令和の恋リア、ヒットの法則は“万バズ”する関係性のキャスティング力にあり? 『今日好き』『シャッフルアイランド』の例から考える
7月某日。1時間後に控えた取材の最終確認をすべく、護国寺と江戸川橋の間にあるカフェチェーンを訪れたときのこと。平日夕方の人もまばらな店内で、隣に座る20代後半くらいの男女が、この夏の期間にピアスを開けるか否かでぐだりながら言葉を交わしていた。そのとき、筆者の耳をこんな言葉が抜けていったのである。「でも、バチバチにピアスを開けるって、“もんた”みたいに?」。
“もんた”とはおそらく、今年初夏に放送された恋愛リアリティーショー『今日、好きになりました。ハロン編』(ABEMA/以下:今日好き)に登場した男子高校生=もんた(MONTA)のことだろう。耳から口まで、なんと7個ものピアスをぶら下げた彼だが、多からずともTikTokに触れている読者であれば、“もんた界隈”なる言葉や、彼が生み出したTikTokの撮影手法を目にしたことがあるのではないだろうか。
筆者は2020年春放送の『青い春編』をきっかけに、『今日好き』を通じて高校生たちの恋愛を約5年半にわたり追いかけてきているが、前述したカフェでのエピソードのように、2025年度の『今日好き』は一定のキャズムを超えて、明らかに日常の話題として浸透していると思う。これが若者の集う渋谷や原宿での出来事であれば、それほど驚く必要もなかっただろう。しかしながら、今回出くわしたのは護国寺と江戸川橋の間。なんとも絶妙で、信頼が置けそうだ。
『ハワイ編』『グアム編』といった名作を立て続けに生み出した2019年度でも、るる(実熊瑠琉)をはじめ、『蜜柑編』などで数多くのカリスマ高校生を輩出した2021年度でもない。いまがいちばん、『今日好き』への注目度が高まっている。
せかいの“低身長好き”、りくの雑な四捨五入……個性豊かな『シャッフル』メンバーたち
では、なぜいま番組への注目度が高まっているのか。その理由のひとつに、視聴者がX(旧:Twitter)やTikTokに投稿する、オンエアのスクリーンショットや切り抜き映像。そこから転じて、登場人物らの発言を音源化したり、それらが総じて短期間でミームにまで成長していることがあると思う。もちろん、他人の褌で自身のアカウントの再生回数を増やしている例もあり、大手を振って褒められたものではない。一方で、番組の存在を広める上で、確かな貢献を見せているのもまた事実といえる。
一例として、ここからは同じくABEMAにて毎週木曜夜10時より無料放送中の『シャッフルアイランド Season6』(以下:シャッフルアイランド)に対象を切り替えていきたい。高校生がピュアで甘酸っぱい姿を見せる『今日好き』に対して、大人たちが本能に従い、異国リゾートで異性を翻弄し、逆に翻弄もされる『シャッフルアイランド』。この番組に欠かせないのが、女心がわからない“失言ニキ”の存在だ。
詳細こそ割愛するが、昨年度の『シャッフルアイランド Season5』では、SHUN(マーケティング会社経営)がその役を担当(別に、担当しようと思ってするわけでもないが)。彼が度重なる失言をした相手=さゆり(モデル)とは、今年に入り結婚を発表しただけに、たとえ失言しようとも、むしろそれすら人間的な魅力のひとつとは証明済みのところであり、今シーズンはその役にせかい(パーソナルトレーナー)が該当する。
彼のキャラクターは1話から早々に発揮され、らるむ(メイクサロン経営)との初2ショットでは彼女の白い歯を見て「ホワイトニングしてる?」「週10くらいでする?」と、独特な角度から切り込み。ここまではまだ笑いにできたのだが、その後にほとんどが高身長な女子6名に囲まれた際、自身の好きなタイプとして「身長が低い人」と失言。そのまま、女子陣のなかで最も身長が低く、その一点のみで旅の開幕時からロックオンしていたAN(『nuts』専属モデル)を、疾風のごとく2ショットへと誘っていった。
言葉は、時と場合で選ばねばならない。この一件が、その場の女子陣全員が微妙な気持ちにさせられ、「うちら全員、高身長だよね」「なんか萎えた」「失言しちゃった感」と、せかいへの信頼ゲージが秒速でガタ落ちとなる(ちなみに、ANが150cmなのに対して、らるむは168cmの高身長)。逆に「うちら全員、高身長だよね」と言える女子の方が珍しく、それがむしろクールとも思えるが、なにはともあれ視聴者がこの一連の流れに目をつけた。それもあってか、ABEMA内の番組総合ランキングにて、『シャッフルアイランド』がたびたび1位を獲得している。
上記のほか、しん(インフルエンサー)×フィーナ(フラダンサー)の2ショットでは、陽キャのマリアージュが織りなされたほか、彼女の見せる表情の豊かさが視聴者の心をキャッチ。また、しんたろう(プロボディビルダー)×フィーナの組み合わせが、『トイ・ストーリー』さながらの端正なビジュアルにしか見えないことで話題を呼ぶなど、メンバーの個性や発言が、番組の人気を加速させている。
ここで大切になってくるのが、Xであれば、スクリーンショット最大4枚までで起承転結を描き切ること(さらに、ポスト主の一言コメントも端的かつ的確であればあるほどよい)。あるいは、こちらは物語の本筋から外れることもあるが、1〜2枚程度を利用して、大喜利のようにネタ画像として汎用性高く使えるか。他方、TikTokであれば、冒頭の約3秒ほどでしっかりと掴みができるか。いまやスタンダードとなっているが、映像内でのフックとなる言葉(いわばパンチライン)を第一に入れ込み、最終的にそこにつながるように、それまでのやり取りを流す編集スタイルとの親和性が大切になってくる。
つまり画像でも映像でも、切り取られるには本人のキャラクター、そしてワードセンスとやり取りのテンポのよさが不可欠。その条件を満たしながら、限られた枚数や時間に収まるインパクトを残す……言い換えれば、ある種の“瞬発力”が求められるのだ。