DeepSeekショックの顛末と「生成AI開発競争」を経済レポートから読み解く
最近のAI関連のニュースは、テック系の報道として扱われるだけではなく、政治や経済のそれとして報じられることが多くなってきた。こうした傾向は、AI開発が技術開発競争であることを超えて、国家間の経済競争や安全保障にまで影響を与えるものとなったことに起因する。そこで本稿では、“AIと政治経済の関係”を軸として、経済レポートや政治経済ニュースをまとめていく。
世界経済フォーラムも強調する、経済に対するAIの影響
AIと経済の関係を紐解くうえで参考になる資料のひとつとして、世界の経済問題解決に取り組む非営利団体である世界経済フォーラムが2025年1月7日に発表した『仕事の未来レポート 2025』がある(※1)。22の産業界と55の経済圏にまたがる従業員500人以上の企業における雇用主を対象としてアンケート調査した同レポートは、「世界の労働市場に影響を与える要因」について尋ねている。
以上の質問への回答として、デジタルアクセスの拡大(技術革新)、グリーン転換(気候変動問題への対処)、地域経済の分断化、経済の不確実性、人口動態の変化(とくに先進国における労働層の高齢化)が影響力の大きいマクロトレンドであることが判明した。
さらにどのような技術がビジネスに変革をもたらすかについて尋ねたところ、「AIと(ビッグデータやVRなどの)情報処理技術」との回答が86%、「ロボットと自律化技術」が58%、「エネルギーの生成、貯蔵と分配」が41%となった。2位の「ロボットと自律化技術」においてもロボットの制御にAIが活用されることを加味すると、AIとその周辺技術がビジネスに多大な影響を与えると考えられる。
AIと経済の関係については、「IMF(International Monetary Fund:国際通貨基金)」が2024年1月に発表したレポート『生成AI:人工知能と仕事の未来』(※2)でも論じられている。このレポートによれば、仕事に対するAIの影響は職業ごとに異なり、AIによって業務効率化されるものもあれば、あまりAIの影響を受けないものもある。
そして、職業構成は国ごとに異なり、先進諸国ほどAIによって業務効率化できる職業が多い。こうした論点をふまえると、先進諸国ほど、AIによって仕事が効率化されて経済的に豊かになると予想される。
以上のように、AIの進化は単なる技術革新を超えて、世界経済と国際競争に直接的に影響を及ぼすのだ。
時価総額1位になったことも 急成長する生成AI時代の寵児たち
世界経済を左右するAIのなかでも、ChatGPTをはじめとした対話型生成AIはその活用範囲が広いので、その影響力はとくに大きい。そして、そうしたAIを開発する企業の動向は、当然ながら、大きな注目を浴びる。
生成AI時代に“アメリカン・ドリーム”とも言えるドラマティックな成功をおさめた企業は、やはりOpenAIであろう。2015年12月11日に設立を宣言した同社は、AIによって人類全体の幸福に寄与する非営利企業として出発した(※3)。当時は資金提供者と合計10億ドルの寄付を約束していたが、実際に集まった資金は約1億3,000万ドルであった(※4)。その後、AI開発には多額の資金が必要なことが判明したので、非営利企業が営利企業を運営する独特の二重構造を採用して、開発資金を集めるようになった。
OpenAIに転機が訪れたのは、2022年11月にChatGPTを無料公開した時であった。同AIの発表とその後の普及によって、同社は一躍“生成AIのリーディングカンパニー”と認知されるようになった。そして、2024年10月、同社が資金調達を実施したところ、企業評価額1,570億ドルとなり、調達資金は66億ドルに達した(※5)。この評価は、非営利企業から出発したことを考えると、驚嘆に値するだろう。
生成AI時代に大きく成長した企業には、GPU大手メーカーのNVIDIAも挙げられる。同社が注目されるようになったのは、本来は高画質のCGを描画するのに不可欠なGPUが、生成AI開発に大量に必要になるからである。こうした理由により、生成AI開発競争が激化するに伴って、同社のGPUの需要も急増した。
GPU需要の急増と軌を一にして、NVIDIAの時価総額も高まっていった。2024年6月19日、BBC NEWS JAPANが報じたところによると、6月18日に同社は時価総額が3兆3,400億ドルになり、当時時価総額1位であったMicrosoftを抜いて1位になった(※6)。
生成AI時代は今後もしばらくのあいだ続くと考えられるので、OpenAIやNVIDIAに続く“生成AI時代の寵児”がまた登場する可能性もあるだろう。