堀江晶太が有識者と語り尽くす、VR空間と音楽の交差によって生まれる“化学反応”
身体性、“最高の音”でのパフォーマンス……VR空間と音楽の交差がもたらすもの

——ちょうどEMNジャムのお話も出たのでお聞きしたいのですが、特にジャズなどは目線や身振りで合わせることが多いジャンルだと思っていて。その辺りの、セッションにおける「VRならでは」の要素や違いについても、皆さんからお聞きしたいです。
Emnyeca:やっぱり、アバターがあると全然違いますね。特にジャズというジャンルはその時のアドリブが多く、ある種の身体性を伴う音楽なので、隣に人がいる存在感だけでも弾く音や演奏の仕方が変わってきますし、ワールドの雰囲気やその場の空気感によって選曲すら左右されるところがあります。
演奏に関していえば、それこそ挙げていただいた目線や身振りがフルボディトラッキングの方だと、自分のパートが終わったタイミングで「じゃあ、次ソロお願いね」といった形でアイコンタクトで回すことだってできますし、曲のアウトロなどを指や腕の動きで判断することもあります。
あとはちょっと面白いところでいうと、少し前にやったEMNジャムに参加された方がステージに上がられたとき、「何の楽器かな」と思っていたら見るからに構えがトランペットで(笑)。演奏を始める前にみんなの準備状況を確認しようと思ったらマウスピースを温めている動きが見えたので、ルバート(フリーテンポ)でゆっくり始めて、大丈夫そうになったらインテンポに変えて……といったこともしていました。そういう、ニッチだけど楽器をやっている人にはわかる細かな動作があるだけで、演奏の体験は全然変わってきますね。
——面白いですね。確かに、背筋を伸ばして両腕を前に構えているだけで「あ、トランペットだ」ってわかりますもんね(笑)。堀江さんはいかがでしょうか?
堀江:音楽ジャンル的にはバンドサウンド、特にロックが多いのですが、それでもステージ上での目配せとかお互いの抑揚とか息遣いとか、そういう部分から得られる情報はありますね。
ただ、僕の場合はどちらかといえば先ほど言ったような「家で作ってる最高の音」でパフォーマンスできることの喜びを追求しているところがありまして(笑)。オンライン上でセッションをするとき、自分で演奏もしつつ、他の人の音も自分のPCに取り込んで、ミックスしながらライブをやる、みたいなこともやっているんですね。
くわえて、自分自身も曲、あるいはステージに立っている間に色んな楽器を弾いて、音色も切り替えて、シンセサイザーも使って……とやっているので、3枚あるモニターが色んな設定画面で埋まっているんですよ。なので、基本的にはデスクトップモードで『VRChat』に入っていて、視覚情報で得られることは少なかったりしますね。
——もともとVR酔いしやすい体質ですもんね。
堀江:そうなんですよ。でも、その音を当てにして一緒に弾いている人や聴いている人に伝える感覚がすごく面白くて。
——というか、忙しさでいったら、リアルでの演奏より忙しいんじゃないですか……?
堀江:はい、圧倒的に(笑)。バンドで弾くときは、知っている曲だし、頭の中に入っているから、ステージで暴れ回っていられるので、そういう側面では楽ですね。色んなことをやりながら、自分のベストな音を追求する、ライブとDTMのミクスチャーというか、ちょうどはざまにあるようなパフォーマンスをやれる場所というのが、個人的に感じている醍醐味です。
——作曲やアレンジも手がける堀江さんならではの楽しみ方ですね。バンド全体の出音自体を自分の家で聴いている最高の音に近づける、という意味では、究極の理想型なのかもしれません。
堀江:もちろん、PAとしてオペ卓を担当してくれる方がいることもあるので、そういう方の力も借りながらやっていますけどね。
あとは、VRChatはワールドの音響も作り方で全く変わってくるので、音の鳴り方やスピーカーが向いている方向を調整したり、逆にミキシングを調整したりという、音に関する1から10までを全部自分でやりながら、しかもそれをライブでできる。これはリアルではなかなかできないことなので、その喜びはすごくありますね。
——しかも、目の前にお客さんがいることは、やっぱり特別ですもんね。
堀江:良い意味での緊張感がありますよね。SYNCROOMのセッションは、参加している人たちの間で楽しむものでしたが、それをさらにオーディエンスとして見てくれる人がいるというのは、新しい次元です。演奏している側の熱量や高揚感を伝えなければいけないですし、やるべきこと、できることが沢山あるなと思いますし、それを模索している時間すらも楽しいです。
——こういった身体性について、ヤマハさんはどう受け止めますか? たとえばこの鼎談を受けて何か新しい機能を実装したり、ということはあり得るのでしょうか。
原:それでいうと、やはりSYNCROOMは「音」に徹しているところがあって。ユーザーによっては映像を出したくない、という人たちもいますし、反対にレッスンとかで使う人たちは顔が見えたら喜ぶかもしれません。ただそういった中で、我々としては他のツールも上手く併用して、使い分けていただくのが一番ベストだと考えているところはあります。
VRの身体性に関していえば、やっぱり得られる情報量がものすごく多いというのはお二人がおっしゃっていただいた通りだと思います。カメラの映像で顔が見えていても「私を見ている」という感覚はなかなか得づらい。でも、VRではそれをちゃんと共有できている感覚がありますし、身体性によって表現の幅が広がっていて、視覚や体験を束ねた総合芸術といった観点でも、すごく可能性があると思います。
ただ、やはり私たちがそれらの要素を全て取り込もうとしてもすごく難しいし、逆に制約になりかねないとも感じています。なので、うまくそういう要素と協調できる別のツールやシステムがある方が良いのかなと、個人的には思うところですね。
——SYNCROOMとしては音を繋ぐ役割に徹しつつ、何か別の形で、ということでしょうか。
原:そうですね。「SYNCROOMだから」というよりは、ヤマハとして何か総合的なサポートができないか、という風に、広い観点で考えていけるといいんじゃないかと考えています。
——せっかくなので、何か直近で注目の技術があればぜひご紹介をお願いしてもいいですか?
千々和:それでしたら、音響事業本部で力を入れている「Sound xR」という技術を紹介させてください。こちらは「全ての人に没入体験を」を掲げた、立体音響ソリューションです。なかでもイヤホン/ヘッドホン向けの「Sound xR Core」は、Cygamesさんの『グランブルーファンタジー リリンク』や、コナミデジタルエンタテインメントさんの『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』など、人気のゲームタイトルでも採用いただいていまして、よりゲームやシーンへの没入感を高める演出を担っております。
XRを含む今後の展開については、まだ明言できませんが、やはり音だけでなく、五感全てで没入するような体験機会をお届けしたいと思っております。弊社だけでなく、様々なクリエイターの方々や企業様と一緒に取り組んで、ワクワクする世界を作っていきたいと思っております。
めまぐるしい技術進歩を遂げる時代に考える、10年後の未来
——ありがとうございます。それでは最後に、10年後の音楽体験やVR活用といったテーマで、皆さんに未来予測、あるいは期待することについてお伺いして締めたいと思います。では、Emnyecaさんからお願いできますか?
Emnyeca:そうですねえ……10年後というと、だいぶ未来の話になりますから、想像するのも結構大変ですね(笑)。ただ、間違いなく技術は前に進んでいくと思うので、たとえばトラッキング技術が今よりもさらに進化したり、視覚的なやり取りが発展したりすれば、きっとバーチャルでのジャムセッション体験というのは、よりよい方向に向かっていくでしょうね。
くわえて、バーチャルでのセッションというもの自体の、社会的な文脈のなかでの立ち位置。これはまだまだ未知の可能性があると考えています。というのも、今のクリエイティブやプロダクションにすらどんどん新しい技術、特に今でいえばAIが浸透してきていますよね。きっとこの先、制作の現場には様々な変革が訪れるんだと思います。そうなってくると、こうした身体性を伴うセッションの「演奏する喜び」みたいなものが、AIが浸透した制作現場とのコントラストで重要視されていくんじゃないか、と考えています。
そういった、演奏する喜びと、それを得られる場。そこに繋がるような道筋を、EMN Recordsとして作れているのであれば、嬉しい限りですね。
堀江:僕も、このVRChatやバーチャルにおける音楽シーンが、10年の中でさらに色んな人に知られていって、もっともっと賑わっていくといいな、と考えています。そして、このバーチャルと音楽のシーンは、きっとこの先メインストリームの1個になっていくと思います。
それは、すでにそれだけの熱量がユーザーの間にあるからで。ただ一方で、人が増えて賑わったときに、変に商業主義的にならないでほしいな、という願いも、いちユーザーとしては思う所ですね(笑)。
もちろん、人が増えればそれだけクリエイターのチャンスは広がるし、大きくなっていくこと自体は素晴らしいことなので、VRChatを活用したマーケティングについて否定的な訳ではありません。ただ、自分が今楽しんでいるこの音楽を通じて遊べる楽しい場所が、10年後も残っていてくれたら嬉しいな、と思っているところがあって。なので、今のシーンに存在する熱量が、良い形で残ったまま広がっていってくれたらいいな、という期待を込めておきます。
——お二人ともありがとうございます。ヤマハさんの場合は、逆にこの音楽体験を作っていく側の立場かと思いますが、いかがでしょうか?
原:これは私個人としての意見にもなってしまうのですが、すごく難しいですね、10年後って(笑)。私の領域でいえば、エンジニアの世界ですらこの2~3年でめまぐるしく変わっていて。特にAIを使ってプログラムを書く、ということが5年前には想像もしていなかったのに今では当たり前になっていますから。ですから、きっとこの先の10年の間に音楽系のツールや世界も2~3周ぐらい回るレベルで変わっていくのではないでしょうか。
ただ、その中でも音楽をやることで感じる最初のインプレッションとか、体験みたいなものは本質的な価値を持っていますし、ある種楽器を演奏することの「不便さ」や「手間」こそが音楽を楽しむことに繋がっているのかなと。
もちろん、その「楽しみ」という定義も人によって変わるものなので、色んな人たちがいる中で、そこにうまくフィットしていけるもの……それがツールなのか、楽器なのか、あるいはSYNCROOMが進化したものなのかはわかりませんが、そんな世界を作っていけるといいなと思います。






















