「放送したら終わり」ではもったいない――NHK『ゲームゲノム』5年目の決断、11本の“資産”を届け直す秋がやってくる

 テレビゲームを“文化”として捉え、その奥深さを解剖するNHKのゲーム教養番組『ゲームゲノム』。2021年10月にパイロット版が放送されてから、まもなく丸5年を迎える。

 その節目に、番組はこれまでにない広がり方を見せようとしている。パイロット版とシーズン1の計11本が「NHKオンデマンド」の配信リストに加わり、いつでもアクセスできるアーカイブとなる。さらにシーズン2で放送された『MOTHER2 ギーグの逆襲』回の英語版が新規制作され、NHKワールドJAPANを通じて世界へ届けられる。

 加えて9月16日には2本の地上波再放送、そして3年目となる「東京ゲームショウ2026」(TGS)へのブース出展――放送、配信、イベント、そして海外。そのすべてで『ゲームゲノム』を楽しめる状況が、この9月に一気に立ち上がるのだ。

 なぜいま、新作ではなくアーカイブなのか。総合演出の平元慎一郎氏は、この取り組みを「点だったもの、線だったものを面にしていくこと」と表現する。

 リアルサウンドテックでは、平元氏に加え、「NHKオンデマンド」で配信される『自問自答~This War of Mine~(拡大版)』を手がけ、TGS出展も担当する堀江凱生氏、『少年少女の大冒険~MOTHER2 ギーグの逆襲~(拡大版)』の日本語版を手がけた末包絵万氏の3名に話を聞いた。(龍田優貴)

放送・配信・イベント・海外の全方位展開でタッチポイントを大幅拡大

平元慎一郎氏

ーーパイロット版の放送からまもなく丸5年です。率直に、いまの手応えはいかがですか。

平元慎一郎氏(以下、平元):楽しみに待ってくださる方が増えたという実感はありますね。再放送するたびにSNSで話題にしてくださる方もいれば、局内でも「次の『ゲームゲノム』はいつ?」と聞かれることもあって。もともと深夜番組なので認知を広げるのに苦労してきた5年間でしたが、少なからず浸透してきたなとは思っています。

 一方で、『ゲームゲノム』を視聴したことがない人がまだまだたくさんいるのも現実で。番組はもちろん、そこで扱った作品やクリエイターの皆さんの思想、創意工夫を、より広い方に知っていただきたいと思って、いろいろなことにチャレンジしてきた5年間でしたね。

堀江凱生氏(以下、堀江):私は報道番組のディレクターですが、番組がXなどのSNSで大きく話題になっているのを見かけることはそんなに多くないんです。それが『ゲームゲノム』だと、ゲームファンの方々が毎回みんなでお祭りみたいに、遊んだ当時の思い出を語り合う時間が作られている。各ゲームの心に残るゲーム体験、そして視聴者の皆さんの強いゲーム愛に支えられている番組だと思います。

末包絵万氏(以下、末包):私も『MOTHER2』の回を作ったときはXの感想を見ていました。作品のファンがものすごく多いので、その人たちにどれくらい楽しんでもらえるか、少なからず不安があったんです。でも喜んでくださった方が想像以上に多くて。拡大版を作ることになった際も、そうした視聴者の皆さんの反応を思い出しながら、緊張とワクワクを感じながら臨みました。

ーー今年は、これまでとは異なる形で視聴者との接点を増やされると伺いました。

平元:はい。今年は『ゲームゲノム』を出来得る限りアクセスしやすいコンテンツにするべく準備を進めてきました。というのも約5年が経った今、振り返るとコンテンツの数自体はかなり充実してきたと思うんです。これまで26本を放送し、うち7本は拡大版も制作しました。

 ただ、地上波放送はやはり刹那的で。「NHK ONE」で1週間の見逃し配信もしていますが、それに伴う再放送は恒常的に組むことができませんし、都度セレクトするのでラインナップも限定的です。そこで、積み上げてきたこれまでの放送を“資産”と捉え直して、視聴者の皆さんに、いつでも気軽に、そして広く『ゲームゲノム』に触れてもらうことが重要なフェーズに来ているんじゃないかと。もちろん中途半端では全く意味がないとも考えたので、秋頃に多様なアクセス環境を一気にお届けしようと春から動き出していた形です。

 そのなかの一つの目玉は、「NHKオンデマンド」で初期の11本を配信することです。NHKの番組の多くは放送から1週間後「NHKオンデマンド」で配信されるのですが、それに加えてNHKアーカイブにある懐かしの番組も蔵出し配信され観ることが出来るんです。今回『ゲームゲノム』も蔵出し配信されることになりました。

 加えて、9月中旬(16日予定)に「NHKオンデマンド」で配信されるものとは別の放送回を地上波で再放送します。こちらは「NHK ONE」の同時配信と1週間の見逃し配信でもご覧いただけます。さらに国際局とタッグを組んで英語版を新たに制作・配信し、海外の視聴者にもお届けします。

 そして、それらをPRする場として3年目となるTGSへの出展もおこないます。“常にアクセスできる環境”と“多様なチャネル”を用意することで、それぞれの視聴スタイルにあったコンテンツを提案できる形を目指しました。TGSでも、そうした一人ひとりに合ったご案内を丁寧にして、まずは知ってもらう。そして、それを友人や家族とシェアしていただくことで『ゲームゲノム』はさらに広がっていくんじゃないかと考えています。

ーー新作の制作をいったんストップしてでも、そうした状況を作りたかったということでしょうか。

平元:もちろん新作を作りたい気持ちは常にあります。そういう意味では、今回取った“一度立ち止まる”という選択は、当初100%ポジティブなものだったかといえば嘘になります。ただ、ようやく配信や国際展開、PRの場が整った今、この決断は間違っていなかったと感じています。その価値といいますか、自信を持って皆さんに楽しんでいただけることの全てを今日はお伝えしたいです。

ーー決断の重さというか、覚悟を感じます。では、まず「NHKオンデマンド」について教えてください。どんな位置付けのサービスで、今回11本がリストインする配信はどのように楽しめるのでしょうか。

平元:「NHKオンデマンド」は、NHKが自ら運営する配信サービスです。ウェブサイトもアプリもあって、これまで放送してきた番組がアーカイブ的に配信されています。

 先にお伝えしたとおり、連続テレビ小説や大河ドラマ、『プロフェッショナル 仕事の流儀』『新プロジェクトX』『NHKスペシャル』『映像の世紀』などの番組が並んでいます。現在配信されているコンテンツの数は22000本以上になります。

 楽しみ方としては、アカウントを取得していただいたうえで、視聴するには二つの方法があります。一つは月額990円(税込)の「まるごと見放題パック」。配信されているものはどれでも何度でも見放題になります。もう一つは「この番組だけ見たい」という方向けの単品購入で、1番組110円~220円(税込)。購入から72時間以内であれば何度でも視聴できます。

番組公式WEBサイトはこちら

 今回は11本もありますから、例えばまるごと見放題パックに最初の1カ月だけでも入っていただいて、バーッと見ていただいてもいい。そのなかで「好きだった朝ドラや大河も見られるんだ」という発見にもつながってもらえたらうれしいですね。

ーーこれまでに放送を見たことがある人も楽しみ方があるんですね。

平元:そうですね。『ゲームゲノム』以外にも面白い番組がたくさんラインナップされていますから。中でも『ゲームゲノム』は、元々いつ見てもらっても楽しんでもらえることを意識して作っている番組なので、「NHKオンデマンド」にはぴったりと個人的には感じていて。というのも『ゲームゲノム』が、あまり時勢に左右されない番組だからです。近年出たゲームも扱いますし、30年前に発売されて今なお愛されているゲームも扱う。教養番組として、最新作だけを取り上げるのではなく、古今東西の作品を紐解くことで、“ゲームを文化として捉える”というコンセプトが積み上がっていく狙いもあります。昔の作品も、若い方には“レトロ”とか“リバイバル”に近い感覚で新鮮に受け取っていただけると思いますし、ドンピシャ世代の方には純粋に懐かしい気持ちにもなれるラインナップなんです。

 それと同時に、時間が経ったからこそ生まれる価値もある。たとえば僕がディレクターを担当した『デス・ストランディング』の回は、小島秀夫監督がコロナ禍の前に発売され、「分断と孤立の社会でどうやって人と人がつながれるのか」を問うていた作品です。その後にコロナ禍が起きて、「予見していたんじゃないか」というくらい話題になった。コロナ禍が落ち着いた今、番組を見返すと、また違う形で「社会が分断されていいのか」ということを問い直すようにもなっている気がするんですね。

堀江:私がディレクターを担当した『This War of Mine』の回は2022年、ちょうどウクライナへの侵攻が始まった年に作った番組です。拡大版を作った2023年には、今度はハマスとイスラエルの対立が激化しているという状況でしたので、よりリアルタイムの映像を加えました。その時々に起きている紛争の最中で市民がどんな状況に置かれ、何に葛藤するかを、ゲームならではの当事者の目線で体験できるのが本作の神髄です。この回に限らずですが、普遍的なテーマを扱っているものが多いので、その時々の社会の出来事と重ね合わせて見られる、そういった点でもアーカイブ性が高い番組だと思います。

 また、この前子どもが生まれたんですけど、親目線で見ると、全然違う気づきがあるなと。今社会で起こっていることに加えて、個人の人生のフェーズに合わせて見え方が変わってきそうだなということも感じました。

堀江凱生氏

末包:子どもといえば、糸井重里さんが番組内で『MOTHER2』を「親目線で作ったゲーム」とおっしゃっていたんですよね。ネスのリュック姿は、当時の娘さんを投影したものだと。作り手もまた、その時にしか作れない感情で作っているということも感じていただけたらうれしいです。

末包絵万氏

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