さたぱんPが語る、ボカロPとしての“在り方と信念” 海外シーンへの視座と大成功の遠征を振り返る

Sata名義での活動を始めたきっかけと、これからの展望

──昨年は新しく、Sata名義での活動も始めています。どのような経緯から自身で歌おうと思い至ったんですか。

さたぱんP:Sata名義でリリースした「チェインソー100%」は、実は元々重音テトちゃんの歌で。よくお仕事を頂いているエージェントの方とかに「こんな曲できました! 聴いてください!」といろんな曲を聴いてもらっていたんですが、これを送った時に「人間歌唱でもいいんじゃない?」というアイデアを頂いて。「人間歌唱か~、誰に歌ってもらおうかな~」ということを考えた結果、自分で歌ってもいいかもな、と思って。

 ただ、実際に「歌ったら?」というオファーも頂いたので早速やってみたら、頭からサビまでの高速歌唱がどうやってもめっちゃダサくなるんですよ(笑)。でもすでに私が歌うという話がウキウキで進んでいて、後には引けない所まで来ちゃってて。その時に過去お仕事でご一緒したラッパーの小川大地くんのことを思い出して、「ぴったりだな」と思ったんです。元々彼は和の日本語表現に重きを置いたラッパーだし、高速歌唱もめっちゃ上手いし。もう彼しかいない、と思って「一緒に歌ってくれない?」と急遽連絡を取り、高速歌唱をお願いしつつ私がサビだけ歌うという……一番卑怯な手を使ってなんとかリリースした形でしたね(笑)。

──それもまた、過去の活動のたまものですね(笑)。今後もご自身の歌唱活動は続ける予定ですか?

さたぱんP:もちろんです。ちょうどボカロPから、自分自身の活動へも広げないといけない時代かな、と少し思っていたので、今後も頑張っていこうと思います。やっぱり今、急速にAIが発達する中で、その煽りはボカロ業界にもすでに少なからず来ていて。AIの作った曲がバズったり、そもそも人間が作ったか不透明な曲があったりして、クリエイターもかなり頭角を表し辛くなってると思うんです。そうなった時に、AIに勝てる要素のあくまでひとつとして、自分の顔や声はどんどん出していかなきゃいけないと最近感じていました。その一環として、今後も自分での歌唱はやりたいな、と。

──ボカロだけでなく音楽業界を非常に俯瞰的に見た視点は、やはり多彩な経験に基づくものですね。

さたぱんP:近年は音楽業界も常にテクノロジーと共に進化してるし、流行り廃りも激しいですからね。未来を予測しながらじゃないと音楽で飯は食っていけない、という使命感はあります。なので、今後もボカロPの活動を減らして、ではなく、何なら常に両方を増やしながら。限界を超えて“10:10”の比重でやっていきます(笑)。ゆくゆくはSata名義でのライブや、他の方の曲の「歌ってみた」も純粋にやりたいですね。

シンガポール『Anime Festival Asia 2025』のステージから見た景色

──加えて今回ドワンゴによる「Asia Creators Cross」の一環で、先日シンガポール『AFA』でのDJも経験されました。お話を頂いた際、純粋にどう感じましたか?

さたぱんP:もちろん二つ返事で「行かせてください!」でした。絶対に向こうで何かしら爪痕を残したいな、と。ただ、行く前は本当に何も情報がないので、どんな感じなんだろう、とも思っていました。結局、行ってみなきゃわからないな、とゼロベースで行ったところ、感じたのは「日本と近いな」という感覚で。なんというか、日本の現場のオタクと性質が近いな、という印象を受けました。

──それは例えばどんな所が?

さたぱんP:LOVEをちゃんと伝えてくれる一方で、その割にシャイじゃん、と思って(笑)。なので、いい意味でギャップが少なく、純粋にやりやすかったです。海外の方って、良くも悪くもグイグイがイメージもあったのですが、行き過ぎることもなくいい塩梅に盛り上がってくれて、嬉しかったですね。物販でも程よい温度感で交流できましたよ。

──日本でのDJ経験をふまえて、「海外ではこうしよう」という作戦はあったんでしょうか?

さたぱんP:私、日頃からDJ&MCって自称しているんですけど。絶対に日本語は通じないと思っていたので、MCはひたすら英語でいこうと考えたんですよ。「Make some noise!!」的な、クラブの英語の煽りもしっかり予習していって。

 ただ、私の出番の前が3日間ともドワンゴさんの盆踊りステージだったのですが、それがめちゃくちゃ盛り上がっていて、しかもMCも全部日本語で煽ってるんですよ(笑)。何なんでしょうね、日本語がちゃんと伝わってるのか、それともバイブスが伝わってるのか、不思議な感覚になりましたし、それを見て「全然日本語でもいけたじゃん」って思っちゃいました(笑)。

──ご自身の出番以外の、イベント全体への印象はどうでしたか? 会場の雰囲気や、あとは他の催しですとか。

さたぱんP:いろいろ見ましたが、楽しかったですよ。やっぱり総じて、日本のイベントの雰囲気とどことなく似ていて。何かの催しでコスプレイヤーさんが並んだ列もすごくキレイに統率が取れてたり、日本でも馴染み深い即売会やフェス的なムードでした。他の方のステージも拝見して、本当にいろいろと吸収させてもらいました。

──特に印象に残ってるものはありますか?

さたぱんP:意外にこれまで、イベントでコスプレイヤーさんの姿をじっくり見る機会があまりなくって。可愛くてキレイなお姉さんがめっちゃいるな、というのが一番印象に残ってます(笑)。日本だと『ブルアカ(ブルーアーカイブ)』のコスプレが多いイメージだったんですけど、シンガポールはアニメ作品のコスプレが人気なのかな、という雰囲気を感じました。『SPY×FAMILY』とか、『薬屋のひとりごと』も流行っていたのかな。

 あと、ずんだもんのコスプレをしているファンの方が物販ブースに来てくださったんですけど、改めて考えたら「ずんだ餅」って日本のものじゃないですか。しかも東京とか大阪じゃなくて、東北の。そんなローカルな文化が、海を越えたシンガポールで再現されていることにちょっと感動したというか、なんだか面白くなりましたね(笑)。

──ずんだもん、かなり海外人気も熱いですよね。

さたぱんP:へえー! 私の「ヤババイナ」だと初音ミク、重音テトはある程度知られてる中で、ずんだもんは英語コメントで「Green One」って呼ばれていますね(笑)。「グリーンワンだ」「彼女は誰だ」「GUMIか?」みたいな。

──ああ~なるほど、緑なので……(笑)。

さたぱんP:なので、ちょっと意外でした。海外のずんだもん人気、あなどれないですね。

──もしかしたら、お国柄もあるかもしれません。今後も、また海外は行ってみたいですか?

さたぱんP:もう、今すぐにでも行きたいですね(笑)。

──(笑)。そんな日本発であることを意識しつつ、世界進出も見据えた活動の中で、今後ボカロPはどんな価値観/考え方が大事になると思います?

さたぱんP:少し抽象的かもしれませんが、あまり難しすぎても伝わらないのかな、とは思います。簡単なワードで覚えてもらったり、あとはキャッチーさやインパクトだったり。作品作りにおいて、その点への注力は世界規模でも大事なのかな、と。私自身も、今までの曲は複雑なものが多いんですが、最近は“シンプルさ”をかなり意識していて。シンプルイズザベストを目標に、今後の作品作りをしていきたいですね。

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