夢と現実、そして密室──『伊達鍵は眠らない - From AI:ソムニウムファイル』が示すシリーズの拡張と深化

 スパイク・チュンソフトから7月25日にリリース予定の『伊達鍵は眠らない - From AI:ソムニウムファイル』(以下、『伊達鍵は眠らない』)。本作は、推理アドベンチャー「AI: ソムニウムファイル」シリーズ第1作の直後を描いたスピンオフタイトルだ。

Nintendo Switch 2/Nintendo Switch/Steam『伊達鍵は眠らない - From AI:ソムニウムファイル』システムトレーラー

 2022年6月に発売された前作『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』より、約3年ぶりのシリーズ新作となった『伊達鍵は眠らない』。今回は、先行プレイ(PC版)で判明した本作のプレイフィール並びに新要素についてお届けする。

脱出ゲーム要素を備えて帰ってきた「AI:ソムニウムファイル」最新作

 そもそも、「AI:ソムニウムファイル」シリーズとは一体どのような作品なのだろうか。簡単に説明するなら、”サスペンス×SF×ギャグ×パロディ”が混ざり合った意欲作だと言える。

 ゲームとして見ると、クラシックなコマンド選択型アドベンチャーの文法を踏襲しつつも、制限時間内に謎を解き明かす「ソムニウムパート」、複数のルート分岐とエンディングによって構成されるチャート式の構成など、プレイヤーの選択が物語全体に影響を及ぼす仕組みも特徴的だ。

 またシリーズ共通の世界観として、警視庁に設けられた特殊捜査部隊「ABIS(アビス)」に所属する捜査官が、「Psync(シンク)」装置を使って他者の夢(ソムニウム)に侵入し、事件の手がかりや証言者の真意を探るという構造を持つ。プレイヤーは現実世界での捜査と、夢の世界での調査を行き来しながら事件の真相に迫っていく。

 そして、今回のスピンオフ作品『伊達鍵は眠らない』は、シリーズにおける“空白の時間”を補完する役割を担っている。その完成度やボリュームはナンバリングタイトルと比べても遜色なく、「第1作と第2作の間に何が起きたのか?」というファンの疑問を埋める内容になっている。

 本作を起動すると、第1作でも主人公を務めたABIS所属の捜査官「伊達鍵(だて かなめ)」の姿が映し出される。何やら黒スーツの集団に追われているようで、しかも自身がどこで何をしていたかの記憶も定まっていない。事件を捜査する前に、まず自分が何者なのかを思い出さなければならない状況に陥る。

 かと思えば、今度は作中の世界で人気を誇る女子高生ネットアイドル「左岸イリス」が、突如現れたUFOに攫われるという事件が発生。以降、プレイヤーは伊達鍵だけでなく、UFO内部に囚われたイリスも操作しつつ、奇怪な現象を究明することになる。

新規プレイヤーも古参ファンも見逃せない、進化した「AI:ソムニウムファイル」

 『伊達鍵は眠らない』は、これまでのシリーズ作品と同じく、「捜査パート」と「ソムニウムパート」を中心に構成されている。ただし、ここに新たなゲーム性を備えた「脱出パート」が加わることで、全体のプレイ体験に新鮮なリズムが生まれている。

 プレイヤーが直面する最初の脱出パートでは、自らを”トカゲ人間”だと名乗る謎の人物「明美」の指示に従い、宇宙空間に漂うUFOからの脱出を目指す。

 後述する捜査パートやソムニウムパートと細部が異なり、脱出パートはプレイヤーの観察力・推理力がよりダイレクトに求められる。具体的には、「フィールド内を動き回って気になる箇所を調査」→「情報やアイテムを入手してギミック解明にチャレンジ」→「複数のギミックを解いて最終的に密室から脱出する」……という流れがベースとなる。

 一部シーンでは制限時間が設けられるので、時間に追われながら仕掛けを解くというスリルを味わうことに。しかしUI自体はシンプルなため、「怪しい箇所を丁寧に調べて情報を集積する」、「入手したアイテムを組み合わせる」というふうに、謎解きアドベンチャーになじみのあるプレイヤーであればすんなり没入できる印象を受けた。

 また、謎解き面の難易度もプレイヤーの好みに合わせて調整することが可能。最低難易度の「ストーリーモード」を選べばヒントが答えまで表示されるほか、探索を補助するサーチ機能も無制限で使用できる。「アドベンチャーゲーム初心者でも問題なくストーリーを進められる」という点でうれしい仕様ではないだろうか。

 以上が先行プレイで判明した新要素・脱出パートに関する所感だが、従来シリーズから備わっている2種類のパートもクオリティは高く保たれている。

 ゲームの根幹を成す捜査パートは、第1作からそうであったように、事件現場の調査や関係者への聞き込みなど、王道のアドベンチャーゲームらしさを感じる堅実な作りとなっている。端正な顔立ちながら三枚目的な発言が目立つ伊達をはじめ、冷静で聡明ながらも伊達の悪ノリに付き合ってコミカルな言動が溢れる人工知能「アイボゥ(AI-Ball)」……等々、登場キャラクターの個性も十分に際立っている。

 それでいて、選択肢の中には事件と直接関係のない”脱線トーク”が数多く用意されており、キャラ同士の掛け合いや台詞のテンポ感も絶妙にチューニングされている。さらに、過去シリーズでも恒例だったパロディシーンは本作でも健在。ゲームやアニメ、映画、漫画など、様々なカルチャーの引用にピンとくるプレイヤーならより楽しめることだろう。

 シリーズの核とも言えるソムニウムパートでは、Psync装置を使って重要参考人の夢の世界に侵入し、文字通り奇妙な光景を垣間見つつ、彼らの深層心理を探っていく。夢の世界では特定のアクションを起こすたびに制限時間(6分)が消費されるため、ムダのない判断と効率的な選択が求められる点も過去作と同様だ。

 夢の中で起こる出来事はしばしば奇妙で、論理的な思考だけでは解けないギミックが待ち受けている。現実の法則が通用しない空間に降り立ち、一定の法則を見出して「メンタルロック」と呼ばれる仕掛けを解除しつつ、重要参考人の深層心理を解き明かす。幻想の世界で真相に近づいていく体験は、まさにシリーズ最大の魅力と言っていいだろう。

 先行プレイを終えた今、『伊達鍵は眠らない』について感じるのは、やはり1作目をプレイ済みであるほど、細かな演出やキャラクターの台詞に込められた意味をより深く味わえる構造になっているという点だ。

 特に、登場人物や用語のバックグラウンドが共通しているため、ファンにとっては“帰ってきた”感覚が強く、初見のプレイヤーにとっては“気になる過去”を自然と掘りたくなる設計だと言える。シリーズの“もうひとつの本編”と呼べる完成度を誇っており、従来の“夢と現実”の構造に「脱出」という新たな切り口を加えることで、「AI:ソムニウムファイル」の文法を進化させたように感じた。

 パロディネタや過去作からの繋がりといった“シリーズのお約束”がふんだんに盛り込まれているため、古参ファンにとって見逃せない内容なのは明らかだ。そして経験者が楽しめる点だけに留まらず、親切な難易度調整に加えて豊富なヒント機能もあり、シリーズ初心者でもストーリーを最後まで楽しむことができる。

 シナリオの奥行きと笑いのセンス、そして多層性に富んだプレイフィール。新たに描かれた伊達鍵の物語は、まさにシリーズの魅力が詰まった”眠らせない一作”である。

 脱出×推理アドベンチャー『伊達鍵は眠らない - From AI:ソムニウムファイル』は、Nintendo Switch・Nintendo Switch 2・PC(Steam)向けに7月25日より発売予定だ。

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