ゲームシナリオの深層 第3回
『Avowed』老舗スタジオが真っ向から描く冒険譚 二者択一によって紡いでいく物語の奥深さ
良質なシナリオを持つゲームを楽しみ、プレイングのあいだに隠された真相を読み解く連載企画「ゲームシナリオの深層」。第3回は『Avowed』を取り上げる。
※本稿には『Avowed』のネタバレを含むため、未プレイの方はご注意いただきたい。
かねてより良質なコンピュータRPG(CRPG)を作ってきたObsidian Entertainmentが送る最新作『Avowed』。『Star Wars Knights of the Old Republic II: The Sith Lords』『Fallout: New Vegas』『The Outer Worlds』といったSF寄りの作品を作ってきた印象が強いが、実はハイファンタジーもしっかり描けるスタジオなのだ。
※なお、彼らの来歴は下記の記事で書かせていただいたので、併せて読んでいただけるとうれしい。
洋ゲー界の雄・Obsidian Entertainmentとは何者か? 『Avowed』『The Outer Worlds 2』を手掛けるディベロッパーの軌跡
2025年、Xbox Game Studiosから発売される王道ファンタジーRPG『Avowed』と、ブラックジョークまみれのス…『Avowed』は彼らが制作したCRPG『Pillars of Eternity』と世界観を共有しているが、本作自体はそこまで超大作というわけでもない。
主人公はアディア帝国の使者。生ける大地に蔓延する奇病「夢蝕病」を根絶するために、ドーンショアの地へ降り立った。道中で仲間たちの力を借りながら、自らの内なる源神の声に従い、混沌とする生ける大地を渡り歩いていく。
本作も他のObsidian製RPGと同じく、いわゆる選択型進行のシステムを取っている。「夢蝕病を根絶する方法を探す」という大目標以外は、好きなように進めてよい。といっても、サンドボックス的な遊びではなく、あくまで二者択一の選択を迫られ、どちらのコミュニティに属するか、どちらの意見を尊重するかという話に行き着くケースがほとんどだ。
そもそも、主人公が渡り歩くことになるメインの四つのマップには、それぞれ大きな街(集落)がひとつあり、そこ以外はすべてダンジョンである。小さなクエストを除けば、その街で起きる問題をどう解決するかについて主人公が意見することで、話が終わるパターンがほとんどだ。それも、主人公に意見する代表者のどちらかが損をするか、大変な事態に直面することになるという、痛ましいものばかり。
この作りは今どき珍しいものでもなく、CRPGには多かれ少なかれ存在するし、10年前にCD Projekt REDの『ウィッチャー3 ワイルドハント』が金字塔を打ち立てたといってもいいだろう。本作でも、この世には全員が正しいと思う解決なんて存在しないんだ――という作者のポリシーすら感じるほど、あっさりと街が滅んだり、大量に人が死んだりする。
それに対し、仲間キャラクターはさまざまな反応を見せる。筆者のプレイングでは離反こそしなかったが、自らのアイデンティティに照らし合わせ、怒ったり、喜んだり、慰めてくれたり、悩んだりしてくれた。
これらのテキストこそ本作の醍醐味であるように感じた。キャラクターそのものの魅力(見た目や能力といった属性的な部分)は同社の作品の中では落ちるものの、セリフ回しはかなり気を遣っていたように感じた。翻訳も素晴らしかったように思う。
『The Outer Worlds』は、しょうもないスカムジョークや、もはやどうして従業員が継続して働けているのかわからないほど度が過ぎたブラック企業ネタのギャグが山ほどあったが、本作はだいぶ落ち着いている。『The Outer Worlds』では主人公の知能を最低にして「オトボケ」というおバカな発言ができたのに対し、『Avowed』の主人公は帝国の使者ということもあって、割と真面目だ。
そんなこともあって息が詰まったり、しばらく休憩したくなったりするタイミングもあったが、結果としては今のObsidianがここまで正面から冒険を描けるのかという意味で感嘆する場面もあった。
スカムジョークは一瞬笑えるものの、全体のリアリティラインをいたずらに避けてしまう危険性があるので、『Avowed』で多用するのは避けたかったのだろう(もちろんゼロではないので、たまに来ると笑ってしまう)。
また、本作は徹頭徹尾、主人公の頭の中に住む源神「サパダル」とのやりとりによってストーリーが進む。途中から、檻の中に幽閉されているサパダルを解放してあげるべきではないか、という目標が追加されるのだ。
神の声が示してくれるから、という理由でストーリーが進むこともあり、一部のシーンではだいぶ便利すぎるような気もしたが、そのうちに話は壮大になっていき、この旅が神々の代理戦争であることがわかってくる。
筆者は『Pillars of Eternity』シリーズに精通していないため、あくまで『Avowed』のなかで描かれているレベルの事情しか知らないで決断してしまったが、ついに主人公は街の行く末だけでなく、神々の諍いにまで口を出すようになるのか……という奇妙な感慨にも耽ってしまった。
神々の諍いについては、スケール感がデカすぎるわりに、結局はただの復讐の連鎖だったりもして、その辺がむしろ神話らしいと言えばらしいのだが、筆者としては本作のシナリオのピークはソラス砦の存続にあったと思う。
伝統を重んじるがあまりに周辺国からの物資すらも拒むミハラと、新しい風を取り入れるために本末転倒なことをしようとするコスチャ。元々Obsidianはこの手のクエストを作る際は両者に花を持たせる(あるいは両者とも貶す)ようなテキストを書いてきたとは思うが、その作り込みが極まってきた例だと思う。
結局のところ、ゲームプレイはいつもの引き撃ちしながら戦う感じではあるし、メインクエストの繋ぎ方には疑義を唱えたくもなったが(マリアスがもっと早く大事なことを教えてくれてもよかったのでは?)、ひとつひとつのテキストのもっともらしさや、ロアの豊富さ、立場ごとに異なる発言の奥深さなど、CRPGを作り込んできたスタジオならではの味があった。この出来であれば『The Outer Worlds 2』も存分に期待できるだろう。