さたぱんPが語る、ボカロPとしての“在り方と信念” 海外シーンへの視座と大成功の遠征を振り返る

“外に向けた発信”を増やすために始めたショート動画が大ヒット

──そんな中、いわゆるボカロPの活動としては異例の量となるYouTubeショートの投稿が非常に印象的です。1,000万回再生を超えた動画も複数ありますよね。ここに力を入れている理由はあるんでしょうか?

さたぱんP:流れで言うと、活動当初はニコニコ動画に楽曲のみを投稿していて。2023年春頃からはYouTubeにも投稿し始めたんです。それと並行して、TikTok、Instagram、YouTubeショートも動かし始めました。

──ボカロPの活動では、ニコニコ動画やYouTubeのみの投稿になってしまうのはある種致し方ないことだと思うんです。そういうものだと思考を止めていた、ないしは諦めていた人も多かったはずで。始めたきっかけは何かあったんですか?

さたぱんP:始めた理由なんですが、単純に曲を作っていると、どうしても投稿スパンが空くじゃないですか。例えば曲投稿が月1回だと、アカウント上はどうしても30日に1回しか活動していないように見えてしまう。水面下でいろいろやっていても、当然それは外から一切見えなくて。そこを補う外向きの活動を考えた時に、継続して週数回の頻度でできるショート動画の投稿かな、と思ったんです。

 YouTubeって、ロング動画とショート動画で別のアルゴリズムが働いてるじゃないですか。通常投稿と別の所でも曲の再生数を回したいと思っていて、そこに目を付けた形です。初めは曲の切り抜きをひたすら上げていたんですが、その中で「ようこそ、ふぁんふぁんずんだ」は、ショート動画の視聴層を狙った仕掛けがハマった感じはあって。

【ヤバすぎ】踊れる音源 #ダンス #dance #ボカロ曲

──その仕掛けについて、お話しいただける範囲で教えていただけると嬉しいです。

さたぱんP:一番はサビのインパクトを重視することです。このリズムでこの歌詞なら、昨今溢れかえってるショート動画の中でも頭角を表せると思って。とはいえ、計算というとちょっと大袈裟ですけどね。だいぶネタの方向に寄っているというか、悪ノリで作ったものではあるので(笑)。

──あの曲は、非常に“昔のニコニコ動画チック”ですもんね。あの手の動画でゲラゲラ笑っていた10代が、今ニコニコからTikTokに移っているんですかね。

さたぱんP:今TikTokを見ている若い方にはウケる刺激ですよね。小学生、中学生がふざける“中二ノリ”的な。

──楽曲の方向性でいくと、その後「あーーーーーーーーーー」で内田清輝・グ弍さんとのタッグを組み始めたこともひとつの転換点かと思います。

さたぱんP:『ボカコレ2023春』に投稿したときの最終順位はルーキー部門で37位だったんですが、イベント最後におこなわれたランキング発表の公式生放送を見ていて、正直TOP層の曲との圧倒的なレベル差を感じたんです。「このままじゃダメだ」と思って、作戦を考えました。

 映像も含め、それまでは全部一人でやらなきゃいけないと思い込んでいたんですが、自分は映像がそこまで得意じゃないので、まずはこれをちゃんとプロの方に作ってもらおうと。かつ、若い人の脳を刺激するコンテンツを、ボカロリスナーに刺さる曲を作らなきゃいけない、といろいろな学びがありましたね。

 ボカコレ終了の翌日には、もう作曲に取り掛かっていて。今までの自分のエッセンスを全部ごちゃまぜにしたらどうだろう、と曲全体の構成案をメモする所から始まりました。初めはジャズ、次にメタルコアのリフへ展開、最後のサビには電波ソングの要素を入れて……みたいな。『ボカコレ2023春』での学びを自分なりに解釈して、じゃあ自分がやりたいもの、今できるものはコレだ、という発想で作ったのが「あーーーーーーーーーー」でした。

あーーーーーーーーーー / さたぱんP feat. 初音ミク -

 同時期にタイミングよくXで内田さんの映像に出会い、「ヤッバ!超好き!」となってDMでラブコールをお送りし、そこからご一緒する形が今でも続いてます。

──以降の『プロセカULTIMATE』公募曲「ばごーーーん!!!!!」や、YouTubeショートでのブロック崩しミーム動画でも、目に見えて再生数が伸びています。

さたぱんP:これは信じてもらえないかもしれないんですが、猫ミームやブロック崩し動画も、個人的に流行のかなり初期段階、むしろ流行る前からずっと見ていて。始まりは「面白いじゃん、自分も作りたいな」となっただけなんです(笑)。

 チピチピチャパチャパ~のフレーズをミクに歌わせて、「おっ、かわいいね」みたいな。たまたま同時期に猫ミームやブロック崩しの人気が広がり始め、面白いなと思って作り溜めてたものを出すうちに再生数も増えて……。振り返ってみると、本当に運とタイミングが良かったですね。

チピチピチャパチャパミクブロック崩し brick breaker #memes #初音ミク #猫ミーム

──従来のボカロ曲バズに比べると、さたぱんさんのヒットは少し異質なケースですよね。これまでは比較的、歌ってみたや踊ってみたを中心とした二次創作の拡大から火が付くことが多かったと思うんです。

さたぱんP:本当はそっちでバズりたいんですよ(笑)。自分の曲をみんなが歌ってくれて、メディアミックスで小説も出て……。憧れだし、ボカロPの花形じゃないですか。でも、それが出来なかったから他の方法を模索したというか。

 バズりを狙った曲を作ってもリスナーにはバレるし、ガチでそれを中心にやる方には絶対に勝てないと思うんです。これまでにシーンで二次創作がバズった曲も、実際は作り手の方の「別に歌ったりされなくてもいい。絶対にこの曲がいい」という熱意が詰まって出来たものだったはずで。変にバズを狙うと、そういった人を惹きつける熱意は絶対生まれないんじゃないかと。

 今後、もしかしたら自分の「やりたい」と皆さんの「歌いたい」が奇跡的に合致することもあるかもしれませんが、今のところ私の曲は歌い辛いものが多いですね(笑)。

「ヤババイナ」が海外で話題に グローバル重視の路線に行かなかった理由

──その後、2024年投稿の「ヤババイナ」が海外を中心に火がつき、2025年にはYouTube再生1,000万回を突破しました。元々これはボカコレを見据えた曲だったそうですが、海外でのバズを目の当たりにした時はどんな心境でしたか

さたぱんP:まったく別世界でしたね。それまでは動画のコメント欄も日本語一色だったのに、急に英語、ロシア語、これ何語? みたいな状況で。今後は「全部英語で活動した方がいいのか?」と、少しブレたりもしましたけど、やっぱりボカロは日本発の文化ですから、日本語で伝えることを忘れちゃいけないな、と何となく思ったんです。

 ただその延長で、リスナーさんが増えてからは、“表現”には特に気を遣うようになりましたね。曲の歌詞や作品の中でどギツい表現をしたい時もありますが、そこをどう丸めるか、それともこのままでいくか、という自問自答、ジャッジや判断に時間を使うことが多くなって。

ヤババイナ - さたぱんP feat. 初音ミク・重音テト・ずんだもん / YABABAINA - Satapan P feat.Miku Hatsune, Teto Kasane, Zundamon

 当然、それに限界があるのも分かっています。どこかで誤解は絶対起きるだろうし、世の中には邪推する人や悪い方に捉えて発信しようとする人も絶対いて。そう考えると、結局はありのままの自分でいいや、とも思うんです。いい風に見せるのは止めよう、みたいな。敢えて品行方正でいようとせず、むしろ常にアングラ精神でいるべきか、と。パンク精神は抱えているんですけどね。

 なので、海外でバズったからと言って海外ウケを狙うつもりはなくて、それよりは自分のやりたいことをこれからも優先したいと思っています。ただ、それだけだと明後日の方向性を向いちゃうこともあるだろうから、その時々の流行も学びつつ、「これ好きだな」というエッセンスは上手に取り入れて、というバランスを保っていきたいですね。

 すべての表現は結局、そのバランスじゃないですか。自分の“やりたい”と世間の需要をどう一致させるか。しかも、1曲だけでなく活動の継続性を考えた上で、「これだったらずっと楽しくやれるな」を常に考える。それが出来る方は毎回ちゃんと結果を出すので、私なんかはまだまだそのバランスを取るのが下手なんだろうな、とは思います。でも、人よりもいろんな経験を積んでここにいる分、そのバランスを見失わないようにしよう、という点は、変わらない信念として持っていますね。

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