大手百貨店の社員が“VTuber運営”になるまで 大丸松坂屋百貨店「EchoVerse」担当者に聞く、プロジェクト始動秘話
「EchoVerse」が目指すのは「ハコ」型のVTuber事務所これからの歩みを聞く
――ここからは、「EchoVerse」の細かなポイントをお聞きできればと思います。まず、VTuberの活動拠点として王道なのはYouTubeですが、これ以外の配信プラットフォームでの活動は視野に入れていますか?
春田:まずはYouTubeからスタートしつつ、そこからご本人の特性に合わせて、ゲーム配信が得意な方であればTwitch、ショート動画が得意な方であればTikTok、といった具合で活動範囲の拡大も検討したいですね。また、『VRChat』なども活動場所の視野に入れ、当社のメタバース事業と一緒に取り組んでみる……というのも、より面白くなるのかなと思っています。
――オーディションは1月24日まで実施されていますが、現状の応募者はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
春田:現時点で150人以上の方にご応募いただいております。応募いただいた順に書類選考を進めていて、徐々に二次選考に入り始めた方もいる段階ですが、総じて何かしらの経験を積まれている方が多いですね。
――デビュー時期は春頃を予定していますが、デビュー段階ではどのような活動を展開していく見通しでしょうか?
春田:まずはデビュー配信から始まり、日々コツコツと、基本的に毎日配信を目指していくところからスタートですね。まずは知ってもらって、認知を獲得していくところから取り組みたいです。
――少し気が早いかもしれませんが、今回のオーディションでのデビュー枠は1名ですが、2期生以降のご計画はありますか?
春田:具体的な計画はないですが、できれば「ハコ」にしていきたいという思いがあります。なので、まずは一人を大事に育てていった上で、その後の人数増員を検討していきたいなと考えております。
――春田さん個人として、この後デビューされる最初のVTuberにはどんな活動をしていってほしいですか?
春田:やっぱり、音楽は一つのキーワードになるとは思っています。音楽が得意かどうかによらず、音楽は言語を超えますし、年代も超えるものなので、ぜひ取り組みたいですね。
――オリジナル曲や、ライブイベントなどが思いつきますね。
春田:たとえばVRのイベントでも、音楽があるといろいろ幅が広がりますし、画面の中だけに収まらないいろんな魅力を発揮していけるはずなので、フックとしてもぜひやっていきたいですね。
――また、こんな案件がほしい、こんな方とコラボしたい、といった展望はありますか?
春田:思いつきですが、ホラーゲームはVTuber業界でもよく話題になるので、ホラーゲームを一緒に制作したり、『VRChat』のホラーワールドや、最終的にはリアルのお化け屋敷にも発展していったりしたら面白いですね!
百貨店として、クリエイターと歩み、夢を叶える支えになる
――「EchoVerse」は大丸松屋百貨店にとっても初となるバーチャルタレント事業です。この事業を始めることで、大丸松坂屋百貨店はなにを成し遂げたいか、どのような地点を目指していきたいですか?
春田:前提として、全社の方針として「IPコンテンツの新規開発による当社グループ独自のエクスクルーシブな価値の提供」を目指すというものがあります。先ほども申し上げた、店舗に依存しないコンテンツ開発の一環として、このVTuberプロジェクトが存在すると考えていただければと思います。
松坂屋は江戸時代に創業し、呉服屋としてスタートした中で、着物を作るデザイナーなど様々なクリエイターとともに歩んできました。音楽の領域でも、東京フィルハーモニー交響楽団は松坂屋の「いとう呉服店少年音楽隊」が起源になっています。
こうした歴史を歩んできたことから、クリエイターと一緒にものづくりと価値創出に取り組むことが、当社の使命と考えます。そして、この使命に沿う、新たな取り組みにも挑戦していくべきです。これが、VTuber事業に取り組む意義だと思っています。
――百貨店がこれまで担ってきた、クリエイティブを担う人をキュレーション・発信し、支援していく役割を、オンライン時代に適合させていく過程で、現在のインターネットカルチャーの最先端の一つ、VTuberにも広げていく、ということなのですね。
春田:そうです。なので、「EchoVerse」からデビューされるVTuberには、ご自身のクリエイティブをどんどん発揮していただきたいと思います。イラストや音楽はもちろん、企画やトークもクリエイティブの一つです。ご自身のクリエイティブを活かし、「こういうものでこういう世界をつくりたい」と思いながら企画を動かしていけるとよいですし、私どもとしてもぜひそれを応援していきたいですね。
――最後に、「EchoVerse」に込める春田さんの想いをお聞かせください。
春田:私自身、いろいろVTuberを見てきたこともあって、VTuber業界の厳しさも感じています。なかなかすぐ伸びるものではなく、むしろ“ほぼ伸びない世界”だと思います。一人のファンとして、伸びないことに苦しんでいる方を見てきましたし、自分自身も『松坂屋三兄弟』で苦しんだ経験があります。給料こそもらっているので事情は異なりますが、自分で取材・撮影し、動画編集もして、グッズの制作発送も一人でこなしていたので、その辛さはよくわかるんです。
なにより、最初にいたゲーム会社が激務だったので、ものづくりは発信できると楽しいけれども、苦しいこともすごく多いものだと知っています。だからこそ、それでもなんとか諦めず、「こういう未来が一緒に見たいよね」と語らえるVTuberさんと、一緒に肩を組んで走っていきたいです!
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大丸松坂屋百貨店「EchoVerse」オーディションページ