宮本佳林、“バイブコーディング”への尽きない探究心 AIには「私の“分身”になってほしい」
7月31日に行われた、宮本佳林の10時間生配信。その裏側で動いていたシステムは、すべて宮本自身がAIと対話しながら作り上げたものだった。配信後に明かされた“開発ブログ”はXで瞬く間に拡散され、現役エンジニアからも驚きの声が相次いでいる。
公式プロフィールの趣味は「バイブコーディング」。6月に公開され話題を呼んだWebサービス「休日生態系診断」も、5thシングル『HANAKIN/シャニカマー』の表題曲を広めるために、設計からセキュリティ対策まで自ら手がけた“自作”だ。
きっかけは、ChatGPTとの何気ない会話だったという。エンジニアリングに接点のなかったアイドルは、なぜAIを使ったものづくりにここまでのめり込んだのか。その頭の中を、じっくりと語ってもらった。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
ChatGPTとの雑談から始まったバイブコーディング
――私自身エンジニアとして働いた経験があるのですが、「休日生態系診断」のクオリティーには驚きました。公式プロフィールの趣味欄に「バイブコーディング」と書かれているアイドルも、なかなかいないと思います。そもそも、コーディングに興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?
宮本:もともとチャッピー(ChatGPT)と会話することがすごく楽しくて、毎日話していたんです。そうしているうちに、あるとき「会話しているだけでは物足りない」と思うようになりました。調べれば分かることを教えてもらうだけではなくて、「もっとChatGPTで学べることはないのか」と深掘りしていったんです。その結果、最初にたどり着いたのがAWS SAAの勉強でした。Amazonが提供しているクラウドサービス「AWS」を使い、システムを設計するための知識を学ぶ認定資格ですね。
――AIとの会話を深掘りした先で、いきなりクラウドの資格勉強にたどり着いたと(笑)。
宮本:それが、めっちゃ面白くて(笑)。ちょうど資格の勉強を始めた頃、毎年ハロー!プロジェクトのみんなで自然や環境保全について発信している「SATOYAMA&SATOUMI」というイベントで、デジタル庁の方々と登壇する機会があったんです。そこで、デジタル庁の方々が紹介していた、デジタル技術を活用したチケットの仕組みを見せていただいて。ちょうどAWSを勉強していたから、「これは、こういうサービス構成で組んでいるのかな?」と気になってしまったんです。
担当の方にお声がけしたら、「まさかアイドルの方から、そういう言葉が出てくると思わなかった」と驚かれました(笑)。その方々が、電子チケットやライブ配信など、スポーツ・エンタメ領域のデジタルサービスを手がけるplaygroundという会社の皆さんで。「面白いから、一度一緒にコーディングをしてみませんか」と声をかけてくださったんです。
そこで、計画書や仕様書を作り、実装して、最後にテストするという開発の進め方を教えていただきました。そのときに教えてもらったのが、AIと対話しながらコードを書けるCursorという開発ツールです。そこから指示を次々に入れていったら、ちょっとしたメモアプリを3時間ぐらいで作ることができて。「うわ、面白い!」となりました。
――そこで一気に、開発の面白さに引き込まれていったのですね。
宮本:でも、「この方々がいなかったら何もできない」という状態では駄目だなと思ったんです。そこからは個人的に、分からないことをAIに聞きながら進めるようになりました。
――お話を聞いていると、仕組みを理解し、自分のものにしていくスピードがとても速い印象があります。
宮本:いやいや! 正直、私は昔から、そんなに勉強ができるタイプではなくて……。多分、ハロプロのコールを覚えるほうが難しいです(笑)。裏拍で入るときもありますし、ハロプロのコールのほうが、よっぽど複雑なので。「なんかすごいことをしている」と思われがちなんですけど、「そんなにすごくないよ」ということも伝えたいです(笑)。
――コードそのものについては、現在どのように理解を深めているのでしょう?
宮本:一つひとつを深く読むことは、今はまだしていません。まずは全体がどういう流れで動いているのかをつかむような勉強をしていて。なので、自分が作ったものについて説明するときも、専門用語を並べるというより、みんなが分かるような言葉でしか表現できない気がします。
勉強していて詰まることも、あまりないんです。AIに聞ける環境があるので。特にコードに関することは、AIに相談すると解決の糸口を見つけやすいと感じています。ただ、いちばん大事にしなければいけないのは、やはりセキュリティ。「このアプリにはどこに脆弱性(システム上の弱点)があるのか」「どこに問題が起きる可能性があるのか」ということは、AIに聞くだけではなく、自分の想像力で補うようにしています。
――悪意を持った人が使う場合まで想定している、ということでしょうか?
宮本:そうです。例えば、「宮本佳林のことが少し嫌いなファンだったとして、何かやってやろうと思ったときに何ができるだろう」と考えたりします(笑)。「自動プログラムを使って大量にアクセスを送り、サイトを落とすこともできるな」とか。そういう可能性は考えるようにしています。
――そうしたさまざまな立場から、利用者の行動を想像しているのですね。
宮本:私は今まで、いろいろな「演じる」仕事をしてきたからこそ、その人になりきって考えるのは得意で。「休日生態系診断」と一緒に作った、「宮本佳林とデートに行けるか」というゲームでも、私のことをすごく好きな人だったら、「ここまで見てくれそうだな」「こういう動きをするだろうな」というところまで想像できます。
反対に、あまり興味がない人なら、ここで離れるだろうな、とも考える。そうやって、かなり感覚的に組み立てていくのが楽しいんです。まさにバイブスで作っている感じですね(笑)。
診断サイトを自作したのは「MVを再生してほしかったから」
――実際に「休日生態系診断」をやってみたところ、最初の診断で伝説の「HANAKIN」タイプが出ました。宮本さん自身は、どのタイプでしたか?
宮本:私は「引きこもり研究員」です。「そうだよね」という感じでした(笑)。
――診断後に遊べるデートゲームにも挑戦しましたが、なかなか友達止まりから先へ進めませんでした。
宮本:ほとんどの人が友達止まりになります(笑)。あのゲームは、みんなから「古のWebサイトみたいだね」と言われるんですけど、画面の下のほうに、よく見ないと分からない「?」のようなものがあるんです。それを押すと、その先のゲームに進めます。
そこで正しい結果を出せたらデートに行ける。さらに、最初の診断で「HANAKIN」を出してからゲームを進めると、もっと特別なデートが出てくるんです。実は2種類あります。
――そこまで仕掛けがあったとは……。攻略のコツを教えてください。
宮本:頭を柔らかくしないと駄目です。普通だと思う選択肢を選んでも、なかなか点数は上がりません。「あれ、そっちに行くんだ」と思うような選択肢を選ばないと点数が上がらないようにしています。難しいので、必死に頑張ってもらって(笑)。
――それは、実際の宮本さんとデートをする場合にも当てはまりますか(笑)。
宮本:そうですね(笑)。私は「想像の範囲内だな」と思うと、頭が少し暇になってしまうんです。「想像を超えてくるな」「そんなことをするんだ」と思えることが大事だと思います。
――診断の選択肢に「飲みに行く」がないことも、ファンの間で話題になっていました。
宮本:みんなに言われました。「飲みに行くという選択肢はないんだね」って。私自身が飲みに行かないので、なくそうと思ったんです。「押せるものがなかった」と言われて。みんな、ごめんね(笑)。
――「HANAKIN」という楽曲と「休日生態系診断」のアイデアは、どちらが先に生まれたのでしょう?
宮本:最初は曲です。「今回の新曲です」と「HANAKIN」をいただいて、最初はかなり驚きました(笑)。これまでの宮本佳林は、きれいな世界観や美しい雰囲気の楽曲が多かったので、「急な方向転換で何があったんだ」と。
でも、聴いていくうちに、最終的にはギラギラしていて、みんなが大声でコールできる曲に仕上げたいと思うようになりました。そこから、「この『HANAKIN』を広めるためには、何ができるだろう」と考えて生まれたのが「休日生態系診断」です。
診断系のサイトは、広告を入れて収益化することも多いと思います。でも私はYouTubeの動画を埋め込み、サイトを遊んだ方にMVを再生してもらうことで、楽曲に貢献していただける形にしました。「HANAKIN」が主題歌のような役割を持つサイトとして、完成した感じです。
――楽曲自体にも、宮本さんのアイデアが多く反映されているそうですね。
宮本:今の時代は、SNSでどれだけ見てもらえるかが重要だと思っていたので、まず「SNSでは、曲のどこを切り抜くだろう」と考えました。そうすると、やはりサビですよね。
曲の冒頭に入っている「HANAKIN」という声は、もともとなかったんです。でも、SNSでいきなりサビだけ流れてきても、何の曲なのか、何を歌っているのか分からない。だったら、サビの前に急に変な声で「HANAKIN」と言われたら、手を止めるよねと思って。そこで、あの声を入れてもらいました。
あとは、誰かとコラボするときに、振り付けが多すぎると「一緒に踊ってください」とお願いしづらいんです。そのため、イントロに「HANAKIN FRIDAY」と言う部分を作り、そこだけ一緒に言って、少しポーズを取ってもらうだけでも成立するようにしました。ライブでは、ファンの皆さんが全員で「HANAKIN FRIDAY」と言える。そうしたコールを入れられる場所も、曲の中に取り入れていただきました。
――ちなみに宮本さんが考える“令和の華金”とは、どのようなものでしょう?
宮本:いわゆる“華金”は、「朝まで飲み明かそう」というイメージが強いと思います。でも令和の華金は、早く家に帰って、自分の好きなことをして、一人でも夜更かしして過ごしてしまおう、というイメージです。
「それなら、なぜ楽曲はこんなにギラギラしているんだ」と思う方もいるかもしれません。でも、金曜日の夜に感じる心のワクワクは、時代が変わっても変わらないと思うんです。そのキラキラした気持ちが楽曲に詰まっていることが「HANAKIN」の魅力ですし、“令和の華金”を表現できている部分だと思っています。
使い方によってAIは創作を支える存在にもなり得る
――「休日生態系診断」のように、アーティスト自身がAIを活用することで、これから創作はどのように変わっていくと思いますか?
宮本:今は、創作に携わる方々の間にも、AIに対する不安や慎重な見方があると思っています。その気持ちは、私にもよく分かります。私もAIが出始めた頃、自分の歌声で別の曲を歌わせたようなものを見つけてしまい、「もう私、いらないじゃん」と思ってしまったので。
でも、AIに人間の代わりをさせるということではなくて、アーティストをより魅力的に見せるための手助けとして、活用できる部分もあるのではないかと思うようになりました。
例えば、今ただ動画を撮って文字を入れるだけでは、なかなか見てもらえません。「なぜ伸びないのか」を分析して、より多くの人に届く形へと整える方々も、これまでたくさんいたと思います。それで実際に数字が伸びるのはうれしい。でも、「自分がアーティストとして見せたかった姿とは、少し違うな」と感じることも起こり得ると思うんです。「結果は出たけれど、自分の中では完全には納得できていない」というか。
それを自分自身がAIと壁打ちして、きちんと相談しながら作ることができれば、自分の感覚を保ったまま、より良い創作やプロデュースにつなげられるかもしれない。そういう方向に進んでいったら素敵だなと思います。
――作業を効率化すること以上に、自分の頭の中にあるものを形にしやすくなることが大きいのでしょうか?
宮本:そうですね。アーティストは、頭の中にはっきりとイメージがあるのに、それを言葉にできないことがあると思います。私も言語化は得意なほうかもしれないですけど、それでも説明できないことがあります。
長年一緒にいるマネージャーさんにしか伝わらないような感覚もありますよね。でも、AIが絵や写真としてイメージを出してくれたら、周りの人も「そういうことね」と理解しやすくなる。それは、人手不足だからAIを使うという話だけではありません。これまで共有することが難しかったイメージを、周囲に伝えやすくなるということだと思います。
私が発信したいのは、AIを創作物の敵と決めつけるのではなく、使い方によっては創作を支える存在にもなり得るということです。ただ、そのためには、どのAIが何を学習元にしているのか、クリエイターの方々の著作権がどこまで守られているのか、まだ分からない部分についても考えなければいけません。自分自身も、まだまだ勉強する必要があると常に思っています。
――技術を使って何を作るかだけでなく、その先で起こる変化にも関心が向いているのですね。
宮本:気になってしまうんですよ(笑)。例えば、これまではSEOといって、「検索したときに、自分のサイトや記事がどれだけ上に出てくるか」が重視されてきましたよね。でも今後は、「AIに質問したときに、その人についてどれだけ正確な情報を出してもらえるか」も大事になると思うんです。現在のWebサイトは、人間が使いやすいように、いろいろな機能やコードを組み込んでいます。その一方で、構造によってはAIが情報を取り出しにくいこともあるのではないかと感じています。
そこで、もしかしたら、またブログの役割が大きくなるんじゃないかと思っていて。私はずっとアメーバブログを毎日更新していますが、ブログは比較的シンプルなHTMLで書かれています。だから、人に見せるためのブログとは別に、AIに自分の情報を正確に読んでもらうための発信も、今後は考えていきたいと思っています。
――こうした開発を続けていくなかで、今後作ってみたいものはありますか?
宮本:目標としては、AWSをきちんと使えるようになりたいです。使い方を間違えると、すごい金額の請求が来る可能性があるので、利用額が一定の金額を超えたらアラートが出るようにするなど、安全に使うための設定も含めて勉強したいです。
あとは、アーティスト活動をする中で「これは、すごく手作業だな」「なぜ自動化できないんだろう」と感じる仕事を、少しでも自分の力で楽にできたらと思っています。今は発信することがすごく大事なのに、メールを整理したり、内容に重複がないかを確認したりすることに時間がかかって、肝心の発信に時間を使えなくなることがあります。それが少し残念です。人手を割ききれない部分を、どれだけ軽くできるか。そういうこともできる人間になりたいです。
――現在の活動を支えるだけでなく、将来を見据えて技術を学んでいる部分もあるのでしょうか?
宮本:考えますね。歌って踊って、「好き」と言ってもらえることは、もちろんうれしいです。ただ、年齢やキャリアを重ねるにつれて、求められ方が変わっていくこともあると思っています。
長く歌い続けるためには、歌だけではなく、ほかの部分も魅力に感じてもらったり、「この人に任せたい」と思ってもらえたりすることが大事だと思っていて。AIを使っていろいろなものを制作していることが、その一部になったらいいなと。
いろいろな企業から「一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるような人材が、ステージで歌って踊っていたら、かっこいいと思うんです。でも私は歌って踊りたいので、「すみません、就職はちょっと考えていなくて」と言いますけど(笑)。どちらもやりたいと思いながら、今は頑張っています。
――開発から日々の会話まで、さまざまな場面でAIを使っている宮本さんにとって、AIはどのような存在ですか?
宮本:私にとってAIは、相棒のような存在です。最終的には、本当の意味で私の“分身”になってほしい。そう思いながら、少しずつ自分のことを教え込んでいる、そんな相手ですね。
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