AI動画生成を“みんなのもの”に OpenAIの撤退後、Googleが「無料」で仕掛ける意図を考える

Google Vids

OpenAIは撤退、Googleは開放へ 動画生成AI勢力図に変化

 2026年3月24日、OpenAIは動画生成AI「Sora」の提供終了を発表した。OpenAIは提供終了の理由をコーディングツールや企業向けサービスへの集中と説明しており、3年間・10億ドル規模と伝えられていたディズニーとの提携計画も、契約未成立のまま白紙になった。また、SoraチームはXに「Soraに別れを告げる」と投稿したが、ロイターによると、ディズニー側はその発表を「寝耳に水」として受け止めたという(ただし、両社は別の形での提携や投資の可能性について協議し⁠ているとも報じられている)。

 一方、OpenAIが動画生成から撤退する方針を打ち出した中、競合のGoogleは対照的な動きを見せた。4月2日、同社は公式ブログで、AI動画生成・編集スイート「Google Vids」に映像生成AI「Veo 3.1」と音楽生成AI「Lyria 3」を統合し、Veo 3.1による動画生成の個人Googleアカウントユーザーへの無料開放を発表。もともとGoogleのビジネス向けスイートとして提供されてきた同サービスが、今回初めて、個人のGoogleアカウントでも使用可能になった。

動画に必要なアニメーション・音楽も無料で 有料プランにはAIアバター機能も

 Veo 3.1は、テキストプロンプトや写真から動画クリップを生成するAIモデルで、これまでは主に有料プランのユーザー向けに提供されていた。今回の発表でこのモデルを使った動画生成が個人アカウントで月10本まで無料で可能になった。Googleの公式ブログが用途例として挙げているのは、アニメーションのイベントフライヤーや副業のプロモ動画、グリーティングカードなど、日常的なコンテンツ制作だ。Google AI Ultra/Workspace AI Ultraでは月最大1000本まで動画を生成できる。

Google Vids: Veo 3.1で動画を生成する

 また、有料プランのユーザーは、さらに高度な機能も使用できる。AIアバター機能(Google AI Pro/Ultra向け)では、一貫した顔と声を持つキャラクターを動画内に配置し、商品や小道具と組み合わせることが可能だ。同機能は服装・背景のカスタマイズにも対応し、チュートリアルやSNSコンテンツへの活用が想定されている。

Google動画:ダイレクトアバター

 

Google動画:カスタムアバター

 一方、音楽は「Lyria 3」と「Lyria 3 Pro」(同じくPro/Ultra向け)が担う。動画の雰囲気に合わせたオリジナルBGMを、30秒の短いクリップから3分のフルトラックまで生成できる。例えば、従来の動画制作ではBGMを付けたい場合、著作権フリーのBGM音源などを探す必要があった。しかし、音楽機能によりその手間が省ける。

Google Vids: Lyria 3でカスタム音楽を生成する

 このほか、新たなChrome拡張機能で画面録画・ウェブカメラ録画が1クリックで起動。完成した動画はYouTubeへ直接投稿でき、デフォルトは「非公開」のため公開前の確認も可能だ。これらは全ユーザーが無料で使用できる。

「無料で試す」ことが持つ意味

 ここで注目したいのは、これらの機能が「Googleアカウントひとつで使える」という点だ。AIによる動画生成サービスは、これまで有料プランを前提とするものがほとんどだった。新たに登録し、月額費用を払ってから使い始めるという流れが一般的で、興味はあっても有料プランを契約してまでやるほどではない、と感じる人は少なくなかった。

 今回の発表で変わるのは、そのハードルだ。Googleアカウントを持っていれば、新たな登録なしに今日から始められる。月10本という無料枠は多くはないが、「とりあえず試してみる」には十分な量だろう。心理的な敷居と金銭的なコストを同時に下げたことが、この施策の最も大きなポイントと言えるかもしれない。

 これはビジネスの観点で見れば、Googleの巧みな設計でもある。無料で使い始めた人が「もっと作りたい」と感じたとき、次のステップはGoogle AI ProやUltraへのアップグレードになる。動画も音楽もアバターもひとつの場所で制作に慣れるほど、その選択肢は自然と浮かんでくる。

 かつてクリエイティブ制作は、専門的なスキルを持つ人の領域だった。だがAIツールの進化によって、その入口は急速に広がっている。自分のアイデアさえあれば、動画を作り、音楽を付け、アバターを動かすことが誰にでも可能な時代がすでに到来している。そうした変化はプロのクリエイターに取って代わるものではなく、むしろクリエイティブを楽しむ機会がより多くの人に開かれたと言えるだろう。

 そう考えると、動画・音楽・アバターが同じプラットフォームで完結する時代に問われるのは、AIを「使いこなす力」だけではないかもしれない。むしろ、このツールを使って「そもそも自分は何をやりたいのかを考える力」こそが、ユーザー一人ひとりに求められるようになるのではないか。今回のGoogleの施策は、そのことを強く印象付ける。

参考:
https://blog.google/products-and-platforms/products/workspace/google-vids-updates-lyria-veo/
https://jp.reuters.com/world/us/NVE67256JZI5XGEETEHSP62FLY-2026-03-24/

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