メタリカから英BBCまで…ピアニスト上原ひろみに世界のアーティストとメディアが賛辞を送る理由

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上原ひろみ『ALIVE(初回限定盤)』(ユニバーサルクラシック)

 ピアニストの上原ひろみが5月21日におよそ2年ぶりとなる待望のアルバム『ALIVE』をリリースする。『VOICE』『MOVE』に続きベースにアンソニー・ジャクソン、ドラムにサイモン・フィリップスというジャズ界の大御所を招いた「ザ・トリオ・プロジェクト」の最新作にあたる本作は「生きる」という人生をテーマにした作品に仕上がっているという。

 静岡県浜松市のいわゆる「音楽一家」ではない普通の家庭に生まれた上原ひろみ。たまたま始めた習い事のひとつにピアノがあり、6歳から近所の先生からピアノを、また近所のヤマハ音楽教室では歌と作曲を学んだ。当時からハノン(指の動きを覚える練習)は退屈で、ジャズのようにスイングして弾くのが楽しかったという。ピアノの先生の影響からオスカー・ピーターソンやエロル・ガーナーなどのジャズピアノを聴くようになり、小学生の頃の夢は大好きなピアノを毎日弾くことができるピアニスト。その後、12歳の時に参加したヤマハ音楽教室の台湾公演や14歳の時のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団との共演から「ピアノで世界中を回りたい」と思うようになった。そんな彼女に転機が訪れたのは17歳のとき。ピアノのレッスンで東京に来ていた上原は、来日中のチック・コリアがリハーサルをしていると聞いて見学に行った。そこで「一曲弾いてみなさい」とチックに促された彼女はピアノを即興。上原の才能を見ぬいた彼は来日公演の最終日に彼女をステージへと上げ、ふたりは大勢の観客の前で共演を果たすことになる。その後バークリー音楽大学へ留学した彼女。作曲や編曲を学ぶ傍らライブハウスや地元のレストランで精力的にライブ活動を行い、デモテープ作りに励んだ。在学中の23歳の時、そこに収められていた曲に感動した教授の紹介によってジャズのメジャーレーベル「テラーク・レコード」と契約。2003年にはバークリーを主席で卒業し、デビュー・アルバム『アナザー・マインド』をリリースした。

 『アナザー・マインド』は日本ゴールドディスク大賞「ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞。その後もサラウンド・ミュージック・アワード「ニュースター賞」(Brain)、ジャズディスク大賞「日本ジャズ賞」(スパイラル)、ボストン・ミューシック・アワード「ベスト・ジャズ・アクト」、芸術選奨新人賞(大衆芸能部門)、日本レコード大賞「優秀アルバム賞」(Beyond Standard)、グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」(THE STANLEY CLARKE BAND FEAT.HIROMI)、ダウンビート誌「Rising Star Keyboard」等々、これまで国内外の権威ある賞を総ナメにしてきた上原ひろみ。老舗レーベルからのデビューということで当初から注目は高く、とりわけ彼女のテクニックに対する評価はデビュー時から非常に高かった。イギリス公共放送のBBCは『アナザー・マインド』のレビューで「ジャズの新時代を切り開く若き才能。その早い指回しは必見に値する」とコメント。また音楽メディア大手のALL MUSICは「小柄な身体から発せられる溢れんばかりのエネルギーとテクニック。スローダウンした彼女も見てみたい」と記述している。しかしその後は幅広い音楽性やエネルギッシュなパフォーマンス、表現力など彼女の持つテクニック以外の才能にも次第に目が向けられるようになる。「日本の若きピアニストはロック、ファンク、ジャズ、パンク、そして『音の力』を究めた」(ケネディ・センター)、「クラッシックの巨匠を含めて、どんなジャンルでも彼女ほど楽器を歌わせることの出来る人はいない」(Seen and Heard International)等々、彼女に送られた賛辞はいまや枚挙にいとまがない。ジャズというジャンルに縛られず、ひとりの「音楽家」として世界中のプレイヤーやリスナーからリスペクトされる存在。幼き日の「ピアノで世界中を回りたい」という夢を叶えた彼女は、いまも音楽の可能性を追求し続けている。

 最新作『ALIVE』にはリリースに先立ち、作品を聴いたミュージシャンからメッセージが寄せられている。メタリカのロバート・トゥルージロは「これぞ真の音楽!カッコよくて危険な奴らと真夏に楽しくはじけるような、 パーティーしているような音楽さ。早くライブで彼らを観たい」とコメント。またザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトは「上原ひろみ と ピアノ!信じあってるんだぜ! 仲良しなんだぜ!細胞おどる、いのちのダンス・アルバム。完成おめでとう」とアルバムの完成を祝福した。さらに82歳を迎えたジャズ界の大巨匠アーマッド・ジャマルも「ヒロミは独自のジャンルを見つけただけでなく、素晴らしい感受性、 エネルギー、そしてきらめく技巧でそれを追求し続けている」と最大級の賛辞を送っている。『ALIVE』発売まであと一ヶ月。いまからその音を聴くのが楽しみでならない。
(文=北濱信哉)

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