Nintendo Switch 2のマウス操作で遊べる日は近い!? ポケモン誕生前のゲームフリークが手がけた『マリオとワリオ』復活への期待
7月29日、『スーパーファミコン Nintendo Classics』に大きな変化が訪れた。
1992年発売のスーパーファミコン向け周辺機器「スーパーファミコンマウス」を疑似的に再現したマウス操作への対応を果たしたのだ。対象はNintendo Switch 2、初代Nintendo Switchの双方で、前者はJoy-Con 2のマウス機能、後者は市販のUSBマウスをNintendo Switchドック本体のUSBポートに接続することで操作可能になる。
これと同時にスーパーファミコンマウス専用タイトルのひとつ、お絵描きソフトの『マリオペイント』も同日に配信。Wii、Wii U、Newニンテンドー3DSのバーチャルコンソールでは配信されず、幻になりかけていたタイトルが33年越しの復活を果たした。
スーパーファミコンマウスが発売された1992年は、まだ一般家庭へのパソコンの普及が進んでいなかった時代。そのため、マウスというデバイスに触れられる機会も比較的限定されていた。パソコンがない家庭で、しかもゲーム機で体験できる特色もあって、スーパーファミコンマウスはある種、夢のような周辺機器だったのである。
2025年現在の主流たる光学式ではなく、ボール式の旧型ではあったが、このスーパーファミコンマウスで初めてマウスというデバイスを知った・体験した世代は、おそらく少なくないだろう。実は筆者も初めて触れたマウスはスーパーファミコンマウスだった。
そんなマウス操作への対応と『マリオペイント』の復活で、今後の『スーパーファミコン Nintendo Classics』での復刻が期待されるマウス専用タイトルがある。『マリオペイント』と同じく、長らく復刻の機会に恵まれなかった『マリオとワリオ』だ。
ワリオのイタズラで目隠しされたマリオたちを妖精になって導くアクションパズルゲーム
『マリオとワリオ』は、1993年8月27日にスーパーファミコン向けに発売されたステージクリア型アクションパズルゲーム。別の公称である『マウス専用マリオとワリオ』の通り、スーパーファミコンマウス専用タイトルで、スーパーファミコンの従来型コントローラでは遊ぶことができない。
そのため、当時はスーパーファミコンマウス同梱のパッケージも発売。また、すでに『マリオペイント』でスーパーファミコンマウスを購入(所持)済みのプレイヤーを対象にしたROMカートリッジ単体版も同時に発売された。ちなみに単体版は定価が6,800円(税別)と、当時のスーパーファミコン用ソフトの平均的な価格に比べほんの少し安価で購入できた。
内容としては、ワリオのイタズラで目隠しされてしまったマリオたちが、迷子になったルイージを探し出すため、妖精「ワンダ」の導きを頼りに冒険を繰り広げていくというもの。この設定が象徴するように、本作でプレイヤーが操作するのはマリオたちではなく、ワンダという妖精のキャラクターだ。
彼女をマウスで動かし、手持ちの「魔法の杖」で自走する(勝手に進む)マリオたちをサポートしていく。具体的には行く手を阻む敵や仕掛けを除去する、足場ブロックを作って穴を塞ぐなどして進路を確保する、マリオたちを直接杖で叩いて進む方向を制御するといった感じだ。
言うなればワンダはマウスカーソルに当たる存在。そのため、画面内の全域を自由に移動可能なほか、罠や敵に接触しても絶対にやられはしない。逆にマリオたちが敵、トラップなどに接触してしまうとミスになるので、そうならないよう誘導していく。
まさにマウス操作の特徴を活かしたゲームデザインを最大の売りとしている。操作も基本的にマウス本体の直接動作、左クリックの2つで完結する(※右クリックは一時停止)。
また、マリオ"たち"と表したように誘導するキャラクターはマリオ以外にもピーチ姫、ヨッシーの2名がいる。キャラクターはそれぞれ移動速度をはじめ異なる特徴があり、誰を選んだかによって各ステージの難易度も変化。そのため、同じステージでも最低3周は遊べる。なお、マリオの弟であるルイージはヒロインポジション(マリオたちにとって救い出すべき対象)。後々のマリオシリーズで見ても、非常に珍しい設定となっている。
ほかにも収録ステージ数が100以上(10レベルごとに10個のステージ)もあるといった見どころを持つ。
このユニークな作品を制作したのはゲームフリーク。いまや「ポケットモンスター」(ポケモン)シリーズの開発で世界的にも広く知られるゲーム開発会社だ。本作は初代ポケモン(『ポケットモンスター 赤・緑』)の前に発売されたゲームフリーク開発タイトルのひとつで、『ヨッシーのたまご』に続く任天堂とタッグを組んだ作品である。
ディレクター兼ゲームデザインは「ポケモン」生みの親で知られる田尻智氏が担当。ほかにも森本茂樹氏、増田順一氏、杉森建氏といった「ポケモン」の開発にも参加したキーパーソンが多数関わっている。また、プロデューサーのひとりは現株式会社ポケモンの代表取締役社長で、本作当時は株式会社エイプ所属だった石原恒和氏である。
さらに任天堂からはエグゼクティブプロデューサーとして、携帯ゲーム機『ゲームボーイ』生みの親である横井軍平氏が参加。エグゼクティブプロデューサーの役職としては大変珍しく、マリオたちを目隠しさせるアイデアを提案するという深い関わりをしたようだ(※1)。
簡単操作のイメージを覆す変化に富んだ100ステージと、意外な難易度の高さ
「ポケモン」の前にゲームフリークが作ったマリオのゲームというだけでも特別な価値を持つ本作だが、1本のアクションパズルゲームとしても非常に高い完成度を誇る。
何より、マウス動作+左クリックという単純操作からは想像しにくい、変化に富んだステージの作り込みは圧巻。全ステージとも要求される操作は同じなのに、それぞれで違った考え方や判断が試されるという徹底した個性付けが図られているのだ。
本作はレベルごとに用意された10個のステージ(コース)を攻略していくのが主な流れとなる。このレベルごとのテーマ付けが徹底されている。森であれば基本操作やテクニックを学ぶステージ中心、山なら時間経過で消える足場ブロックばかり出てくる、洞窟ならコウモリの敵が頻繁に現れてマリオたちに襲い掛かってくるなど多彩だ。
また、前述のようにどのキャラクターを選んだかで難易度も変わる。ピーチ姫なら移動速度の遅さからタイミングをズラす判断が求められたり、逆にヨッシーは移動速度が速いので迅速な判断が常に試されるなど、異なる攻略の面白さを味わえるのだ。
特定のキャラクターだと楽にクリアできる一方、他のキャラクターだと根気が試されるようなステージ単位での変化もある。しかし、特定のキャラクターでは絶対にクリアできないような制約は皆無で、やろうと思えば、ずっと同じキャラクターだけで全ステージのクリアを目指すことだってできてしまう。
このようなやり込みへの意欲を刺激する要素もあって、繰り返しプレイにも耐え得る魅力も備えているのだ。実際に本作が発売された当時には、そんなやり込み要素に焦点を当てた企画も実施された。小学館より発売された攻略本「任天堂公式ガイドブック マリオとワリオ」(※2025年現在絶版)にて、5つの部門ごとの頂点を競い合うという大会が開催されたのである。
部門ごとの詳細は「ワリオカップ」が総合スコア、「マリオカップ」が全ステージに置かれた「スター」360個のコンプリート、「ヨッシーカップ」がタイムアタック、「ピーチカップ」が全ステージのピーチ姫でのクリア、そして「ワンダカップ」がクリック数の最小値を競うというもの(※2)。いずれの成績も本編エンディングの「THE END」の数秒後に表示される仕組みで、それを撮影して応募するという形式だった。
また、それぞれのカップには「グレートマリワリ」(ワリオカップ)、「トンガ森本」(マリオカップ)、「ヴォイス増田」(ヨッシーカップ)、「ピーチスキー杉森」(ピーチカップ)、「バラス西橋」(ワンダカップ)という、五冠王なるチャンピオンもいた。ちなみに全員、ゲームフリークのスタッフで、グレートマリワリは田尻智氏、トンガ森本は森本茂樹氏、ヴォイス増田は増田順一氏、ピーチスキー杉森は杉森建氏、バラス西橋は西橋倫治氏となっている。後々の「ポケモン」のことを思うと、ちょっとニヤリとしてしまう構図だ。
このようにゲーム外でも当時のプレイヤーに強い印象を残す試みをしていた『マリオとワリオ』だが、ひとつ大きな課題も抱えていた。それは難易度。本作は数あるマリオの名を冠したゲームの中でも3本の指に入るほどの難しさを誇るのである。
とりわけ終盤のレベル9からレベル10は突き抜けて難しく、素早く正確なマウスさばきとアドリブ力、ゴールまでのルートを適切に見極める判断が試される、難関に次ぐ難関の連続となっている。しかも、レベル10でゲームオーバーになると、なんとレベル9の最初のコースからやり直し! 恐怖のペナルティを課せられるのである。
おまけに本作には、セーブ機能もパスワードコンティニュー機能もない。スーパーファミコン本体の電源を切ってゲームを終えれば、全ての進捗が失われて最初からやり直しになってしまうのだ(ゲームオーバー時にコンティニューしなかった時も同じ)。つまり、エンディングを目指すなら1日のうちに通しでプレイしなくてはならない。
一応、エンディングを目指すだけなら全レベル&全ステージをクリアする必要はない。本作はレベルセレクト方式が採用されており、どのレベルから攻略するかを自由に選べるようになっている。レベル9以降はレベル8をクリアしなければ選べないのだが、逆に言えばレベル8さえクリアしてしまえば、レベル9以降に進められてエンディングに到達できる。
だが、前述のペナルティもあって、そう易々とはいかず、相当な根気が試される。このような仕組みもあって、本作はかなりの難易度を誇るゲームになってしまっている。前述の大会企画参加には、この全レベル&全ステージの攻略がほぼ必須で、かなりハードルの高いものになってしまっていたのだ。
しかし、この難点は『スーパーファミコン Nintendo Classics』での配信が実現すれば、大幅に軽減されるだろう。なぜなら同タイトルには「どこでもセーブ」と「巻き戻し」の機能が備わっているからだ。大きくやり直しになることもなくなって、よりエンディングを目指しやすい作りになるのは間違いない。
さすがにエンディング後のエクストラレベルは、セーブと巻き戻しありでも苦戦は免れないかもしれないが。ただ、遊びやすさが強化されるだけでも、『スーパーファミコン Nintendo Classics』での復刻は期待したくなる。いや、実現しないほうが不自然とも思えるのだ。
筆者も当時、エンディングには辛うじて到達できたものの、その後の追加レベルの攻略は心が折れて断念したクチなだけに、復刻した暁にはぜひリベンジしたい。同時にこの知る人ぞ知る手ごわいマリオのゲームが広まってくれればと、願ってやまないのだ。
すでにゲームフリーク開発タイトルで、『ヨッシーのたまご』は『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』で復刻済みである。ぜひ、それに続いて欲しいところだ。
『マリオとワリオ』に限らず、『ポケモン』誕生後もゲームフリークはさまざまな新作を出している
この『マリオとワリオ』の後、ゲームフリークが任天堂と共同で出したタイトルが1996年の初代ポケモンこと『ポケットモンスター 赤・緑』となる。同作の発売で、ゲームフリークがどんな存在になったのかはもはや語るまでもないだろう。
2025年現在のゲームフリークは、すっかり「ポケモン」のイメージが定着したメーカーになっている。実際に「ポケモン」は現在も新作が展開される現役バリバリのシリーズ作であり、10月16日には新作『Pokémon LEGENDS Z-A』の発売が控えている。
ただ、筆者はいまもゲームフリークには「ポケモン」を作ったところというよりは、個性的なアクションゲームを作るメーカーとしての印象が強い。それは『マリオとワリオ』もそうなのだが、1991年発売のスライムアクションゲーム『ジェリーボーイ』について筆者自身、周回プレイをするほどのめり込んだ経験があるのが影響している(同時に筆者が初めて触れたゲームフリーク開発タイトルがこれだった)。
「ポケモン」で有名になってからも、ゲームフリークはたまにアクションゲームを出している。
なかでも2025年9月で発売20周年を迎えるゲームボーイアドバンス向けタイトル『スクリューブレイカー 轟振どりるれろ』は、「ポケモン」後に出したアクションゲームの中でも随一の傑作で、筆者自身も強烈かつ熱烈におススメする1本だ。
ほかにも国内未発売(※SteamのPC版は購入可能)の『TEMBO THE BADASS ELEPHANT』、物理パズルの要素を持った『GIGA WRECKER』といったアクションゲームを「ポケモン」誕生後にも出している。旧作だが、1994年にメガドライブで発売され、「ポケモン」シリーズのわざのひとつ「ボルテッカー」の元ネタにあたる『パルスマン』も、2025年現在は『セガ メガドライブ Nintendo Switch Online』にて配信中。
さらに2026年にも『Beast of Reincarnation』なる、それまでのゲームフリークのイメージとはかけ離れたリアル調の新作3Dアクションアドベンチャーゲームを発売予定という興味深い展開が控えている。アクションゲーム以外のRPG、シミュレーションといった作品でも『ソリティ馬』をはじめ、注目すべき作品は目白押しだ。
どうしても「ポケモン」の影に隠れてしまっている感は否めないが、普段のイメージとは異なるゲームフリークの一面を見ることができるので、興味があれば前述にて取り上げたタイトルに触れてみるのも一興である。
最後の最後に話が豪快に脱線してしまったが、『マリオとワリオ』もそんなゲームフリークの"ガチ"な一面を知れる1本である。いつ『スーパーファミコン Nintendo Classics』で遊べるようになるかはわからないが、配信が叶った暁にはその異様なやり応えを味わってみていただきたい。筆者も今度こそエクストラレベルの攻略を果たしたいところだ。
※1 「任天堂公式ガイドブック マリオとワリオ」(小学館)140ページ「「マリオとワリオ」開発スタッフの横顔」より
※2 「任天堂公式ガイドブック マリオとワリオ」(小学館)6~7ページ「ワリオカップ」「ヨッシーカップ」「ワンダカップ」のチャンピオンそれぞれの最高記録は以下の引用通りとなる。
◇ワリオカップ(ハイスコア):427,400pts
◇ヨッシーカップ(タイムアタック):01:05:47
◇ワンダカップ(最小クリック数):1142