35年(あるいは15年)の時を超えても輝き続ける異端児 『2010 ストリートファイター』の孤高なる魅力
想像してみてほしい……あなたは「ストリートファイター」のシリーズ作だと思い、そのゲームを始める。だが、リュウもケンも出てこない。波動拳も昇龍拳も出せない。対戦相手は得体の知れないバケモノで、動きは不規則。しかも主人公は、一度でもダメージを受けたら弱体化し、どんどん戦いが厳しくなっていく。
「なんだよこれ!」と、きっと怒気を含んで叫びたくなるだろう。しかし、そのゲームが2025年の現在もなお、唯一無二の個性と価値を持ち続ける"孤高の作品"として君臨し続けていることを知ったら、どう思われるか?
1990年にファミコンで発売された『2010 ストリートファイター』は、まさにその伝説を地で行く存在だ。対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」の名を冠しているが、中身は全く別物の2Dアクションゲーム。架空の西暦2010年を舞台に、「パラサイト」と称された凶悪犯罪者たちとの死闘を繰り広げる。
シリーズの歴史から見ても浮きまくった作品だが、本作は発売から35年が経ついまも、2Dアクションゲームとして確固たる個性と存在感を確立し続けている。
近年、主にインディーゲーム界隈では過去の名作2Dアクションゲームに影響を受けたオマージュおよびクローン作品が相次いで生まれている。だが、『2010 ストリートファイター』はあまりその手のケースに恵まれない。
背景には国内外を含め、大きなヒットを記録した作品ではない実態もあるが、その個性的なゲームシステムなどを踏まえると不思議に感じるぐらいだ。
とは言え、そう易々とオマージュされるゲームとも思えない。なぜなら本作は、いまの視点で見ても異様のひと言すら生ぬるい、開発スタッフの類まれなセンスと難易度調整の技が冴え渡った仕上がりであるからだ。
きっと本作は、これからも孤高の2Dアクションゲームであり続けると筆者は考える。
対戦格闘ゲーム『ストリートファイター』の名を冠した異端の2Dアクションゲーム
あらためて『2010 ストリートファイター』の具体的な内容を紹介しておきたい。前述したように『2010 ストリートファイター』は1990年8月8日、ファミコン向けに発売されたゲームだ。ちなみに「2010」は「ニイマルイチマル」と読む。
1987年にアーケードゲームとして誕生した対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」の名を冠した作品で、販売元は同じくカプコン。制作はカプコンのグループ会社であるステイタス(2004年解散)が担当した。
大事なことなので声高に言わせていただくが、シリーズ躍進の礎となった大ヒット作『ストリートファイターII』よりも前に出たタイトルだ。そもそも『ストリートファイターII』が出たのは、本作発売の1年後となる1991年である。
ただ、「ストリートファイター」の名を冠している時点で、多くのプレイヤーは対戦格闘ゲームをイメージしてしまうことだろう。
実際は短く区切られたエリアを舞台に、ターゲットとして指定されたパラサイト(中ボス)を倒していくステージクリア型2Dアクションゲームとなっている。プレイヤーが操作するのはサイボーグ警官の「ケビン・ストレイカー」(ケビン)。「ソニックブリッド」と称する近接攻撃兼飛び道具技を駆使し、敵のパラサイトたちと戦っていく。
一部、十字キーとの組み合わせによって繰り出せるアクションはあるが、対戦格闘ゲームを思わせるコマンド技は皆無。アクションゲームとしての遊び心地は、同じカプコン作品でたとえるなら『ストライダー飛竜』『ロックマン』などに近いものとなっている(主人公の機動性が高いことから『魔界村』は例として出しにくい)。
しかも、難易度が異様に高い。特に敵のパラサイトは攻撃手段こそ決まっているものの、どんな風に動いてくるかはほぼランダム。雑魚のパラサイトもランダムな方向から出現しては、ケビン≒プレイヤーを狙ってくる(ごく一部、出てこないステージもある)。数は1~2体と少ないが、基本的に無限湧きである。
ライフ制を採用しているため、敵の攻撃を一発食らっただけで即刻やられはしないが、ダメージを受けたときのデメリットは大きめ。前述した通常攻撃技「ソニックブリッド」は、「ショットパワーアップ」のアイテムを取ることで最大5レベルまで強化される。だが、ダメージを受けると、このレベルが1低下。食らえば食らうほど弱体化していく。
一応、レベル2まではダメージを受けても低下せず維持されるが、体力を全消失してやられてしまえば初期レベルにリセット。再び強化し直しになる。しかも、強化値を上げるには、ショットパワーアップを2個取らなくてはならない。1個だけでは強化されないのである。
また、受けたダメージも次のエリアへと引き継がれる仕様。本作は惑星(ステージ)ごとに設けられた複数のエリアを連続して順に進めていく流れなので、力押しで突破しようとすれば、次のエリアで強烈なしっぺ返しを食らうことになるのだ(惑星最後のエリアを終え、次の惑星へと移るときのみ体力が全回復する)。
ほかにゲームオーバーになってもコンティニューは無制限のため、いくらでもやり直しは効くが、「ソニックブリッド」の強化レベルはリセット。厳しい戦いを強いられるのは明らかである。
以上の特徴もあって、本作は2Dアクションゲームとしては、とりわけ難易度の高いものになっている。数あるファミコンの2Dアクションゲームの中でも、3本の指に入る難しさといっても大げさではないぐらいだ。
ただ、凄く難しいだけでは一括りにできない魅力と強烈な個性が本作にはある。
定石はあるが安定はない、驚くべき難易度調整の妙技
あえて強調するが、本作は決してクリア困難なほど破綻した高難易度のゲームではない。ランダム要素こそあれど、ボスも含む敵には明確な対処法が設定されており、その定石を把握した上での立ち回りを心がければ、ダメージを最小に抑えて倒せるようになっている。なかには露骨な安全地帯や抜け穴が設けられた敵もおり、立ち回り次第ではビックリするほどアッサリ攻略できてしまうこともある。
しかし、いくら定石を把握しようと、安定して倒せる保証がないのが、本作の2Dアクションゲームとしての個性であり、孤高ぶりを象徴する魅力となっている。
なぜかと言えば、敵の動きがランダムな分、こちらの動きも常に違ったものになるからだ。あるときは特定の場所に留まってジャンプと攻撃を繰り返すだけで済んだのが、別の機会ではステージ全体を広く動き回りつつ対処するといった具合に、戦い方そのものがプレイするたびに変わるのである。
言うなれば、ランダム性とパターン性を両立させた調整が施されているのだ。明らかに水と油も同然の性質2つであるが、本作が凄いのはクリア困難なほど行き過ぎず、かと言って形骸化しすぎないという、極めて繊細な調整が図られていること。
特に「フリップジャンプ」なる、無敵時間が発生するバック宙返りのアクションの存在が大きく、ランダム性に伴う困難な状況を乗り越える要素として効果的に機能。絶望的状況でも確実に脱出できる手段があるため、ランダム要素が生み出す状況下でも「なんとかできるはず!」との希望が持てるようにしているのだ。
この水と油な性質を微細なレベルで融合させている点で、本作は2Dアクションゲームとしては非常に稀な難易度を実現している。
この遊びごたえをカプコンの作品でたとえるなら、『魔界村』と『ロックマン』の重ね掛けである。『魔界村』は乱数を使った予測不可能な高難易度を特徴とするのに対し、『ロックマン』はパターン重視で易々と攻略可能な“答え”を設けた高難易度を売りとする。その2作品をちょうどよい塩梅で混ぜると何ができるのかの回答が本作、『2010 ストリートファイター』なのである。
何度遊んでも新鮮味があり、刺激的なひとときを楽しめる点で『2010 ストリートファイター』は唯一無二であり、孤高の作品とも言えるのだ。
難易度に焦点を当てたが、従来型のスクロール形式に限らず、対戦格闘ゲーム風の固定画面、縦横の強制スクロールまで用意されたエリアも起伏の激しさが頭ひとつ抜けていて、退屈する暇がない。一連のエリアが短めに設計されているのも大きな特徴で、これも本作の2Dアクションゲームとしての個性を際立たせている。
アクションも「フリップジャンプ」に代表されるように、十字キーとの組み合わせで多彩な技が使えるのも面白い。また、十字キー下+Aボタン同時押しによる立っている足場からの降下という、昨今の2Dアクションゲームで定番になっているアクションの一部がこの時代に実装されている点も興味深い。
本作が件のアクションの始祖に当たるかどうかは時間を割いて調査する必要があるため、本記事では断定を避けるが……少なくともジャンルにおけるひとつの歴史資料なのは間違いない。いかに本作が意欲的なことに挑んだゲームなのかも分かるだろう。
「ストリートファイター」の歴史からは省かれるも、語り継がれていく価値のある1作
あまりにも孤高すぎるゆえか、本作は「ストリートファイター」シリーズの歴史からは事実上省かれている。
「ストリートファイター」シリーズの過去作は、これまでにも多数復刻されてきているが、本作はジャンルの違いもあってか、ラインナップから外されている場合がほとんどだ。
ただし、単独での復刻は過去に行われており、2014年にニンテンドー3DS、Wii Uのバーチャルコンソール向けダウンロード版が配信された。
ちなみに本作には『ロックマン』『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』の2作でプログラム周りを担当したH.M.D氏がメインスタッフとして参加している。その繋がりもあり、2014年には「ロックマンユニティ」にて本作の特集が組まれたこともあった(※1)。
残念ながら、バーチャルコンソール版は2023年の「ニンテンドーeショップ」のサービス終了で新規の購入はできなくなった。だが、代わりにカプコン生誕40周年記念サイト「カプコンタウン」(※2)内のコンテンツ「レトロゲームズ」にて、ブラウザ版が2024年3月29日より配信中。なんと無料である。
ブラウザ版では、海外版『Street Fighter 2010 The Final Fight』も遊べる。この海外版は主人公が「ストリートファイター」のケンであるという、驚きの(パラレル)設定になっている。しかも、前述の通りサブタイトルには「ストリートファイター」とは兄弟的な関係にあるアクションゲーム「ファイナルファイト」の名が。もちろん、設定的には完全に無関係である。
主人公がケンである以外にも、海外版のストーリーには若干の変更点があるので、興味があればプレイしてみてほしい。ただし、このブラウザ版がいつまでプレイできるかは不透明なため、急に遊べなくなる可能性があることに注意いただきたい。
今回の記事執筆に当たって、筆者は久しぶりに遊んだのだが、本当に2Dアクションゲームとしては他に類を見ない手ごわさと特徴を持つ、唯一無二にして孤高の作品だと再認識させられた。こうもランダム性とパターン性が高度なバランスで両立されているアクションゲームも本作ぐらいではないだろうか。
ただ、公平性が働かない部分もあり、強いストレスを感じさせられることも多々ある。それゆえ、現代では受け入れにくい、35年前だからこそ可能だった高難易度のゲームとも言える。
そして、こんな難易度調整、仮にオマージュしようとしたとて真似できるものなのかと思うばかりだ。明らかにセンスの塊であると同時に、この開発スタッフでなければ難しいのではと何度遊んでも実感させられる。
前述したように現在はブラウザで無料プレイが可能。しかし、家庭用ゲーム機だとプレイ機会に恵まれていない。正直、Nintendo Switchの『ファミリーコンピュータ Nintendo Classics』で遊べるようになってもいいのではと思うのだが……いずれラインナップ入りするときを待ちたいところだ。
そして、ラインナップ入りした暁には、この35年経とうが、作中の設定で15年経っても独自性を放ち続ける孤高の作品たるワケを(精神的なダメージ覚悟で)味わってみていただきたい。
それにしても、2010年がもはや未来ですらなくなった事実は重い……。
※1 時代が追い越した!3DSバーチャルコンソール「2010 ストリートファイター」とは(ロックマンユニティ 2014年2月26掲載)
https://rockmanunity.blog.jp/archives/7556687.html
※2 カプコン創業40周年記念として、デジタル観光地をコンセプトに開設されたWEBサイト。『2010 ストリートファイター』を始めとする歴代タイトルのブラウザ版は「レトロゲームズ」のページにてプレイできる。
https://captown.capcom.com/ja/retro_games