日本と世界のボカロファンは何が違う? さたぱんP × picco × 吉田夜世が分析する“海外ボカロシーン”
2026年5月30日・31日の2日間、タイ・バンコクにて、日本のポップカルチャーを中心としたアニメイベント『Anime Festival Asia Thailand 2026(以下、AFA Thailand 2026)』が開催された。
日本の文化とも親和性の高いタイ。日本からも、ドワンゴが展開するクリエイター支援プログラムを通じて3名のボカロPと「超ニコニコ盆踊り」の海外展開版「Cho-BON Dance Japan」のチームが出演した。本稿では、イベントでDJとしてパフォーマンスを披露したさたぱんP、picco、吉田夜世による鼎談をお届け。
3名の海外遠征経験についてヒアリングしたところ、それぞれ違う国でDJパフォーマンスをした経験があるとのこと。そこで、今回の鼎談では『AFA Thailand 2026』の総括と合わせて、各国で流行するボカロ楽曲の特徴や盛り上がる楽曲について振り返ってもらうことに。世界のボカロリスナーの反応を肌で感じた3人による貴重な視座を紐解く。(三沢光汰)
フロアを埋め尽くすほどの盛り上がりで大成功を収めた『AFA Thailand 2026』
——まずは先日の『AFA Thailand 2026』を振り返って、率直な感想をお聞かせください。実際に足を運んでみて得られた手応えや、気付きはありましたか?
さたぱんP:ありがとうございます。『AFA』への出演はシンガポールに続いて2回目でしたが、事前に聞いていたよりもタイのお客さんの反応が良かったので安心しました。というのも、タイはどちらかというとシャイな人が多い国という噂をチラホラ聞いていたので、ちょっと不安な部分もあったんです。しかし、実際に行ってみると手を振って盛り上がってくれたり、声を出してくれたりと、しっかり反応をもらえたので安心したし、すごく嬉しかったです。
タイに限らずですが、行ったこともなければイベントに参加したこともない土地でDJをやるのって、当たり前ですが怖いじゃないですか(笑)。どんな反応があるんだろう、そもそも反応をもらえるのか心配していたのですが、やってみて「来て良かったな」という印象に変わりました。タイのことが好きになった、そんなイベントでした。
——piccoさんはいかがでしょう?
picco:私はタイの前にインドネシアの『AFA』に出演させていただきました。良い意味であまりどちらも変わらないというか、変わらず盛り上げていただけたなという印象です。インドネシアの時は初めてだったので様子を見つつでしたが、タイの方はインドネシアで得た知見を結構そのまま生かせたなと感じています。
——ちなみに、インドネシアで得た知見というのはどんなものでしたか?
picco:私たちの楽曲も含めたボカロカルチャー自体が、アニメに比べると少しマイナーとまではいかないものの、やはりアニメの方が優勢なのかなという印象を受けました。なので、そのバランスは意識しましたね。とはいえ、ずっとアニソンを流してしまうと私たちがタイに来た意味がないので(笑)。良いバランスを維持するという点を、タイでは最初から意識して臨めました。
——なるほど。さたぱんPさんもpiccoさんも、それぞれ最初に『AFA』に行った時と比べて、セットリストの傾向が変わっているなというのは、僕も見ていて感じたところでした。では、今回初参加だった吉田さんはいかがでしたか?
吉田夜世:私は『AFA』初参加で、東南アジアに足を運ぶのも初めてだったので、本当に手探りで不安もありました。でもpiccoさんがおっしゃっていたように、『AFA』はアニメ主体の、日本のオタクコンテンツに興味がある人たちが集まるイベントなので、そこはある程度信頼していましたね。「こうして寄せすぎないボカロ主体のDJをやっても、結構分かってくれるんじゃないか」という信頼を持ちつつ、これまでの海外DJの経験も加味しながらセットリストを考えてみました。
結果、盛り上がりやすい「niconico LIVE Stage」(※)というフォーマットだったこともあり、またDJは知らない曲でも盛り上がれる良さもあるので、場の雰囲気も合わさって自分もお客さんも楽しい空間を作れたのかなと思っています。
(※:やぐらを模したステージで、観客は周囲をぐるりと踊り歩いて楽しむことができた)
——吉田さんはご自身の曲やボカロP仲間の曲など、真っ向から勝負するようなセットリストでしたね。
吉田:そうですね。1日目は本当にやってみないと分からないので、まずは挑戦してみました。その結果「思ったよりもCho-BON Dance Japanの余韻を残してる人が多いな」「有名な曲の割合を少し増やした方がいいな」と気づき、2日目は昔作った盆踊りっぽい音頭のリミックスを2曲流してみたところ、よりハマった印象でした。今後さらに『AFA』に出演していく機会があれば、またそっちにアジャストしていけるのではないかと思っています。
——素晴らしいですね。これまでみなさんが行った国はどのあたりが多かったですか?
吉田:東アジアがほとんどですね。DJとしては韓国に何度も行っていますし、他には台湾、上海、広州、北京などです。なので、今回の東南アジアは新鮮で楽しかったです。反応については、細かくは違いますが、大きくは「日本か海外か」という括りでそれほど変わらない印象です。
さたぱんP:私は『AFA』シンガポール以外で海外でライブをしたことがないので、先ほど話したことがすべてになってしまいます。ただ、今のお話を聞いて、他の国に行った時もそこまで身構えなくていいのであれば、自分のスタイルをより生かせるのではないかという気になりますね。
picco:私は中国、韓国、アメリカ、そしてAFAでのインドネシアという感じです。ただ、時期がバラバラだったので、その時々の自分の持ち曲(電音部の前後など)によって毎回雰囲気が違いましたね。
出演するイベントがボカロメインではない時は、人間の歌い手さんの曲など、自分が作った他の楽曲もかけるので、イベントによってかなり雰囲気が変わるんですよね。音ゲー系のイベントに出たこともありますし、本当に色々でした。
——たしか、インドネシアの時は「電音部」ファンの人たちがすごく集まっていましたよね。
picco:そうですね。その印象もあったので、タイはどうかな、というのを序盤に曲をかけながらチェックしていました。インドネシアのように序盤から電音部で盛り上がる感じであればたくさんかけようと思いましたが、タイはそうでもなさそうだったのでコントロールしました。
インドネシアの時はすごく特殊だったんだと思います。SoundCloudにリミックスを投稿しているトラックメイカーの人も多かったですし、現地の方から同人CDをいただいたりもしたので、そういう文化が強いのかもしれないですね。
——『AFA』はクラブ慣れしていない人もたくさん来るイベントなので客層が違うのは当然ですが、「日本のポップカルチャー好きが集まっている」という共通点の中で、気づいたことはありますか?
吉田:お客さんがみんなオタクなので、「盛り上がることを大事にしている」というのは共通していますね。積極的に参加してくれるという姿勢は、盛り上がり方に違いはあれど日本も海外も同じだなという印象でした。
さたぱんP:そうですね、同じくリスナーの雰囲気には共通するものがあるなと思っていました。「海を渡ってもオタクはオタクなんだな」という安心感を、動きを見ていて感じますね。ペンライトの振り方やオタ芸の打ち方など、日本の文化をうまく取り入れているのが見えて嬉しいです。逆に、まだ海外特有の盛り上がり方というのをそこまで見ていないので、そういうものが見られたら面白いなと思っています。
——確かに、みんなめちゃくちゃオタ芸を打っていたし、ツーステップを踏んでいましたね。音楽だけでなく、盛り上がり方の影響も受けている感じがします。piccoさんはいかがですか?
picco:日本のイベントだと、会場の狭さもあるかもしれませんが、そういうオタ芸やペンライトでガッツリ踊る人たちは後ろの方でひそやかに楽しんでいるイメージがありました。でも今回のタイでは、踊る人が1人前に出てきたらみんなで円を作って盛り上げ、その人の番が終わったら入れ替わって別の人が踊る、という光景がブースから見えて。踊る人と、それを見ている人の盛り上がり方が日本とは全然違うなと感じましたね。はたから眺めてるだけでなく、一緒に盛り上がっている感じがすごく良かったです。
——広い会場ならではの良さもありますよね。コスプレの装飾が少し大きくても周りがあまり気にしなかったり。あと、「Cho-BON Dance Japan」チームからの流れもあって、会場全体が“踊る空気”になっていたのが良かったのかもしれません。皆さんも「Cho-BON Dance Japan」チームに触発された部分はありましたか?
さたぱんP:そうですね。一緒に作り上げた感というか、バトンを渡されて「これを繋いで盛り上げなきゃな」という気持ちがありました。向こうがどう思っていたかは置いといて、こちらはすごく影響を受けて、やってやるぞという気持ちになりましたね。
吉田:わかります。ステージ脇の控室で待っている間に、(イベントに同じくDJ出演していた)ササキチさんの盛り上げがものすごく聞こえてきて、自分も頑張らなきゃと触発されました。内容や盛り上げ方で丸々同じことをやっても意味がないので、場の作り方や雰囲気を壊さないようにしようという、モチベーションの面で大きな影響を受けた形ですね。
——あと、ステージに置いてあった、タイ語が書かれたうちわを皆さん使われていましたが、あれも“神アイテム”でしたね。
吉田:そうでしたね(笑)。
さたぱんP:めちゃくちゃ使いましたね。
picco:「Cho-BON Dance Japan」チームが作ったものだと思って、勝手に借りていました(笑)。でも、お陰ですごくハマりましたね。
——次回以降はボカロチームでも何か用意しようか、なんてことをドワンゴチームも話していましたよ。さて、『AFA』はアニメやソシャゲ(ソーシャルゲーム)が好きな人が多い中で、ボカロ楽曲を流した時の反応はいかがでしたか?
picco:私は『AFA』が2回目だったので、あらかじめ曲を絞って準備して臨めました。自分の曲以外を選ぶときは有名曲の中から厳選し、逆に私の曲を知らないであろう層に向けては、曲の構成的に分かりやすいダブステップ調のものや、掛け声を出しやすい曲を選んできたので、うまく行ったなという感じです。
さたぱんP:私も前回のシンガポールのイメージがあったので、それを元にセットリストを組み替えました。ボカロ曲に関しては、最新の有名曲よりも、昔からの王道な楽曲の方がやはりウケますし、みんな知っていますね。それらを中心に流して、しっかり盛り上がったので、読みが当たって安心しました。
——「ぽっぴっぽー」や「みくみくにしてあげる♪」など、本当にボカロの原点のような曲を流されていましたね。吉田さんはいかがですか?
吉田:私は自分の曲や知り合いの曲など、新しい曲を聴いて来てくれる人への信頼感を元に流してみました。そうしたところ、知らない人は知らないなりに盛り上がってくれましたし、私の「オーバーライド」を知っている人も多くてうれしかったですね。有名曲の割合については、もし次にアジアで出演する機会があれば、もう少し増やしてもいいかなと思っています。
——海外で盛り上がるボカロ楽曲の年代やジャンルの予想について、もう少し深掘りさせてください。2000年代〜2010年代の王道曲はどのように受け止められていると感じますか?
吉田:2000年代や2010年代の曲、たとえば「千本桜」などは、もうアニソンとほぼ同列の扱いを受けている印象です。また、私の『プロセカ(プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク)』書き下ろし曲を流した時もちゃんと知られていたので、『プロセカ』へのアンテナはすごく張られているなと感じました。逆に、ゲームなどに入っていない最新曲は、海外だと少しハードルが高いかもしれませんね。
さたぱんP:年代で言うと、2007〜2009年あたりが一番盛り上がる感覚があります。次点で2010年代の曲ですね。(吉田)夜世さんが言ってくれたように、『プロセカ』に収録されている曲はやはり皆さんよく知っているなと思います。最新曲でも異常にバズった曲なら知っている人はいますが、やはり昔からある王道楽曲の強さが際立っている印象です。
picco:それでいうと、公式ライブの『マジカルミライ』や『MIKU EXPO』でよく演奏されてきた楽曲や、その関連曲はハマりやすそうでしたね。
あとは今回、メインステージでのkz(livetune)さんのDJも見させていただいたのですが、kzさんクラスになるとどの曲でもイントロの時点でめちゃくちゃ盛り上がっていました。ただ、私たちのイメージする有名楽曲とはまた違った“王道”がある気はしていて、世界の人たちがどこまで深くボカロ楽曲をディグっているのか、その境目を見極めるのは本当に難しいなと思います。
——確かに、ニコニコ動画の歴史には間違いなく残っているけれど、公式ライブなどで頻繁に演奏されていないような楽曲がどこまで伝わるかは、かけてみないと分からない部分もありますよね。
picco:そうなんですよね。ただ、『マジカルミライ』などのDVDや映像が残っている楽曲は、海外のオタクたちも入手していそうです。きっと集まって鑑賞会を何度も開いているんだと思っていて、みんな盛り上がり方も分かっているし、コールもできるんだろうなと予想しています。
——海外のボカロシーンで、今後流行りそうなジャンルの予想はありますか? たとえばインドネシアなら「ファンコット(Funkot)」のような現地で人気のジャンルがありますが、そういった視点からはいかがでしょう。
picco:今回「Cho-BON Dance Japan」チームが流していた「Bling-Bang-Bang-Born」がものすごくウケていたので、ジャージークラブなどのジャンルは、みんな好きだし踊りやすいのかなと思いました。
——最近のボカロ楽曲でいえば、『ボカコレ(The VOCALOID Collection)』などではルーキーランキングでHyperpop系やhyperflip/dariacore系の楽曲が流行っていますが、そのあたりはどうですか?
picco:これはジャンルというよりもDJ目線でのお話ですが、Hyperpopのような音楽はAFAのような中規模の特設DJステージだと「あんまり響かないかもな」と、インドネシアに行った時に感じましたね。
ジャンルとしてもHyperpopは作り手本人が前に出てパフォーマンスした方が面白いですし、現地の野外に近い音響だと、高音が出すぎてキンキンしてしまいがちなので、相性が良くないのかなと。Hyperpopをやる前提で特設ステージの機材を選んだり、PAの方に調整していただける環境で集まってやった方が楽しいジャンルだと思います。逆に、ジャージークラブやドラムンベースは、比較的どんな空間でもみんなで良い感じに楽しめるジャンルだと思います。