田貴史による「侍唄(さむらいソング)」などもテレビ朝日系ドラマ『サムライせんせい』の主題歌とは言えレキシのコンセプトをそのまま流用しつつ、関ジャニの曲として成立しているのが面白い。

 これらは、関ジャニがいよいよアイドルバンドとして強度を強めていることを示している。個人的に、バンドとしての関ジャニのイメージは「がむしゃら」な「元気」感であり、それは前作で強く打ち出されていた(参考:「関ジャニ∞が見せた音楽的挑戦とは 矢野利裕が最新アルバムの“元気なサウンド”を分析」)。本作でも、岡崎体育による「えげつない」など、関ジャニの「元気」さを楽しく活かした(そのうえで、岡崎体育流のパロディ精神が発揮された)曲があったりする。しかし一方で、「今」などは、そのような「元気」感が全面展開されているわけではないものの、関ジャニらしい曲としてちゃんと成立している。これは端的に、関ジャニの可能性の広がりを感じさせるものだ。アイドルバンドとしての存在感が安定しているからこそ、関ジャニの音楽的可能性は広がり始めている。ニューオーリンズっぽさのある「DO NA I」やオーセンティックなスカの「なぐりガキBEAT」などは、そのことを強く示している。とくに「なぐりガキBEAT」の途中、テンポが2分の1になってダブっぽく展開するところなどは、アイドルソングのグルーヴとしてはなかなかなかったものだし、普通に気持ち良い。

 アルバムのクレジットを見ると、多くのスタジオミュージシャンの名前が記載されている(80年代のアイドルバンド・SALLYの佐藤公彦の名前もある)。音楽コンテンツになかなかお金がかけられないと言われる現在、このクレジットの多さだけでも目を引く。関ジャニという器に多くの才能が群がり始めているようにも思える。こうなると、アイドルはいよいよ強い。豪華ミュージシャンの参加と、それにともなう音楽的広がりーーあとから振り返ったとき、『ジャム』はなにかしらの転機として位置づくだろうか。今後、関ジャニの「元気」感が、どのくらい反復され、どのくらいズラされるか、楽しみである。

■矢野利裕(やの・としひろ)
1983年、東京都生まれ。批評家、ライター、DJ、イラスト。東京学芸大学大学院修士課程修了。2014年「自分ならざる者を精一杯に生きる――町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。近著に『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」 』(垣内出版)、『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)、共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)など。

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