「放送したら終わり」ではもったいない――NHK『ゲームゲノム』5年目の決断、11本の“資産”を届け直す秋がやってくる

糸井重里のメッセージを、海外に伝える ローカライズ版へのリスペクトを込めて

ーー末包さんはシーズン2の『MOTHER2 ギーグの逆襲』回――今回の英語版のもとになる回でディレクターを務められました。シーズン1が放送されていた当時は地方局にいらしたと伺っています。外から見ていて、この番組はどう映っていましたか。

末包:当時は長野局にいたのですが、『ロマンシング サガ2』回や『ライフイズストレンジ』回などを見ていて。ゲームは、作品の世界を通じて人生を生きていくためのヒントを得られるぐらい、深いメッセージが込められるんだと感じました。そうした部分をテレビ番組で描けることにも驚いたことを覚えています。

 コロナ禍でステイホームの時間を楽しみたいと思ってNintendo Switchを買ったのですが、昔のゲームのアーカイブがプレイできることを知って。それで『MOTHER2』をプレイしてみたら、最後にクリアしたとき涙が止まらなかったんです。“自分の居場所の大切さ”を描いたゲームだなと感じたので、そのメッセージはもちろん、『MOTHER2』をより紐解いた先に見えてくるものを番組として伝えたいなと思って、企画書を出しました。

ーー日本のゲーム文化を世界へ、というとき、NHKだからこそできること、NHKがやる意味はどこにあるとお考えですか。

平元:日本の文化や風習、日本発のカルチャーやエンターテインメントを世界に発信することは、NHKワールドJAPANが担っている大きな役割の一つだと思っています。

 ここ10年ぐらいを振り返ると、『UNDERTALE』をはじめ、少し昔の日本のRPGを思わせるようなインディーゲームがものすごい勢いで出てきています。その源流の一つと言って過言ではない『MOTHER2』の特集回を英訳して、糸井さんのメッセージも含めて海外の皆さんに見てもらうというのは、その目的にかなうんじゃないかなと。言語の壁さえ越えてしまえば、『ゲームゲノム』で伝えようとしていることは海外の視聴者にも伝わるんじゃないかと期待しています。

ーー英語版を作るにあたって、大変だったエピソードやこだわった点を教えてください。

末包:『MOTHER2』は、セリフの言い回しに糸井さんらしさが表れている、いわば“糸井さんワールド”が展開されている作品なので、セリフをこちらがそのまま直訳してもその“らしさ”が伝わらないのではないか、という懸念がありました。幸いなことに、『MOTHER2』自体は北米向けに『EarthBound』という作品名でローカライズされているんですよね。

 『EarthBound』は、かつて任天堂のアメリカの社員の方が英訳された作品だったと伺っていて、糸井さんと一緒に作られた英訳になります。私たちがゲーム内のセリフまで改めて英訳するよりも、作品そのものの世界観に近い言葉として『EarthBound』から引用する形を取らせていただきました。

平元:番組のナレーションなどは、英語版を制作するプロダクションに依頼して翻訳してもらったのですが、ゲーム内の表現だけは『EarthBound』に全部合わせたいとお伝えしていました。その後の監修はかなり大変でしたが……。

ーー『EarthBound』と食い違いがないかを確認しようとすると、膨大な作業量になりそうですね。

平元:そうなんです。日本語版で使っているカットのセリフ、アイテムの説明文まで全部洗い出して、それらを該当する『EarthBound』の箇所と照らし合わせています。末包さんを中心に取り組みましたが、なかなか大変でしたね。

 でも、このチェックを通して「こういう言い回しに変えるんだ」という驚きもありました。全カットしっかりと確認していますので、『EarthBound』のファンにも違和感なく見ていただけるかなと思います。

東京ゲームショウ2026――“選択と集中”、ブースに全振りする理由

ーーTGS出展は3年目です。今年はどのようなブースを展開される予定ですか。

平元:1年目・2年目は初めての取り組みだったので本当にバタバタで。それはそれで楽しかったんですけど、今回からは公開収録に割いていたパワーをブースに注力することにしました。

 というのも、『ゲームゲノム』はまだまだ知られていない番組だと思っていて。だから、本当にゲームが好きな人たちが集まる場でまず知ってもらうのが重要だと考えました。丁寧にサービスの説明をして、最初の一歩を踏み出してもらう。そこに集中しようと決めた形です。

 その分、今回はNHKオンデマンド、NHKワールドJAPANでの国際放送・配信、地上波再放送と、いろんなチャネルを用意したうえで、各部局の専門の人たちがブースで視聴方法や登録方法をご案内します。どんな方にも最適な入り口をご紹介したいと考えています。

ーーオリジナルノベルティも用意されているとのことですが。

堀江:シリーズの過去回で作った、天野喜孝さんによるオリジナルイラストがありまして、それをクリアファイルにしてご用意する予定です。

ーー堀江さんが所属される首都圏局も、今回の出展に関わっていると伺いました。

堀江:首都圏局では、関東一都六県のローカル番組を作っているのですが、夕方のニュース番組『首都圏ネットワーク』のなかで、今年アメリカのGDCアワードを日本のインディー作品として初めて受賞した『ダレカレ』のクリエイター・yonaさんのインタビュー企画を放送します。

 加えて首都圏局のマスコットキャラクター「しゅと犬くん」のミニゲームもご用意しておりますので、幅広い方に首都圏局に親しんでいただくきっかけになればと思います。

平元:これだけいろんなメディアや配信プラットフォームがあるなかで、NHKが“NHKにしかできないこと”をお伝えしていく。僕らには、そういう意識を持って番組を作っている自負があります。しかし、それをまず知ってもらうことにもすごくハードルがある。我々が一生懸命にならないと、そもそも伝わる前提に立てないという危機感もあります。『東京ゲームショウ』に来るゲーム好きの方に『ゲームゲノム』を直接ご案内できるのは、そういった意味ではとても貴重な機会だと思っています。

「ゲームのことをテレビ番組にしてくれてありがとう」――番組に届き続ける手紙

ーー最後に、今回の「アーカイブを届け直す」試みを経て、『ゲームゲノム』というシリーズを今後どうしていきたいと考えていますか。

平元:今回の展開は「今まで点だったもの、線だったものを面にしていくこと」かなと思っています。今は入り口の多様化や「次に何を見ようかな」という導線の確保も含めて、タッチポイントを増やして奥行を広げるフェーズです。

 ただ、将来的に『ゲームゲノム』をはじめ、NHKでゲームの番組を作ることは続けていきたいなと、改めて思っています。

 『ゲームゲノム』って、番組を見た方からのお手紙が沢山届くんです。中には、何十枚、二十枚と書いてくださる方もいて。どれもものすごく熱がこもっていて、番組を見た感想だったり今後取り上げてほしいゲームだったり様々です。もちろんすべてに目を通しているんですが、特に印象的だったのは「ゲームのことをテレビ番組にしてくれてありがとうございます」というメッセージです。それが十通や二十通じゃない。

 これは、僕が『ゲームゲノム』を立ち上げたときに思っていたことなのですが、どうしてゲームは、他のカルチャーに対してサブカルチャーっぽくと言いますか、あるいはオタクっぽく見られがちなんだろうと。僕個人としては全く否定するつもりはないんですけど、一方で「こんなにクリエイティビティに溢れていて、哲学があって、これほどまでに感動する作品があるんだよ」ということを声高に伝えたくて、この番組を作ったんですね。もちろん「サブカル」や「オタク」という言葉や概念自体は素敵なんですけど、「メインカルチャーですよね!」と胸を張れる場所があってもいいんじゃないかとも思うんです。

 その理念にこれだけの人が反応してくれたことが、とにかくうれしかった。「番組を見て救われました」という人もいるんですよ。周りからゲームが好きなことを否定されてきた、という方が、「『ゲームゲノム』が自分の人生や価値観を認めてくれた」と。それを手紙ですごく丁寧に書いてくださっていて。これが、僕がいまもゲームをテーマにした番組を作り続けたいと思っている一つの原動力になっています。ゲームの面白さや奥深さ、クリエイターの皆さんの哲学、プレイ体験から得られるものを、もっともっと共有したい。“次”をお届けするために、僕たちはこれからも精一杯走り続けていきます。

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■番組情報・展開情報

〈NHKオンデマンド〉

2026年9月1日よりパイロット版+シーズン1の計11本を順次配信

※パイロット版『つながり~デス・ストランディング~』、第5回『恐怖の正体~バイオハザード~』、第6回『ひらめきで歴史を作る~ロマンシング サガ2~』、第9回『自問自答~This War of Mine~』は拡大版での配信

・まるごと見放題パック:月額990円(税込)/配信中の番組が見放題
・単品購入:1番組110円~220円(税込)/購入から72時間視聴可能

NHKオンデマンド:https://www.nhk-ondemand.jp/program/P202500476100000/

〈地上波再放送〉

『罪と罰~NieR:Automata~』:【NHK総合】9月16日(水)前1:55~2:23 ※15(火)深夜
『ゲーム音楽SP』:【NHK総合】9月16日(水)前2:24〜2:52 ※15(火)深夜

※NHK ONEで同時配信・1週間見逃し配信あり
※NHKオンデマンドで2週間配信あり

〈NHKワールドJAPAN〉

『GAME GENOME: EarthBound(MOTHER2)』
※「ゲームゲノム 少年少女の大冒険~MOTHER2 ギーグの逆襲~(拡大版)」の英語版
『GAME GENOME: Deep Dive with Hideo Kojima』
※「ゲームゲノム つながり~デス・ストランディング~(拡大版)」の英語版

VOD配信中 視聴はこちら:https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/game-genome/
※VOD配信はジオブロックなしで全世界から視聴可能

地上波再放送・VOD配信を予定

■東京ゲームショウ2026「NHK×ゲーム」ブース

会期:2026年9月17日(木)〜21日(月)/幕張メッセ

■関連リンク

『ゲームゲノム』番組WEBサイト:https://www.web.nhk/tv/pl/series-tep-LJWWVGY6J2
『ゲームゲノム』公式X:https://x.com/nhk_gamegenome

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