「『自分が本当は何がやりたかったか』を考えさせられた」 西岡德馬が語る“芝居と将棋”のリンクした世界
俳優・アーティストののんが主演を務めるオリジナルドラマ『MISS KING / ミス・キング』(全8話)が、11月17日の放送で最終話を迎える。
同作はのん演じる天才棋士の父に人生を奪われた主人公・国見飛鳥が、その深い憎しみから開花させた才能と、まっすぐに突き進む意志の強さで、自らの人生を取り戻していくヒューマンドラマだ。辛い過去と向き合いながらも、前に進もうとする力強い女性の姿が丁寧に描かれている。今回はそんな飛鳥の所属する将棋連盟の元会長・安藤鉄斎を演じた西岡徳馬へインタビューを行い、テーマにもなっている将棋との向き合いや、偶然にも重なった将棋関連作品たちとの関わり、各キャストとの関連性や幅広い活動を行う理由について語ってもらった。
「30歳のとき、小学生に3分で負けた」将棋との苦い思い出
――西岡さんは、昔の新幹線の移動で俳優仲間と将棋を指していたそうですね。
西岡德馬(以下、西岡):昔は劇団の旅公演なんかは列車移動が多かったので、車両の椅子を向かい合わせにして、スーツケースの上に将棋盤を置いてやってたんです。
――それは何年前ぐらいですか?
西岡:俺が20代の頃だから、50年ぐらい前かな。将棋はずっと考えていられるからね。でも、負けると本当に悔しい。運じゃなく、実力だから。昔、渋谷の道玄坂にあった奨励会みたいな場所に連れて行かれたの。相手が小学生で「勘弁してよ」と思ったんだけど、3分ぐらいでやられちゃって。悔しかったのはその子が「解説します」と。
――感想戦が始まったんですね。
西岡:30歳近い男が、小学生から丁寧に解説されて、「小学生にやられるようじゃ、もう将棋はダメだ」とそのときに思ったよね。
――まさに『MISS KING / ミス・キング』の劇中のセリフにもありますが、性別も年齢も関係ないと。
西岡:だから、あのときの子が大きくなったのが、この子(手元の資料の国見飛鳥を指差しながら)かなっていう感じだよ。本を読んだときに、共感というかシンパシーが湧く脚本だった。俺、ここにきて将棋のドラマが3連発なのよ。『MISS KING / ミス・キング』に入る少し前、高知県のスペシャルドラマ『はちきんちゃんといごっそう』(RKC高知放送)を撮影していて、それも将棋が軸になっている作品で。ちなみに、(取材時点で)これから撮影するドラマも将棋の話なの。
――将棋作品ラッシュなんですね。今回の安藤鉄斎はどのような役柄だと捉えていますか?
西岡:一度、名人になって将棋連盟の会長をやって、自分はもう終わったと思っているところに飛鳥が現れる。いい年になって「自分の人生は終わった」と思ってる人が、いっぱいいると思うんだよ。終わったと思っても、まだやり残してることが何かあるんじゃないのかな。本当はあれがやりたかったんだって。もしかしたら、いまからでも遅くないかもしれない。僕はリタイアするはことないし、体が動く限り俳優をやってやろうと思っているからかもしれないけど、『MISS KING / ミス・キング』は「自分が本当は何がやりたかったんだ」ということを考えさせられるようなドラマになるんじゃないかなとは思っています。
「最近の女優さんのなかでは珍しいくらいにチャラチャラしていない」 西岡徳馬からみた“のん像”
――鉄斎先生が登場する第6話では飛鳥と対局するシーンもありますが、のんさんと共演されていかがでしたか?
西岡:誰かに似てるなと思って顔を上げたときに、「あ、うちの孫だ」と思って(笑)。だから可愛くてね。孫の写真を見せたら、「こんな可愛い子に似てるって言われて嬉しい」と言われて「いや、こっちの方が嬉しい」と返しました。
――のんさんの芝居はどのように見られていますか?
西岡:前提として、とっても性格のいい人だね。最近の女優さんのなかでは珍しいくらいにチャラチャラしていない。ちゃんと人のことを見てる。はにかみ屋さんかなと思ったら、芝居がしっかりしていて嘘がないんだよね。その役が言葉を発してる。素敵な女優さんだと思います。
――鉄斎先生が飛鳥に大福を差し出すシーンは、本当にのんさんがいい食べっぷりでした(笑)。
西岡:ははは(笑)。あんなにでかい大福をね。いろんな角度から撮ってるから、3個くらい食ったんじゃないかな?
――同じシーンには、藤堂成悟役の藤木直人さんも出演されていましたが、2004年放送の月9『愛し君へ』(フジテレビ系)以来、21年ぶりの共演になるんですね。
西岡:当時から綺麗な顔をした、いい男だなと思ってたの。明るくて、面白いことを言ったりもするから茶目っ気があるんだよね。
――今回はワイルドな役柄ですね。
西岡:俳優は、あまりやったことがない役をやるほうが面白いんだよ。何をやっても同じだねって言われちゃうし、だから全然違うことをやりたかったけど、「いま、何に挑戦したいですか?」と聞かれたら、俺が何かに挑戦するんじゃなくて、誰かが俺に何をやらせたいかなんだよ。“乳首ドリル(編注:2016年末の『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』に出演し、吉本新喜劇・すっちーの「乳首ドリル」を完コピしたことが話題になった)”みたいなこともするから(笑)。「どれが本当の西岡さんですか?」とも言われるけど、ヤクザも演じるし、優しいお父さんも、怖い先生もやる。どれも本当なんですね。俺の中に内在している何かをデフォルメして演じているわけだから、何にもないところからは出てこない。ヤクザだったら、俺の中にある狂気を掘り出してるんだよね。
――なるほど。山口紗弥加さん演じる結城香と鉄斎先生は姉弟関係にあります。
西岡:彼女とは縁があってね。僕は1990年から1995年まで「プレイヤーズ」という自分の事務所を構えてたんです。そこに何人か来た中の一人が九州からやってきた彼女だったんだよね。この子は可愛いし面白いから、大きくなるんじゃないかなと最初から思っていたんですよ。蜷川(幸雄)さんの舞台にもよく出ていたりして、一方的によく見てたから。共演したのは今回が初めてだけど、ビビットですごくいいと思う。いい人は残るんだよ。俳優は感性だから。自分が表現していくために、まずは感じなきゃいけない。心を動かすことが、自分もそういうことがあるかもしれないなと共感させて感動を呼んでいくから。そういう意味で、のんちゃんは十分に心がムーブメントしてるのがよく分かる。沈黙の中にどういった感情が潜んでいて、それをあえて喋らないのかが見ていて面白いんですよ。
――10月5日は西岡さんの誕生日です。おめでとうございます! Instagramを拝見していても、こんなにバイタリティに溢れた79歳はなかなかいらっしゃらないなと思います。
西岡:いやいや。だいたい俺もあと50年くらいは生きるつもりでいるから。還暦があって、喜寿、米寿と区切りがあるけど、今度舞台(「『新 画狂人北斎』―2025―」)で演じる葛飾北斎は、100歳を超えても「まだ足りねえ」と言っていたんです。これから孫のことだけ見ていられればいいけども、俺ももうちょっとやりたいことがあったんじゃないかとも思うわけだ。絵が描きたかった、書道をやってみたかった――スポーツは体力を使うから難しくなっていくかもしれないけれど、将棋はずっと考えていられる。自分の中で想像していくから。
海に浮かんでる氷山は、7分の1しか外に出てないんだよ。7分の6は海中にある。俺の人生もまだ、7分の1しか出てない氷山の一角かもしれない。どんなものが内在しているのか。俺は全てを出し切ったと思ってるけど、まだ見えていない部分を掘り起こしてくれる人がいて、そこを刺激されることで成長もできる。そういう意味では芝居も将棋と同じように、時間をかけて熟考できるものだと思います。