ブルーノ・マーズのRobloxコンサートは何が新しかったのか ゲーム業界における価値観の変化を象徴するコラボに
ボクセルで描画された無数のイタリアンブレインロットたちが行進を続け、プレイヤーたちがバットを振るいながら、目当てのキャラクターを互いの拠点から奪い合う。所持金は増えていく一方だが、1,000万ドルの値がついた最上位クラスのトララレロ・トラララを手に入れるためには、もう少しの辛抱が必要だ。次なる獲物に狙いを定めていると、そこにやってきたのは……ブルーノ・マーズだ!!
可愛らしくデフォルメされたブルーノや、彼が率いるバンドメンバー(もちろん、全員同じ顔だ)が奏でる上質なファンク/ディスコのグルーヴが、混沌としたバーチャル空間にひと時の享楽をもたらしてくれる。だが、バーチャルコンサートの興奮と同時に投入された、「ブレインロット化したブルーノ・マーズ」の存在は、ただでさえ混沌としたこのコンテンツに、また新たな競争をもたらすかもしれない。
α世代を代表するポップカルチャーとなった「Roblox」
2026年1月18日(日本時間)、Roblox内の人気コンテンツである『STEAL A BRAINROT(ブレインロットを盗む)』に、アメリカ出身のシンガーソングライター、ブルーノ・マーズが登場した。同イベントでは、全米チャート初登場1位を記録した最新曲「I Just Might」に加え、2012年にリリースされた代表曲「Locked Out of Heaven」が(デジタルアバターとなったブルーノたちによって)披露され、1270万人以上のプレイヤーがその様子をリアルタイムで目撃した。これは、Roblox内で開催されたイベントとして、史上最大の記録となった。さらに、SNS動画コンテンツでは合計で5,300万回以上もの再生回数を叩き出したという。
Robloxとは、アメリカの企業であるRoblox Corporationが運営する、2006年にリリースされたオンラインゲーム・プラットフォームである。その最大の特徴は、「ユーザーが作ったコンテンツを、ユーザーが遊ぶ」という構造にあり、ユーザーは独自のエンジンであるRoblox Studioを活用してゲームを開発し、実際に公開することができる。(本気で作り込もうとするとそれなりの労力がかかるが)一般的なゲーム開発用のエンジンと比較すると、直感的かつ簡単にゲームを作ることができるため、専門知識や開発経験の有無を問わず、多くのユーザーが手作りのコンテンツを配信している。
リリース当初は「それなりに知られている」程度の知名度だったが、(パンデミックの影響もあって)2010年代後半頃から急速に人気が高まり、「基本プレイ無料」と「マルチプレイ」の要素も相まって、現在ではアメリカの若年層を中心に絶大な支持を獲得している。2025年の第三四半期には一日あたりのプレイヤー数が1億5,000万人を超え、さらに、その約4割が13歳未満とされていることからも、その熱狂が分かるだろう。これは、同じく若年層に人気があるとして知られる『フォートナイト』や『マインクラフト』の同接数をも大きく上回る数値であり、端的に言って、Robloxこそが、現在のα世代(2010年~24年頃に生まれた世代)を最も象徴するポップカルチャーといっても過言ではない(その結果、多くの社会問題を引き起こしているのも実情だが、本稿では触れないでおこう)。
イタリアンブレインロットのムーブメントが生み出した大ヒットコンテンツ
『STEAL A BRAINROT(ブレインロットを盗む)』は、そんなRobloxが擁するコンテンツのなかでも、特に絶大な人気を誇るものである。RobloxクリエイターのSpyderSammy(北アフリカ出身のアメリカ人の若者と言われている)を中心としたチームによって、2025年初旬にTikTokを起点に巻き起こったイタリアンブレインロットのブームを受けて開発した同作は、同年5月のローンチから瞬く間に支持を拡大し、10月には同接数2,540万人というRobloxどころかビデオゲーム全体においても類を見ないほどの成功を実現した。
子どもたちに大流行「トゥントゥントゥンサフール」って? 新たな“キモかわ”キャラの広がりを考察
子どもたちのあいだで現在大流行中の「イタリアンブレインロット」。なぜここまで認知度が上がっているのか、誕生した背景と広まりについ…ゲームプレイの流れは、基本的には冒頭で書いた通りだ。最大8人のプレイヤーが同じステージに配置され、それぞれが自分の拠点を持つ。ステージの中央にはランウェイのようなものが用意されており、多種多様なイタリアンブレインロットのキャラクターが、回転寿司のように流れては消えていく。これらは手持ちの所持金で購入することが可能で、手に入れたキャラクターは、拠点に配置されている間、毎秒ごとにお金を稼いでくれる。これらは個別に価格と稼ぐ金額が異なっており、レアリティの高いキャラクターほど、その両方が膨大な数字となっていく。
最初は安価なイタリアンブレインロット(本作オリジナルのNoobini Pizzanini(ヌービーニ・ピッツァニーニ))しか購入できないが、プレイを重ねるにつれて収入が増え、よりレアリティの高いブレインロットを購入し、さらに収入を増やすことができる。つまり、ゲームの実態としては『Cookie Clicker』に代表されるような、膨大に増えていく数字を眺めて楽しむインクリメンタルゲームに近い。
ただし、そうしたゲームが一般に「放置ゲー」(放っておいても数字が増えることから)と呼ばれている一方で、『STEAL A BRAINROT(ブレインロットを盗む)』はPvP要素を導入することで、ただでさえ中毒性の高いこのジャンルに劇薬を打ち込んでいる。
プレイヤーは他のプレイヤーの拠点から(大金をはたいて購入したはずの)ブレインロットを盗むことができるのである。もし、無事に自分の拠点まで持ち帰ることができれば、以降は自身の所有物として扱うことができてしまうのだ。拠点を一定時間ロックしたり、バットなどの近接武器で応戦したり、トラップを配置したりといった対抗手段は用意されているが、いずれも恒久的な解決手段にはならない。その一方で、レアリティの高いブレインロットを手に入れるためには、ランウェイを注視する必要がある(ちなみにゲーム内の所持金を使って対抗手段を整えることもできるのだが、課金することで手早く強力な手段を手に入れることも可能だ。つまり、Pay 2 Winである)。
さらに、ゲーム内では不定期にイベントが開催されており、開催時には大量の光やレーザーによる演出、DJやダンサーとして踊るイタリアンブレインロット、(ミーム動画の背景で流れるような)過剰にブーストされたダンスミュージックがステージから放たれる。もちろん、ゲームプレイ自体が止まるわけではなく、その色々な意味で凄まじい光景は、まさに「ブレインロット」という他ない。
「ユーザーが作ったコンテンツ」とブルーノ・マーズのコラボがもたらす可能性
今回のブルーノ・マーズとのコラボレーションは、こうしたゲーム内イベントの一つとして開催されたものだ。ライブハウスを模したゴージャスなセットが登場すると、そこには「I Just Might」のMVと同様に、すべてのバンドメンバーに扮したブルーノ・マーズが登場して、Robloxらしいチャーミングなアバターで軽快にディスコポップを奏でていく。プレイヤーはその様子を見ながら、引き続きゲームプレイに勤しんだり、曲に合わせて動いたりといった感じで、ライブを楽しんでいた。さらに、「Locked Out of Heaven」に続くと、ステージそのものが一回転して、裏側に用意されていたライブステージが顔を出し、再び(今度は一人になった)ブルーノが華麗に歌とダンスでプレイヤーたちを魅了する。ランウェイには「ブレインロット化したブルーノ・マーズ」が登場し、例によって多くのプレイヤーが奪い合うことになった(最終的に540万体以上ものブルーノがコレクトされたという)。
とはいえ、もしかしたら動画を見て「もっとすごいものを想像していた」と感じてしまったという人も、少なくないのではないだろうか。『フォートナイト』におけるマシュメロやトラヴィス・スコットとのコラボレーションイベントに象徴されるような、近年の「ビデオゲームを活用したバーチャルライブ」の取り組みの多くが「デジタルだからこそ実現できる圧倒的な演出」を提供していたのに対して、今回のブルーノ・マーズ×Robloxのコンサートが(控え目に言っても)コンパクトなものであったことは、動画を見れば何となく感じ取ることができるだろう。Robloxは(大容量化が進む)近年のゲームの中でもとびきり軽く、そもそもユーザーの手作りによるコンテンツであることを踏まえれば、至極当然の結果である。
だが、それこそが重要だ。今回のブルーノ・マーズのイベントが従来の「バーチャルコンサート」的なものと一線を画すのは、このイベントが、厳密に言えばRobloxではなく、“Robloxのクリエイターとのコラボレーション”ということにある。従来のバーチャルコンサートがEpic Gamesのような大規模な会社と、著名なミュージシャンがタッグを組んだいわゆるビッグプロジェクトであったのに対して、今回の取り組みは突き詰めれば個人開発者であるSpyderSammyを中心としたチームと、世界屈指のビッグなミュージシャンであるブルーノ・マーズのコラボなのである(もちろん、SpyderSammyが属するDo Big Studiosや、Roblox本体の協力があってこそのプロジェクトではあるのだが)。
前述の通り、Robloxは多くの若年層に対してクリエイターとしての道を開いてきた「現代における最も手軽なゲーム開発ツール」の一つである。例として、13歳の頃からゲーム開発を学び、Robloxを通して自身の作品をリリースしてきたAnne Shoemaker氏は、2020年にゲーム会社であるFullflower Studioを設立し、2024年のForbes誌「30 Under 30」の一人として選出されている。カオティックな『STEAL A BRAINROT(ブレインロットを盗む)』においても同様で、こうした「(大企業ではなく)ユーザー主導のコンテンツ」と、ブルーノ・マーズのような著名なアーティストがコラボレーションをするというのは、ある意味では、ゲーム業界全体における価値観の変化を象徴しているようにも感じられる。
AAAタイトルのような大規模な体験ではなく、小規模であっても、ユーザーの熱量が感じられるコンテンツを支持するというのは、近年のSNSカルチャー全体の傾向でもある。今回のブルーノ・マーズの参加は、ある意味では、TikTokでインフルエンサーが生み出したムーブメントに対して、著名なアーティストが参加することでさらに大きな熱狂となっていく、そうした動きがビデオゲームの世界においても起こりつつあることを示唆している。
また、今回のコラボレーションは、実にブルーノ・マーズらしい動きであるとも言える。ブルーノと言えば、音楽界最大のアワードであるグラミー賞を通算15回獲得し、第50回スーパーボウルハーフタイムショーに出演するなど、批評・人気ともに世界最大級のトップアーティストでありながら、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」とのコラボレーションCM(2024年)に象徴されるように、それを感じさせないほどに人懐っこくてチャーミングな姿が印象的なアーティストだ。
そうした親しみやすさは、結果として「老若男女を問わず、高品質なポップミュージックに触れてもらう」という、ある種の「世界中の音楽リテラシーの底上げ」へと繋がっている。近年、技術の急速な発達に伴い、まさにイタリアンブレインロットのように生成AIによって生まれたコンテンツが瞬く間にさまざまなプラットフォームを席巻しており、決して音楽も例外ではない。すでにSpotifyのバイラルチャートで生成AIによる楽曲が1位を獲得したり、TikTokで使用されたりといった動きが相次いでいる中で、今回のコラボレーションは、若年層がブルーノ・マーズという「人間の手による魅力的な音楽」に触れる大きなきっかけづくりになったのではないだろうか。それはもしかしたら、彼らの今後の音楽に対する触れ方にも、大きな影響を与えるかもしれない。
色々と書いたが、今回のRobloxとブルーノ・マーズのコラボレーションが破格の成功を収めたことは間違いない。つまり、これからもこうした動きが続いていくということだ。もしかしたら、数年後にこの出来事を振り返った時に、「あれは大きな分岐点だった」と思う日が来ても、決して不思議ではないだろう。