NANAのテック・アルテミス 仕事に役立つBizテック観測所(第23回)
眼鏡の聖地・鯖江×AIで何が変わる? 「軽さ」と「自然さ」に振り切った国産AIスマートグラス『SABERA』の狙いとは
眼鏡の世界的産地である福井県鯖江市の技術と国内企業の知見を結集した、新たなスマートグラスが登場した。株式会社jig.jpが発表した『SABERA(サベラ)』だ。
2026年4月中旬に実施された製品発表会では、第1弾製品が披露され、実機を試すことができたほか、応援購入サービス「Makuake」で先行販売を実施することが発表された。本稿では、発表会で明かされた開発背景や特徴的な機能を紹介する。
『SABERA』 眼鏡の聖地「鯖江」と国内3社の強みを結集
まず前提として、「スマートグラス」とは何かを整理しておきたい。
「スマートグラス」とは、眼鏡型のデバイスにディスプレイやセンサー、AI機能を組み合わせ、視界の中に情報を重ねて表示するウェアラブル端末。スマートフォンのように手元の画面を見るのではなく、現実の風景を見ながら必要な情報へアクセスできる点が特徴だ。
AIの進化により、単に通知を表示するだけでなく、会話の文字起こしや翻訳、要約といった処理をリアルタイムで行い、その結果を視界上に提示する使い方が現実的になってきた。いわば「目の前の世界に情報が重なる」インターフェースとして注目を集めている。
『SABERA』が掲げるコンセプトは、「日常使いできるスマートグラス」だ。一般的なスマートグラスではカメラやスピーカーを搭載する例も多いが、本製品はあえてそれらを搭載せず、自然な見た目と約37gという軽量性を優先。情報表示は右目側の単眼ディスプレイで行う仕組みだ。
『SABERA』という名称は、眼鏡の聖地として知られる「鯖江(Sabae)」と、新たな「時代(Era)」を組み合わせた造語。
開発には、jig.jpのソフトウェア技術、ボストンクラブの眼鏡設計ノウハウ、そしてCellid(セリッド)の光学技術が投入。国内3社が連携し、企画から製造、販売までを一貫して手がける日本発のプロジェクトとして進められている。
プロジェクトのきっかけとなったのは、国内で独自の光学技術を持つCellidとjig.jpの出会いだった。当時、ARグラス市場はアメリカや中国メーカーを中心に拡大していた一方、日本国内では一般消費者向け製品を展開するメーカーはほとんど存在していなかったという。
そこで同社らは、「日本クオリティ」のスマートグラスを国内から発信するべく開発をスタート。眼鏡産地・鯖江の技術力も取り込みながら、製品化へとこぎ着けた。
『SABERA』の主な機能は以下となる。
◎リアルタイム文字起こし・AI要約:会話内容を視界にテキスト表示し、Google Geminiを活用した要約にも対応。◎テレプロンプター機能:プレゼン時などに、話すペースに合わせて原稿を自動スクロール表示。
◎翻訳・ナビゲーション:英語などのリアルタイム翻訳に加え、目的地までのルート案内も視界上に表示可能。
たとえば会話の場面では、発言内容がリアルタイムで表示されることで聞き逃しを防げるだけでなく、その場で要点まで整理されるため、内容の理解や意思決定がスムーズになる。外国語でのやり取りでも、翻訳結果が視界に重ねて表示されることで、会話の流れを止めずに内容を把握できる。
また、テレプロンプター機能を使えば、プレゼンテーションや撮影時でも視線を大きく動かさずに原稿を確認できるため、より自然な話し方が可能になる。ナビゲーションについても、スマートフォンを取り出すことなく進行方向を確認できるため、移動中の負担やストレスの軽減につながる。
こうした機能により、「情報を見るためにデバイスを操作する」という従来の使い方から、「現実の風景を見ながら必要な情報を自然に受け取る」という体験へと変わっていく。結果として、日常のさまざまなシーンで、よりスムーズに行動できるようになる、というのが『SABERA』の狙いだ。
既に応援購入サービス「Makuake」で先行販売を開始しており、6月末まで受け付ける。製品は7月以降、順次発送予定だ。
購入者には度付きレンズ対応の案内も個別に行われるという。初期ロットは約8,500台を予定しており、Makuakeでの先行販売終了後はEC販売へ移行。さらに年内には、眼鏡店や家電量販店などリアル店舗での展開も目指す。
また、介護や製造現場など法人向け需要も見据えており、今後はB2B分野への展開も進めていく方針だ。
視界にAIが重なる時代へ 「実用フェーズ」に入ったスマートグラス市場
スマートグラス市場は、いま急速に存在感を高めている。海外では、中国メーカーのRokidが日本市場への展開を進める一方、アメリカではMetaが勢いを伸ばしており、各社が次世代デバイスの主導権を握ろうと開発競争を加速させている。
その背景にあるのは、「スマートフォンを見続ける生活」からの変化だ。両手を使いながら、必要な情報に自然にアクセスできる新しいインターフェースとして、スマートグラスへの期待が高まっている。
さらに、AI技術の進化によって、視界の中に必要な情報をリアルタイムで提示し、ユーザーの意図に応じたサポートが可能になった。加えて、軽量化やバッテリー効率、光学技術の進歩により、装着感や見た目といった課題も改善されてきた。
これまで主に物流や製造、医療といった分野で活用されてきたスマートグラスだが、近年はナビゲーションや翻訳など日常用途に対応した一般向けモデルも増えている。それに伴い、「普段使いのデバイス」として、いかに自然に使えるかが重要になっている。
その点で、『SABERA』のようにデザインや軽さを重視し、「毎日かけられること」を前提に設計された製品は、今後の市場拡大とともに存在感を高めていく可能性がある。
世界的な流れの中で登場した『SABERA』。眼鏡産地・鯖江の名を冠した国産ブランドとして、今後の動向に注目だ。