『攻殻機動隊』が描いた“未来”は現実にどう拡張された? 『MUTEK.JP 2025』特別セッションで仕掛け人たちが明かした「ヒント」
全アニメシリーズを横断する史上初の大規模展『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』の開催を記念しての特別セッション
電子音楽とデジタルアートの祭典『MUTEK.JP 2025 Edition 10』が11月に開催され、『攻殻機動隊』シリーズに関する特別セッションが同月20日に行われた。
来年1月30日から虎ノ門ヒルズ「TOKYO NODE」で実施される『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』に先がけ、本展覧会のキーパーソンが登壇。TOKYO NODE運営室および森ビル新領域事業部から桑名功、講談社 ライツ・メディアビジネス本部の笹大地、KDDI 事業創造本部 エキスパートの砂原哲、プログラマー兼ビジュアルアーティストの松山周平ら各氏がステージに上がった。
押井守監督による映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)の舞台が2029年――。いよいよ本作で描かれた未来を間近に控える今、フィクションはどこまで現実を映し出すのか。
「『攻殻機動隊』が描いた”未来”は、私たちの現実にどう拡張されたか?」というテーマのもと、仕掛け人たちが現代のデジタルクリエイティビティの文脈で議論を交わした。
なぜ『攻殻機動隊展 Ghost “and” the Shell』なのか?
この日は4つのトピックに分かれ、セッションが展開された。「攻殻機動隊とは?」に始まり、「『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』について」、「CASE-1:巨大ネットワーク空間」、「CASE-2:電脳VISION」へと繋がる。
2004年公開の『イノセンス』を含め、まず笹氏が簡単に本シリーズの概要を説明する。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』をはじめ、シーズンアニメの『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002年)やNetflixで配信された『攻殻機動隊 SAC_2045』(2020年~2022年)など、本作がいかに連綿と“未来”を紡いできたのかをさらった。また、2026年放送予定のテレビアニメーション『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』も改めて紹介され、スタジオ「サイエンスSARU」が手掛けることが強調された。
その流れから、話題は映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の30周年アニバーサリーへ。2025年11月18日を迎え、本作が劇場公開されてから30年が経過。それを記念して、グラフィックアーティストのYOSHIROTTENが手掛けたスペシャルロゴがスクリーンに映し出された。
笹氏は「(作中の重要なモチーフである)光学迷彩がソリッドなデザインに落とし込まれた素晴らしい作品」と紹介。ムービングロゴはこのカンファレンス時が初公開だという。
また、YOSHIROTTENはロゴ制作に際し、以下のようにコメントしている。
「来たるとされていたAIの時代を、私たちはいま体感し始めている。目の前の街は、現実なのか。それとも、ホログラムに映る情報世界なのか。光の点滅によって姿を現し、やがて光学迷彩のように闇へと溶けていく――そんなイメージからこのロゴデザインは生まれた」
世界的ベストセラー『シンギュラリティは近い』(2005年)の著者レイ・カーツワイルは、本書の中で2029年に“AIが人間並みの知能を得たことを測定するチューリングテストにパスする”と予測した。さらに人工知能の力を得た人間の社会は、2045年に大きく変わるとも予想されている。まさに『攻殻機動隊』シリーズの世界観およびYOSHIROTTENの言葉とリンクしており、その想像力を紐解かずにはいられない。
そして桑名氏は来たる展覧会『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』について言及。以下のように説明した。
「シリーズ全部が集結するということは実は今まで一度もやってないんです。今回初めて、すべての作品がひとつの場所に集まって、全てを網羅的に見られます。それこそがこの展覧会における最大のポイントです」
30余年分の未来予測が、TOKYO NODEに集結する。そしてタイトルに設定されたGhost “and” the Shellの経緯について、次のように語った。
「士郎正宗さんが原作の中で描いた未来像というのは、たとえばサイボーグ化した身体と電脳化する社会、ネットでつながる意識と記憶、あるいはその記憶さえも書き換えられる世界などが、1989年(漫画版)の時点で描かれてるんですね。当時インターネットもまだまばらだった時代に、そういった想像力を働かせてできた作品であるというところが非常にユニークな作品だなと思っているんですけども。そこから37年の月日を経て、今我々が生きている世界というのは、AIが思考して記憶をクラウド上に置き換えていくことができる。
僕らの写真も自身の記憶としてクラウドに置ける時代になりました。 この作品の中で描かれているビジョンというのも、もうフィクションではなくて、現実の僕らの世界にも入ってきているというふうに感じています。さらにこれから、我々人類の進む先には、人と機械であったり、現実と仮想であったり、個と集合みたいなことって、日常的にもそういった境界がどんどん曖昧になっていく。そのなかで、僕たち自身が結局人間であることの実感ってどこに保つんだろうねっていうところは、今こそ向き合うべきテーマなんじゃないかなと思っています。
その中でそのコンセプトとなってくる“Ghost and the Shell”のGhost(魂)とShell(体)というこの2つの言葉を、押井守監督をはじめ、様々な監督がそれぞれの解釈で描いてきていると。 この作品群に通底するGhostとShellの関係性、それらをこの展覧会を通して改めて振り返ってみることで、この先僕たちはどこにGhostを感じて、どこにShellを感じるのかっていうのを再検証できる。これから向き合っていかなくちゃいけないひとつのテーマを表すフレーズとして、この展覧会のタイトルをGhost and the Shellとしました」
インタラクティブなデータベースを開発
では、どのように『攻殻機動隊』の世界を追体験するのか? この日明かされたアイデアのひとつが、3Dに展開される“巨大ネットワーク空間だ。松山氏によって開発中のこのプログラムは、粒子としてx~z軸上へ無数に広がってゆく。そのひとつひとつがシリーズのワンシーンで構成されており、それがタグ付けされることによって、特定のトピックを限定的に辿れるということだ。
たとえば、「タチコマ」でタグを辿れば、それぞれの作品のタチコマを網羅できるという。作品ごとに大きく変化したモチーフのひとつだが、この人工知能を備えた歩行ロボットを文脈化できれば、見えてくるものがあるかもしれない。
また、本シリーズは音楽で追いかけても見えてくるものがあるように思われる。トラッドな民族音楽が用いられたかと思えば、millennium parade(現:MILLENNIUM PARADE)のようにカッティングエッジなポップミュージック(≠ポップス)がテーマに採用される場合もある。
1997年にリリースされた、プレイステーション版『攻殻機動隊』のビデオゲームも含めれば、ダンスミュージックにも大いに接近している。YOSHIROTTENもDJとしてブースに立ち、近年のMILLENNIUM PARADEも4つ打ちを志向していることから、恐らく意図的な部分もあるだろう。
タチコマ繋がりで「CASE-2:電脳VISION」にも触れられた。ARグラスを用いた同コンテンツについて、砂原氏は次のように語る。
「作品にそれほど馴染みのない方でも、このARグラスを用いることによって『攻殻機動隊』の世界観を体感できるコンテンツを目指しました。この電脳ビジョンを体験することで、Ghostとは何なのか、あるいはShellとは何なのか。各シリーズともやっぱり考え方が違い、監督ごとにも少しずつ異なるところもあると思います。 明確な答えには辿り着かないかもしれないけども、その辺が少しわかる読後感としてなんとなく分かった気分になれる。そんなコンテンツにしたいなというふうに思って作ってみました」
展覧会のタチコマは“喋る素体”であり、作中で命を吹き込んだ玉川砂記子がこのコンテンツのために声を録り下ろししている。砂原氏はこう続ける。
「ARグラスを装着すると来場者は簡易的に電脳化され、タチコマが電脳通信を通じて、1600枚の原画の中から厳選された名シーンについて解説してくれます。作品の数が膨大なのでそのすべてに解説が付いているわけではないのですが、僕の方で起こした脚本をもとにタチコマが展覧会を案内してくれます」
最後にまとめとして、桑名氏はこう述べる。
「クロスリアリティーの文脈として今と未来を考えたとき、ARグラスなどを用いたコンテンツはこれからもたくさん出てくると考えています。その中で、『攻殻機動隊』ほどそれらを想像するのに打ってつけのIPってないと思うんですね。この作品だからこそチャレンジできることがあるし、ぜひ皆さんにも体感してほしいです。ARグラスの数だけ物語が生まれるように設計したので、展覧会の構成としても新しいものになっていると思います」
新たなシリーズが世に出てくる度に、我々を未来に連れて行ってくれる『攻殻機動隊』。新作が始まるタイミングで今いちど展覧会という形で総ざらいしておきたいところだ。AIや電脳技術だけでなく、ダークウェブや仮想通貨など、さまざまな角度からヒントをもらえるはずだ。
攻殻機動隊展 Ghost and the Shell
会期:2026年1月30日(金)〜4月5日(日)
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C
主催:攻殻機動隊展 Ghost and the Shell 製作委員会
https://www.tokyonode.jp/sp/exhibition-ghostintheshell/
(権利関係)
共通表記:©士郎正宗・講談社/攻殻機動隊展 Ghost and the Shell 製作委員会 英語表記:©Shirow Masamune/Kod
【公式】攻殻機動隊展・全アニメシリーズ横断|TOKYO NODE開催