星野源 新春 Live 2days 『YELLOW PACIFIC』ライブレポート
星野源は日本のポップミュージックの歴史を前に進めるーー新春ライブ『YELLOW PACIFIC』レポ
昨年10月の『恋』リリース以降初となる星野源のワンマンライブ“星野源 新春 Live 2days 『YELLOW PACIFIC』”が、1月23日と24日にパシフィコ横浜 国立大ホールにて行われた。前ツアー『YELLOW VOYAGE』が3月にファイナルを迎えてから、NHK大河ドラマ『真田丸』やTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、そして年末の音楽特番に出演するなど、2016年後半はテレビで見ない日はないほどの活躍を見せた星野源が、再びステージに帰ってきた。
2日目である1月24日、披露されたのは全19曲。この日のセットリストは2015年12月にリリースした4thアルバム『YELLOW DANCER』収録曲が中心で、そこに、それ以前の曲や、「恋」とそのカップリング「Continues」などが加わる構成。サポートは、長岡亮介(G)、ハマ・オカモト(B)、石橋英子(Syn)、櫻田泰啓(Key)、河村“カースケ”智康(Dr)のバンドメンバーと管弦楽隊による総勢13名。『YELLOW VOYAGE』ツアーから、星野源はギターを持たずにハンドマイクで歌う曲が増えたが、この日も自由にステップを踏みながら歌い、さらに観客にも「踊ってますかー!?」「歌ってますかー!?」と何度も誘いかける姿が印象的だった。
もはや毎回恒例となっている開演時のナレーションは『星野源のオールナイトニッポン』にもゲスト出演した人気声優の安元洋貴が星野源の母“ヒロコ”を演じ、仕事を嫌がりベッドから出てこない星野源に喝を入れる、という内容。そのナレーションに導かれ、「もっと休みた~い」と脱力気味に言ってステージに飛び出してきた星野源。そのまま伸びやかな声が響き渡る「ワークソング」から、ライブはスタートした。「化物」「桜の森」でも、バンドサウンドと管弦楽隊による華やかかつ上品なサウンドで、会場を徐々にあたためていく。肩肘張らないリラックスしたムードの中、星野源が生み出す、この時代、この場所に生きる人々のためのダンスミュージックを、存分に堪能できる幕開けだった。
「Night Troop」「Snow Men」ではムーディな空間を作り、さらに、MCを挟んで披露されたのは「くだらないの中に」と「雨音」だ。石橋英子によるフルートの音色も加わり、音源とは異なるアレンジが施されたこの2曲。観客を引き込ませるために、セットリストも曲間の空気も、そして楽曲のアレンジにおいても、ひとつひとつ丁寧につくり込む星野源のライブは、何にも代えがたい贅沢な時間である。
4曲をじっくり聴かせたあと、前編を締めくくった楽曲は「地獄でなぜ悪い」。狂騒的なホーンセクションと跳ねまわるビートが、観客のハンドクラップとジャンプを誘う。星野源はマイクを手にステージの上を練り歩きながら、本当に楽しげに歌っていた。日々を<地獄>と呼びながらも、それを笑い飛ばして生き抜くようなこの曲のタフさは、『YELLOW DANCER』全編において貫かれており、『恋』に続く今の星野源を象徴しているように思う。
星野源がサポートメンバーと共にステージを去ると、スクリーンには新年の挨拶として、友近扮する水谷千重子からのメッセージビデオが流れる。さすがの芸の細かさで、会場は度々笑いの渦に包まれた。冒頭のナレーションといい、このメッセージビデオといい、星野源のライブにとって、“笑い”は欠かせない要素として、あちこちに配置されている。
そんな脱力タイムを挟み、今度は弾き語りコーナーへ。演奏されたのは、「くせのうた」「口づけ」「フィルム」の3曲だ。フォークソングを彷彿とさせる、弾き語りを中心とした楽曲でソロデビューした星野源。そこから徐々に音楽的な視野は広がり、『YELLOW DANCER』ではソウル、R&B、ジャズ、ブルース、ラテンミュージック、歌謡曲などを盛り込み、“YELLOW MUSIC”と呼ぶべき音楽に消化させていった。それでも彼の曲の根幹にある歌とメロディは常に一級品。ギター一本による弾き語りの時間は、その“歌うたい”としての原点を思わせるような一幕だった。
その後、再びサポートメンバーを迎え披露されたのが「Continues」。同曲が収録された最新シングル『恋』の紹介をしながら、星野源が話し始めたのは、長年敬愛し、“音楽の父”だという細野晴臣についてだ。以前から親交の深いふたりは昨年ライブ(昨年5月に開催された『細野晴臣 A Night in Chinatown』)でも共演しているが、そのステージで、細野晴臣に「あとはよろしく」と言われたという。しかし、その言葉の重さにすぐに返事をすることができず、その後作り始めたのが「Continues」だと明かす。はっぴいえんどやイエロー・マジック・オーケストラ、そしてソロとして、様々な形で日本のポップミュージックの礎を築いてきた細野晴臣の遺伝子を受け継ぎ、現代におけるヒットソングを新たに生み出した星野源。彼の曲は、今間違いなく、J-POPの歴史を前に進めている。この日会場に集まったおよそ5000人の熱気や興奮は、そのことを確かに証明していた。