韓国「AI基本法」が世界初の施行 規制か促進か、各国の対応の違いは?

 韓国で1月22日、AIの開発・利用に関する包括的な規制法「AI基本法」が施行された。ロイター通信によると、こうした包括的なAI規制法の本格的な施行は世界初。段階的な適用を経て2027年8月に「AI法」の完全施行(一部の高リスクシステムについては適用延期の議論もある)を予定しているEUに先駆けた形だ。

「人間の目」を義務化

 韓国AI基本法の最大のポイントとなるのは「高リスクAI」に対する人間の監視義務。原子力の安全管理、飲料水の生産、交通・輸送、医療、信用評価や融資審査といった金融分野など、国民生活に重大な影響を及ぼす領域でAIを使う場合、必ず人間がチェックする体制を整える必要がある。

 生成AIにも規制がかかる。ChatGPTのようなサービスを提供する企業は、ユーザーに「これはAIです」と事前に知らせる義務がある。さらにAIが生成した画像や動画が本物と見分けがつきにくい場合は、明確なラベル表示が求められる。

 また、違反すれば最大3000万ウォン(約321万円)の罰金が科される可能性がある。ただし、施行から少なくとも1年間は「猶予期間」として、行政処分は控える方針だ。

 荒木法律事務所のレポートによれば、この法律は韓国企業だけでなく、韓国でサービスを展開する外国企業にも適用される。一定規模以上の事業者は、韓国国内に代理人を置くことが義務付けられる。

 一方で、法律の詳細がまだ固まっていないことに、新興企業からは不満の声が上がっている。ロイターによると、「規定が曖昧すぎて、企業はリスクを避けるために最も安全なアプローチを取る可能性がある」との指摘もあるという。

 こうした企業からの懸念に韓国の李在明大統領は理解を示しており、施行当日、側近との会合で「予想される副作用を先制的に管理しながら、制度的な支援を通じて産業の可能性を最大化することが不可欠だ」と述べ、ベンチャー企業やスタートアップへの支援を担当者に指示している。

世界で割れるAI規制の方向性

 生成AIの急速な普及を受け、各国でAIをどう規制するかの議論が活発化している。しかし、その方向性は国によってバラバラだ。例えば、EUの場合、罰則は厳しく、違反すれば最大3500万ユーロ(約64億473万円)、または全世界売上高の7%という高額の罰金が科される可能性がある。また、中国は独自のルールを複数導入しつつ、国際的な規制調整機関の設立を提案している。

 対照的なのがアメリカだ。トランプ大統領は2025年1月の就任直後、バイデン前政権のAI規制に関する大統領令を撤回。規制緩和路線を鮮明にした。さらに同年12月には、カリフォルニア州など各州が独自に進めるAI規制を制限する大統領令にも署名している。一方、日本では2025年6月に「AI新法」(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が公布されたが、その内容は主に開発・活用の「促進」になっており、罰則は設けられていない。

 厳格なEUと中国、規制緩和の米国、促進重視の日本。その中で韓国が選んだのは、そのどれとも異なる道だ。フィデックスによれば、韓国AI基本法は「まず許容し、例外的に禁止する」という産業振興を重視したアプローチを基本原則としている。規制と振興のバランスをどう取るか。韓国の試みは、AI時代の「ルールづくりのあり方」として、今後の動向を注視していく必要がありそうだ。

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