NANAのテック・アルテミス 仕事に役立つBizテック観測所(第39回)

「iPhoneだからエアドロできる」はもう古い? Quick Share対応で変わりつつあるスマホのファイル共有の今

 スマートフォンで写真や動画を誰かに送りたいとき、iPhoneユーザーなら「AirDrop」、Androidユーザーなら「Quick Share」を使う人が多いだろう。特に前者については、「エアドロ」と略して呼んでいるユーザーも多い。

 近くにあるデバイスを選ぶだけで、写真や動画、ファイルなどをワイヤレスで共有。メールに添付したり、クラウドへアップロードしたりするより手軽で、一度使うと手放せない機能のひとつだ。

 ただ、これまでは大きな壁があった。AirDropはAppleデバイス同士、Quick Shareは主にAndroidデバイス同士で使うものだったからだ。

 つまり、iPhoneとAndroidの間では、AirDropやQuick Shareを使って直接ファイルを送ることができなかった。「エアドロで送るよ」「ごめん、私Androidだから」そんなやりとりをしたことがある人もいるかもしれない。

 ところが2025年11月、この状況が変わり始めた。GoogleがQuick ShareとAirDropの相互運用に対応し、対応するAndroidデバイスからiPhoneへ、そしてiPhoneからAndroidデバイスにもファイルを直接送れるようになったのだ。

 まだ対応機種や使い方には条件があるものの、長年続いてきたiPhoneとAndroidの「ファイル共有の壁」は、確実に薄くなっている。

 今回は、今さら人には聞きづらいAirDropとQuick Shareの基本から、相互運用の仕組み、実際に使ってみて分かったことまで整理してみたい。

「AirDrop」と「Quick Share」そもそも何が違う?

 まずは「AirDrop」から見ていこう。Appleが提供する近距離ファイル共有機能で、普段は「エアドロ」と呼ばれることも多い。iPhoneやiPad、Macなどで利用でき、写真や動画、書類などを近くのAppleデバイスへワイヤレスで送れる。

 デバイスの検出にはBluetoothを使い、データの共有にはデバイス同士のWi-Fi接続を利用する。ここで使われるWi-Fiは、Wi-Fiルーターやインターネットを経由するものではなく、デバイス同士が直接接続してデータをやり取りするため、携帯電話回線やインターネット接続がなくてもファイルを送受信できる。

 AirDropの設定には「受信しない」「連絡先のみ」「すべての人」の3種類が用意されている。このうち「すべての人」は一時的な設定という扱いで、10分間経つと「連絡先のみ」に自動で切り替わる仕様だ。

 一方の「Quick Share」は、Androidデバイスを中心とした近距離ファイル共有機能。もともとGoogleが「Nearby Share」という名称で提供していたファイル共有機能を、Samsungのファイル共有機能「Quick Share」に統合したものだ。

 Androidスマートフォンのほか、ChromebookやWindows PCなどでも利用できる。こちらも近くにある対応デバイスを検出し、デバイス同士を直接接続して写真や動画、ファイルなどを共有する仕組みだ。

 このように、AirDropとQuick Shareは、近くにあるデバイス同士でファイルを直接やり取りするという点ではよく似ている。

 大きく違っていたのが、対応デバイスの範囲だ。これまではAirDropがAppleデバイス、Quick Shareが主にAndroidデバイスというように、それぞれのエコシステム内で使うのが基本だった。

 そのため、iPhoneからAndroidへ写真を送りたい場合は、LINEなどのメッセージアプリを使う、クラウドストレージにアップロードする、USBフラッシュなどの外部ストレージを使うといった別の方法が必要だった。写真を数枚送る程度なら大きな問題にはならないが、動画のようにファイルサイズが大きくなると、アップロードやダウンロードの手間も増える。

 そんなiPhoneとAndroidの「ファイル共有の壁」を変えたのが、Quick ShareとAirDropの相互運用だ。

 Googleは2025年11月、Quick ShareがAirDropと連携できるようになったと発表。AndroidからiPhoneへのファイル共有に加えて、iPhoneからAndroidへのファイル共有にも対応した。

 この発表当時、まずはPixel 10シリーズが同連携に対応し、2026年8月現在ではPixel、Samsung、Xiaomi、OPPO、OnePlus、vivo、HONORなど複数メーカーのAndroidスマートフォンで利用できるようになっている。

 ただし、「Androidスマートフォンならすべて使える」というわけではない。デバイスやOSなどのソフトウェアバージョンによって対応状況が異なるため、自分のスマートフォンが対応しているかどうかは、Quick Shareの設定画面やメーカーの案内を確認したほうがいいだろう。デバイスによっては「Quick Share Extension」など、関連するシステムコンポーネントの更新が必要になる場合もある。

実際の使い方は?

 基本的な操作は、従来のAirDropやQuick Shareと大きく変わらない。

 AndroidからiPhoneへ送る場合は、まずはQuick Shareの設定で「Appleデバイスと共有」にチェックを入れておく。これをすることでQuick Shareの送り先にAppleデバイスが表示されるようになる。

 このあとはiPhone側でコントロールセンターを開き、AirDropの設定で「すべての人」を選択。続いてAndroid側で送りたい写真などを選び、共有メニューからQuick Shareを選択すると近くにあるiPhoneが表示されるため、タップして送信する。iPhone側は画面に表示された通知の「受け入れる」をタップすれば完了だ。

 iPhoneからAndroidへ送る場合も基本的な流れは同じだ。Android側でQuick Shareを受信できる状態にして、iPhoneの写真アプリなどから共有メニューを開き、AirDropを選択する。近くにあるAndroidデバイスが表示されたらそれをタップし、Android側で受信を承認すればOKだ。

 現在の相互運用で注意したいのが、AirDropの「連絡先のみ」設定での共有には対応していないこと。Googleは今後、Appleと協力して「連絡先のみ」でも利用できるようにしたい意向を示しているが、現時点ではこの制限がまだ残っている状態だ。

 また、ファイル共有そのものはデバイス同士で直接行われる。Googleによれば、Quick ShareとAirDropの接続はサーバーを経由せず、共有したデータを記録する仕組みでもない。Googleは独立したセキュリティ専門家による検証も行っているとしている。

実際に使ってみると、思った以上に普通に使える

 実際に『iPhone 17 Pro』『MacBook Air』『Galaxy Z Flip7』の3つのデバイスを使ってデータの共有をしてみる。

 まずは『Galaxy Z Flip7』から『iPhone 17 Pro』へ約1.2GBの4K動画を送ったところ、約55秒で共有できた。

 逆に『iPhone 17 Pro』から『Galaxy Z Flip7』へ共有しても大きな問題はなく、写真10枚、合計約80MBなら10秒ほどで完了。『MacBook Air』との間でも同様にファイルを送受信することができた。

 通信環境やデバイスによって速度は変わるため、これはあくまで今回試した環境での結果とはなるものの、それでも「OSが違うから極端に遅い」という印象はなかった。

 もちろん、同じOS同士のAirDropやGalaxy同士のQuick Shareなどと比べると遅くなるケースもあるが、日常的な写真や動画のやり取りなら十分な速度だろう。LINEなどで送る場合と違い、元のファイルサイズのまま送れるのも便利なところだ。

 ただし、まだ気になる点もある。まずは、毎回Appleデバイス側の設定を「すべての人」へ変更しなければならないこと。できれば家族や友人など、頻繁にファイルを送り合う相手は「連絡先のみ」で共有できるようになることに期待したいところ。

 それより気になるのは、やはり安定感だ。一部のユーザーからは、Quick Shareの利用時にWi-Fi接続が一時的に切れたように見えるケースや、Macとの接続時に転送速度が極端に落ちる、転送終了時にエラーが発生するといった報告もある。また、AirDropとの共有を有効にした状態でWindowsなど別の機器にQuick Shareを使うと、転送速度や動作に影響が出るケースもあるようだ。

 Quick ShareがAirDropに対応した当初は、実は筆者の環境でもかなり挙動が不安定で共有に失敗することも多かったのだが、その後のアップデートによって現在はかなり安定して使えるようになった。

 このように、まだデバイスの違いを意識せず使えるほど完成された機能ではないかもしれないが、実際に使ってみると、普段のファイル共有に十分使えるレベルまで来ていると感じる。

AirDropとの相互運用に対応していないAndroidスマートフォンではどうすればいい?

 では、まだAirDropとの相互運用に対応していないAndroidデバイスでiPhoneにファイルを共有する便利な方法はないのだろうか。

 実は、AndroidからiPhoneへのファイル共有は、Quick Shareに元々用意されているQRコードを利用する共有方法で実現できる。こちらはクラウド経由で共有する方式のため、アップロードに時間がかかる関係で素早いファイル共有は難しいのだが、相手にQRコードを見せてカメラで読み取ってもらうだけと比較的手軽にファイルを共有できる。

 ちなみに、相互運用に対応していない場合の選択肢として筆者がよく利用しているのが、サードパーティ製アプリの「Local Send」だ。Wi-Fi環境が必要で、送受信する双方にアプリをインストールしておく必要があるものの、動作は速く、安定性も高い。設定によっては、受信側で許可操作をしなくてもファイルを受け取れるようにもできるため、自分が所有する別のデバイスへファイルを送るときなどに便利だ。

エコシステムの壁は、少しずつ薄くなっている

 AirDropとQuick Shareは、長い間「同じプラットフォームを使っている人同士の便利な機能」だった。それが今は、対応デバイス同士であれば、iPhoneとAndroidのように異なるOS間でも直接ファイルを送れるようになってきた。

 現時点では対応デバイスが限られているうえ、iPhone側では「すべての人」への変更が必要など、まだ条件はある。それでも、相手がiPhoneなのかAndroidなのかを意識せず、近くにいる相手へ気軽に写真や動画を送れる環境に近づいたことは大きな一歩だ。

 スマートフォンの世界には、これまでOSやメーカーによるさまざまな壁があった。しかし最近は、RCSや紛失デバイスの検出、そして今回のファイル共有など、ユーザーが普段感じていた「プラットフォームの違い」を減らす方向へ、少しずつ状況が変わっている。

 そして、こうした変化はデバイス選びにも影響する可能性がある。筆者が取材しているなかでも、「エアドロがあるからiPhoneを選んでいる」という声を聞くことがある。それほどAirDropは、iPhoneを選ぶ理由のひとつになってきた。

 しかし、iPhoneとAndroidの間でファイルを簡単にやり取りできるようになれば、「AirDropがあるからiPhone」という理由は、これまでほど強いものではなくなるかもしれない。もちろん、それだけでAndroidを選ぶユーザーが一気に増えるとは限らない。ただ、これまでプラットフォームを選ぶ際の判断材料になっていた要素がひとつ減ることにはなる。

 スマートフォンは、OSやメーカーごとの独自機能によって差別化を図ってきた。一方で、ユーザーにとって不便だった部分については、少しずつ垣根を取り払う方向にも進んでいる。

 これまで「差別化」だった部分が減っていくことで、スマートフォンの競争は別のベクトルに進んでいくかもしれない。

関連記事