『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』CBTで見えた「4VS4」の可能性と新たな奥深さ
先日の東京ゲームショウで初めて『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』の試遊をした時の感想は、「e-sportsとしての格闘ゲームというよりは、マーベルのキャラクターゲームとして、カジュアルなパーティー・ゲーム的に楽しむものだろう」というものだった。だが、あれから約3カ月が経ち、クローズドベータテスト(以下、CBT)に参加した今、その認識を変える必要があるのではないかと考えている。
格闘ゲームとしての『MARVEL Tōkon』の大きな特徴は、主に2つある。一つは当たり前なのだが、アイアンマンやキャプテン・アメリカといったマーベルのキャラクターが勢揃いするということ。もう一つは、1人で4体のキャラクターを使い分けるという「4VS4」という形式を採用していることだ。TGSでの試遊は、1つ目のポイントはキャラゲーとしての魅力を味わい、製品版への大きな期待を抱かせてくれた。今回のCBTを通して強く感じたのは、2つ目のポイントである「4VS4」というシステムに慣れていくうちに実感した、今までに体感したことのないような、格闘ゲームの「新たな奥深さ」である。
詳細なインプレッションに入る前に、CBT全体について触れておこう。今回のCBTでは、チュートリアルとCPU戦、メインとなるオンラインマッチの3種類のモードが提供された。プレイ可能なキャラクターは、既に発表済みのキャプテン・アメリカ、ミズ・マーベル、ストーム、アイアンマン、スパイダーマン、スター・ロード、ドクター・ドゥーム、ゴーストライダーの8体。ステージについては、ニューヨークを含む3箇所が用意されていた。
近年の格闘ゲームといえば、ジャンルに初めて触れるような人でも気軽に入ってこれるよう、丁寧なチュートリアルが用意されているのが一般的だが、本作も例に漏れず、攻撃やガードなどの基本的な操作から、コンボの広げ方や必殺技、キャラクターの交換といった独自のメカニクスに至るまで、一つずつ段階を踏みながら丁寧に教えてくれる。
個人的に「良い!」と感じたのは、どのアクションにおいても「キャラクターが左側にいる場合」と「右側にいる場合」の二つのパターンをそれぞれ練習するという流れが用意されていたことだ。格闘ゲームでは、左右の位置が変わると、操作する方向も逆になるというのは暗黙の了解だが、初めてプレイする時は想像以上にうまくいかないことが多い。その点をしっかり拾い上げてくれているのも、本作の立ち位置をよく表していると言えるだろう。
とはいえ、本作独自のメカニクスに相当する、「ガードにカウンターを決めて、コンボ中に仲間のキャラクターを加える」といった「4VS4」要素が入ってくると、一度チュートリアルを終えただけでは身体に馴染ませるのは難しい。筆者の場合、何度も試合中に「あれっ、どうやって仲間とコンボ決めるんだっけ?」と混乱してしまう場面があった。また、本作では仲間関連のアクションが「✕ボタン」に集約されているのだが、他の格闘ゲームに慣れているプレイヤーであれば、最初は恐らくかなりの頻度で誤入力することになるだろう。とはいえ、この辺りは慣れの問題である。少なくとも今のところは複雑なコマンド入力は求められず、「□:弱、△:中、◯:強」とシンプルにまとめられていて、連打すれば自動でコンボも決まるため、基本的なプレイについてはすぐに楽しむことができるはずだ。ちなみに、チュートリアルの時点でキャプテン・アメリカとトニー・スタークの軽妙な掛け合いが展開され、この辺りもしっかりとファンの期待に応えてくれる。
さて、本題のオンラインマッチだが、今回はクイックマッチ的な機能はなく、地域ごとに用意された複数のサーバーの中から一つを選んで、ゲームセンターのような空間で実際に仮想筐体を使ってプレイする「オンラインロビー」形式のみで実施された。端的に言えば、『ストリートファイター6』の「バトルハブ」が最も近く、連勝しているプレイヤーが強調表示されるなど、システムも似ている。一方で、プレイヤーのアバターが、マーベルのキャラクターをデフォルメした、とっても可愛い二頭身のモデルになっているのが本作らしいところだ。
実際にオンラインマッチを何度か重ねた上での印象としては、(恐らくは)初心者同士の対戦であれば、本作は「カジュアルに楽しめるキャラゲー」として存分に真価を発揮する。「GUILTY GEAR」シリーズによる確かな実績の持ち主であるアークシステムワークス製だけあって、どのキャラクターの組み合わせにも「らしい」掛け合いが用意されており、自己肯定感MAXのミズ・マーベル、どんな相手だろうと軽快におちょくるスパイダーマン、威厳に満ちたドクター・ドゥームなど、MCUファンはもちろん、コミックのファンもよろこぶであろう、絶妙な塩梅のセリフ回しが存分に楽しめる。アニメをそのまま動かしているかのような滑らかな動きも素晴らしく、コミック的な演出も相まって、まさに「画面の中をところ狭しと暴れまわるヒーロー/ヴィランたち」を直接操作しているような感覚を味わえるだろう。
さらに、キャラクターごとの個性が最初から際立っているため、他の格闘ゲームと比較して、「スキルや戦法を直感的に理解しやすい」のも大きなポイントだ。キャプテン・アメリカであれば盾を投げて牽制しながら近接攻撃を叩き込み、アイアンマンならビームやミサイルなどの遠距離攻撃を中心に攻めるだろうというのは、ある程度キャラクターに馴染みのある人であれば何となく理解できる。本作は、そうした「キャラクターならではの戦い方」をうまく格闘ゲームのプレイスタイルに落とし込んでいるため、初めて触るキャラクターであっても、それほど違和感なく、直感的に戦うことができるのだ。これは、「マーベル」という巨大コンテンツならではの大きな強みと言えるだろう。だからこそ、気軽にキャラクター同士の夢の戦いを実現するような「完成度の高いキャラゲー」として楽しめるのである。
だが、これがある程度スキルを体得した初級~中級者となってくると話は変わってくる。当然、格闘ゲームなのだから相手に隙を与えない怒涛のコンボや、高度な読み合いといった側面は出てくるのだが、ここで本作独自の「4 VS 4」が効いてくるのだ。前述の通り、本作に登場するキャラクターは、それぞれに「らしい」戦法が用意されており、そこには当然相性が生まれる。あるいは、「自分は近距離メインなのに、相手は遠距離メインでストレスが凄い」といった(プレイヤーとしての)戦法面の得意不得意もあるだろう。だが、本作では4人分の選択肢があるため、戦いづらいと感じたら「じゃあ、このキャラにしよう」と、簡単にキャラクターを切り替えることができる。もちろん、キャラを変更するためにはある程度の時間を要するため、ポンポン切り替えるようなことはできないが、ラウンドの冒頭やコンボなどに「キャラ変更」を組み込むことができるため、「一切変更する隙がない」というわけでもない。
その結果どうなるのかというと、カードゲームのデッキを考えるように4人の構成と順番(本作では試合開始時点では最初の1人のみが使え、試合が進むごとに1人ずつ使用可能キャラクターが増えていく)を組み立て、相手の戦法を見ながらリアルタイムでキャラクターを切り替えていくという、今までにない形の戦略的な戦い方が求められるようになっていくのである。
そう聞くと「難しそう」と感じる人もいるかもしれないが、「相手に抗うための選択肢が増えた」ということでもある。筆者の場合、オンラインロビーで対戦をしていた際に、一つのキャラクターの操作に特化して修練したと思わしき、連勝中のプレイヤーに挑むことになったのだが、戦法を見るうちに「もしかして、このキャラなら追い込めるのでは?」と切り替えた結果、見事に一矢報いることができた(勝てたわけではない)。正直、CBT時点では2人を使い分けるのでもやっとだったが、リリース後には4人を縦横無尽に使い分けるプレイヤーが次々と登場するだろうし、大会などでは「この選手はどのような構成と順番で挑むのか」という点に大きな注目が集まることだろう。これは本作独自の魅力であり、「アッセンブル」をキーワードとする「マーベルの格闘ゲーム」としての、本当の意味での真価が発揮される瞬間でもある(実際のヒーローだって、戦略くらい考えているはずだ)。
「でも、1人の操作を覚えるだけでも大変なのに、4人なんて無理!」という声が聞こえてくる気がするが(少なくとも筆者はそう思う)、本作ではどのキャラクターも基本的な操作方法は同一となっており、(少なくとも現時点では)コマンド入力に重きが置かれていない。つまり、まったく未経験のキャラクターであっても、基本的な操作さえ分かっていれば必殺技の発動まで一通りこなすことができる。当初は、カジュアルな方向性を打ち出そうという意図の表れかと思っていたのだが、CBTを経た今は、「その分、4人分のキャラクター理解に費やせる」というリソース配分としての意味合いの方が大きいのではないかと感じている。今はとにかく、このシステムがどのように格闘ゲームのシーンで使い倒されていくのかを見るのが楽しみで仕方がない。
今はまだCBTの段階なので、これからリリースに向けてバランス調整などが進められていくとは思うが、少なくとも現時点で『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』が抱える「アークシステムワークスが手掛けるマーベルの格闘ゲーム」という期待には充分に応えられていることは確信できる。充実したチュートリアルや、戦法まで含めた直感的な操作、イキイキとしたキャラクター描写など、「格闘ゲームはやったことがないけれど、マーベルのキャラクターを操作して思う存分に暴れたい!」という人にも太鼓判を押せるくらいには、現時点での完成度は相当に高い。その上で、「4 VS 4」というユニークなシステムが生み出す、まるでデッキを組み上げるかのような戦略がもたらす可能性は底知れない。格闘ゲームが再び活況を見せる現代において、『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』はどのような変化をもたらすのだろうか。
『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』は2026年、PlayStation 5とPC向けに発売予定だ。