東京真中×TAKU INOUE対談 夜が似合う二人のプロデューサーが語り合う“ボカロとクラブミュージックの接点”

 ドワンゴが主催し、数多くのボカロPが参加するVOCALOIDの祭典『The VOCALOID Collection』(以下、ボカコレ)。前回開催された『ボカコレ2025夏』でYamaha Sound Crossing Shibuya賞を受賞、ルーキーランキングにて3位を記録した「ドゥーマー」を手がけ、直近の『ボカコレ2026冬』でも「ブレインロット」が総合TOP100の2位にランクインしたのが、気鋭の若手ボカロP・東京真中だ。

 そしてそんな彼の才能に早くから注目していたのが、『アイドルマスター』や『鉄拳』などのサウンドクリエイターを経て、AdoやEve、anoなどにも楽曲提供を行い、直近ではメジャーレーベルでのソロ作リリースや、ホロライブの星街すいせいとのプロジェクト「Midnight Grand Orchestra」など精力的に活動するTAKU INOUE。彼がとあるメディアのプレイリストで東京真中の「ハイパーメルト」をピックアップしたことを機に、リアルサウンドテックでは両者の対談を企画した。

 世代や界隈は違う二人だが、実は近しかった音楽ルーツの話や、東京真中のプレイリストを起点に語り合う「クラブミュージック×ボカロ」の現在地、そしてクリエイターとしての今後について、たっぷりと話を聞いた。(編集部)

TAKU INOUEが東京真中の楽曲に惹かれた理由

ーーまずは、TAKUさんが東京真中さんの楽曲に出会った経緯と、その時の印象からお聞かせいただけますか。

TAKU: Spotifyのおすすめ機能で「ハイパーメルト」が流れてきたんですけど、聴いた瞬間に「めちゃくちゃ良い曲だな」と思って即座にプレイリストに入れました。湿度が高めでメロディも良いギターロックとして、自分のなかでもかなり好みの曲だったんです。

TAKU INOUEのプレイリスト

東京真中:ほんとですか……! TAKUさんは私にとって憧れの人すぎて、今の感想を聞けただけで泣きそうになってしまっています(笑)。

TAKU:ちなみに、僕がプレイリストに入れたことは、どのタイミングで知ったんですか?

東京真中:プレイリストに入れていただいてから2〜3カ月後くらいですね。ボカロP仲間から、「TAKUさんの記事に東京真中の曲が入ってるよ!」と連絡をもらって。「そんなことあるの!?」と驚愕しました。

 最初はなぜ選んでいただけたのか不思議だったんですが、Midnight Grand Orchestraの「Highway」や、TAKUさんの最近のソロワークスを聴き込むと、マスロックやミッドウェスト・エモといったジャンルもお好きなのかなと感じる部分がありました。私自身、海外のバンドであるAmerican Footballや、エモ・リバイバルと呼ばれるTTNG(This Town Needs Guns)、Algernon Cadwallader、Into It. Over It.などが大好きで、「ハイパーメルト」は、そうした自分の好きなバンドサウンドをJ-POPとしてどう昇華するかを考えて作った楽曲だったので、そこがTAKUさんの琴線に触れたのかもしれないと勝手に解釈して喜んでいました。

東京真中

ーー東京真中さんは、もともとバンド活動からキャリアをスタートされたのでしょうか?

東京真中: そうです。ギターを始めて、バンドを組んで、という流れですね。

ーー東京真中さんのこれまでの発表曲を拝見すると、驚くほどジャンルが多岐にわたっていますよね。曲の雰囲気などもいい意味で「ボカロPっぽくない」手つきを感じます。先ほど挙げたエモやマスロック以外には、どういった音楽的ルーツをお持ちなのでしょうか。

東京真中: ハウスやエレクトロニカはずっと聴いていますが、最近だとK-POPも聴きますし、ルーツを辿るとインディ・ポップ、ファンク、90年代のハードコアやゴスペル、ポップパンクなども好きです。フューチャーポップと呼ばれる、Plus-Tech Squeeze Boxのようなガチャガチャしたサウンドも好きですし、ポスト・クラシカルのようなアンビエント寄りのものや、激しいハードコアも通ってきました。

 ただ、その中でも一番自分のルーツになっているのはBon Iverあたりのインディー・フォークですね。アコースティックギターなどの生音と電子音を絶妙なバランスで組み合わせた、ある種の発明的な音楽に強く惹かれました。ジャンルは違いますが、TAKUさんの音楽にもそういった「発明」のような要素をすごく感じていて大好きなんです。

TAKU:ありがとうございます。バキバキしたエレクトロニカとはまた違う、アナログ感のある温かいエレクトロニカは僕も大好きです。I Am Robot And Proudとか、めちゃくちゃ聴いてましたから。

東京真中「ドゥーマー feat. 重音テト」

ーー前回のボカコレでランキング上位に入った「ドゥーマー」についてもお伺いしたいです。TAKUさんはこの楽曲を聴いてどのような感想を持たれましたか?

TAKU: 中毒性がすごいですよね。ドロップと呼んでいいのかわかりませんが、メインのリードの音色などがすごく気持ちよくて、最高でした。ああいうテンション感で中毒性を演出するのは実は結構難しいことだと思っています。「こういうのは自分では作れないな、めちゃくちゃ良いな」と聴き入ってました。

東京真中: 光栄です。本当に身に余るお言葉です。

ーー「ドゥーマー」は東京真中さんにとって初めてボカコレ上位に入った楽曲になります。過去のエントリー曲も含め、どのようなトライ&エラーを経てこの曲が生まれたのでしょうか。また、制作にあたってのリファレンスや意識した点はありますか?

東京真中:そもそも「ドゥーマー」はボカコレに向けて作った曲ではなかったんです。たまたま時期が重なったので出してみようくらいのテンションでした。作った時の意識としては、歌詞や歌メロで日本的な広がりを意識しつつ、サウンドに関しては完全に海外重視で作りました。作曲の部分でポピュラリティを担保しつつ、自分の好きなサウンドやオリジナリティを組み合わせていったらどうなるか、という実験的な楽曲でしたね。

ーーなるほど。海外的なサウンドという点では、具体的にどういったものをリファレンスにされたんですか?

東京真中:「ドゥーマー」に関してはK-POPの影響が強いです。NewJeansのように、いわゆるダンスミュージックまで振り切っていなくて、少しキュートな部分もありつつ、音像はスタイリッシュでベースはファンキー、というバランスがすごく好きで参考にしました。

TAKU: K-POPの要素はすごく感じました。あの辺りの特徴的な音作りの感じを、とても上手く取り入れているなと思いましたね。

東京真中: 恐縮です。あとは、本当に「狙ってる」と思われるのも恥ずかしいのですが、TikTokなどをひたすら見て研究し、使われている効果音やその広がりを意識して、楽曲にSE(効果音)を足したりもしました。アレンジメントの段階で、おそらく琴線に触れるだろうなという要素を研究して、いい意味での“違和感”を感じられるように意識的に追加しています。

TAKU:それはめちゃくちゃ大事なことですよね。元々が良い曲であることが大前提ですが、その上でどれだけ耳を引くか、フックを作るかというのは重要だから。

ーーお二人の「ダンスミュージック」のルーツについて、もう少し深掘りさせてください。ダンスミュージックと一口に言ってもサブジャンルは多岐にわたりますが、特に強く影響を受けたジャンルや変遷などはありますか?

TAKU:僕は最初にドラムンベースと出会ったのが大きいですね。中学生くらいの時にLUNA SEAが大好きで、SUGIZOさんがおすすめしていたBjorkのリミックスアルバムを買ったんですが、そこにドラムンベースのリミックスが入っていて……すごく衝撃を受けました。多分、ビートの速さや勢いがどこかロック的で入りやすかったのもあるんだと思います。そこからサンプリングミュージックのいびつな感じが好きになり、ヒップホップなどを経ていく感じでした。

東京真中:ロック的なビートとドラムンベース的なビートは確かに近しいところがありますよね。TAKUさんの特徴の一つとして、少し歪みのかかったドラムサウンドやドラムフィルがあると思うのですが、あれはドラムンベースやジャングル、ブレイクコア的なルーツから来ているのでしょうか?

TAKU:ドラムフィルを多用するのには明確なリファレンスがあって、ボビー・タンクというフューチャーベースのはしりみたいなアーティストの影響ですね。2010年代半ばに彼がやっていたドラムフィルの使い方がめちゃくちゃカッコよくて、「自分の曲でもやってみよう」と思ったのがきっかけです。

 ただ、音を歪ませている感じはロック由来かもしれません。MO'SOME TONEBENDERという日本のバンドが好きで、彼らの初期のアルバムは「全部フェーダーを上げきった」みたいな歪んだ音がするんです。ギターボーカルの百々(和宏)さんにお会いしたときにその話をしたら、「あれはエンジニアが酔っ払って全部上げたんよ〜」って冗談で言ってたんですけど(笑)。その音が自分に染み付いていて、クラブミュージック的な文脈の中でもあの「気持ちいい歪み」を再現したくてやっています。

東京真中:なるほど、勉強になります。TAKUさんはいわゆるフューチャーベースやフューチャーファンク、四つ打ちダンスミュージックのイメージも強いですが、そのあたりはいかがですか?

TAKU:ドラムンベースから入ったので、最初は四つ打ちがあまり好きじゃなかったんです。でも、Underworldの「Push Upstairs」という曲のピアノリフを聴いて「超かっけえ」となって。その後、大学生くらいの時期にフレンチ・エレクトロが爆発的に流行ったんです。JusticeやDaft Punk、Kitsuné(キツネ)レーベルのあたりですね。その影響でやっと四つ打ちが体に入ってきた感じです。

なぜTAKU INOUEと東京真中には“夜が似合う“楽曲が多いのか

TAKU INOUE

ーーお二人の共通項として「夜が似合う」楽曲が多い印象もあります。制作の際に、そういった雰囲気や音色はどの程度意識されているのでしょうか。

TAKU:僕は逆で、自分が「気持ちいいな」と思う感じを作り上げたら、結果的に夜っぽくなってしまったということが多いですね。最初から「夜の曲を書こう」とするよりは、好みの音が凝縮された結果、そうなっている感じです。東京真中くんは結構計算して作っていそうな感じがしますが、どうですか?

東京真中:私は曲を書く時、一番最初にテーマと舞台、そして物語を考えて、そこに登場する主人公の気持ちを歌にする、という作り方をしています。その設定が「夜」であることが多いから、勝手に夜っぽくなっているんだと思います。夜のほうがエモいですし、自分自身が夜に音楽を聴いて救われてきた経験もあるので。

TAKU:面白い作り方ですね。それはいつ頃から?

東京真中:「東京真中」名義を始めた段階からですし、BUMP OF CHICKENの影響もあると思います。バンドをやっていた頃は自分の魂やリアルなことを歌うことが多くて、ハッピーだと曲が書けなくなるというジレンマがあったんです。不幸であればあるほど熱量が生まれる、みたいな……。それが辛くなってきて、物語を作ってその主人公に歌わせるほうが気が楽だし、健全に創作できるなと思って切り替えました。

【Official MV】ray 超かぐや姫!Version / かぐや (cv.夏吉ゆうこ)、月見ヤチヨ (cv.早見沙織) from #超かぐや姫 !

ーーBUMP OF CHICKENの話題が出ましたが、TAKUさんは直近のワークスで映画『超かぐや姫!』のエンディングテーマとして、BUMP OF CHICKENの「ray」をリアレンジされましたよね。ボカロ文化とも密接に関わりがある同楽曲を手掛ける際、どのようなことを意識されましたか?

TAKU:かなり考えることが多かったです。BUMPチームから「ray」をリミックスしてほしいと相談をいただいた時は「えっ⁉︎ 俺⁉︎」と思いました。BUMPファンからの思い入れも強い曲ですし、初音ミクファンからしても、当時メインストリームのバンドが初音ミクとコラボしたという衝撃的な出来事だったので、双方からの思い入れが非常に強いですから。

 ただ、作品の脚本もすごく良かったので、お受けすることにしました。「何をやっても何か言われるだろうけど、なるべくがっかりする人を増やしたくない」というのが第一にあって。めちゃくちゃにリミックスするのではなく、原曲に忠実に、サウンドの質感は映画に合わせて、かつ歌唱される声優さんたちのキーに最適化してアレンジしました。

ーーこの楽曲もそうですが、2025年のTAKU INOUEワークスを聴いていると、これまでと比べて音と歌の距離感や、歌の立たせ方への意識が変わってきているような気がします。

TAKU:そうですね。クラブミュージック云々を最近あまり意識していないというのもありますし、ゲーム会社を辞めてからは歌モノを作ることがほとんどなので、年々「歌をちゃんと立たせよう」と思っているかもしれません。自分の中で「これをやればイノタク」みたいな確固たるものがあるわけではないので、毎回「次は何をやろうかな」と路頭に迷いながら作っているんです。

東京真中:リスナーとしては「この音を聴けばTAKUさんだ」と分かるサウンドなんですけどね。最近の楽曲ジャンルが変わってもやっぱり「TAKUさんだ」となる展開があって、ボカロP仲間とも「やっぱこれだよな!」と盛り上がっています。

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