「今はライブ全盛」は一面的な見方 ライブハウスのシステムに無理がきている

佐久間正英

 BOØWY、THE BLUE HEARTS、エレファントカシマシ、GLAY、JUDY AND MARY――数々のトップバンドのプロデュースを担当してきた、日本を代表する音楽プロデューサー佐久間正英氏が、音楽シーンへの提言を行う集中連載。第一回目は、現在のミュージシャンや音楽業界が置かれた状況について意見を伺った。

――昨今の音楽メディアでは、これまでになくライブを取り上げることが増えています。レコーディングとライブ、両方の現場で長く活躍してこられた佐久間さんは、レコーディング作品から生演奏へのシフトをどう捉えていますか。

佐久間正英(以下、佐久間):音楽業界としては、確かに「CDが売れなくなった。音楽を聴かせるにはライブだ」という意識がある。けれど、リスナーの側が「CDがつまらなくなったから、ライブに行こう」という方向にシフトしているとは思えません。フェスの流行はありますが、ライブハウスに行く人の実数が飛躍的に増えたでしょうか?

 僕も正確なデータを持っているわけではない。ただ、身近なバンドの子たちに聞く限りでは、ライブハウスの状況は決してよくなく、むしろ動員が減ってきているという印象があります。「ライブが盛り上がっている」というのは一面的な情報であって、僕はそれよりライブハウスのシステムに無理がきていることを問題視しています。

――"無理"と言うと?

佐久間:出演者に対して動員数のノルマがあり、かつアマチュアバンドなのに、チケット代が2500円程度というのも高すぎる。バンドは友人をかき集め、なんとかノルマをこなします。つまりライブハウスは、実際には音楽を聴きに行く場所ではなく、単に交友関係の場になっている。ライブハウスに「あのバンドを観に行く」とは言いますが、「音楽を聴きに行く」という人はあまり見たことがないでしょう。そうした発展性のない状況で、バンドに本当の力がつく前に疲弊してしまうことも少なくない。

 また、コンサート全般について、チケットの値段が高いとも思います。1万円前後するのが普通で、フェスだったらもっと高い。それだけのお金を出して音楽を聴きたいという層は、やっぱり一握りだと思います。高いお金を払いたくないから、多くの人がYouTubeで済ませてしまうわけでしょう?

――かつてよりも、音楽リスナーが財布の紐を締めている、と。

佐久間:そうですね。原因としては構造的な不況の問題もありますが、CDが売れなくなったのは、単純にお金がなくなったというより、面白いコンテンツがなくなったことが大きいと思います。アルバム1枚に、2000円~3000円のお金を出す気がなくなっているんじゃないかな。また、面白いコンテンツがあったとしても、整理された情報が届きにくくなっていることも大きい。音楽誌も衰退しているし、YouTubeのように誰でも動画が上げられるサイトで音楽を聴くようになると、「私の歌を聴いてください!」という人がたくさんいるから、何を聴いたらいいかわからなくなってしまう。そのなかに時々見られる素晴らしい才能も、埋もれて発見されなくなります。もともと音楽をやっている人、特に天才肌の人は、自分を売り込むのが案外下手ですからね。

 そして、音楽業界全体にスピードがはやくなりすぎていて、いい音楽があっても一瞬で消えていく、あるいはきちんと聴いて判断されずに流されていく、ということもあると思います。多くの音楽が気軽に聴けるようになっても、そのほとんどがつまらないものだったら、聴く気もなくなってしまう。本を普段読まない人が、本屋さんに行くとどうしたらいいかわからなくなる、という状況に似ているかもしれません。

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