東出昌大「命がまず大事」「覚悟して」 自然の脅威に直面した『野営デトックス』4話

 俳優・東出昌大が自ら暮らす山に有名人を招き、1泊2日の野営を行う『東出昌大の野営デトックス』。5月25日深夜にABCテレビで放送、ABEMAで配信された#4は、前回に続いてプロボクサー・那須川天心と競泳選手・瀬戸大也という2人のトップアスリートがその自然と対峙した。

「道なき道を進み、挑んだ渓流釣り。大自然で痛感した、命の有難み」

 控えめに韻を踏むアフロの心地よいナレーション。前回、その渓流釣りで東出と那須川はホイホイと岩魚を釣り上げた一方、瀬戸は1匹たりとも釣れていなかった。この時点で瀬戸は、その命の有難みを痛感させてすらもらえていない状態である。

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東出昌大&那須川天心による“意味のない会話”とは?

 雨上がりの湿った野営地に、3人はタープを張っていく。東出がテントではなくタープを選んだ理由は、「テントは重いから」。それ以上の理由は、ここでは必要ないということだろう。

 器用に自在結びを作りながら「結び方は適当で大丈夫です」と言う。長く山で暮らす東出なら荒天の気配を感じているはずだし、空が荒れるならタープの結び方が適当で大丈夫なはずがない。この一言にも、東出がこの番組を通してゲストに伝えたい思想が宿っている。ウルフアロンとフワちゃんを迎えた#1、2でも、東出は火処の石積みについて「適当でいい」と言っていた。ここでの必要最低限の作業は自分がやる。ゲストにはただ、この山を感じてほしい。『野営デトックス』のホスト役に徹する東出の横顔は真剣そのものだった。

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 「適当でいい」と言いながら、テキパキと指示を出す東出。その指示に従い、黙々と働く2人のトップアスリートはいかにも楽しそうだ。タープの下にひととき体を横たえる。那須川と瀬戸の肉体、それはともすれば巨万の富を生む宝物でもある。山には国民の期待もないし、競技結果に一喜一憂するスポンサーもいない。その肉体が、彼らの純粋な所有物へと帰っていく。

 火を起こし、東出が「自由時間」を宣言する。

「釣り行くもよし、川を眺めるもよし、火を見るもよし。ハイ、解散」

 この野営への出発前、東出は「暇なことをしに行こう」と言っていた。「野営は暇だからなぁ」。まさにその暇の時間が訪れたわけだが、瀬戸にはやらなければならないことがあった。

「リベンジ、諦めないっす」

 1人、渓流に釣り糸を垂らした。ただひとり釣果のない瀬戸は「諦めらんねえ」と苦笑いを浮かべる。まるで自身の性根にあきれ果てているようだ。

 その一方、焚火を挟んで那須川と東出は暇の時間を過ごしていた。

「最近食ってうまかったもの何?」(東出)

「ウナギとか好きっすね」(那須川)

「うまいよね」(東出) 

 周囲にスーパースター像を期待され、その期待に応えてきた那須川にとって、これほどまでに意味のない会話をメディアに切り取られたことがあっただろうか。

 そうして20センチほどの岩魚を携えて野営地に帰ってきた瀬戸を、2人は大はしゃぎで迎え入れる。食材が揃い、夕食の準備に取り掛かる一同。各々が釣ってきた岩魚を炭で焼き、米となめこの味噌汁の準備が整ったころ、雨脚が強まり、遠くでは雷鳴が轟いている。

 東出は早々に食事を切り上げようとし、「雨が止んだら、またゆっくり食べましょう」と進言するが、那須川と瀬戸は食べることをやめない。東出にとっては日常でも、ゲストの2人にとってはめったに体験できないイベント。その時間を慈しむように、雨に打たれながら2人は野営メシをかっ食らっている。

 しびれを切らした東出が、タープの下に2人をいざなう。

「もし本当にヤバそうになったら、今晩僕らヘッドライト付けて、高台に登ってビバークすると思うんです。ここの荷物はもし流されたとしても、命がまず大事なので」

「ちょっと、覚悟しましょう」

 ビバーク=緊急避難。大雨が降れば川から離れるのは山での鉄則である。自然は人間に命を与え、ときにその命を奪おうとするということだ。寝袋に身を押し込み、人間はただ雨が上がるのを待つことしかできない。

「野垂れ死んで微生物に食われたい」東出昌大の夢と、那須川天心&瀬戸大也がリベンジしたいこと

 夜が更けて雨が上がり、再び火を囲んだ3人。東出が那須川と瀬戸にカップを手渡し、2人はうまそうにそれをすする。酒なのかコーヒーなのか、あるいは味噌汁の残りか……もう番組もそれを説明することすらしない。那須川はその液体を口にしながら「人生イチかも」とつぶやく。世界イチの誰かが、人生イチの何かを飲んでいる。その光景を、淡々とカメラが映し出している。

「世界か……狙ったことねえなぁ」

 そんな東出の言葉に、場の空気がゆるんでいく。当たり前だ。世界など、誰も狙ったことなどないのである。

「世界戦? 今度?」世界など狙ったことのない俳優が、寝そべって現世界ランク1位のボクサーに尋ねている。

「そうっすね、1回僕負けたんで。それのリベンジって感じにはなりますよね」

 今回の放送で2回目の「リベンジ」の登場である。瀬戸は見事に岩魚を釣り上げ、リベンジを果たした。今度は那須川の番である。

 2023年にキックボクシングからボクシングに転向した那須川だが、もともとはボクシングにまったく興味がなかったのだという。

「ずっとチャンピオンだったんですよ、キックのとき。ずっとチャンピオンって僕の性に合わないなって。ボクシングには僕より強い人がたくさんいるんで、だからこそ興味が湧いたっていうか」

 ボクシング界には、井上尚弥という選手がいる。現在、全階級を通じて世界最高の選手のひとりとして数えられ、スーパーフライ級とバンタム級では歴代最高と評価される絶対王者だ。その弟もプロボクサーで、世界タイトルを持っていることはボクシングファン以外にはあまり知られていなかった。那須川が敗北を喫したのは、その弟・拓真の方である。

「でも、今まで築いた地位みたいなのが汚されるじゃないけど、そういう危険性あるなって恐怖なかった?」

 東出が、率直に尋ねる。あいかわらず寝そべったままだ。

「僕、地位とかいらないんですよね。地位……ハハッ」

 この手の話になると、那須川はとことん無垢になる。

「地位とか数字とか、クソくらえと思ってますよね」。

 そして今度は、那須川が東出に尋ねる番だ。

「東出さんは、最終的に目的とか目標ってあるんですか?」

 那須川に限らず、アスリートたちは目的や目標のない人生など存在しないと思っているのかもしれない。だから東出の答えは、那須川にとって相当に意外だったはずだ。

「最終的には、火葬ではなく、なんかそこらで野垂れ死んで微生物に食われたいと思う」

「俺が生身で死ねば、俺の体っていろんな微生物が食ってくれるじゃん。その方が還元だなって思うから」

 岩魚釣りのシーンを思い出す。3人は岩魚の腹をナイフで開き、川の水にその内臓を流していた。あの岩魚の内臓もまた、誰かの命に還元されていくはずだ。食えるところは人間が食う。食えないところは別の命が食う。自分の命も、誰かが食うべきだ。筋は通っている。

「ある? 2人は」

 東出の逆質問に、那須川も瀬戸も周囲への感謝を述べた。そして那須川は「“こういう生き方もあるぜ”っていうのを提示していきたい」、瀬戸は「もう一回カッコいいところを見せたい」とも発言。2人とも「勝ちたい」とは言わなかった。焚火を前に、自分たちが勝ちたい理由と向き合っていた。 

 夜が明ける。もう雨は上がっている。朝日を浴びながらシャドーボクシングをする那須川を、カメラは静かに捉えていた。

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