『遊戯王』デュエル動画クリエイター・サンダー&ミソに「動画制作の舞台裏」を聞いてみた
『遊戯王』のカジュアルな楽しみ方には2種類ある。
・漫画&アニメのキャラを模倣して、“ごっこ遊び”として没入する楽しみ方
・競技では注目されないカードに光を当て、“構築”の可能性を追求する楽しみ方
今回、話を伺うのはサンダーさん&ミソさん。上述した、2種類の楽しみ方をそれぞれ体現する、人気のデュエル動画クリエイターだ。ニコニコ動画時代から各々で活動していた彼らだが、ついに5年前に合流を果たす。現在は公式イベントでもMCを務めるなど、活動の幅を広げている。
彼らは「最強タッグ」なのか? それとも「水と油」なのか? デュエル動画制作の裏側に迫った。(小川翔太)
僕たちの動画の主役は「演者」ではなく「カード」
ーー本日はよろしくお願いします! まず、お二人が作っている「カードゲーム系YouTube動画」は、一般的なYouTube動画とは撮り方も構成も異なっています。動画を作る上でどのようなことを意識していますか?
サンダー:特に気をつけているのは「カードテキストの説明を丁寧に伝えること」です。カードゲーマー同士だと、カードを見ればどんな効果か分かるので、普段の対戦ではテキストを読み上げることはしません。
しかし、動画にする場合、視聴者の方にわかりやすく伝えるために、カードの効果を1つずつ説明することを意識しています。
ミソ:あと僕らは徹底して、真上から撮影しています。自分たちの目元の視点で(若干、斜めの角度から)盤面を撮影している(カードゲーム対戦系の)YouTuberさんもいますが、カードの表面が光で反射しない角度を意識するなど、とにかく「カードが見やすい動画」を心がけています。
サンダー:真上からの撮影方法が分からず、三脚を立てて、斜めから撮影している方は多いです。しかしそれだと、カメラから遠い距離に行くほど、カードが見えづらくなってしまう。それを避けるためにも、真上からの撮影はやるべきだと考えています。
ミソ:一般的なYouTube動画は演者が主役ですが、僕たちの動画の主役は演者ではなくカードなので。
ーー確かに、最近はTCGの大流行に伴い、対戦動画も増えていて、当たり前のようにカードが反射している対戦動画も出てきましたが、あれは違和感として気になります。編集時に気をつけていることは何でしょうか?
ミソ:動画の編集については、テンポを意識しています。ただ正確には(テンポの良さは)編集時ではなく、撮影の段階で気をつけるようにしています。
例えば、撮影時にカードの説明中で詰まることがあります。そんな時も、編集時でカットしやすく(編集点を意識しながら)分割して説明するなど、撮影段階から完成形をイメージしています。
『遊戯王』以外の動画は「伸びにくい」けど好きだからやる
ーー対戦動画に限らず、『遊戯王』関連のいろんな動画を作られていますが、思っていたよりも「伸びた企画」と「伸びなかった企画」を教えてください。
ミソ:最近では「4人に10枚ずつカードを買ってきてもらって、1つのデッキを組む動画」が伸びました。正直、そこまで伸びるとは思っていなかったんですが、予想以上に反響がありました。みんなで協力して何かを達成する企画は、やっぱり面白いんですかね。
ーーあれは確かに面白かったです。ところで、ミソさんはバズった企画をもう1回やるケースが少ない気がしますが、なぜですか?
ミソ:僕自身が飽きてしまっているのと、1回目の面白さを2回目が超えることがほぼないからです。
ーーサンダーさんはいかがでしょうか?
サンダー:「サンダー昔ばなし」シリーズが予想以上に見てもらえました。
ミソ:サンダーさんのように25年間も『遊戯王』を続けていて、カードに関する昔話を何でもできる人は珍しいです。それだけでも結構食いついてもらえる。
サンダー:(25年間も)『遊戯王』をやり続けている人が少ないからこそ、逆に(最近の世代には)昔の話を新鮮に聞いてもらえます。
例えば《サンダー・ボルト》は、最近は「あまり強いカードではない」というマイナスな印象を持たれがちですが「《サンダー・ボルト》は第1期の「STARTER BOX」にしか入っていないから、そもそも手に入らないカードだった」といった当時の状況を話すことで、カードの強さ以外の価値を伝えられます。
同じカードでも、最近のデュエリストとは違った視点から語れるので、そこがウケているんじゃないかと。
ーー伸びない動画についていかがでしょうか。
サンダー:『遊戯王』以外はあまり伸びにくいです(笑)。デジモンカードやベイブレードなどの動画は、単純に僕が好きなので、再生回数を気にせずに上げています。ただ、ミニ四駆は伸びると思ってやってるんだけどなぁ。
ミソ:ミニ四駆は伸びないよ。伸びると思ってるのはサンダーさんだけだよ(笑)。
お互いのデッキの「パワーバランス」には常に苦労している
ーー『遊戯王』には「競技」と「カジュアル」の2つの楽しみ方があります。お二人はカジュアルに属するかと思いますが、お二人の間でも方向性は正反対なのかなと。サンダーさんはキャラになりきって「ごっこ遊び」のようにホビーとして楽しむ。ミソさんは競技デュエルへのアンチテーゼとして、普段使われないカードに焦点を当てる『遊戯王』の新たな楽しみ方を追求する。この対極なスタイルは「動画の面白さ」になる一方「噛み合わなさ」にも繋がる気がします。どのようにバランスを取っていますか?
ミソ:何かを話し合ったわけではありませんが、お互いに意識してバランスを取っているのだと思います。例えば、サンダーさんが使用する「キャラになりきったデッキ」が強くなりすぎる場合は、僕のデッキのパワーに合わせて、調整してくれています。
また、僕がマイナーなカードを使う際も、漫画やアニメのキャラクターのコンセプトを加えて「(サンダーチャンネルの)視聴者さんが見て楽しく、自分たちもプレイして楽しい」状態が作れるように工夫しています。
サンダー:ただ近年の(キャラデッキ向けの)新カードには、微調整でも強さを抑えきれない強力なカードも多いです。その場合はやむを得ず「今回はデュエルの強さレベルを一段階上げよう」と話し合ったこともありました。
最近では『DOOM OF DIMENSIONS』で収録された新しいテーマデッキである「ドゥームズ」を使用する際に「強いデッキを組むから、ミソさんも強いやつでお願い」と打ち合わせをしました。
ミソ:「新テーマを解説する企画」では、僕たちが本当に好きな環境とは、違うデッキで対戦することになります。僕たち自身も実際に使ってみないと分からない部分が多く、あくまでも「テーマの動きを紹介する動画」と割り切ってやっています。
ーーパワーバランスの調整に特に苦労された時期はありますか?
ミソ:常に苦労していますね。撮影ごとに調整が必要で、少しでもバランスが崩れると動画が面白くなくなってしまうんです。奇跡的にうまくいく日もありますが、強いデッキにはどうしても勝てない時もあります。
サンダー:ドゥームズデッキを使用して、「ドゥームズ強いぜ!」ということを伝えたかったのに、負けてしまったこともありました。
ミソ:常に撮影しているので、苦労したエピソードは多すぎて覚えていないくらいです。
“仕込み”をしないのは「自分たちが楽しみたい」から
ーー普段はどのくらいの頻度で撮影をされているのでしょうか?
サンダー:週に1回ですね。5時間くらいで3本分を撮っています。
ミソ:撮り終わった後に「今のダメだね」とすぐにボツの判断をすることもあります。そういう時は、同じデッキで何試合か撮って、その中で一番良い対戦を採用しています。
だいたい、最後に撮った対戦を採用することが多いですね。一発撮りで成功するのは、6割くらいです。
サンダー:ただ、何度も撮り直していると、新鮮なリアクションができなくなってしまうので、やはり一発撮りで成功させるのが理想的です。リテイクを何度も重ねた時は、1回目にやったリアクションを思い出しながら、もう一度演じることもあります。
ーー初回の撮影で成功させるコツはありますか?
ミソ:事前に「デッキの強さ」をすり合わせをすることですね。デッキの強さを10段階で表現して、一方的な戦いにならないように調整します。
サンダー:あらかじめ「墓地除外をされたら困る」などの、局地的なメタを伝えておくこともあります。
ーー噂レベルの話ですが(対戦動画の界隈では)演出のために「デッキの積み込み」をするケースもあると聞きました。個人的には、デッキの動きを紹介するという点では、必ずしもダメではなく、良質な撮れ高を作るという点では、とても合理的だとは思いますが、お二人はされないのでしょうか?
ミソ:程度はあると思いますが、ある種の「予行演習」をしている方はおそらくいると思いますが、僕たちがそれをやらないのは、プライドですね。「仕込みはしないぞ」という気持ちでやっています。
サンダー:勿論、視聴者の皆さんに楽しんでもらいたい気持ちはありますが「まず僕たち自身が楽しみたい」という気持ちが第一にあります。
自分たちが心から楽しむからこそ、それが視聴者にも伝わると思っています。
嬉しかった瞬間「KONAMIからお仕事をいただいたとき」
ーー長く動画配信を続けられている中で、「やっていて良かった瞬間」と「もうやめたいと思った瞬間」について聞かせてください。
ミソ:やっていて良かったのは、やはり「KONAMIさんからお仕事をいただいた」瞬間ですね。これは本当に嬉しかったです。
やめたいと思った瞬間はないです。ただ、編集が溜まりに溜まった時はさすがに辛かったです。案件動画も含めて、2日で4本の動画を仕上げなければいけなかった時は、泣きながら作業しました。
サラリーマンとして働いていたころよりもストレスが少なく、楽しいと感じているので、本気で「やめたい」と思ったことはありません。
強いて言えば、開封動画を撮っている時に、レアカードを軒並みサンダーさんに持っていかれた時は、本当にイラっとしてやめたくなりましたね(笑)。
サンダー:それはどうしようもできないやんけ(笑)。しかも、自分でパックを選んだ結果じゃん(笑)。
ーー(笑)。サンダーさんはいかがでしょうか?
サンダー:同じく、公式の仕事ができたことです。また「動画で生活ができている」という事実が本当に嬉しいです。やめたいと思ったことはないですね。
面倒な作業はありますが、辛い時でも「やめること」を考えたことはありません。
「カードショップは開く?」「カード開発する?」
ーー今後、お二人の活動をどのように広げていきたいと考えていますか?例えば、カードショップの経営など、展望を教えてください。
サンダー:カードショップの経営は、まったく考えていません。カードに値段をつけるのが苦手なんです。ホビーとして楽しんでいるので、価格をいちいち気にしながら、生活するのは合わないなと。
もしお店をやるなら、誰でも気軽に遊べるプレイスペースを運営する方が良いですね。
生涯現役として動画に出ることも考えていますが、10年後、20年後のことを考えると、後進の育成にも力を入れていきたいです。偉そうに聞こえるかもしれませんが、これまで関わってこなかった部分なので、正直、少し責任を感じています。
ーー確かに、サンダーさんからいろいろ学びたい人は多いと思います。
サンダー:僕がもう少し早く後輩を育てていれば、もっとスターが出てきて「炎上する人も減っていたのかな」と思うこともあります。「こういう発言は控えたほうがいい」とか、「デッキはこういう風に組むと動画が盛り上がる」といったことを、次の世代に伝えていければいいですね。
ミソ:僕も店舗経営などは、全く考えていないですね。今は動画を作ることが一番面白いから続けていますが、もし飽きたらあっさりやめるかもしれません。
ただ、それは今やっていること以上に面白いことが見つかった時だと思います。この15年間でそれが見つかっていないので、これからもずっとデュエル動画の延長線上にいる気がします。
カードゲーム以外の分野でも、本気で楽しめることなら何でもやってみたいです。例えば、今回のAAオフでは「自分が楽しいから」という理由でグッズを作りました。将来的にグッズ屋さんをやるのも良いかもしれませんが、未来のことはまだ分かりませんね。
ーー例えば、もし機会があれば「カードゲームのデザインをしてみたい」というような気持ちはありますか?
ミソ:話が来たらやりそうですが、正直、自分にそんな能力はないと思います(笑)。
サンダー:僕も同じです。今でこそ「このカードはこうすればもっと面白かったのに」と好き勝手に言うことはできますが、いざ自分で作るとなると、できないでしょうね。
僕たちはあくまで「作られたカードをどう調整して遊ぶか」に長けているんだと思います。
ミソ「昔、ogaさんという人が言ってたんですが…」
ーー最後に、デッキ構築のコツについてお聞きします。デッキを組み始めるとき「この1枚をキーカードにしよう」と決めたはずなのに、最終的にキーカードが抜けていってしまうのはデッキ構築あるあるです。これまでお二人の中で、最も構築難易度が高かったカードは何でしょうか?
ミソ:《裁きの代行者サターン》です。イラストがかっこよく、ステータスも効果も好きなカードなので、何とかしてデッキにしてあげたかった。ただ、このカードって、うまく使えば使うほど、盛り上がるゲームにならないんです。
このカードは「自分のライフが相手より多い場合に、その差分のダメージを相手に与える効果」を持っています。なので、デッキに入っているのが分かった時点で「ライフ差で勝とうとしているんだな」という戦略が、相手にバレてしまうんです。
そうなると(本来、やりたいはずの)お互いにライフを削り合う、白熱した対戦になりづらく、《裁きの代行者サターン》でコンボを決めて勝つときは、ワンショットキルになって、まるでシャドーボクシングみたいになってしまう。
ただ単に《裁きの代行者サターン》のコンボでゲームに勝ちたいだけなら簡単なのですが、動画で見せるとなると、あまり映えないので難しいカードです。
ーー確かに「対戦動画」である以上、対戦相手とのコミュニケーションも発生しないデッキになってしまうと使いづらいですね。サンダーさんにとって、構築が難しかったカードは何でしょうか?
サンダー:ゴースト骨塚のキャラクターデッキで使われている《ゴースト王-パンプキング-》です。
そもそも、原作でゴースト骨塚が使用しているカードの中で、OCG化されているものが少ないんです。そんな状況で、アンデッド族の要素も入れつつ、ゴースト骨塚らしさを出すことをずっと考えているんですが、25年間ずっとしっくりきていないですね。
ミソ:僕は面白いと思ったデッキをどんどん組めるポジションですが、サンダーさんの場合はキャラクターのコンセプトを成り立たせる必要があるので、そこがさらに難しいところだと思います。
サンダー:(原作で使用されたカードだけでは構築に限界があるので)僕は「このカードなら、このキャラクターが使っても違和感はないかな?」と想像しながらデッキを組んでいます。「現代の環境で、もしそのキャラクターがデッキを組んだら、きっとこのカードを選ぶだろうな」という解釈を深めるイメージです。
ーー令和に武藤遊戯がいたら……という想像力で作るんですね。
サンダー:そうです(笑)。あと極端にデッキを強く調整しようとすると、キャラクターらしさが失われることもあるので、とにかくキャラクターを表現することを一番大切にしています。アニメのキャラクターって、一方的に勝ち続けるわけじゃないですからね。
一度強いデッキを組んでみて、そこから出力を落とすこともあります。
ミソ:そういえば、昔、ニコニコ動画時代に「ある人」に言われた格言があるんです。
「1枚のキーカードを軸にデッキを組み始めた結果、たとえ“キーカード”がデッキから抜けたとしても、それは“キーカード”のデッキとして扱ってよい」。
つまり「《ヴィシャス・クロー》にインスパイアされて、作ったデッキなのであれば、最終的に《ヴィシャス・クロー》が1枚も入っていなくても「《ヴィシャス・クロー》デッキを名乗って良い」と。
目の前で僕にインタビューしている、小川さんが言っていた言葉なんですけど(笑)。
ーー(笑)。
サンダー: その言葉を聞くと、デッキを組むハードルが下がるよね。そこまで気負う必要はないんだなって。
ミソ:そうそう。「あのキーカードを使ったデッキを考えてみたけどうまくいかない」と悩むことが、誰しもあると思いますが、新たなデッキは生まれているんだから、それでいいじゃないかと。
その“キーカード”が存在してなかったら、そのデッキは生まれていないんだから、インスピレーションを受けた時点で、そのカードのデッキだと言い張って良いのだと。
当時、動画で公開するデッキ構築に悩んでいた時期もあったのですが、小川さんのその言葉のおかげで、少し楽に考えられるようになった気がします。
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