ありのままのこどもたちが大人の心を揺さぶるーーYouTubeチャンネル「COCHO COCHO」が愛される理由

 大人はかつてみんなこどもで、時間とともに大人になった。勉強、部活、仕事……大人になるまでに乗り越える壁は数えきれないほどあり、つい目の前のことに必死になってしまう。いまの自分がちゃんと大人になれているのかもわからない。そして気が付けば歳を重ね、また日常は続いていく。

 今回お話を聞くYouTubeチャンネルは、そんな大人にこそ見てほしい。自分だってこどもだったはずなのに、あのころの気持ちが思い出せない。こどものころの僕たち、私たちは、世界をどんな風に見ていただろうかーー。

 そんな忘れかけていた“大切なこと”を思い出させてくれるのが、YouTubeチャンネル「COCHO COCHO」だ。「COCHO COCHO」のコンセプトは、“こどものそのままを、そのままお届けする”こと。「好きってなに?」「お金と家族と友達、どれが1番大切?」など、私たち大人だからこそ詰まってしまうようなテーマを、こどもたちはそれぞれの考え方で解釈していく。画面に映るこどもたちは大人の想像を遥かに超えて、本当にたくさんのものを届けてくれるのだ。

 今回は、企画制作に携わる株式会社チャビーCEOの長崎周成氏、プロデューサーの木庭亮氏、放送作家の映月氏にインタビュー。チャンネルが生まれた背景や、こどもと関わることで得た発見、気づきについて伺った。(はるまきもえ)

まるで天国? こどもが主役の世界観

ーーあらためて、「COCHO COCHO」が生まれたきっかけについて教えてください。

長崎周成

長崎周成(以下、長崎):こどもにまつわる何かをしたいよね、という話をしていたんです。海外ではこういうチャンネルはあるけど、日本ではまだなかったですし、テレビ番組の『はじめてのおつかい』(日本テレビ)などは有名ですけど、もっと細分化できるよなと思っていて。

ーー“こどもが主役”というのは、最初から決めていた軸だったんですね。

長崎:そうですね。やっぱりこどもって、見ているだけで本当に飽きないし、最強だなと思うんです。ただそこにいるだけで自然と周りを笑顔にできる、本当に素晴らしい存在です。でもそれと同時に、すごく丁寧に接しなければいけないとも思っています。

ーー動画ではコンセプト通り、本当にありのままのこどもたちが映っていますよね。

長崎:これは出演していただいているゲストの方にも伝えているのですが、このチャンネルでは、こどものありのままの言葉と反応をすごく大切にしています。だからこそ、僕たち大人からこどもに何か指示をすることは絶対にないんです。だから撮影してみないとどうなるかわからないことも多くて、ときには何も起きないこともあります。それも、こどものリアルなんです。

ーー現場は予測不可能ですね。

長崎:以前、こどもの悩みを聞くという企画で小籔千豊さんに出演いただいたときは、よとくんという子が、「なんか悩みあったけど、忘れた」っていうところから始まるんです。それでも小籔さんは優しく「ええぞ、ええぞ」と。よとくんに寄り添って話を聞き出してくれました。こんなふうに、スタジオに来て大人を前にすると、何を話そうと思っていたのか忘れてしまう。というのも、またこどもらしさですよね。

こども駆け込み寺 こどもの悩みを小籔さんが解決! | COCHO COCHO

ーー映像の視点からもこだわりを聞いていきたいのですが、全体的な色使いがとても素敵ですよね。

長崎:質感でいうと、思わず触れたくなってしまうような色味を意識しています。

ーー「COCHO COCHO」に登場するこどものひとり・こうせいくんのほっぺたは、思わず触りたくなってしまいます(笑)。画面上も、可愛い雰囲気はありつつ、構成はシンプルというか。

長崎:映し方で言えば、広い空間にこどもたちだけが存在しているような世界観にしています。背景やテロップも限りなくシンプルにして。その方が、視聴者の方にノイズがない状態で見てもらえると思ったし、こどもたちの純粋な姿がより伝えられるのかなと。

こどもクイズショー クイズ王ふくらPも大苦戦! | COCHO COCHO

 ふくらPさんに出演いただいた回のコメントで、「天国にいるみたい」っていうコメントをいただいたときは嬉しかったですね。“ここだけの幸せの国”みたいな感じで見てくれてるのかなって。こちらもそこまで緻密に計算をしているわけではないのですが、1番伝えたいことが伝わっているなと思いました。

映月

映月:テロップで言うと、こどもの言い間違いは直さずに、そのまま書き起こしています。これは言い間違いとかではないんですけど、ハナコの秋山さんに出演いただいた回で、るかちゃんという女の子、肌に塗る色を「ペールオレンジ」って指定するんです。秋山さん含めその場にいる大人は「肌色」と教わってきた色だと後からわかりました。人種の多様性への配慮が浸透していまのこどもたちはペールオレンジと教わっているんだそうです。こどもの言葉や言葉使いからはいろんな発見があるので、そのままテロップに使うようにしています。

こども編集部でハナコ秋山さんに的確な指示をする4才 | COCHO COCHO

ーーこどもの言葉を通して時代を感じることもできますね。動画のテンポ感はどのように考えていますか?

長崎:とにかく、こどもの言葉や温度感がそのまま伝わるように、間や余韻を残すようにしています。 こどもが大人にとって印象的な言葉を発したとき、思わずハッと目が醒めるような感覚ってありませんか?その体験を見ている方にも感じてほしいし、こども同士のお喋りの間を、リアルに感じてほしいんです。

“元こども”に刺さる、こどものリアル

ーー先ほど、小籔さんやふくらPさんなどのお名前も挙がりましたが、本チャンネルではゲストである大人=“元こども”の存在もかなり大きいですよね。

長崎:ゲストの方は、あまりこども慣れをしていない方が来ることもあります。なんならちょっと気まずいくらいの(笑)。でもそれは、こどもに慣れていないと同時に、こどもをこどもっぽく扱わない。対等に話してくれるっていうことなんです。そういう方のほうが、こどもの素直な意見や考えが出てくるので、面白い関係だなと思っていますね。

ーーゲストの方は、撮影を終えてどんな感想を言っていましたか?

長崎:「めっちゃ手応えないなー」って。

一同:(笑)。

木庭:みんな首を傾げて帰るよね。

長崎:こどもが長考しているときにカットをかけたりもしないので、テレビの収録ではありえないような間が生まれることもあるんです。スタッフも声を出さないし、ディレクターも指示をしないので、芸人さんなんかはいつもと違いすぎて不安に感じているみたいですね(笑)。

ーー普段の現場とはかなり違うのかもしれないですね。事前に何か伝えていたりするのでしょうか?

長崎:このチャンネルは、こどものありのままの言葉と反応を大切にしているということと。あとは、こどもたちの簡単な人となりくらいですね。こちらからレールを敷くことは基本なくて。ときにはゲストの方から提案していただくこともあります。

 たとえばお笑いコンビ・レインボーのジャンボたかおさんに出演いただいた回は、こうせいくんがピーマンを嫌いで、克服するという企画でした。でも撮影当日、こうせいくんがピーマンを食べてきたみたいで。

レインボー ジャンボたかおさんと大嫌いなピーマンに挑戦! | COCHO COCHO

ーーえっ。

映月:「ピーマン大好き!」ってなってました。

ーーそうなると企画の前提が変わってしまいそうですね。

長崎:どうやら、お母さんが作ったピーマンの肉詰めが美味しすぎたみたいで(笑)。こうせいくんのなかで、1番大好きなものは「ピーマンの肉詰め」で、1番嫌いなものは「ピーマン」になったらしく、僕たちもジャンボさんも「えっ!?」ってなったんです。でもそこからのジャンボさんの機転の効かせ方が素晴らしかったですね。

映月:あとからお母さんに聞いたところ、こうせいくんは嫌いなものを食べられるようになって、「好き」というのがかっこいいと思っているようなんです。その考え方もすごく可愛いし、想像できなさすぎて驚きました。

ーー大人の思考を飛び越えていきますね。そもそも、大人のゲスト出演はどういう意図があって設定したのでしょうか。

長崎:こどもを見ていて、大人が追体験をする部分は絶対にあるなと思ったんです。「自分もこんなこと言ってたな」みたいな。男の子は、よくわかんないタイミングで急にブリッジしたいときとかあったよねって(笑)。(参考:「こども10秒発表会で自分だけの特技を披露!」の回)

こども10秒発表会で自分だけの特技を披露! | COCHO COCHO

 大人がいた方が、見ている人にとってわかりやすいこどものそういう部分を引き出してもらえると思ったし、あのころを感じてもらいやすいかなと思いました。

普段は見えない世界を見て

ーー現場でこどもたちと接して、どんなことを感じますか?

長崎:動画に出演してもらっている子たちは、のびのびと意見が言える子が多いですね。僕たちとしても、こちらのことは何も気にせず、急にギャグをしたり、いまハマってる言葉を言ったり、いい意味で空気を読まないこどもたちの姿を捉えられたらいいなと思っているので。

ーーこどもたちはどんな感覚で現場に来ているのでしょうか。

映月:こちらとしては、習い事に来るくらいの感覚でいてくれたら嬉しいですね。実際、遊びに来ているような自然体の子もいて、カメラマンさんに内緒話をしたり、「歯が抜けたんだ〜」って報告したり(笑)。

ーーすごくいい空気感ですね。

長崎:カメラの存在なんか全然忘れていますね(笑)。FRUITS ZIPPERの鎮西寿々歌さんに出演いただいたときも、こどもたちがずっと鎮西さんを触っている時間があって。

こどもファンミ FRUITS ZIPPERの鎮西寿々歌さんと一緒にファンサ! | COCHO COCHO

ーー触っている……?

長崎:ずっと手を握っていたり、衣装がどうなっているのか気になっていたようです。こどもって、こんなに綺麗な方が来たらこうなるんだっていう“現象”を目の当たりにしました。すごく面白かったです。もう僕らが話しかけても全然聞いてなくて(笑)。

こども商品開発部 〜モスバーガー編〜 | COCHO COCHO

映月:私が印象に残っているのが、ハンバーガーの商品開発をするという動画なんですけど、出演したなかにチーズアレルギーを持つゆうだいくんがいたんです。そこで、チーズを入れるのかどうかの話し合いや葛藤が生まれて。カットがかかったあとに、ゆうだいくんがチーズなしを主張したこうたくんに「僕のこと守ってくれてありがとう」って言ってたんです。

 撮影が終わっても、こどもたちのなかでは話し合いや思考が続いていることを知って、すごくよかったなと思っています。こどもの(大人も!)成長を感じられる撮影になると嬉しいです。あと、こども同士の討論している姿って、大人はなかなか見る機会がないので、そこを知れるのもよかったですね。

ーー動画を拝見しましたが、かなり白熱した話し合いでしたね(笑)。

9歳の男の子が好きなものは「零戦」。でも乗りたくはない。| COCHO COCHO

木庭:僕は、好きなものの好きなところを紹介する動画が印象に残っています。好きなものを紹介してくれたのは、ともやという9歳の男の子なんですけど、その子は零戦(零式艦上戦闘機)が好きで、実際に零戦を見にいくというロケ企画を行いました。

木庭亮

 僕らの狙いとしては、零戦の背景を知る機会を設けて、理解してもらうという企画だったんですけど、この子はすごく頭が良くて。僕たちの予想を遥かに超える解像度で、戦闘機である零戦という存在を捉えていくんです。自分は戦闘機が好きだけど、「好き」と肯定することで悲しんでしまう人がいるということに葛藤する姿には、本当に驚かされました。

ーーむしろ大人が学ばせてもらうくらいの動画でしたね。

木庭:ものすごく賢いし、感受性が豊かなんだなと。でも、途中で新幹線を見てはしゃぐところもあったりして、こどもらしい一面も垣間見れます(笑)。そういう、人として成長していく過程を見ることができたのがチャレンジな企画でしたが、実施してよかったなと思います。あと、やっぱりいまのこどもたちはYouTubeなどを当たり前のように見ているので、情報の入り方が違うなと実感しました。話し方も、僕がこどものときはこんなに上手に話せなかったなと思うし(笑)。でも、だからといって現代に染まりすぎていないところが、出演してもらっている子たちの魅力なんだと思っています。

ーーこどもの成長をリアルタイムで追っていけるというのも、本チャンネルの魅力ですね。

大人が食べてる”おつまみ”ってどんな味? | COCHO COCHO

木庭:最初の方に、こうせいくんたちが出演している「大人が食べてる”おつまみ」を知るという企画があるんですけど、この子たちが実際に成人して一緒にお酒を飲むときが来たら……泣くな(笑)。

映月:うわー。

ーーあらためて、「COCHO COCHO」というチャンネルが発信するコンテンツをどう受け取ってもらいたいですか?

長崎:「すごいおしゃれだね」って言われることもあるんですけど、なんというか……実はまっすぐやっているだけなんですよね。いま世のなかに出回っているものって、すごく刺激が強いドーパミンが出るようなものだったり、SNSで考察される要素があったり、複雑化しているなって思うんです。もうインプットが追いつかないくらいたくさんあって……僕たち大人でも難しくないですか?(笑)。そういう時代だからこそ、着色されていない、真っ白で、見たままを感じてもらえるものがひとつでもあればいいなと思いました。

 それに大人になるとすごくいろんなことを考えてしまうけど、こういうシンプルな考えに“戻れる場所”があってもいいのかなと。そういう人に、何も考えずに見てもらって、楽しんでくれたらいいなと思います。

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