TCLは「SQD-Mini LED」で何を変えるのか ブランド刷新と2026年度の日本戦略を読み解く

TCL JAPAN ELECTRONICSは5月14日、東京都内で2026年モデルのテレビとサウンドバーの新製品発表会を開催した。新世代ディスプレイ「SQD-Mini LED」を冠するフラッグシップの「98X11L」を頂点に、RGB-Mini LED、QD-Mini LED、量子ドット4K/2Kまで、計8シリーズ29モデルをそろえる。5月21日から順次発売する。
合わせて、新ブランドコピー「いちばん綺麗に、観てほしい。」を発表した。ブランドアンバサダーには俳優の山﨑賢人氏を起用する。国内テレビメーカーが訴求の軸としてきたピーク輝度や量子ドット、Mini LEDといった技術スペック中心の打ち出しを意識的に避け、映像体験そのものを伝えるメッセージへとかじを切った。
ブランドアンバサダーに山﨑賢人氏が就任

ラインナップの中核に据えるのが、新世代のディスプレイ技術「SQD-Mini LED」(スーパー量子ドット)だ。TCLはこれを、新世代の量子ドット技術「スーパー量子ドット」、改良したカラーフィルター「ウルトラカラーフィルター」、精密化したバックライト制御「Precise Dimming Series」の3つを組み合わせた技術と位置づけている。

量子ドットテレビは、数ナノメートルの半導体粒子(量子ドット)を青色のMini LEDで光らせ、純度の高い赤や緑を取り出して広い色域を作る仕組みだ。スーパー量子ドットは、この量子ドット材料そのものを新しく開発したもので、色再現の精度を従来比69%高めたとしている。

カラーフィルターも素材を従来の顔料インクから「キサンテン色素分子」に切り替えた。TCLの公開情報によれば、粒子サイズは従来の60ナノメートル前後から5ナノメートルレベルへと10分の1以下に細かくし、色域を33%広げたという。スーパー量子ドットと組み合わせることで、画面のどこを切り取っても広色域規格「BT.2020」を100%カバーする。BT.2020は、映画のマスタリングなどに使われる規格だ。
バックライト制御の「Precise Dimming Series」も進化させた。1ゾーンあたりの制御精度を高めて、明暗の表現を細かく作り分ける狙いだ。
3つの技術を組み合わせて、映像はどう変わるのか。発表会に登壇したTCL JAPAN ELECTRONICSの久保田篤氏(マーケティング戦略本部 本部長)は「実物に近い色で見られるテレビ」と表現する。赤はより深く真紅に、青はクリスタル感のある澄んだ色に、緑や黄色も濁りなく描き分ける。単色のシーンでもカラフルなシーンでも色が破綻せず、明部と暗部のコントラストも際立たせるという。発表会にゲストとして登壇した山﨑氏も「何を見ても綺麗。地球の自然の映像も夜景もすごかった」と感想を述べた。

フラッグシップの98V型「98X11L」(市場推定価格200万円前後)はピーク輝度1万ニトに達し、バックライトを約2万分割で制御する。一般的な液晶テレビのピーク輝度は1000〜2000ニト、有機ELも1500ニト前後にとどまる。1万ニトに達すれば、太陽光や夜景のネオンといった明るい部分の階調を白く飛ばさず描き分けられる。2万分割のバックライト制御は、暗いシーンに浮かぶ小さな光点を、周囲の黒を沈めたまま光らせる役割を担う。

X11Lに続くSQD-Mini LEDは「C8L」「C7L」の2シリーズだ。プレミアム帯のC8Lは55V型から98V型の5モデルで、市場推定価格26万円〜100万円前後。ハイグレード帯のC7Lは55V型から85V型の4モデルで、22万円〜44万円前後と、SQDの画質をより手の届く価格で届ける。

RGB-Mini LEDと量子ドット普及機を拡充
「RM7L」シリーズは、TCLが日本市場に初投入するRGB-Mini LED搭載モデルだ。バックライトのLEDを赤・緑・青の3原色で直接発光させる方式で、量子ドットを介さずに広い色域を実現できる。一方、RGBの3色を画面全体で精密に制御するのは難しく、色がにじむ「カラークロストーク」が課題となる。RM7Lでは超凝縮型のマイクロレンズで光を絞り込み、にじみを抑えた。SQD-Mini LEDが青色のMini LEDと量子ドットの組み合わせなのに対し、RM7LはRGB3色のLEDを直接配置する仕組みで、TCLは方式の異なる2つの広色域技術をラインナップで並走させる。65V型と75V型を用意し、価格は未定だが「かなり買いやすい価格になる」(久保田篤氏)見込みだ。

普及帯のQD-Mini LED「A400M」は55V型から98V型まで5サイズで、市場推定価格15万5000円〜60万円前後。倍速駆動の量子ドット4K「A400」シリーズと、エントリーの「T6D」「S5L」までを合わせ、32V型から98V型まで切れ目なくそろえた。エントリーの32V型「32S5L」は5万5000円前後、6月発売を予定する。

Bang & Olufsenと組んだ音響、Geminiでテレビが変わる
音響では、デンマークの音響ブランドBang & Olufsenと開発。厚さ2cmの薄型筐体にDSP処理を組み合わせ、空間表現を狙う。下位のRM7L、A400Mには日本のONKYOによる「Sound by ONKYO」を搭載する。
ソフトウェアでは、Google TVの新機能「Gemini for Google TV」への対応をA400以上のモデルで、2026年夏から順次提供する。テレビを使っていないときに画面へ絵画やパーソナル写真を映す「プライベートギャラリー」機能も組み合わせて使える。久保田氏は「日本国内ではTCLが最初に導入する」と説明した。

サウンドバー「A65K」も同時に発表した。3.1.2ch構成で最大出力300W、Dolby AtmosとDTS:Xに対応する。Bang & Olufsenとの共同開発によるチューニングを施した。市場推定価格は7万円前後、5月21日発売だ。

「グローバルブランドのまま、日本で勝つ」 西山副社長に聞いた現在地と未来
ブランドコピーの刷新と山﨑氏のアンバサダー起用の背景には、日本市場でTCLが置かれた位置がある。久保田氏によると、日本国内でのテレビの買い替えサイクルは12年まで伸びている。一度買えば10年以上使う商品で、消費者が次に売り場を訪れたとき、頭に浮かぶブランドでなければ候補にすら入らない。
加えてTCLは、これまで主力としてきた32V型や40V型の小型・低価格モデルから、65V型以上の大画面・高画質モデルへ販売の主軸を移していく。価格帯は20万円台から数百万円まで上がる。高額商品ほど、買い替えのタイミングで思い浮かべてもらえるかどうかが効く。一方、日本市場におけるTCLの認知拡大は、引き続き重要な課題となっている。
発表会後にTCL JAPAN ELECTRONICS副社長の西山隆信氏に個別インタビューし、話を聞いた。

ーー新ブランドコピーに至るまでにどんな議論があったのでしょうか
西山氏:SQDという商品は、有機ELとは異なる価値を持つ、新しい高画質体験を提案できるものだと考えている。ただ、それが知られていない。なぜ認知されないのかを読み解くと、各メーカーは輝度や規格といった技術的な数字を表に出している。我々もそれに倣えば同じ訴求になる。ただ、お客様に数字を見せても響かないのではないか、と。お客様に1番響く言葉は何だろう、と検討した結果、人間の目で見た状態のものをテレビでも見ていただきたい、というメッセージに行き着いた。
ーー一部の海外メーカーは、国内で定着した既存ブランドを活用して展開している。それでも本体ブランド「TCL」での認知獲得に日本市場で注力する理由とは?
西山氏:TCLは160以上の国と地域で事業を展開し、グループ売上規模約8兆円を誇るグローバルブランド。日本だけで通じるブランドを使うのではなく、TCLというブランド名のまま日本国内で認知を取りに行く。日本市場で信頼を獲得することは、グローバル戦略上も非常に重要なミッションだ。日本のお客様は品質や品格を非常に重視される。日本市場で評価されることは、グローバルでのブランド価値向上にもつながると考えている。
ーーラインナップ戦略についてはどのように捉えているのか?
西山氏:これまでは32V型や40V型といった小型機の販売ウェイトが大きすぎた。65V型以上の大画面・高画質商品を売っていく。SQDの3シリーズ、X11L、C8L、C7Lはきちっと推進していく。
ーーグローバルで売れているものをそのまま日本に持ち込む発想は取らず、独自のローカライズを施しているそうだが、具体的な内容とは?
西山氏:ありがちなのが、グローバルで売れているものを日本に持ってくれば売れるだろう、という思い込みだ。今回も、グローバルモデルをベースに、日本の放送コンテンツや視聴環境に合わせ、色味や階調表現を細かく調整した。専門の映像評論家に依頼し、丸1日かけて画質を作り込んだ。
ーー今後はテレビ以外の白物家電の展開については?
西山氏:テレビ1本足では難しい。エアコンをはじめとするテレビ以外のカテゴリーについても、日本市場に適した形で段階的に展開を強化していく。グローバルでは冷蔵庫、洗濯機も大規模に製販している。スマートフォンやタブレットもある。ただ、いかにローカライズするかが課題だ。一定のキャパシティが必要なので、本国と規模感を相談しながら、日本のお客様に納得いただける商品として展開していきたい。

技術スペックの数字を前面に出さず、映像体験そのものを語りかける。その上で、グローバルブランドのまま、日本で名前を覚えてもらう。TCLが2026年に切ったこのかじが、年末の売り場でどんな景色を見せるかが見どころだ。

以下【参考情報】
5月21日発売
- SQD-Mini LED TV 98X11L(98V型):市場推定価格200万円前後
- SQD-Mini LED TV 85X11L(85V型):130万円前後
- SQD-Mini LED TV 75X11L(75V型):90万円前後
- SQD-Mini LED TV 98C8L(98V型):100万円前後
- SQD-Mini LED TV 85C8L(85V型):60万円前後
- SQD-Mini LED TV 75C8L(75V型):45万円前後
- SQD-Mini LED TV 65C8L(65V型):35万円前後
- SQD-Mini LED TV 55C8L(55V型):26万円前後
- SQD-Mini LED TV 85C7L(85V型):44万円前後
- SQD-Mini LED TV 75C7L(75V型):33万円前後
- SQD-Mini LED TV 65C7L(65V型):26万円前後
- SQD-Mini LED TV 55C7L(55V型):22万円前後
- RGB-Mini LED TV 75RM7L(75V型):未定
- RGB-Mini LED TV 65RM7L(65V型):未定
- QD-Mini LED TV 98A400M(98V型):60万円前後
- QD-Mini LED TV 85A400M(85V型):35万円前後
- QD-Mini LED TV 75A400M(75V型):26万円前後
- QD-Mini LED TV 65A400M(65V型):20万円前後
- QD-Mini LED TV 55A400M(55V型):15万5000円前後
- 量子ドット4K-QLED TV(倍速)75A400(75V型):22万円前後
- 量子ドット4K-QLED TV(倍速)65A400(65V型):17万円前後
- 量子ドット4K-QLED TV(倍速)55A400(55V型):13万円前後
- 量子ドット4K-QLED TV 75T6D(75V型):16万円前後
- 量子ドット4K-QLED TV 65T6D(65V型):14万円前後
- 量子ドット4K-QLED TV 55T6D(55V型):12万円前後
- 量子ドット4K-QLED TV 50T6D(50V型):10万円前後
- 量子ドット4K-QLED TV 43T6D(43V型):9万円前後
- サウンドバー A65K:7万円前後6月発売
- 量子ドット2K-QLED TV 40S5L(40V型):6万5000円前後
- 量子ドット2K-QLED TV 32S5L(32V型):5万5000円前後※価格はすべて市場推定価格(税込)
























