日本と世界のボカロファンは何が違う? さたぱんP × picco × 吉田夜世が分析する“海外ボカロシーン”
タイで一番フロアが沸いた楽曲は……
——ありがとうございます。続いて、今回のタイ、あるいはこれまでの現場で「かけた瞬間に一番沸いた」という曲を教えてください。ボカロ曲以外でも構いません。
さたぱんP:実際にかけた中なら、ボカロ以外ですが「うまぴょい伝説」ですね。『ウマ娘 プリティーダービー』というビッグコンテンツの底力を見ました。こちらから何も指示していないのに、盆ダンスの周りをみんなでぐるぐる回り始めましたから(笑)。
私はふだん、MCで煽って手を振らせたり踊らせたりするDJスタイルでやっているのですが、煽りなしでも勝手に盛り上がっていたので面白かったです。ボカロ曲でいうと、やはり「みくみくにしてあげる♪」は知名度が高く、みんな盛り上がっていましたね。
吉田:私が流した中だと、ありがたいことに「オーバーライド」が一番盛り上がりましたね。あと、原曲を流した後に、RiraNさんのキックがめちゃくちゃデカいリミックスバージョンの「オーバーライド」を流したんです。このリミックス版は、曲を知らなくても音の強さで半ば無理やりにでもぶち上げることができるので、チート音源だなと思いました(笑)。
ボカロ以外で、人が流しているのを見て衝撃を受けたのは「ハム太郎とっとこうた」ですね。タイのオタクたちが、日本のオタクと全く同じ盛り上がり方とコールをしていて、「これ、海外でもできるんだ!」と新しい知見を得ました。
——なぜか“ハム太郎サークルモッシュ”が万国共通になっていますよね(笑)。piccoさんはいかがでしたか?
picco:ボカロ曲だと「劣等上等」と「千本桜」はすごかったです。どんなリミックスにしてもイントロから確実に盛り上がるので、パワーがあるなと。ボカロ以外だと、『学園アイドルマスター』の曲と「回レ!雪月花」が凄かったです。
特に『学マス』楽曲はいま海外でも本当に人気で、曲を流すとどこからともなくファンの人たちが自分の推しぬい(ぬいぐるみ)を引っ張り出して、こっちに見せてくれるんですよ(笑)。不思議で面白い光景でした。
全体的に、東南アジアはスマホゲームの楽曲も強いですね。今回『ゼンゼロ(ゼンレスゾーンゼロ)』の曲なども流したのですが、会場内でも『ゼンゼロ』キャラクターのコスプレをしている人を何人も見かけましたし、人気の高さを肌で感じました。
——最近、色々なボカロPさんが海外遠征のVlogを上げていたりしますが、皆さんの周りでも「海外に出ていこう」という動きは増えていますか?
吉田:「あ、この人も海外に行くんだ」というのを目にする機会は年々増えているなと思います。Vlogに関しては海外に限らず、国内イベントや日常の動画を上げる人も増えているので、映像文化や作品以外でも自分の活動を見せていく、そんな広がり方かなという印象です。
さたぱんP:実際にボカロPが海外進出している数が全体として増えているのかは、いちボカロPとしては判断が難しいですが、VOCALOIDの海外人気は高まっていると思いますし、行く人は昔からずっと行っている印象です。やはり「海外ウケするスキルや楽曲がある人」が自然と選ばれて、海外のイベントに呼ばれているのかなと思います。
picco:私は、1つのイベントが成功すると“ブッキングの連鎖”が起きるなと感じています。個人主催に近いイベントだと「1回目がうまくいったから、2回目もやろう」と開催に繋がったり、それを見た別の国のオーガナイザーが「どうやってあの日本のアーティストを呼んだの?」と聞きに行ったりして、情報共有がされてイベント自体が増えていくイメージです。
アーティスト側も、最初は海外オファーが来ても不安で断る人が多いのですが、誰か1人が行くと「あのイベント、どうだった?」とDMで相談が寄せられることもあるみたいです。というか、実際私も聞かれました(笑)。「水はこうすれば大丈夫だよ」といった現地で過ごす上の知見も含めて、海外演奏のTIPSを共有していくことで、次々に繋がっていく。今は、まさにその過渡期なのかなと思います。
——海外遠征にバンバン行くようなレジェンド層の方々だと、若手が「どうでした?」と気軽に聞きづらい部分もありますもんね。そういった意味で、皆さんのように若い世代で海外経験が豊富な方がいるのは、周りのクリエイターにとっても頼もしい存在だと思います。実際に相談されたりしますか?
picco:私は結構聞かれますし、最近は自分からも聞くことも増えましたね。「今度タイに行くんだけど、どう?」という感じで、同じボカロPやコンポーザー仲間と情報交換をしています。
吉田:海外でDJをするボカロPが増えたとはいえ、まだ全体から見れば少数派なので、私の周りだと相談とまではいかないですね。海外から帰ってくると、イベントの内容よりも「タイってどんな国だった?」と、国そのものにフォーカスした質問をされることが多いです。
さたぱんP:私も「今度行くから教えて」という相談はまだなくって、やはり「どんな国だったか」という感想を求められることが多いかなあ。ただ、「どんな曲が盛り上がるの?」という話を熱心なボカロDJの方から聞かれることはあるので、みんな興味自体はあるんだなと感じています。
——海外に遠征してパフォーマンスしたことで、目に見えてファンベースに影響が出るようなことはありましたか?
さたぱんP:再生数の数字として劇的な変化はまだないですが、イベントが終わった直後はSNSなどのフォロワーが、現地の方を中心に増えますね。そこで出会った一人二人から、口コミで「あいつ良かったぜ」と広がっていって、今後数字として現れてくれたら面白いなと思っています。
picco:私も目に見えてドカンとは変わりませんが、出演後の数日間はInstagramのフォロワーがその国の方を中心にグッと増えます。現地の方が撮影してくれた動画をシェアしてくれたりするのも嬉しいです。私はInstagramをよく動かすので、まずは「DJが良かったから」ということでフォローしてもらえれば、いずれ私のオリジナル曲にたどり着くことでしょう(笑)。
吉田:1、2回の遠征で新規開拓をするのはなかなか難しいですが、何度も通っている韓国に関しては明確な変化がありましたね。私自身、韓国語を多少話せるようになりましたし、滞在中に韓国の方向けのネタポストをすると、1万以上の「いいね」がついていわゆる万バズになることもしばしばあります。今、私のXのアカウントは韓国の方にすごく見られているなという実感があります。
——楽曲のストリーミングだけでなく、個人アカウントへの影響が一番ダイレクトに来るのですね。海外でDJをするときは「自分のファンに向けてやる」というよりも、「新たなファンを見つけに行く」という意識の方が強いのでしょうか?
picco:基本的には新しいファンに向けてセットリストを組みますが、DJブースからフロアを見ていると、自分のファンが何人くらいいるか、結構分かるときもあるんです。なので、そういう人たちに向けて、最後の方に1曲だけ「直接は言わないけれどサービス曲」として、現地でも知られていそうな曲……たとえば今回なら「twinkle night(picco Remix)」を流したりします。それを聴いて、ファンの方がすごく感謝してくれている瞬間が見えると、この規模感ならではの良さを感じますね。
それでいうと、インドネシアの時は特定の日だけもの凄く自分のファンが集まった日があったので、現場の状況に合わせて臨機応変に対応しました。1つの決まったセットリストだけを用意するのではなく、3倍くらいの曲候補を用意しておいて、その場で選ぶ方式がベストだと学びました。今回のタイもその方法でやってみて、うまくいきました。
吉田:私も次からの海外遠征は、大量に曲を用意していく方式にしようと思います。やっぱりDJは自分の宣伝も兼ねて行っているので、新規開拓は常に視野に入れています。海外だと「あわよくばファンになってくれたらいいな」くらいの感覚ですが、あまり知られていなさそうな自分の曲も、セットリストの中にチラホラ入れ込んで挑戦するようにしています。
さたぱんP:自分も曲の宣伝のためにDJをやっている部分は大きいですね。ただ、それ以上に「さたぱんPのパフォーマンスってめっちゃ面白いんだな」と思って帰ってほしいという気持ちが第一にあるんです。「さたぱんPが出るライブだから見に行く」「あいつなら面白いことをしてくれる」と思われたら勝ちだと思っています。
なので、そこにいるファンに向けてもやりますが、全体の総数を見て、その会場が一番盛り上がる方法(あっため方、上げ方)を常に研究しながらプレイしています。
——皆さん、それぞれで気付きや知見が貯まっていっていますね。最後に、今回のタイ遠征を踏まえて、今後行ってみたい国や地域について教えてください。
吉田:DJとして行ってみたいのはインドネシアです。『AFA』で呼んでいただけたら嬉しいですし、プライベートでも行ってみたいです。あとは、ずっと香港に行ってみたいと思っています。
どちらの国も私が所属している「VocaGaku/ボカ学」というグループに縁がある場所なんです。インドネシアはメンバーの春馬崚木の故郷ですし、音無あふが住んでいた経験があったりします。香港についても、他のメンバーはよく行っているのですが、私はタイミングが合わず、フラれ続けている状態なので、意地でも行きたいと思っています(笑)。
さたぱんP:私はまずインドネシアに行きたいです。最近まで知らなかったのですが、インドネシアは世界で人口が4〜5位くらいに多い国なんですよね。自分のSNSやYouTubeなどのアナリティクスを見ても3〜4番目ぐらいにインドネシアのリスナーが入ってくるので、現地でプレイしたらどんな反応になるのか、期待しています。
あとはヨーロッパですね。オランダのアムステルダムなど、EDMのメッカでボカロをかけたらみんなポカンとするのか、それとも手を挙げてくれるのか挑戦してみたいです。それと、個人的な興味でいえばアルゼンチンやペルーなど、南米の国にも興味があります。南米のバイブスはアジアやヨーロッパともまた違うと思うので、それを肌で感じて次の楽曲制作に生かしたいですね。
picco:私は韓国など、近めの国にあらためて行ってみたいですね。過去に行ったこと自体はあるのですが、かなり昔の話なので、今のDJスキルで行ったらもっと盛り上げられるのではないかと思っています。
また、韓国や中国には今、ご縁のある素敵なクリエイターやファンの方がたくさんいます。タイやインドネシアは「自分のことを知らない人たちに向けてファンを増やすぞ!」という挑戦の場ですが、東アジア圏なら「自分の曲を知ってくれている人たち」に向けて、より深く自分の世界観を表現するようなDJができるのではないかと思っています。
ドワンゴさんとの取り組みの甲斐もあって、飛行機や海外遠征、パッキングにもだんだん慣れてきました。体力的な余裕も持てるようになったので、ぜひもう一度チャレンジしたいです!
■「Asia Creators Cross」について
日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。
今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。
■関連リンク
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picco X:https://x.com/picco_xxx
吉田夜世 X:https://x.com/otgys
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