『アシンメトリ e.p.』インタビュー
ねごとが語る、新サウンドへの挑戦とこれから「いろんな意味で覚悟が決まってきてる」
ねごとの一年半ぶりの新作『アシンメトリ e.p.』は、新たな旅の始まりを告げる一枚である。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之、ROVOの益子樹という、共に宇宙規模のスケールを持ったバンドから音の職人2人をサウンドプロデューサーとして招き、昨年から取り組んでいるダンスミュージック路線を突き詰めた、明らかな新境地が高らかに鳴らされている。また、本作は彼女たちにとって覚悟の一枚でもあり、4人がそれぞれの覚悟を胸に抱きながら、未来へ向けて歩みを始めた作品だとも言えるだろう。果たして、この一年半の間には何が起きていたのか? 全員インタビューで、バンドの現在地を解き明かす。(金子厚武)
「「ねごとが鳴らすかっこいい音楽」を突き詰めたい」(沙田瑞紀)
ーー『アシンメトリ e.p.』は約一年半ぶりの新作になります。3枚目のアルバム『VISION』の発表と、それに伴う初の全国ワンマンツアーを終えて、「次の作品は時間をかけてじっくり作ろう」と考えたのでしょうか?
沙田瑞紀(以下、沙田):「どのくらい期間を空けよう」みたいな設定はなかったんですけど、「次のモードは何だろう?」って考えていく中で、実際に曲を作ってみないと見えてこない部分がすごくあったので、とにかく曲をいっぱい書いて、みんなで練る作業をずっとしていました。結構『VISION』でやり切った感があって、「次どうしよう?」って感じだったんですけど、それは不安の「どうしよう?」ではなくて、「やれること広がっちゃったな」って感じだったんですよね。
ーー『VISION』を作っていろんな未来が開けたからこそ、先にリリースプランを立てるのではなく、まずは自由に創作をしてみたと。とはいえ、日本の音楽業界は動きが速いので、リリースの間隔を空けることに怖さもあったのではないでしょうか?
蒼山幸子(以下、蒼山):リリースはなかったですけど、ライブは欠かさずやってきて、去年は5周年記念の『ねごとフェス』があったし、今年の春は対バンツアーをやって、その中で今回のe.p.に入ってるようなダンサブルなモードを見せてもいたので、お客さんにはそこで「待っててね!」って言い続けてきたんです。
ーー『ねごとフェス』をやったのは大きかったですよね。あそこでお客さんとの信頼関係をひとつの形にしていたからこそ、じっくり創作と向き合えたのかなって。
藤咲佑(以下、藤咲):あの日はホントすさまじかったですね(笑)。5周年ってことで、今までの曲を全部振り返ったので、「この曲作ったとき大変だったな」とか、当時のことがフラッシュバックしてきたり。でも、あれをやり切ったから今があるというか、丸一日かけてひとつ形にできたから、もう怖いものはないなって、自信にもなりました。
沙田:あの日はねごとが5バンド出たじゃないですか? それぞれコンセプトを決めて、5回ライブをやったことによって、それぞれの手応えがあって、いろんな曲があることを再確認できたし、どれが今の自分たちに一番フィットしてるのかを発見できるライブにもなったので、すごく達成感がありました。
ーーあの日のライブが、今に至る方向性を決める手掛かりになっていた?
沙田:3バンド目のバンドとして出たねごとは、ねごとの中のダンスミュージックっぽい曲を固めて、全部つないで、MCなしでやり切るっていう実験的な感じだったんですけど、あれをやったときに結構フィット感があったというか、すごく堂々とライブをやれたんです。あれがヒントになって、そこから普段のライブでも曲をつなぐようになって、そうなると必然的にノリが4つ打ちになり、新曲もそういう方向になっていきました。
ーーダンスミュージック的な方向にどんどん向かって行ったと。
沙田:ただ、ダンスミュージックって言っても、いろんなダンスミュージックがあるわけじゃないですか? テクノ寄りだったり、ディスコ寄りだったり、ブレイクビーツだったり。いろんな方向に行くことができる中で、「じゃあ、どういうのをねごとでやったら一番かっこいいのか?」っていうのは、頭で考えるよりも、とにかく作って作って発見していくみたいな作業でした。
ーー今回の作品って、ある意味「再デビュー」くらいの作品だから、どんな方向性に行くかはすごく考えたと思うんですね。お客さんの中には「ロックなねごとが好き」っていう人もいるだろうし、その中で方向性を絞っていくのは覚悟の要る作業だったとも思います。
蒼山:一回みんなで「これからの方向性どうしよう?」っていうミーティングをしたときに、いろんなキーワードが出てくる中で、「かっこいい」っていうのがひとつの大きなテーマになったんです。「かわいい」とか「ポップ」じゃなくて、「かっこいいのを作りたい」ってなったときに、エレクトロな部分だったり、浮遊感だったり、ねごとがもともと持っていた部分をもっとわかりやすく提示するというか、そこに絞って新曲を作ってみるのもいいんじゃないかって。
沙田:ロックな曲だったり、スピード感があって、ポップでかわいい曲とかって、自分の中ではわりと作りやすいタイプなんですけど、バンドで4つ打ちでちゃんとグルーヴを出すって、すごい難しいことだと思うんですね。小夜子の手数の多いドラムも好きだから、「それを捨てるのか?」みたいなことも考えちゃうけど、でもそういうことではなくて、とにかく「ねごとが鳴らすかっこいい音楽」っていうのを突き詰めたいと思ったんです。
澤村小夜子(以下、澤村):これまでもライブでは同期と一緒に演奏したりはしてたんですけど、これからそういう曲がより増えていきそうだなって思ったので、個人的には「ライブの環境をどうして行こうかな?」って考える時間も多かったですね。レコーディングでもクリックに合わせてやったり、そういうバンドの変化をヒシヒシと感じながらライブをやってきたので、機械人間になる感じの一年でした(笑)。