クラムボン・ミトとbambooが考える“悪巧み”の重要性 バンドを長く続けるために守るべきことは?

ミトとbambooが考える「悪巧み」の重要性

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「長持ちするバンドや音楽は、ファンと一緒に悪巧みをしている感じが常にある」(ミト)

ーークラムボンは最近だと、会場限定EPを持って全国を回る『clammbon 2016 mini album 会場限定販売ツアー』を開催するなど、普通の流通・販売とは別の形を提示していますよね。そういう意味ではCAMPFIREとも相性が良いバンドなのかなと思ったのですが。

ミト:クラムボンの活動も、自分たちで事務所を立ち上げてスタジオを建ててそろそろ17年くらいになるんですけど、メジャーにいた時期もありながら、活動はずっとインディペンデントでしたし、オーディエンスの「こうしたらいいのに」という声を真に受けて色々やってきました。ライブハウス以外の場所で演奏したいけど、どこかわからないということで『ドコガイイデスカツアー』をしてみたり、野音のやり方もフジロックのライブも、それぞれオーディエンスのレスポンスを受けての繁栄なんですよね。だから僕自身もクラウドファンディングとは相性がいいだろうなと思っていました。

ーーなんとなく考えていた段階から、しっかり踏み込もうと決意したきっかけは?

ミト:ぼくのりりっくのぼうよみ氏がオウンドメディア『Noah’s Ark』を作った『ぼくのりりっくのぼうよみ、自分でメディアを作る予算を集めたい』プロジェクトですね。あのアプローチを見て、僕らも早めに何かをやっておいたほうがいいなと感じました。こと音楽業界って、お金が絡むものに関しては敏感にマスキングしてきたと思うんですけど、私たちのチームって、思えば初めから開示している方なんですよね。それは僕らが最初から、時代がより開かれてクリアになっていくと思っていたからそうしていたわけなので、ようやく自分たちの思っていた感覚ーーお金をよりカジュアルに、だけど大切に使うという発想になってきた。その流れが顕著に表れているのが、この分野(クラウドファンディング)かなと。

bamboo:俺もアニソン業界で一番お金の話をしてるからね(笑)。

ミト:でも、ここまでのことをオープンに話せるようになったのって、本当に最近なんですよ。それは、奇しくも音楽業界の衰退や現状の経済事情が、柴那典くんをはじめとしたジャーナリストたちの手によって開示されてきたことも大きいと思うんです。いわんやそれを警笛というものもいるし、それがもっと開示されることでカジュアルに、音楽というものがますます身近なものになってきた。作品を手に取る人たちにとっても、Spotifyなどの登場で仕組みがよりオープンになってきて、音楽に内在している「どういう風に・どんな流れで作られるのか」ということも興味の対象になってきた。世界的にもチャンス・ザ・ラッパーの「売らないで売る」という戦略が成功したことが顕著で。

ーー今回のプロジェクト『クラムボン×岩井俊二「日比谷野外音楽堂ライブ」映像化大作戦』は、岩井俊二さんの起用も大きな話題になっています。その経緯については本人や原田郁子さんからのコメントに詳しいですが、ミトさんにも同じテーマについて訊きたいです。

ミト:正直な話、岩井監督と僕らで映像作品を作るとなれば、たくさん出資してくれる企業さんもいるわけです。でも、そこは僕が丁重にお断りましたし、岩井監督の事務所にもbambooさんを連れてご挨拶に伺って「『みんなでつくる』というところから離れたくない。スペシャルであり続けたいという企画だから、そこに乗っていただけないか」とお願いしました。

bamboo:僕はクラウドファンディングについて誤解のないようにイチから130まで説明して。過去実績も全部打ち出して持って行ったんですよ。「悪いようにはしないですよ」って。

ミト:その言葉言ってる人が一番怪しいんですけどね(笑)。この取材の段階でも、岩井監督にはメンバーまだ誰もお会いしてないんです。郁子さんとのやりとりもメッセージ経由でしかなくて。こちらからも「今からクラムボンの音源を遡って聴いたり、資料を調べたりしないで結構です」とオーダーしました。岩井監督は郁子さんのソロからクラムボンにたどりついて、僕らの音楽を面白いと思ってもらえているので、そのフレッシュな状態を映像に収めるほうが、クラムボンや岩井監督のフォロワー以外にも届くような気がしたんです。

ーー余計なバイアスがかからないぶん、飛距離が伸びるというか。

ミト:そう。それもマーケットとしては重要なことだと思っていたので。これはbambooさんの名前をプロジェクトページに明記することも同じです。そのリーチって、どこに届けばいいと思っているわけではなくて、僕らのまわりに点在しているものを開示してあげることが重要だと思っているんです。それが「悪いようにはしないよ」ってことですよ(笑)。

bamboo:名前は今回僕からも乗っけてくれと言ったんです。キュレーターとして責任を取りたいから。ニューロティカの時も少し名前は出ていましたけど、今回から自分のキュレーションするプロジェクトについては、しっかり自分の名前を載せていこうと思います。責任の所在は自分にもあるぞと。僕自身はミュージシャンにお金の話をさせたくないんですよ。お金の話をしているミュージシャンは、自分以外ではあまり好きではないから。

ミト:好きじゃないというのは同族嫌悪的な意味合いもあるでしょうけど、そこを自分が一手に引き受ける楽しみを感じているからなのかもしれませんね。僕らもそういうところがあるんですけど(笑)。

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ーーちなみにミトさんはこれまでbambooさんが関わって来たプロジェクトを見て、何を感じましたか?

ミト:ジャンルも様々なのですが、一貫して言えるのは「コアな人たちに対してとっても丁寧である」ことだと思います。

bamboo:まあ、うちの場合は成り立ちが独特で。クラウドファンディングを始める前に、毎晩数百人のファンとガチ討論をしたんですよね。その時は僕もよくわからなかったけど、楽しそうだと思いましたし、発売前から赤字じゃないって、自分たちにとっては福音みたいなものだと感じたので(笑)。ゲーム業界って嫌な風習があって、店舗別に特典を用意すると、1人で10本を買うような人たちも現れるんです。1ゲーム1本でいいじゃんと思ったし、だったら10万円を払ってもらっても、ゲーム1本とそれに付随する価値を提供したほうがいいなと。討論では一緒にクラウドファンディングとはなんぞやというところから入って、「こんなリターン考えたんだけどどう?」みたいなテーマで議論を重ねていくうちに、FAQみたいなものもできたりして。じゃあやろうかと言って始めたライブDVDプロジェクトが成功した。

ーーしかも1回目とは思えないスピードで。

bamboo:うちのプロジェクトはみんな初速が速くて、だいたい1〜2日で達成するんです。それはファンとの議論や積み重ねがあったからだし、今はもうクラウドファンディング慣れしているので、何かプロジェクトをやろうとすると「いくら必要なんじゃい」と言ってくれるタニマチのような人たちもいます(笑)。

ミト:でも、タニマチやパトロンみたいな発想って、日本では昔から本当にマスキングされがちですよね。クラシックの世界なんて、それがなかったら滅んでさえいたというのに。音楽の歴史を掘り下げていけば、必ずそこに当たるんですよ。だからここまでクラウドファンディングが広がり始めているのは、これまで飛び越えちゃっていたところを掘り起こして、もう一度根底から土台を作る行為なのかもしれない。これはCAMPFIREの岡田(一男)さんに聞きたいんですけど、カジュアルに使ってもらいたいというのが最終目標なんですか?

岡田:サービスとしては、音楽で言うと予算が現場にない中で、何かでタイアップを取ってきたり、どこかスポンサーなどからのお金で何かをやるというのが現状。マネタイズという言葉は嫌いな人が多いと思うんですけど、収益化できなかった部分をクラウドファンディングを使うことで形にしたり、こういうことをやってみたい、そしてファンもそれを欲していたけど資金がなくてできなかったことを、どんどん実現できればいいかなと考えています。

ミト:なるほど。音楽業界が瓦解した瞬間に、いろんなものが散り散りになってまたゼロからもう一回組み直されているのが今で、その糊付けの部分にクラウドファンディングがあると思うんです。CAMPFIREがすごいのは、bambooさんを含め、チームで誰が担当したかをプロジェクトに明記してるじゃないですか。あれが画期的だなと。お金を扱っている人間だからという意識もあるでしょうし、書いた落とし前がネットのリテラシーの中にあるんだということを示しているし、ここがクリアになっていることに、サービスが広がっていく可能性を感じるんですよね。

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ーークラムボンとしては、これらのツールも活用しながらどんなバンドを目指そうとしているのでしょうか。

ミト:現在は少し違いますが、昔のアニメやゲームって、一つのコンテンツやキャラクターをいかに愛でることができるかがステータスであり、それが楽しみだったわけですよ。僕もそこが好きでいたからなのか、知らない間にクラムボンもそうなってほしいなという思いが随分前から芽生えていたんですよね。みんなに知ってもらいたいとか日本で一番になりたいとか考えてはいないけど、どこのバンドよりも楽しくありたい。ファンにも「私たちしか知らない」くらいの特別感を持っていてほしいし、その延長線上でいろんな人へ広がればいいと思っているんです。

ーーなるほど。

ミト:それを長く続けた延長線上がグレイトフル・デッドだと思っていて。世界中、日本だろうがエジプトのピラミッドであろうが満員になるわけですよ。つまるところそういうもので、長持ちするバンドや音楽って、自分しかわからないんじゃないかというシークレットなものと、一緒に悪巧みをしている感じーーまさに今回のプロジェクトのような感覚が常にあるから、いつまでも目が離せないんじゃないでしょうか。悪巧みをしている人が全国に点在しているのが楽しいことで。でも、クラムボンは個性やブランディングがかなり明確だから、使えそうな場所と使えなさそうな場所があるんですね。僕らはそれを広げたいとは一切思わなくて。僕が口すっぱく自分たちをゆるふわバンドと言っているのはそこなんですよ。そういうところをちゃんと守っていない人たちは面白いことができないって知ってるから。それはbambooさんもCAMPFIREもそうだろうなと思います。

bamboo:<面白くない世の中 面白くすればいいさ>(milktub「有頂天人生」)って歌ってるくらいだからね。

milktub「成るがまま騒ぐまま」(TVアニメ『有頂天家族2』オープニング主題歌)

(取材・文=中村拓海/撮影=三橋優美子)

■プロジェクト情報
『クラムボン×岩井俊二「日比谷野外音楽堂ライブ」映像化大作戦』

■リリース情報
・milktub
『成るがまま騒ぐまま』
発売:4月26日(水)
価格:¥1,200(税別)

<収録内容>
1. 成るがまま騒ぐまま
2. 君の名を
3. 成るがまま騒ぐまま (Instrumental)
4. 君の名を (Instrumental)

■ライブ情報
『clammbon モメントツアー2017』
チケット:¥2,500(税込・オールスタンディング)+別途1drink代(山形公演無し)

<公演日程>
6月1日(木) 北海道・札幌 PENNY LANE24 <サイン会あり予定> 開場18:30 開演19:00
6月3日(土) 北海道・北見ONION HOLL <●サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
6月10日(土) 神奈川・横浜 F.A.D YOKOHAMA <サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
6月11日(日) 山梨・甲府CONVICTION <●サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
6月14日(水) 三重・松阪M'AXA<●サイン会あり> 開場18:00 開演18:30
6月15日(木) 岐阜Club Roots <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
6月17日(土) 富山MAIRO <●サイン会あり> 開場17:00 開演17:30
6月24日(土) 宮城・石巻BLUE RESISTANCE <●サイン会あり> 開場17:00 開演17:30
6月25日(日) 青森・弘前 MAG-NET <●サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
6月27日(火) 東京・渋谷 O-EAST <サイン会なし> 開場18:00 開演19:00
6月28日(水) 千葉・柏PALOOZA <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
7月1日(土) 山形ミュージック昭和Session <●サイン会あり> 開場17:00 開演17:30
7月2日(日) 栃木・HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2 <●サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
7月7日(金) 埼玉 HEAVEN'S ROCK 熊谷 VJ-1 <サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
7月12日(水) 群馬・高崎 club FLEEZ <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
7月14日(金) 愛知・名古屋ボトムライン <サイン会なし> 開場18:00 開演19:00
7月16日(日) 滋賀 U★STONE <●サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
7月17日(月・祝) 和歌山SHELTER <●サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
7月19日(水) 広島 CAVE-BE <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
7月20日(木) 島根・出雲 APOLLO <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
7月22日(土) 福岡 BEAT STATION <●サイン会あり> 開場17:30 開演18:00
8月2日(水) 福井 CHOP <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
8月3日(木) 大阪・梅田 CLUB QUATTRO <サイン会なし> 開場18:15 開演19:00
8月5日(土) 徳島 club GRINDHOUSE <●サイン会あり> 開場17:00 開演17:30
8月6日(日) 愛媛・松山サロンキティ <●サイン会あり> 開場16:30 開演17:00
8月22日(火) 兵庫・神戸チキンジョージ <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
8月24日(木) 山口・周南 RISING HALL <●サイン会あり> 開場18:30 開演19:00
8月26日(土)  佐賀 RAG-G <●サイン会あり>開場17:30 開演18:00
8月27日(日)  鹿児島 CAPARVO HALL <●サイン会あり>開場16:30 開演17:00

詳細は公式HPにて

■関連リンク
クラムボン公式HP
milktub公式HP

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