細野晴臣が“音楽の謎”を語る「説明できない衝撃を受けると、やってみたいと思う」

「じっとしてられない感覚っていうのが、いま日本には失われている」

――なるほど。あとちょっとお聞きしたいのが、さきほど細野さんがちょっと仰っていた、「大きな文化の固まりが地下に埋もれている」という話。音楽の底に流れている文化的なものについてです。以前ニューミュージック・マガジン(1976年10月号)で細野さんが、音楽をミュージシャン個人の趣味で作られる表層部分と、民族や人類の集合意識の部分の二重構造として捉える論文を書かれていたことを覚えてるんですが…。

細野:誰が書いたんですか?

――細野さんです(笑)。

細野:あっ、僕が? あはははは!

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細野晴臣氏執筆の論文「音楽の表面をはがした、その下にあるもの」が掲載された『ニューミュージック・マガジン』1976年10月号(写真提供:小野島大氏)

――で、その集合意識の部分がポップ・ミュージックの快楽的な部分として一般大衆にアピールする、その根本にあるのがリズムである、と書かれていたんです。

細野 うんうん。

――で、その文ではそのことについてはそれ以上の言及がなかったんですが…。

細野:それ以上わからなかったんでしょうね(笑)。

――今の細野さんのご見解は…。

細野:いやあそれは…変わらないですよ。子供のころ…3歳4歳のころに一番反応したのがリズムですから。今の子供だってそうですよ。僕がやっているブギを知り合いの子供が踊るっていうんで、ああ僕もブギを聞いて踊ってたなと。それは変わらないんだなと思いますね。幼児期にそういうものが普通にある、そういう音楽が身近にあると、繋がっていくんでしょうけど、日本はそれが難しいです。ブラジルって国は音楽の国だと思うんですけど、子供の頃からサンバを聞いてるわけで。踊れるんですよね子供の頃すでに。サンバを聴くと動きだしちゃうんですよ。じっとしていられないっていう。そのじっとしてられない感覚っていうのが、いま日本には失われているんで。それはやっぱりリズム、ですよね。

 リズムって結局ドラムのパターンに過ぎないんですけど、現代ではそれをマシーンでプログラムしたりすることがずっと流行ってたわけです。僕もやってて、あるパターンにたどり着くと、このパターンは誰もやってない!と思うわけですよ。シンコペーションの位置が独特だったり。これは音楽を特徴づけるリズムだ、っていうことがあるわけです。そうやってよく曲を作ってたんですけど、実はそのパターンは過去に誰かが必ずやってるんですね。今になって思えばね。これすげえなと思っても、僕が生まれる前の音楽に既にあったりする。みんなやってるんです、それを。僕も知らず知らず、そういうものがカラダの中にあるんですよね。誰かがやってることをまたやる、という。

――ああ、記憶が残っていると。

細野:そう。遺伝子なのか何なのかわかんないけど。そんなことを経験して、共通してることっていっぱいありますよね。民族というより、人間のリズムっていうのがあるんで。

――日本人のリズム感の変化は感じますか。

細野:コンピューターの時代で、リズムも音もデスクトップで制御できるようになって、誰でも打ち込んでリズムを作れるようになって、そこから変わってきてますよね。リズム感が良くなっている。たとえばヒップホップとかいっぱい聞いてきた人は、そういうものを受け継いでるわけですから。グルーヴとかわかってるかもしれないですよね。そういう意味で世界中がグローバルになってるというか。みんな同じようなリズムになってる。

――共通の記憶をもつようになった。

細野:うん。ただそれはパターン化されすぎていて面白くはないんですけどね。いざ生演奏をしだすと崩壊しちゃう。演奏できない。でもリズム・マシーンで作ると、いいビートを作るんですよ、今の人は。

――最近ベテランのミュージシャンと話していると、リズムの基本を若い人に教え込むのが大変だという話が出ますね。たとえばスカバンドだったら、スカの基本はこうで、ワンドロップのビートはこう叩くんだと、一から教えこまなきゃならない。そういう苦労話はいろんな人から聞きます。いわば「記憶の伝承」の作業は大変みたいですね。

細野:ああそう。どこでもそうでしょうね。音楽に限らず。職人の世界でもそうだろうし。

――「僕が音楽をつくるときは、彼方の記憶を引っ張りだしたり、夢を思い出したりするような気持ちでやっているから、常に忘れることとの闘いなんだ」という一文があります(169P)。これは年齡との闘いという意味もあるかと思います。今の細野さんにとって「新しい音楽をつくる」とはどういうことでしょう。

細野:うーん、これは若いころから変わらないですけど、常に次の音楽のことを考えてますよね。今は次のソロをそろそろ作る段階になっていて、カヴァーだけじゃまずいからオリジナルを作らなきゃいけないんで、考え始めたんですけど、自分の中に眠っていて、まだ出てこない部分を探るんですよ。それはなにかこう…漠然としたヴィジョンがあるんですよね、音の。それを探し出すのが作曲なんです。

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