もしかして、名曲? 剛力彩芽のセカンドシングルを音楽的に徹底解説

 そして80年代MTV的シンセベースの第一人者と言えば、何はともあれマイケル・ジャクソンだ。「Billie Jean」も「Beat It」も「Thriller」も、曲の中で最も「歌って」いるのはベースライン。楽曲の構造としては、ボーカルもビートもすべては極太のベースラインに引っぱられている。「あなたの100の嫌いなところ」を聴いて興奮したのは、まるでそんなマイケルの楽曲にオマージュを捧げるように、中盤のブレイク部分(2:15~あたり)で唐突にロックンロール的なギターのリフが挿入されているところだ。

Michael Jackson「Black Or White」

 ブイブイ鳴り響くシンセベースとロックンロール的なギターリフの合体というのは、いわばマイケルの専売特許と言えるもの。その最も象徴的な曲である「Black Or White」は、かつて小沢健二が「さよならなんて云えないよ」で、近年ではLove PsychedelicoがSMAPに書き下ろした「This Is Love」で、重要なモチーフとしてきた名曲だが、いずれの曲でもリズムは生音風のサウンドでレコーディングされている。その点、「あなたの100の嫌いなところ」はマイケルの手法と同じくベースとビートのユニゾン感を際立たせている点において、あの80年代感をよりスポイルすることなく再現していると言っていい。

 「マイケルとシンセベース」というテーマは、語るべきストーリーがいくつもあるのだが、ここで思い出してほしいのはマイケルがアルバム『Thriller』製作時にYMOにアプローチしていたという有名なエピソードだ。マイケルはYMOのセカンドアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録の「ビハインド・ザ・マスク」をいたく気に入って、そのカバーをレコーディング。『Thriller』に収録する予定だった(しかし、当時は条件が折り合わずに実現せず。マイケルが歌う「ビハインド・ザ・マスク」は、彼の死後に発表されたアルバム『Michael』に収録されている)。マイケルがYMOのどこに夢中になったのか。その一つは、彼が愛して止まなかったシンセベースのサウンド、その世界的な先駆者である細野晴臣の演奏にあったのではないか。そして細野晴臣こそは、シンセベースのサウンドを日本の歌謡曲に持ち込んだ第一人者でもあった。

松田聖子「Rock'n Rouge」

  というわけで、ここで細野晴臣の手がけた松田聖子の代表曲あたりを挙げれば論旨はキレイにまとまるのだが、歌謡曲×シンセベースの最強トラックといえば、同じ松田聖子でも「Rock'n Rouge」にトドメを刺す。作詞・松本隆、作曲・呉田軽穂(松任谷由実)のこの曲、編曲を手がけているのは松任谷正隆。80年代半ば以降のユーミンの作品でも顕著だが、松任谷正隆の編曲は(ご本人はとてもお洒落な方なのに)いつもどこか垢抜けない。正直に言うと、中学生時代にリアルタイムで初めて「Rock'n Rouge」を聴いた時でさえ、「今度の松田聖子の新曲、ちょっとダサいな」と思ったくらいだ。でも、その垢抜けなさこそが、年月を経ると愛すべきサウンドとして、いい感じに熟成されてくるのだ。

 剛力彩芽の「あなたの100の嫌いなところ」。現時点でもかなり気に入っているが、ひょっとすると10年後や20年後、「Rock'n Rouge」のようにさらに味わいが増してくるんじゃないか。そんなことを思わせてくれる、愛さずにはいられない楽曲なのである。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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