ペン先から生み出される“世界”で音楽を奏でる——堀江晶太×クミン100gが語り合う、ライブステージの作り方
連載「堀江晶太が見通す『VRChat』の世界」第3回(後編)
普段は音楽家として活動しながら、VRの世界では“ひとりのユーザー”としてこの世界を楽しんでいるという堀江晶太。本連載では、堀江の『VRChat』愛、そこで体験したさまざまな出来事、リスペクトする「注目のクリエイター」などについて語っていく。
第3回となる今回は、『VRChat』を拠点に活動するバンド・OFFICE DESTRUCTION GIRLで、アートワークを手がけるクミン100gとの対談をお届け。後編では、『VRChat』とクリエイターへの報酬など、クリエイティブに携わる二人の考えをさらに掘り下げていった。(編集部)
「面白いからやってみた」が生み出す創造の熱量
――前編で堀江さんが語られていた「元々お仕事としてやっていたこと」を、好きだから「『VRChat』でやっている」という話の続きになりますが、お金はもらえなくてもいいから、とにかく接客がしたいから、でキャストを志す方は結構多いですよね。
堀江晶太:それでいうと少し話がズレるかもしれませんが、「同人だから/インディーズだから無償でいいだろう」って言い続けるのはいかがなものか、っていう問題は昔から根強くある話ですよね。僕自身、インターネットもそうですけど、ライブハウスでもその空気感で、モチベーションありきで動いているのを見るたびに、思うところがあります。
でも同時に、お金や条件面の話より先に、「面白いからやってみた」というマインドそのものは、人となにかを作る時に忘れてはいけない感覚だなとも思っていて。それも昔から好きなんです。そして、『VRChat』はそうした「面白いからやってみた」が最初にくるものづくりがたくさん生まれています。
実際、面白いことをしている人に話を聞くと、いろいろな“前提条件をすっ飛ばした高エネルギー”で突っ走っている人が多いんですよね。OFFICE DESTRUCTION GIRLにも、同じエネルギーを感じています。
――実際、仕事として、報酬をもらって取り組むと、コストも考えないといけなくなり、クリエイティブにとってはある種の枷になることもありますよね。制約から生まれるものもありますが、「お金ありきでやらない」ことから生まれる良さがあると。
堀江晶太:ライブハウスの若い子ともよく話しますが、無理はしないでほしいけど、みんなもっと「やりたいからやる」という考えでやってみてもいいんじゃない? とは思っちゃいますね。
もちろん、飯を食うために必要な部分もあり、尊重し合うためにお金や条件をしっかり決めておくことも大事です。けれども、それらだけでは生み出せない瞬間の面白さもあるんだぜ、ということは、しつこく言い続けていきたいですね。僕自身も、お仕事として引き受けて制作するものもありつつ、個人としてやりたいと思ったものは、今でも無償で作って、「これ、よかったら使ってください」って渡しちゃうことがありますから……(笑)。
それから、若い人、今からクリエイティブに取り組む人は、ものづくりに費やせるお金も、引き受けられるお仕事がさほど多くはないこともあるでしょう。そういう人ほど、向いてる方向が一致しているなら、いろいろな前提をすっ飛ばしてたくさんものづくりして、カタログをたくさん持ったほうがいいのかな、と思います。僕自身もそうやって取り組んでいましたから。もちろん、あまりにその姿勢で突っ走ると「いつもタダなんだから、今回もタダでいいよね」と言われかねないので、一緒くたにしちゃいけないですけどね。
――「報酬は後からついてくる」という考え方も、たしかにありますよね。
堀江晶太:そうした話も踏まえた上で『VRChat』を見ると、「波長が合う」ことをトリガーにお話ができる場所でもあるので、コミュニケーションの中で合致するとこがあったら、なんでもやってみたらいいじゃんって思いますね。「面白いから」「好きだから」「感動したから」というエネルギーが凝縮した場所ですから。
クミン100g:自分も、OFFICE DESTRUCTION GIRLとして熱量や勢いが先行して作ったものがあるので、わかります。
バンドの初めてのライブのとき、入場制限であふれてしまった人たちのために、「詫びのライブ」をしようという話があったんです。
――もしかして、それが「詫びガ」ですか。
クミン100g:そうなんですよ(笑)。最初は、メンバーで話し合って、普通に小さなワールドを一個作って、そこでいつでも歌えるようにしようか、くらいに考えていたんですが、せっかくなら「会場を全部手描きしよう」というアイデアが出てきたんです。
それこそ、先ほどあった、「QvPenで描いたものをワールドにしたい」って欲求が結びついて。
――あのワールドですか! 空間はもちろん、マイクケーブルなどの小物もペンで描かれていますよね。
クミン100g: この時も含めてですが、じつはワールド制作時にはQvPenではなく、VRペイントツールの『OpenBrush』を使っています。真っさらな状態から、世界を一つずつ描いていくという点では、自分がQvPenでやっていたこととだいたい同じですが。
堀江晶太:「詫びガ」は、OFFICE DESTRUCTION GIRLがバンドとして本格的にやっていくのだなと、すごく実感させられた日でしたね。メンバーはもちろん、来場者も70人くらいいて、会場が満杯になるくらいの熱量があった。
そして、そこにいる人たちが、しっかりその熱量を認識していた日だったなと思うんです。リアルのアーティストやバンドでもやっぱり、そういう日があるんですよね。結成日とはまた別の、本当の意味で“生まれた日”が。
クミン100g:確かに。なにかが噛み合った日だったかもしれませんね。
堀江晶太:そういう日が、生身のステージ上じゃなくても、こんなにしっかり生まれるんだって、見ていてすごく嬉しく思ったのも覚えてますね。ライブハウスだけでなく、バーチャル空間上でも“生まれる”んだって。
「VRChatへのログイン」が生み出す、内省的なクリエイティブ
――ライブ中の写真を見ていても感じますが、OFFICE DESTRUCTION GIRLからはすごくクールな雰囲気がただよっていて、それも魅力ですよね。この雰囲気を生み出す源泉についても、ぜひ教えてください。
クミン100g:無意識ですが、演者が映えるような光を差し込むように考えていますね。ワールド全体で見ると、色味は統一して、観客が自然とメンバーに目が行くように視線誘導設計はしつつ、周りに当たる光によってもうちょっと色味が見えるようにはしています。
そして、他の似たようなワールドでも、やはりライティングや居心地の良さを大事にされているのかなと思います。このあたりは、ワールド巡りをしているうちに自然と溜まっていった知識でやっていたのかなとは思ってますね。光が差し込んでいるような表現が、音楽を聞いていてすごく落ち着けるなと、無意識のうちに考えていたのかもしれません。意識的な部分でいうと、そのためにボワっと埃みたいに舞うようなエフェクトのブラシを取り入れています。
――スモークのような表現や、フォグと光の演出って、リアルだと特別な場所じゃないと見られないものでもありますよね。
クミン100g:実際、自分はワールド制作において光とフォグの表現や使い方をすごく大事にしていますね。言いたいこと、見せたいところには、絶対に使っています。
堀江晶太:こうした雰囲気に対して魅力に感じる理由を考えていたのですが、まず一つは、メタバースという新しいもの、どこかSFチックなものにピンとくる人がたくさん入ってきやすい環境が影響していると思います。もともと無機質なものや、未来的なものが好きな人たちが集まるから、ものづくりの方向性もそういうものが多くなっているのかなと。
もう一つは、リアルで外に出かけることと、VRChatへログインすることとで、感覚が似ているようで違うことが影響しているように思います。リアルにおける外出は、基本的に屋外、すなわち「明るいところ」に出かけていきます。けれども、VRChatへのログインは「内なる宇宙」に潜っていく感覚が、なんとなくあるんですよね。
様々な『VRChat』のものづくりを見ていても、リアルの表現・発信が明るい場所、多くの人に向けたものに寄るのに対し、メタバースはより内省的な、自分自身が内側に有していた“得体のしれない感覚”を見つけに行くようにものづくりをしている人が多いのではないかと。そして、受け取る人も、同じ感覚を宿しているんじゃないかなと思います。
実際、『VRChat』にいる人はみんな自分の家にいるから、それぞれの“孤独”を持ち寄った上でなかよく遊んでいる感覚があるんですよね。それによく似合う風景が、自ずと“白い感じ”になるのかもしれません。明るいところには影があり、儚く弱いものが視界のどこかに映る、そういう表現がマッチする空気感があります。
――確かに、『VRChat』で時間を過ごしていると、外部から与えられて選ぶのではなく、自分から探しに行って、「あ、自分ってこれが好きなんだ」って気づく瞬間はあります。これがまさにその感覚なのかもしれません。
堀江晶太:リアルで一度諦めたことを、VRChatで長く暮らすといつの間にか身近に纏っている人もいますからね。無意識に求めていたもの、知ってみたかったものを、もしかしたらもう一度見つけられるかも。そういう思いでものづくりが生まれていくことも多い場だと思いますね。
――実際、VRChatって「なにかを作っている人」が圧倒的に多い環境ですよね。
堀江晶太:何者か分からない状態でスタートすることが圧倒的に多いことも影響していそうです。リアルでは、ある程度は所属も実績もわかっていて、「なにかしている人」「なにもない人」が示されやすく、それありきのマッチングが起こりがちです。でも本当は、何者であるかなんて抜きに、「面白いからやりたい」の方がなにかが生まれやすいと思います。
実際自分も、VRChatで付き合いの長いフレンドとは、僕がこういう仕事をしていることを知っている人もいれば、未だに知らない人もいる。そして、「知ったけど、いまさらなんだい?」と思ってくれる人も全然いるはずなんですよ。
こういう環境になって取り払われるハードルがあるはずで、だからこそ自分の可能性に見切りをつけてしまった人ほど、VRChatで一度なにかやってみてほしいんですよね。自分自身は見切りをつけたけど、世界はそうではなかったケースって意外とあるし、新しい名前でやってみれば、思いもしない形で評価してくれる人がいるはずです。それこそ、昔バンドをやっていて、いま音を鳴らしたいと思った人は、ぜひ遊びにきてほしいです。
誰かが創ったものを受け止める、感動する、また創る “オデガ式制作プロセス”
――OFFICE DESTRUCTION GIRLの制作手法やプロセスについて深堀りさせてください。例えば、「梔子」のMV制作や、ライブ会場ワールドの制作のときは、どのように進行していったのでしょう?
堀江晶太:HONNWAKA88さんは「びっくりするぐらい制作時に何も話してない」と言っていましたね。僕が仕事で制作する際にあるような、音楽やアートワークの役割やメッセージについての申し送りが、ほぼ起こっていないようです。誰かがいきなり、ある日ラフを持ってきて、そこに各々がなにかを乗せていって……でも、その過程で「合ってるか否か」は話さないのだそうです。
クミン100g:確かにそうかもしれないですね。「梔子」の場合だと、元々の曲を聴いて僕が勝手に作ったものなので、打ち合わせは全然していないです。冒頭の音を聞いて、その世界観を歌詞から拾って、勝手に広げた妄想のストーリーだったんですよ。それをメンバーに共有したら「めっちゃええやん」となり、自然と形作られていったんですよね。 OFFICE DESTRUCTION GIRLは自由なところがいっぱいあるので、「こうあるべき」という縛りはなく、互いに表現したいことを表現している感覚があります。
堀江晶太:MVも「この曲ってどういう話なの?」って話をメンバーから聞いて作ったわけじゃないんですよね? お互いに二次創作を無限にやり合ってるような印象です(笑)。
――メンバーに共通の「オデガらしさ」がなんとなくあって、それに全員がなんとなく寄せている感じなんですかね。
堀江晶太:そんな感じだと思います。そして人によっては「オデガらしさ」すら意識してないから、そこも見ていてすごく面白いなとやっぱり思いますね。とても寛容とも言えるし、「任せちゃえ」と自然に思えているというか。そんな不思議な空気感を纏っています。
とはいえ、基本はまず音楽があって、そこからクミンさんが連想するものを生み出していますよね。後から視覚情報を補強するやり方だと思うんですが、「合っているかな」みたいなプレッシャーってあるんですかね?
クミン100g:意外と、みんな描いたものを受け止めてくれるから、それを自信にして描き続けているところはあります。「梔子」の場合、最初に聴いた時にはアニメのオープニングみたいな雰囲気を出したいと思って、そこにオデガの曲調に合うであろう題材を選んで、描ききっています。
「受け止めてくれる」ところがオデガらしいんですよね。そして、受け止めたところからさらに歌い方を変えるとか、曲調を変えてみるとか、そういったことが自然と起こっています。自分も、要素や色味などを、聴く人のことを考えつつオデガとして一体感のあるものに整えていくことが多いです。言葉は多く交わしていないけど、感覚的に互いの意志を汲み取っているのかもしれませんね。
――お互いに制作中のものを見せ合って、すり合わせていく感覚なのでしょうか?
クミン100g:そうですね。僕自身、メンバーはとても大切な存在なので、みんなが楽しめるようにラフは大量に描いて、自信がないなりにシェアしてますね。
堀江晶太:メンバーが作った楽曲をクミンさんが聴き、感動して、その勢いでイラストを1枚描いて共有して、それに感動した人がまた違う曲を作って、またクミンさんが感動してイラストを……みたいなこと、よく起きてると聞きますよ。いろんなこと抜きにして、「一旦やってみたから見てよ」が内部で無限に循環している無邪気な感じは、ものすごい武器だと思います。
そんな感じで、互いのモチベーションだけで無限に進んでいったものに、後から結果がついてくるのは、ありえる話です。そんなことが起こるめぐり合わせは、異なるジャンルの人同士が会いやすい『VRChat』だからこそだと思いますね。