スタンミが明かす“俳優”としての側面 岩井秀人も「“自分を差し出すこと”が本能的にできる」と絶賛

病気を乗り越えて俳優へ再挑戦 岩井から見た、“スタンミの魅力”

撮影:平岩享

——そもそもスタンミさんが俳優を目指し始めたのって、いつ頃からなんですか?

スタンミ:深層心理の話になるんですけど、おそらく1997年に上映された『タイタニック』がキッカケで、母親に連れられて一緒に映画を見に行った時からなんですよ。

 その当時の僕って、ピアノ教室だったり習字だったり、どの習いごとに行っても集中が続かないタイプで。でも、『タイタニック』は3時間もあるのに、3時間ビシッと座って観たらしいんですよ。それを後々、中学生の時に聞いて、将来のこととかをほんのり考え始めるなかで、「俺がなりたいものって、これなのかな」というところに行き着いて。それで、「演じたい」「俳優になりたい」という気持ちがあったんです。

 ただ、僕のリスナーは知っているかもしれないけれど、生まれつき「本態性振戦」という病気があって、手が震えてしまうので物理的に表舞台に立つのは難しかったんです。でも、25歳のときに手術を受けて治ったのをきっかけに、「今からでも目指してやろう」といろんなワークショップに通い始めました。

 最初はね、大変でしたよ。中学生の女の子よりも下手くそだし、飲み込みも遅いんですよ。諦めたくない一心で、稽古を重ねながらいろんな人にお会いするたびに「僕の特徴はこうで、こういうことができます。みなさんに追い付くように頑張るので、僕のことを使ってください」と意思表示をし続けて。そうしたら、それを言わなかったのに岩井さんは僕を拾ってくださった。タイミングもそうですし、いろいろなものが噛み合ったんだなと。

——これまでの下準備が、こうした巡り合わせに繋がったのかもしれませんね。それにしても、ストリーマーから俳優に挑戦する方って珍しいですよね。

岩井:いやー、本当に。僕の知る限り、聞いたことが無いですよ。

——岩井さんから見て、スタンミさんはどういった部分に強みがあると思いますか?

岩井:俳優としてで言うと、台本を見て何かを思い浮かぶことというのはもちろん大事なんですが、自分の演技を見ている人ーーお客さんであったり、視聴者であったり、その人たちを楽しませるために、“自分を差し出すこと”が本能的にできるところでしょうか。良し悪しでは無いのですが、やらない人はトコトンやらないんですよ。お客さんが入っても、自分は自分の仕事を全うするだけ、というプロフェッショナルの形もあります。

 スタンミくんの隣に座っていた松井さんとかもそうだったじゃないですか。今日だってエンターテイナーとしての意地みたいなものを何度も見せてくれた。スタンミくんも、たった2時間のあいだにそれをすごく発揮していたし、おそらく本人としても「これだ」という感覚があったんじゃないかな。自分の中からそれをズルズルズルっと引き出してきて、ひとつ殻を破ったように見えます。

ーーたしかに、演劇の世界はどちらかというと「舞台の上と下は別世界」ということが多いなかで、スタンミさんはストリーマー、松井さんは元アイドルと、お二人とももう少し観客や視聴者と目線が合う世界からやってきたお二人ですよね。

岩井:そう。それが、決まったことを完璧に演じるのではなく、その場その場で役者本人が判断をしていく『いきなり本読み!』という場では特にうまく作用するんだと思います。

撮影:平岩享

——スタンミさんといえば、それこそ最近は『VRChat』の配信が話題になっていますが、あの世界でもロールプレイとして役柄を演じる方はとても多いじゃないですか。そうした世界、あるいは配信を通じて、俳優としての自分に何かが還元されている感覚はありますか?

スタンミ:『VRChat』に関しては、お芝居とは少し違う感覚ですね。もっとお芝居が上手になったら、ゲーム内でもそれを反映させられるのかもしれないけれど、やっぱりまだいろんなことを考えながら演技をしているので難しいです。

 逆に言えば、『VRChat』をするときは全てを解き放っている状態というか(笑)。完全に素でやっているから、すごく良い状態で配信者としてやれている。それこそが配信者として身に着けた僕の大きな武器かもしれないですね。

——解き放てることが、ですか?

スタンミ:普通、多くの人にとって感情を表に出すのって難しいんですよ。でも、僕は普段配信をしていて感情がボンッと出てくることもあるし、それが訓練になっているのかなって。だから恥ずかしがらずにやれるし、配信で培ったアドリブ力も合わせて、強みにしていきたいですね。

新たな可能性を見いだした岩井と、大きな財産を得たスタンミ

——スタンミさんは、今後はどんなチャレンジをしていきたいですか? たとえば、また『いきなり本読み!』に呼ばれたいとか……。

岩井:やりましょうね(笑)。

スタンミ:本当に、ぜひお願いしたいです! ですが、自分の周りでも、「岩井さんと一緒にやりたい!」という方が大勢いて、僕はまだ何もかもが足りていない。その中で出させていただいたので、まずはこの財産をどう活かしていくかを考えていきたいと思っています。今はとにかく、目の前の一歩一歩を大切にしていきたいな、と。

 いきなり「大河に出たい!」とかではなく「明日のワークショップでは噛まないようにしよう」とか「ちゃんと台詞を覚えていこう」とか、そういう目の前のことをキチンとやっていけば、いつか今回のような巡り合わせがまたあるんじゃないか、と思っています。

 それに僕自身、「紙を一枚一枚積み重ねていったら、気付いたら高い所に登っていた」という方が性に合っているし、メンタルが保てると思っているので……(笑)。

——岩井さんからはいかがでしょうか。次回(※取材時点)は9月3日に『いきなり本読み! in EX THEATER ROPPONGI』が開催されるとのことですが。

岩井:そうですね。六本木EXシアターでやらせていただくんですが、小泉今日子さんと小林聡美さんの出演が決定しております。

スタンミ:ヤバいんだよな、本当に! 僕がでられたの、スゴすぎませんか(笑)?

岩井:先ほども話したことですが、純粋な俳優さんだけでなく、違う世界にいる方をお招きできる。今日はそういう可能性を見つけられた気がしていて、スタンミくんが出てくれたことは僕にとっても大きかったですよ!

 配信を通じて自分の好きなことを存分にやっていて、しかもそれを見ている視聴者の皆さんと一緒に遊ぶ、楽しむ。お芝居と通ずる部分はあれど、やっぱりそこが大きく違っていて、超面白いことを、周りを巻き込みながらやっていくというのは、『いきなり本読み!』と親和性が高いんだなと。

 企画の才能と、スタンミくんの才能、それが重なり合う部分を見られたので、すごい発見が出来た日でした。今後もぜひ楽しみにしていてください。スタンミくんも、また何かで遊びましょうね(笑)。

スタンミ:ぜひよろしくお願いします!

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