エンジニアと営業職が共同開発 LINEヤフー「Agent i」の裏で進む“職種の壁”の変化

 LINEヤフーが8月28日に「AIエージェント新機能・新サービス先行体験会」を開催。そこで見えてきたのは新たなサービスのお披露目だけでなく、エンジニアと営業職の社員がAIエージェントを共同で作る、そんな開発現場の変化だった。

 同社は今年4月、Yahoo! JAPANのAIアシスタントとLINEのLINE AIを統合し、「毎日のそばに、だれでも使えるAIを。」を掲げたAIエージェント「Agent i」の提供を開始。CPOの慎ジュンホ氏とAIエージェント事業責任者・葭沢光伸氏によれば、リリース時点で7領域だったエージェントは4カ月で27領域へと拡大し、6月の1日あたり延べ利用者数は1200万人に到達したという。

 さらに自社の30年分のデータとユーザーの口コミ・レビューを組み合わせ、ハルシネーションを抑えた「答えるAI」ではなく「動くAI」を目指す方針を強調。ユーザー向けには基本的にOpenAIのLLMをベースとし、内容に応じて別のAIも使い分けているようだ。

「答えるAI」から日常を動かす8つのプロトタイプへ

 会場で先行公開されたプロトタイプは「カレンダー」「トーク/アルバム動画」「ペットライフ」「スクショ管理」「目覚まし」「情報自動追跡」「ショート動画作成」「WEB操作ガイド」の8つ。

 例えば目覚ましエージェントは、出社日や希望の起床スタイルを伝えるとアラームを自動生成する仕組みだった。5回と設定すれば「起床確認」「二度寝防止」「起床準備」「最終起床」「起床デッドライン」とアラームごとに名前が付き、デッドラインに近づくほど音が変化する。起床後は株式や天気、音声ニュースなどをアプリ移動なしで流せる機能も。

 「ペットライフ」はペットの情報を登録すると、トリミングの時期や体調の変化などをエージェント側から対話形式で提案・相談してくれる。特徴的なのは外出支援で、行きたい場所を入力すると、犬種ごとに異なる同伴可否(犬同伴OKだが大型犬はNGなど)まで踏まえてカフェなどを提案。さらに周辺の駐車場や持ち物リスト、近隣の動物病院の紹介まで一気に出す。

 今後については、領域エージェントを10月までに累計40エージェントへ拡大し、単独のエージェントアプリも同時期にリリース予定。現状は一部エージェントに限られているタスク実行機能(ユーザーに代わって作業を代行する機能)も本格拡充に入るという。

AI駆動型開発が崩す、企画・デザイン・開発の分業

 そして、この日の発表でもうひとつ重要だったのは、AIサービスだけでなく「AI駆動型」の開発体制の話。従来は企画/デザイン/開発と分業し、フィードバックのたびに最初の工程に差し戻すプロセスに数カ月、時には1年を要していた。

 それが今、AIを中心に据えた少数精鋭チームで回すことで、プロトタイプの開発期間が従来の3〜6カ月から平均1.5カ月へと短縮されたという。「試行錯誤のスピードが何十倍、何百倍になった」と慎氏は語る。

 この変化を後押ししているのが、部門の垣根を撤廃した社員公募制のタスクフォースだ。慎氏自身も「毎日全員と議論しながら、自分自身もプロトタイプを作りながら試行錯誤している」という。

AIは職種間の「翻訳者」になれるか

 また各体験ブースの多くがエンジニアと非エンジニアのチームだったことも興味深い。

 目覚ましエージェントの体験コーナーには、普段はYahoo! JAPANのトップページを手がけるエンジニアと、営業職に就く非エンジニアの2名が立っていた。今年4月から全社の出社方針を「原則週3回」へ引き上げたことでエンジニアとの距離が縮まり、「その場で仕様を詰めて作り上げる」体制になったと語るデザイン担当者もいた。

 複数のブースで「非エンジニアの参加はAI開発の足手まといにならないか」とエンジニア担当者に尋ねたが、全員がそれを否定。「外からの意見に相乗効果がある」「デザイナーもエンジニアに寄ってきているし、逆もそう」。専門知識の異なる人たちの間でAIが翻訳者のように機能し、職種の垣根を壊している現状がそこにあった。

 さらにエンジニアは「AIに書かせたコードを自分の責任で公開できるかどうか」が役割だと語った。非エンジニアとエンジニアがAIを間に挟みながら共同で開発を進め、最終的に人間が責任を引き受けるといったような仕事の再編がそこにあった。

 このタスクフォースは社内約20のワーキンググループが年末まで稼働を続ける計画で、慎氏は「AI駆動型を全社に広げるべきだ」としつつ、既存業務を抱える部門への展開は段階的に進める考えを示した。まず「Agent i」開発チームをAI駆動型で回し、そこで得た知見を全社へ波及させる――。

 これが職種の垣根が液状化しつつあるAI時代における職場の未来なのだろうか。AIは職種を消すのではなく、その関係性を変えている。LINEヤフーの取り組みは、新しい職場のあり方を先取りする試みなのかもしれない。

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