星野源の『おげんさん』は音楽愛に溢れていた “本気”と“ゆるさ”がもたらしたバランス
星野源のテレビ初冠番組『おげんさんといっしょ』(NHK総合)が、5月4日に放送された。「偏愛的音楽&トーク番組」として発表された同番組は、高畑充希、宮野真守、藤井隆、細野晴臣といった豪華出演者が放送前から大きな話題に。オンエアを迎えると、Twitterトレンドワードには、番組のハッシュタグ「#おげんさん」と共に、いくつもの番組関連ワードが並んだ。一度きりの特別番組ながらも、レトロかつ緻密に作り込まれたスタジオセットからは、番組の“本気”を感じさせ、星野の弾き語り、ツアーも共に巡っているメンバーでのバンド生演奏、楽しさと自由に溢れたトークには彼の音楽愛が溢れていた。
星野が偏愛するアーティストとして紹介されたのが、Twitterのトレンドにもランクインしたマイケル・ジャクソンと、長男役として番組にも出演した細野晴臣だ。幼少期の頃、ムーンウォークを真似するほど星野にとってアイドルであったマイケル。ムーンウォークを初披露した『モータウン25周年コンサート』、登場から2分以上微動だにしない姿から“伝説のライブ”と呼ばれている『ライヴ・イン・ブカレスト』の映像を興奮しながら紹介する星野。「(マイケルは)なんか寂しそうだった。僕も埼玉に住んでて、当時寂しくて。全然違う、雲の上の人なんだけど、妙に親近感が湧いて」と、星野は当時マイケルに惹かれた理由を語る。この“親近感”については、自身のエッセイ『いのちの車窓から』で詳しく述べている。
小学校低学年の頃、クラスメイトと上手くコミュニケーションを取ることができなくなってしまった星野は、当時テレビの中で歌い踊るマイケルの瞳の奥に寂しそうな雰囲気を感じとったのだという。マイケルや他のソウルアーティストのビート、スネアのタイム感を研究し完成した「SUN」は、マイケルへの思いを歌詞に反映させ、ポップスとして見事に昇華させた楽曲だ。マイケルのほかにも、プリンス、Earth, Wind & Fire、The Isley Brothersなど、ブラックミュージックから大きな影響を受けてきた星野は、「体が勝手に踊り出すようなダンスミュージック」を目指した。そのコンセプトを色濃く反映させたアルバム『YELLOW DANCER』は、星野がポップスターへと躍進するきっかけになった作品である。筆者が昨年、ツアー『YELLOW VOYAGE』のさいたまスーパーアリーナ公演で見た、数万人の客席が思い思いのダンスを踊っている光景は、彼が望んだダンスミュージックがポップスへと昇華した瞬間であったように思える。
憧れの人として登場した細野は、星野にとってソロデビューのきっかけを作った人物だ。20歳でインストバンド、SAKEROCKを結成した星野。それから、ソロとしてコンプレックスであった“歌うこと”を始め、ファーストアルバム『ばかのうた』をリリースするまでに至ったのは、細野の勧めがあってのことだ。2015年、SAKEROCKは解散。バンドで星野は、ギターとマリンバを担当していたが、マリンバは細野が叩く姿に影響されたのがきっかけだ。現在も、星野はツアーの中でマリンバを演奏している。番組内で、星野は細野とのセッションに「絹街道」を選んだ。通称“トロピカル三部作”の中の一枚、アルバム『トロピカル・ダンディー』収録の楽曲。細野の楽曲からのエッセンスは、星野の「恋」にも溶け込んでいるのだという。
細野のほかにも、以前からその演技に注目していたという高畑充希、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で共演していた藤井隆、『AERA』にて対談経験もある宮野真守、バックバンドの長岡亮介、ハマ・オカモト……と、星野のリクエストが十二分に行き届いたキャスティングで番組は構成されていた。冒頭、星野は番組コンセプトについて、「ものすごくダラダラした、リハーサルみたいな音楽番組をやりたい」と明かしているが、彼が深夜にパーソナリティーを担当している『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)に近い雰囲気を『おげんさん』からは感じる。好きな楽曲をオンエアし、自由なトークを展開し、好きという一心で企画にするラジオ番組にて星野は、先日NPO放送批評懇談会が主催する「第54回ギャラクシー賞」において「ラジオ部門 DJパーソナリティ賞」を受賞した。冗談も、下ネタも、真面目な話も、垣根なく存在するANNと、緊張感を避けた『おげんさん』は星野自身の限りなく素に近い、リラックスした姿なのだろう。