『Nintendo Switch 2 のひみつ展』でもピックアップされたポケモン開発会社による名作『スクリューブレイカー』のススメ

 6月5日、Nintendo Switch 2本体と同時に発売されたダウンロード専用ソフト『Nintendo Switch 2 のひみつ展』は、巨大展示会の会場を自由に歩きまわり、Nintendo Switch 2の様々な“ひみつ”を発見していく体験型のゲームだ。

Nintendo Switch 2 のひみつ展 紹介映像

 実のところ……筆者はまだ本記事執筆時点でNintendo Switch 2本体を手に入れていない身で、同作はまだ遊べていない。しかしある日、SNSで同作に関する非常に興味深いスクリーンショットを目にする機会があった。

 それは「任天堂と振動機能」の歴史を紹介する展示の一幕。そこに『スクリューブレイカー 轟振(ごーしん)どりるれろ』(以下、スクリューブレイカー)が映し出されていたのである。

 「あの“どりるれろ”がピックアップされているの!?」と、それを見た筆者は思わず二度見してしまった。『スクリューブレイカー』は、任天堂の携帯ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」で発売された知る人ぞ知る傑作で、筆者も当時、リアルタイムで遊んだ思い出深い1作である。

 ただし、『スクリューブレイカー』は完全新規の単発作品で、シリーズ化もされなかった関係で世間的な知名度は正直、高くない。また、『スクリューブレイカー』が発売された2005年9月当時は、前年に発売された任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」の躍進、『スーパーマリオブラザーズ』誕生20周年企画のプロモーションなどの話題が席巻していた影響もあり、本作に関しては目立ちにくい空気が醸成されていた。

 さらに言えば、ゲームボーイアドバンスも「ゲームボーイミクロ」という新モデルの発売こそあれど、ニンテンドーDS躍進の影響から末期ムードが漂いつつあった。

ゲームボーイミクロ本体と『スクリューブレイカー』

 そんな時期に出たゲームなのもあって、ひょっとすると当時をリアルタイムで過ごした世代でも、『Nintendo Switch 2 のひみつ展』の紹介を見て「なにこれ?」との反応を示した人がいるかもしれない。

 だが、声を大にして言おう。本作は紛うことなき傑作だ。2Dアクションゲーム好きならイチオシもイチオシ、さらに言えば「ポケットモンスター」(ポケモン)シリーズ好きにも見逃せない1本である。

あの「ポケモン」で知られるゲームフリークが制作した、振動カートリッジ採用の2D“ドリル”アクション

 『スクリューブレイカー』は2005年6月、アメリカ・ロサンゼルスにて開催されたゲーム見本市「E3」において初お披露目され、それから3カ月後の9月22日に日本先行で発売された。ちなみに海外(北米)では2006年2月6日に『Drill Dozer』の名で発売されている。

 ジャンルは横スクロールのステージクリア型アクションゲーム。義賊「レッドリル」のリーダーを父とする小学生の女の子で主人公「ドリ・くるり」が、悪の盗賊団「ドクローラー」に奪われた家宝「レッドダイヤ」を取り返すために戦うという内容だ。

 『Nintendo Switch 2 のひみつ展』でのピックアップにあるように、本作はROMカートリッジに振動機能を内蔵した「振動カートリッジ」を採用。詳細は後述するが、本作の売りであるドリルアクションを決めた時にカートリッジがブルブルと震えるようになっている。

 振動カートリッジ自体は1999年4月発売の『ポケモンピンボール』(ゲームボーイ&ゲームボーイカラー)にて誕生。当時はカートリッジ側に単4電池1本を入れる必要があった。本作の振動カートリッジは単4電池不要で、そのままゲームボーイアドバンス本体に差し込んで遊ぶだけで振動機能を楽しめる設計となっている。

 また、2003年発売のニンテンドー ゲームキューブ向け周辺機器「ゲームボーイプレーヤー」でプレイした時のサポート機能も搭載。こちらで遊んだ時はカートリッジではなく、ゲームキューブのコントローラー側で振動する仕組みへと切り替わるようになっている。

 そんな本作を開発したのはゲームフリーク。「ポケモン」でお馴染みのゲームソフト開発会社だ。本作の振動カートリッジに並ぶセールスポイントのひとつがこれ。実は本作、「ポケモン」を作った会社による完全新規タイトルなのである。

 ディレクターは「ポケモン」およびポケモントレーナーなどのキャラクターデザインのほか、漫画家として活動していた実績でも知られる杉森建氏。ほかシナリオはゲームフリーク黎明期からのメンバーでもあったとみさわ昭仁氏、『ポケットモンスター 金・銀』以降の「ポケモン」シリーズでファン人気の高い戦闘曲を手がけていることで知られる一之瀬剛氏が参加している。

ちなみに本作には取扱説明書とは別に、キャラクター紹介と漫画によるオープニングストーリーが描かれた全6ページのキャラブックも同梱されている(漫画は杉森建氏が執筆)

 本作は当時のゲームフリークにとっては、大変ご無沙汰な「ポケモン」以外の新規タイトルだった。同社は「ポケモン」が誕生した後の1997年以降も『BUSHI青龍伝 ~二人の勇者~』(1997年/スーパーファミコン)、『クリックメディック』(1999年/PlayStation)といった完全新規タイトルを出していた。しかし、2000年代を迎えてからは、「ポケモン」の新作およびリメイクの開発が主体となった。

 完全新規のタイトルはまったく出なくなり、「ポケモン」の開発会社としてのイメージを強固にしつつあったのだ。そもそも、「ポケモン」自体が記録的な大ヒット作となったゆえ、傾向としては自然な流れではある。

 ただ、(おそらくイレギュラーではあるが)「ポケモン」ではなく、『ジェリーボーイ』といったアクションゲームを通してゲームフリークのことを知った筆者としては、当時の傾向には寂しさを募らせるばかりだった。「もう、ポケモン以外のゲームを作ることはないのだろうか……」と。

 そんななかで発売された本作は、(筆者個人としては)まさに待望の1作だった。当然「久々のアクションゲームなら黙っちゃおれん!」となり、発売当日に買った次第である。ちなみに時系列的には『クリックメディック』から実に6年ぶりの完全新規タイトルとなる。アクションゲームの新作としては『パルスマン』(1994年 メガドライブ)以来、なんと11年ぶりである。

 なお、本作の開発コンセプト、ジャンルに込めた思い、「轟振どりるれろ」のサブタイトルが付けられるまでの経緯については、本作の公式サイト内のコラム「杉森建のときどき更新されるれろ」(※1)にて、ディレクターの杉森氏自らが語っている。

 2025年現在もこのコラムは読めるので、本作に興味を持った人や既にゲームを遊んだことのある人はぜひチェックしてみてほしい。

ドリルは不可能を可能にする! 文字通り“一気通貫”なゲームデザインが驚きと笑いを誘う

 本作発売当時の状況を中心に語ってしまったが、根幹たるゲーム本編も大変魅力的である。何よりも「ドリル」のテーマを徹底的に貫き通した、文字通り“一気通貫”なゲームデザインが異彩を放っている。

 本作でプレイヤーが操作する主人公くるりは、「ラセンダー8」なる二足歩行型ロボット(作中の名称では「ロンボ」)に搭乗しており、これに装備されたドリルで敵と戦ったり、行く手を阻む仕掛けを壊しながらステージを進んでいく形となっている。

 ラセンダー8に備わったドリルはL・Rボタンを押すと回転。通常回転はRボタンで、Lボタンでは逆回転となる。また、ステージ開始時点ではどちらも基本、1回転しかできないが、ステージ内で「ギア」のアイテムを獲得すればドリルがパワーアップ。タイミングに応じてL・Rボタンを押すことでドリルを連続回転させて勢いを高める「ドリアップ」が可能になる。

ドリアップ時にはくるりが「ドリャ~~ッ!」というボイスを発するのだが、これが大変可愛らしい

 ドリアップが可能になれば、初期レベルでは対応できなかった特殊な仕掛けを壊せるようになったり、耐久力の高い敵に連続ダメージを与えられるといった恩恵が得られる。さらにパワーアップが最大の3段階目に達すれば、リミッターが解除された「トップギア」状態となり、L・Rボタンを押しっぱなしでドリルを無限に回転させられるようになる。

 一連のパワーアップはステージクリアの時点でリセットされ、次のステージでは再びギアを探して集めていくことになるのだが、逆にステージを進むたびできることが増えていく楽しさが全編で繰り広げられるため、終始、退屈する暇のない内容にまとめられている。

 そして、特筆すべきがドリルでどんな問題も難関も乗り越えてしまう展開の数々。ドリルという単語からは「掘る」の動詞が連想されることから、本作に対しては壁や地面に穴を開けながら掘り進むことを主としたゲーム内容および遊びをイメージしやすい。

 実際、そういった展開や場面は用意されているのだが……本作はそれだけで完結する内容ではない。それどころか、「そんなこともドリルでやるの!?」とツッコミたくなる展開のオンパレード。

ドリルを回しながら空を飛ぶ!「なんで飛べるの?」ってドリルだからですよ

 襲い来る敵にドリルを突き刺して撃退する戦闘は序の口。シャッターや金庫を開ける、敵の弾を跳ね返す、ネジを外す、ドリル回転の反動で大ジャンプを決める、果ては水中を潜行する、空を飛ぶなどなど。まさに「ドリルは不可能を可能にする」を地で行く衝撃(笑撃とも書く)のアクションとシチュエーションが最初から最後まで連続するのだ。

 それにちなんでか、各ステージの密度も驚くほど濃い。場所によってはパズル、謎解きに挑むことも要求されるなど、一筋縄ではいかない内容にまとめられている。そもそも、1ステージあたりの攻略に10~20分強かかる時点で、その規模の大きさが察せるはずだろう。

 戦闘面でも節目ごとに個性的な中ボス、大ボスたちが登場しては場を盛り上げる。それぞれの倒し方もシンプルに弱点にドリルを突き刺すだけにとどまらず、パズル的な考え方も求められてきたりと、非常に丁寧な個性付けが図られているのも必見である。

 逆に言えば、謎解きなどの要素もある関係で足止めされる場面も多く、全体的なゲームテンポはゆったりしている。アクションもロボットを操縦する設定にちなんでか、スローテンポかつ重量感のある手触りで、スピーディかつスタイリッシュなアクションや操作感を期待すると肩透かしを食らうだろう。

 しかしその分、アイデアと密度の濃さ、操作感の心地よさに全振りした内容に完成されている。とりわけドリルから連想されるアイデア、アクションにこだわり尽くした作りはプレイすればするほど感心させられること確実。何より、ドリル以外の武器には一切頼らず、登場させもせずの作りは誇張抜きに圧巻で、“一気通貫”の真理を実感させられるはずだ。

いずれNintendo Switchで遊べるようになったら、ぜひ体験してみてほしい珠玉の1作

 本作は音楽、ストーリー、演出といった部分の完成度もすこぶる高い。音楽はノリノリかつ熱い楽曲ばかりで、特に「トップギア」時に流れる楽曲は単に聴くだけでもテンション爆上げ不可避になってしまうことをお約束する。

 そもそも、本作の楽曲を手がけている一之瀬氏が、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のペパー戦の楽曲を担当された御方であると言えば、「ポケモン」シリーズのファンならその出来栄えを察するはずだ。

 ストーリーも1980~1990年代のアニメを思わせるノリと、終盤の熱すぎる展開が強烈な印象を残す。筆者イチオシの見どころはラスボス戦で、思わず開いた口が塞がらなくなりかねないほど衝撃の内容となっている。どんな戦闘なのかは見てのお楽しみだが、色んな意味で忘れられないラスボスとして思い出に刻み込まれるだろう。たぶん。

 冒頭で紹介したように本作は発売時期の際どさなどから、知る人ぞ知る作品となった。しかしながら、海外ではゲーム誌『Nintendo Power』の2006年度のゲームボーイアドバンス部門ゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞。海外ゲームニュースサイト「GameSport」でもゲームボーイアドバンス部門ゲーム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされている(※2)。また、アメリカの経済誌『Forbes』のWEB特集で「全ゲーム機最高の2Dアクションゲーム」と紹介されたりと、非常に高い評価を得るに至った(※3)。

 主人公・くるり&ラセンダー8も『大乱闘スマッシュブラザーズX』でアシストフィギュアとして登場。そして、2025年には『Nintendo Switch 2 のひみつ展』にて、任天堂と振動の取り組みの一端として紹介されるなど、一定の存在感を保ち続けている。

 また、ゲームフリークも本作発売後は再び、「ポケモン」の新作開発を主とする方向に戻りはしたが、新たに「ギアプロジェクト」なる施策を打ち立て、『リズムハンター ハーモナイト』『ソリティ馬』などの完全新作タイトルが相次いで登場。

『GIGA WRECKER ALT.』より

 アクションゲームとしても『Tembo The Badass Elephant』と『GIGA WRECKER(ギガレッカー)』という完全新作が登場しており、本作や過去の『パルスマン』『ジェリーボーイ』などの歴史が保たれ続けている。

 残念ながら、2025年現時点で最新の環境で本作をプレイすることはできない。また、オリジナル版も中古市場で異様な価格高騰を見せており、手を出しにくくなっている。しかし、本作は2015年にWii Uのバーチャルコンソールで復刻された実績がある。もちろん、オリジナル版の振動機能も完全に再現された形で、だ。

ここまで紹介してきた本作のスクリーンショットは、すべてWii Uバーチャルコンソール版のものである

 ゆえに今後、Nintendo SwitchおよびNintendo Switch 2の『ゲームボーイアドバンス Nintendo Classics』で復刻する可能性は十分にあるだろう。いや、むしろ『Nintendo Switch 2 のひみつ展』でピックアップしたなら、復刻は義務レベルに等しいだろう。

 2025年のいまに遊んでも、一気通貫を地でいくゲームデザインとアイデアの数々が色あせない素晴らしい2Dアクションゲームであるので、もし本記事を通して遊びたい気持ちが増したのであれば、配信のあかつきにぜひ触れてみていただきたい。『Nintendo Switch 2 のひみつ展』を通して知った人であればなおのことだ。

 ゲームフリークの知られざる「ドリャ~~ッ!」な傑作、見逃すなかれ!

▼参考資料・リンク
※1 杉森建のときどき更新されるれろ(『スクリューブレイカー 轟振どりるれろ』任天堂公式サイト)
https://www.nintendo.co.jp/n08/v49j/column/index1.html

※2 Best Games and Worst Games of 2006 at GameSpot(Internet Archive)
https://web.archive.org/web/20070203005407/http://www.gamespot.com/special_features/bestof2006/platform/index.html?page=2

※3 The GBA Is 18: Here Are Five Incredible Exclusives You May Have Missed On The Game Boy Advance
https://www.forbes.com/sites/mattgardner1/2019/06/11/the-gba-is-18-here-are-five-incredible-exclusives-you-may-have-missed-on-the-game-boy-advance/

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