『ポケポケ』で再び注目 デジタルカードゲームにおける“成功の条件”とは
昨年リリースされた『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』の成功により、あらためて注目されているデジタルカードゲーム(DCG)。今年も『Shadowverse(シャドウバース)』の後継作である『Shadowverse: Worlds Beyond』(以下、シャドバWB)のリリースが予定されているなど、引き続き目が離せないジャンルとなっている。
その一方で、DCGは競争が激しいコンテンツだけに、話題作が登場しては消えていくことも珍しくない。そのため、どのようなタイトルがプレイヤーに愛され、生き残っていくのかを考えることは今後のDCGの展開にとって大事な視点だろう。
本稿では、現在のDCGを取り巻く状況を踏まえ、長く支持される作品となるための条件について考察する。
DCGの魅力とは
DCGの魅力といえば、毎日ミッションをこなしていれば無料でパックを開封できたり、デッキに入っていないカードを生成できたりといった要素から、カードを入手しやすく、デッキが組みやすいこと。対戦はスマートフォンでプレイすれば、いつでも・どこでも対戦ができ、アナログだと面倒な処理を自動でやってくれることなどの気軽さに加え、カードを使用する際の派手な演出なども、魅力として挙げられる。
こうしたDCGならではの魅力のほとんどは、このジャンルを確立させた『Hearthstone』が打ち出したものであり、後続のタイトルはこれらの要素を押さえつつ、それぞれの個性を加えることで独自の価値を築いてきた。
たとえば、国内産のDCGとして成功を収めた『シャドウバース』は、『Hearthstone』の基本を踏襲しつつも、有名声優の起用や美麗なイラスト、そして「進化」システムのような独自要素と分かりやすいルールで人気を獲得した。
また、トレーディングカードゲーム(TCG)の『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム』(以下、遊戯王OCG)を原作とする『遊戯王 デュエルリンクス』や『遊戯王 マスターデュエル』も、紙のカードゲームをスマホで手軽に楽しめるという点で大きな魅力がある。筆者自身も『マスターデュエル』をプレイしており、TCG版とは異なるレギュレーションでの対戦が楽しめる点を評価している。
他にも、カプコンのゲームキャラクターが登場し、リアルタイム制とターン制が融合したシステムが特徴の『TEPPEN』や、海外発の『Marvel Snap』など、現時点でもさまざまなゲームがプレイされている。
こうしたゲームは対人戦に主軸を置いたものが多いが、昨年リリースされた『ポケポケ』は、バトル自体は原作TCG『ポケモンカードゲーム』のルールを簡略化したシンプルなものに抑えられ、パック開封の演出や絵違いカードの収集など、カードをコレクションすることに比重を置いたタイトルとなっている。
カードをプレイした時の演出も派手で、集めたカードを使うこと自体が楽しめるものになっており、こうした点がこれまでDCGをあまりプレイしてこなかったライトユーザーの支持を集めたのではないだろうか(ただし『ポケポケ』もランク制の導入やカードプールの拡充など、継続的にアップデートがなされており、今後はより競技性を持った遊び方も楽しめるように変化していくかもしれない)。
競争の激しさと多様化
成功を収めたタイトルの裏で、多くのタイトルがリリースされては、短命で終わっている。また、それなりに継続したタイトルでも、サービスの長期化とともにインフレが進んだり、カードプールが増えたり、ルールが複雑化したことで初心者が参入しづらかったり、プレイヤーが離れていくゲームも珍しくない。それだけDCGは競争の激しいジャンルで、そのなかでも長寿タイトルとして生き残っている作品には、他のDCGとの差別化ができるような強みがある。
たとえば『マスターデュエル』と『ポケポケ』は、基となるコンテンツの人気である点は共通しているが、前者は『遊戯王OCG』のルールをそのままDCG化した戦略性の高さが、後者は収集と演出面の楽しさという点がそれぞれ強みとなっている。
一方で、そうした強みは弱みにもなってしまう。『マスターデュエル』は戦略性が高いからこそ、1ゲームにかかる時間が長期化しがちであったり、複雑化したルールやカードの効果を把握したうえで適切なプレイングが求められたりと、、初心者が敬遠しがちな要素が多い。『ポケポケ』もまた、対戦がシンプルであるがゆえに、勝敗が運に左右されていると感じやすかったり、プレイやデッキ構築の幅が比較的狭く、他のDCG経験者ほど飽きを感じやすいといった側面がある。
このように、それぞれのタイトルが独自の強みを持つ一方で、そのゲーム性がターゲット層を限定し、「棲み分け」を生む要因にもなっており、それ故にDCGというジャンルが多様化しているといえるだろう。
余談になるが、『レジェンド・オブ・ルーンテラ』は対戦ゲームとしては成功を収めることができなかったものの、現在は『リーグ・オブ・レジェンド』の世界観を活かした、『Slay the Spire』ライクなデッキ構築型ローグライクを思わせるシングルプレイモードを展開している。こうしたPvPという形に囚われない遊び方の提供も、DCGの多様化を後押しする動きのひとつなのではないだろうか。
競争が激しいジャンルの中での新たな展望
このように、激しい競争と多様化が進むDCGジャンルだが、今後も新たな注目タイトルがリリースされる。
そのひとつが6月17日にリリース予定の『シャドバWB』だ。本作は「シャドウバース」シリーズの完全新作で、新たな要素が加わったバトルだけでなく、アバターを用いてさまざまな遊びやコミュニケーションを仲間と楽しめる「シャドウパーク」というコンテンツが実装され、eスポーツとしてはもちろん、これまでのDCGにはないSNS的な楽しみ方も期待できる。前作『シャドウバース』の時点で、(環境によって賛否はあれど)ライト層・コア層どちらも楽しめるタイトルであったことや、スマホゲームに求められる短時間で気軽に楽しめるゲームであったため、新作も幅広い層にリーチするタイトルになっていることを期待したい。
また、今年発表された『デジモンカードゲーム』の新たなプロジェクト『Digimon Alysion』は、既存の『デジモンカードゲーム』をスマホで遊べるだけでなく、新キャラクター・新デジモンが登場するなど、「デジモン」ファンには見逃せないタイトルとなっている。
また、2025年夏に海外で、2026年に日本国内でのリリースを目指す『CODE OF JOKER EVOLUTIONS』は、ブロックチェーンを活用したカードの取引など、新たな技術を取り入れることがすでに発表されている。
TCGではカードを資産と捉えることも少なくないため、DCGにおいてもブロックチェーンやNFTといった技術とは相性がいいと考えられるが、その一方で、プレイして面白いゲームであるかや、ゲーム内でのカード価格の安定・売買の際のトラブルなど、配慮しなければならない部分も少なくないだろう。
こうしたタイトルが、その強みをしっかりと打ち出し、DCGに新たな広がりをもたらすことを期待したい。
多様化が進むなか、理想的なDCGとは?
DCGと一言に言っても、戦略性や競技性を重視したタイトルや、演出面にこだわったタイトルなど、さまざまなものが存在する。こうした多様化が進むジャンルでは、どの層に向けて、どんなゲームを提供するかを明確にすることが、他タイトルと差別化するためにも欠かせないものとなっている。
その一方で、あまりにもターゲットを絞り過ぎた結果、ライト層だけ、あるいはコア層だけにしか届かないタイトルとなってしまい、ユーザー層が限られ伸び悩んでしまう。『シャドウバース』のように幅広い層に訴求できた成功例もあるだけに、ライト・コアどちらでも楽しめるようなゲームが理想となるだろう。
現在成功しているタイトルはもちろん、今後の新規タイトルも含め、こうした広がりを持ち、長く支持される作品が増えていくことを願っている。