「タッチしない」改札に使われているテクノロジーとは? JR東日本の“挑戦”に迫る
タッチのいらない“ウォークスルー改札”とは
また「タッチ&ゴー」に代わるSuicaの将来的な新しい利用スタイルとして、「位置情報等」の活用以外に挙げられているのが「ウォークスルー改札」だ。スマホの位置情報の活用においては「利用者が当該の駅付近にいる」という大まかな情報しか得られないため、例えば「改札を抜けたか、抜けていないか」といった駅構内の正確な位置情報は得られない。一方で「ウォークスルー改札」は、従来の自動改札機のような“ゲート”を通過したか否かを位置情報を元に正確に測ることで、「改札を素通りするだけで入出場の処理を自動で行う」仕組みを実現する。JR東日本によれば、将来的に新宿駅などの世界一混雑する駅においても、従来のSuicaと同等以上の速度で大量の利用者を捌くことを想定しているといい、究極的にはSuicaの「タッチ&ゴー」を置き換える技術と目されていることが分かる。
問題は、このウォークスルー改札をどのように実現するかだ。衛星を使った位置情報システムは屋内では正確な位置を把握できないため、別の技術を利用することになる。現在、屋内の位置測定技術としてはWi-Fi、Bluetooth(BLE)、LED照明とスマホのインカメラの組み合わせ、AIカメラなどがあるが、カメラを使う仕組みはスマホなどの端末が隠れた場所にあると、端末内のSuica情報と位置情報の紐付けが行えないため、Wi-FiやBLEのような電波を使う方式が選択肢として残る。ただ、Wi-FiやBLEによる位置測定は誤差が大きく、特に人で混雑するようなエリアでは混信の問題もあるため、大量の処理を一度に捌くのに向いていない。そこで可能性が高い技術として目されているのが「UWB(Ultra Wide Band)」だ。
UWB自体はそこまで新しい技術ではないが、近年では「誤差数センチレベル」という位置情報測定での精度の高さを活用することで、用途の拡大が期待されている。AppleがiPhoneで採用しているAirTagの近距離での探索機能は、このUWBを利用したものだ。混信の可能性が高い特定の周波数帯を用いるWi-FiやBLEに比べ、UWBはより広い帯域を用いて通信を行うため、周囲の影響を受けにくいメリットがある。難点としては、現状でUWBの機能を利用できるのはiPhoneの現行機種のほとんどを除けば、Androidではハイエンド機などごく限られている点で、将来的により広い機種への搭載が望まれる。そして、Suicaカードのようなプラスチックの板カードではUWBは利用できないため、ウォークスルー改札の利用は基本的にスマホ利用者限定となる。この点は「位置情報等」の仕組みでも同様だ。
具体的に、UWBでウォークスルー改札をどう実現するのか。これは昨年2024年9月に開催されたシャープのInnovation Showcaseでのデモだが、UWB対応スマホを手に会場のデモエリアを移動すると、その軌跡を数センチレベルの誤差で描いてくるというもの。この仕組みを利用することで、UWB対応スマホにSuicaアプリを入れた利用者が改札付近を移動すると、その軌跡を改札のシステムがスマホ内のアプリと通信することで把握し、改札を通過したか否かを判断することで“入出場したかの情報”を利用者のSuicaに付与する。そして別の駅で利用者がやはりスマホを所持した状態で改札を通過すると、先ほどの入出場情報を元に運賃計算を行い、請求処理を自動で行うという流れだ。スマホのアプリがウォークスルー改札を利用できる状態になってさえいれば、スマホは仕舞ったままの状態であろうが、何かの操作を行ったままの状態であろうが構わない。これが将来的に実現されるであろうウォークスルー改札の流れだ。
今回は将来の鉄道改札がどのようなものになるかの視点で見てきたが、Suicaが将来的に目指している仕組みはこれだけにとどまらない。まだ実際のサービス提供までには時間があるため、今後もフォローしていきたい。