NANAのテック・アルテミス 仕事に役立つBizテック観測所(第38回)

大転換期を迎えるApple――CEO交代と新型iPhone、その先に待つ「変革」と「地固め」の1年を考える

 2026年秋、Appleは大きな転換期を迎えようとしている。ティム・クック氏がCEOを退き、ハードウェアエンジニアリング担当のジョン・ターナス氏が新CEOに就任する。クック氏はエグゼクティブ・チェアマンとしてAppleに残るものの、14年間続いた「クック時代」は大きな区切りを迎えることになる。

 そして、その直後には毎年恒例の9月イベントが控えており、『iPhone 18 Pro』シリーズに加えて、長らく噂されてきた初の折りたたみiPhoneが登場すると業界筋では推測されている。さらに、標準モデルの『iPhone 18』シリーズは2027年春にずらし、プレミアムモデルを先行して投入する「分割ローンチ」も有力視されている。

 新しいiPhoneが大きな話題になる一方で、Appleの足元には気になる問題もある。深刻化している「メモリ不足」だ。

 メモリ(DRAM・VRAM・NAND)の供給が逼迫し、すでにMacやiPadでは出荷制限や値上げが実施されている。『iPhone 18』世代のデバイスにも、その影響が及ぶ可能性が高い。

 業績そのものは好調だ。2026年会計年度第3四半期の売上高は1094億ドル、純利益は298億ドルに達し、過去最高級の水準となった。iPhoneの売上高は前年同期比22%増、Macも29%増と、ハードウェア事業も勢いを保っている。

 ところが、好調な数字の裏側では供給制約が強まっている。クック氏自身も、次の四半期には状況がさらに厳しくなるとの見通しを示している。

 強い業績を維持しながら、限られた部品をどう振り分けるのか。そして、CEO交代と折りたたみiPhoneの投入を重ねることで、Appleはどこへ向かおうとしているのか。

 今回の連載では、これからのAppleを考えるうえで重要になる「4つのポイント」に注目したい。

クック氏からターナス氏へ Appleは「モノづくり重視」に戻るのか

新たにApple CEOに就任するジョン・ターナス氏

 まず考えたいのは、これからAppleを率いるターナス氏が、どんな会社を引き継ぐのかということだ。

 クック時代のAppleを語るうえで、サービス部門の成長は欠かせない。App Store、Apple Music、iCloud、Apple TV+、Apple Payなどを育てることで、iPhoneやMacといったハードウェアだけに頼らない収益構造を築いてきた。

 直近の決算となる2026会計年度第3四半期では、Appleの売上高は約1094億ドルに到達。そのうちサービス事業の売上高は四半期で300億ドル規模に達しており、その高い利益率もAppleの業績を支えている。依然として売上の半分はiPhoneが占めているものの、その依存度は以前に比べていくらか良くなっている。

 クック氏がスティーブ・ジョブズ氏からCEOを引き継いだ2011年当時、Appleには「安定した成長」が求められていた。iPhoneを軸に事業を拡大し、サービス事業も大きく育ててきたことで、Appleはハードウェアとサービスの両方から大きな収益を生み出す企業へと成長した。

 そんなAppleを次に率いるターナス氏は、長年にわたってハードウェアエンジニアリング部門を率いてきた人物だ。iPhoneやMacの製品開発だけでなく、「A」シリーズや「M」シリーズといったSoC戦略、デザインチームとの連携、サプライチェーンとの調整まで、Appleのモノづくりを現場に近いところで見てきた。

 クック氏が会社全体の成長や事業の拡大を得意としたリーダーだとすれば、ターナス氏は「どんな製品を作り、どう量産するか」という現場感覚を持つリーダーだろう。この人事を単に「世代交代」として見るのは少しもったいない。ターナス氏が引き継ぐAppleは、クック氏がCEOに就任した2011年とは違う課題に直面しているからだ。

 AI競争の激化、半導体不足、サプライチェーンの不安定化など、現在のAppleは複数の課題を抱えている。そこで、これから重要になるのは、何でも増やしていくことよりも、「限られたリソースをどこに使うか」という判断だろう。

 特にAI競争では、ハードウェアの重要性が改めて高まっている。オンデバイスAIを動かすチップ性能、発熱を抑える熱設計、バッテリー消費とのバランス。AIを端末に深く組み込もうとすれば、こうしたハードウェア側の工夫が欠かせない。ターナス氏がCEOとして最初に向き合うのは、クック氏が残した「強い数字」と「供給制約」という、かなり対照的な状況になる。

 メモリが足りないなかで、どの製品にDRAMを優先して割り当てるのか。コストの上昇を、どこまで製品価格に反映するのか。そして、サービス事業で生み出した利益を、次のハードウェアやAIの開発にどう振り向けるのか。ここでターナス氏の経営手腕が問われることになる。

 もっとも、クック時代のサービス路線を大きく変えるとは考えにくい。むしろ、ハードウェアの完成度をさらに高め、その上にAppleのサービスやAIを組み合わせることで、Apple製品そのものの価値をもう一段引き上げる方向が自然だろう。

 そして、その考え方を最も分かりやすく示す製品が、2026年の秋に登場するとみられている。それが、Apple初の折りたたみiPhoneだ。

折りたたみiPhoneは、Appleの新しい柱になるか

某所で入手した折りたたみiPhoneのモック

 ターナス体制のスタートを飾る9月イベントでは、初の折りたたみiPhoneが大きな話題になる可能性が高い。

 9月8日または9日ごろの開催が予想されるイベントでは、『iPhone 18 Pro』『iPhone 18 Pro Max』とともに、折りたたみiPhoneがお披露目になるとみられている。『iPhone Ultra』などの名称が噂されているこのモデルに対して、Appleがどんな答えを出してくるのかは、ターナス体制の方向性を考えるうえでも興味深い。

 一方、標準の『iPhone 18』や『iPhone 18e』、次世代『iPhone Air』は2027年春にずらす「プレミアム先行」の分割ローンチが有力視されている。これについては、Apple製品のリークや内部情報の正確性に定評があるBloombergの名物記者マーク・ガーマン氏をはじめ、複数の情報源が報じているところだ。

 折りたたみiPhoneは、外側に約5.5インチ、開いた状態で約7.8インチのディスプレイを搭載するパスポート型になるとの予想がある。内側の画面は4:3に近い比率になるとされている。

 Appleが特に力を入れているとみられるのが、ヒンジやディスプレイの仕上がりだ。折りたたみスマートフォンでは、長期間使った際のヒンジの耐久性や、画面中央に残る折り目が長く課題とされてきた。Appleはこうした部分をできるだけ目立たなくし、従来のiPhoneに近い感覚で使える製品を目指しているとみられる。

 Samsungが「Galaxy Z」シリーズを展開し、すでに数世代を重ねていることを考えれば、Appleの参入はかなり遅い。「今さら折りたたみなのか」という見方が出るのも無理はない。

 ただ、Appleはこれまでも、すでに市場ができあがったジャンルへ後から参入してきた過去がある。大切なのは、いつ出すかよりも、Appleがどんな答えを出してくるかだ。

 折りたたみディスプレイをどう見せるのか、開いた状態の大画面をiOSでどう使わせるのか、マルチタスクをどう設計するのか、薄型化やバッテリー容量、発熱をどう両立するのか。こうした部分にAppleらしい答えが見えてくれば、「遅れてきたiPhone」にも十分な意味が出てくる。

 ただ、今回の折りたたみiPhoneには、もうひとつの難題がある。メモリ不足だ。限られたDRAMをProモデルや折りたたみモデルに優先して回すことになれば、初期出荷台数が絞られる可能性もある。

 価格にも上昇圧力がかかっている。『iPhone 18 Pro』シリーズについては、前世代から100~300ドル程度の値上げを予想する情報もある。そこに折りたたみという新しいフォームファクターが加われば、価格はさらに上がる可能性があるだろう。

 つまり、今回のイベントで見るべきなのは「Appleがついに折りたたみiPhoneを発表する」というニュースだけではなく、どれだけ作れるのか、いくらで売るのか、そして誰に届けるのか。華やかな新製品の裏側で、Appleが現実的な制約にどう向き合うのかも、重要な見どころになる。

 そして、折りたたみiPhoneを「高いだけの新モデル」にしないためには、ハードウェア以外の工夫も欠かせない。そこで重要になるのが「Apple Intelligence」だ。

「Apple Intelligence」はiPhoneを一段と進化させられるか

 ここ数年のAppleを振り返ると、ハードウェアと並んでもう一つ大きなテーマになっているのが「AI」だ。Appleは「Apple Intelligence」をiPhoneやiPad、Macdなどに組み込むことで、端末そのものの価値を高めようとしている。

 「WWDC26」で発表された「iOS 27」では、Siriが大きく変わった。これまでの音声アシスタントから、ユーザーの文脈を理解して、より複雑な依頼にも対応するAIへと進化しつつある。

 画像生成機能の「Image Playground」も進化し、写実的な画像の生成に対応。既存の画像をテキストによる指示で編集する機能も追加された。Visual Intelligenceを利用した「Apple Cash」の割り勘機能や、Appleマップの「Flyover」強化など、AIをOSや各種サービスに組み込む動きも広がっている。

 クック時代の後半から本格化した「Apple Intelligence」は、オンデバイス処理とプライベートクラウドコンピューティングを組み合わせ、プライバシーを重視する姿勢を打ち出してきた。OpenAIやGoogleとの連携も進める一方、EUではDMAの影響による機能提供の遅れもあった。

 ただ、ユーザーからは「まだ物足りない」という声もある。ChatGPTやGeminiと比べると、回答の深さや柔軟性で物足りなさを感じる場面も少なくない。だからこそ、進化したSiriが正式版として登場するタイミングは重要だ。

 単にAI機能が増えたという話ではなく、iPhoneを毎日使うなかで「Siriに頼んだほうが早い」と感じられるところまで到達できるか。「Apple Intelligence」が本当に評価されるかどうかは、そこにかかっている。

 そして、このAIの進化は、折りたたみiPhoneとの組み合わせでさらに意味を持つ。大きく開いた画面でAIとやり取りしたり、複数のアプリをまたいで作業したりできれば、折りたたみiPhoneならではの価値も出てくるだろう。

 たとえば、画面の片側で資料を表示しながら、もう片側でAIに要約や整理を頼む。写真やメール、メモなど複数の情報をまたいで、AIに作業を任せる。そんな使い方が自然にできるようになれば、折りたたみiPhoneは「画面が大きくなったiPhone」から一歩先へ進めるはずだ。

 ハードウェアとAIをどう組み合わせるのか。ターナス体制のAppleでは、ここがこれまで以上に重要になりそうだ。そして、ここまでの話をつなげていくと、最後に避けて通れないテーマが見えてくる。それが「製品価格」だ。

メモリの供給制約と価格高騰のなか「プレミアム戦略」はどこまで続くのか

2025年秋に発売した『iPhone 17 Pro』

 折りたたみiPhoneを投入し、AIで体験を高め、Proモデルを先行させる。こうした動きを並べてみると、Appleがこれまで以上に高価格帯へ力を入れているようにも見える。そこで気になるのが、Appleのプレミアム戦略がこれからも通用するのかという問題だ。

 クック時代のAppleは、iPhoneの価格を引き上げながらも、強い需要を維持してきた。特に昨今の日本では円安や物価高の影響もあり、iPhoneやMacを「高い」と感じる人は増えている。

 iPhoneの平均販売価格は上昇してきたが、それでも売上高は伸びている。「高くても欲しい」と思わせるブランド力は、Appleの強さを支える大きな要素だろう。

 ところが、ここに供給制約が加わると状況が少し変わってくる。欲しい人がいても、製品そのものを十分に用意できなければ、販売機会を逃すことになる。さらに価格まで上がれば、「欲しいけれど、そこまで払うか」と考える人も増えるかもしれない。

 折りたたみiPhoneを「究極のプレミアムモデル」として投入し、Apple Intelligenceで体験をさらに高める。その一方で、標準モデルの発売時期を遅らせる。この動きを見ると、Appleがより高価格帯のユーザーを優先しているようにも映る。

 ただ、それが意図的な戦略なのか、それともメモリ不足などの供給制約に押されて生まれた結果なのかは、まだ分からない。ここは9月以降のAppleを見るうえで、かなり重要なポイントになるだろう。

 メモリ不足を価格転嫁で乗り切るのか、製品ごとの優先順位を変えるのか、在庫を戦略的に振り分けるのか。あるいはAIなどの新しい価値を加えることで、高い価格でも納得してもらえる製品にするのか。

 ターナス体制の真価が問われるのは、派手な発表の瞬間より、むしろこうした判断の積み重ねなのかもしれない。

 そして、こうした判断が積み重なった先に、Appleがどんな会社になっているのか。そこまで考えると、今回のCEO交代と折りたたみiPhoneの登場は、単なる新製品サイクルの一部には見えなくなってくる。

9月以降のAppleはどう動く? 2027年にかけては「地固め」の1年に?

2025年9月の「Apple 銀座」リニューアルオープン時の様子

 9月のイベントは、華やかな新製品発表でありながら、その裏側では「限られたリソースをどこに振り向けるか」というAppleの判断が見えてくるイベントになると考えている。

 折りたたみiPhoneは発表される可能性が高い。ただ、メモリ不足の影響から初期供給はかなり限られる可能性がある。価格も、多くの人が想像するより高くなるかもしれない。『iPhone 18 Pro』シリーズも値上げが避けにくく、「発表されたけれど、すぐには手に入らない」という状況が起きても不思議ではない。

 つまり、2026年秋のAppleは、新しい製品を次々と投入するというより、限られた部品や生産能力をどこに振り向けるのかが重要になる。

 そして、このタイミングでCEOがティム・クック氏からジョン・ターナス氏へ交代する。ターナス氏にとって、9月のイベントはCEO就任後の最初の大きなイベントになる。ただ、CEOが交代したからといって、Appleの方向性が一気に変わるとは考えにくい。

 むしろ最初の1年は、クック氏が築いてきたブランドやサービス事業を引き継ぎながら、ターナス氏が得意とするハードウェアの完成度をさらに高めていく時期になるのではないか。そこに「Apple Intelligence」を組み合わせ、Apple製品を選ぶ理由をもう一段強くする。現在のAppleを取り巻く状況を考えれば、まずはそんなスタートになるだろう。

 2026年秋から2027年にかけては、ターナス体制にとって「地固め」の1年になると筆者は見ている。2027年春には、標準モデルの『iPhone 18』や次世代『iPhone Air』が登場し、ようやく新しいiPhoneのラインアップが揃う。その頃までに「Apple Intelligence」がどこまで実用的な存在になっているかが、大きな分かれ目になるだろう。

 特に重要なのが、Siriだ。進化したSiriが本当に日常で頼れる存在になれば、折りたたみiPhoneやProモデルの価値も変わってくる。折りたたみiPhoneの大画面とAIがうまく組み合わさり、「このサイズだからこそできること」が見えてくれば、新しいフォームファクターを選ぶ理由も生まれる。

 一方で、AIの進化が期待ほど進まず、供給制約も2027年まで長引けば、価格上昇への不満が強まる可能性がある。そのとき、Appleのプレミアム戦略がどこまで通用するのかが問われることになる。

 こうした状況を踏まえると、ターナス氏はハードウェアの現場感覚を生かし、「制約の中で何を優先するか」を強く意識した経営に進むのではないかと考えている。すべての製品を均等に伸ばすのではなく、重要な製品や技術にリソースを集中させる。短期的には「Appleがさらに高くなった」という不満につながるかもしれない。それでも、そこで生まれた製品が「高くても欲しい」と思わせる体験を提供できれば、Appleのブランド価値をさらに高めることもできるだろう。

 そう考えると、2026年秋から2027年にかけてAppleにとって重要なのは、単純に製品数や売上を増やすことだけではなく、限られたリソースを使って、「次に何を作るのか」「どの製品に力を集中するのか」を見極めることになるだろう。

 折りたたみiPhone、Apple Intelligence、そしてターナス新CEO。この3つが同じタイミングで動き始める2026年は、Appleにとってかなり大きな節目になるはず。そして私たちユーザーにとっても、「なぜ今、Appleを選ぶのか」を改めて考える1年になりそうだ。

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