ビデオテープが今年、使えなくなる? 「2025年問題」の真相に迫る

2024年下半期から急に世の中がソワソワしてきた、ビデオテープの「2025年問題」。VHSビデオなどの磁気テープの寿命が近づき、早めにデジタル化しておかないと自宅に保管してある想い出のビデオテープが永遠に観られなくなるかもしれないという由々しき事態になっているそうだ。
そこで素朴な疑問だが、本当にVHSテープに賞味期限はあるのか? ビデオテープの「2025年問題」に関する現状を、東京・元浅草で国内最大級のダビングサービスを行う専門業者・ダビングコピー革命を取材した。
磁気テープの賞味期限である耐用年数の限界
まずは「2025年問題」の背景について簡単に要件をまとめておこう。VHSテープなどの磁気テープの耐用年数は20年〜30年とされており、1990年代後半に需要ピークを迎えたころのビデオテープが、そろそろ耐用年数を超え、劣化してビデオデッキでデータが読み込めなくなる可能性があること。さらに、再生するビデオデッキ自体も国内製造終了から8年以上が経過し、壊れたら修理不能な場合があること。
そのうえで、賞味期限の目安が2025年と区切られたのは、2019年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が「磁気テープの映像を2025年までにデジタル化しないと永遠に失われる可能性がある」と警告を出したことが発端である。というわけで、昔懐かしのVHSテープをはじめとする磁気テープにいま、最大のピンチが訪れているというわけなのだ。
約150台のビデオデッキがフル稼働で必死にダビング中
筆者がダビングコピー革命を訪れたのは昨年、2024年の12月中旬のこと。店内にはアナログのテープメディアを再生する各種デッキが隙間なくびっしりとレイアウトされ、スタッフが黙々とダビング作業を行っていた。
同店にはVHSテープをはじめ、8mmテープ、ミニDVテープなどあらゆるテープメディアが持ち込まれる。通常納期は2ヶ月で、特急便になると1週間。現在、2拠点合計で150台のデッキが常時、フル稼働中だという。
「ダビングする本数は毎月2万本強で、年間にして約25万本ほどでしょうか。例年、年末は駆け込み需要が増えますが、正直なところ、”2025年問題”の影響については個人的な肌感覚としては、まだあまり感じていないですね」とは同店店長の丸山裕二さん。
同社はもともとケータイのリペアサービスなどを行っていたが、ビデオテープのダビングを手掛けていた顧客から「後を引き受けてくれないか?」と相談されたのを機に、事業のひとつとしてダビングサービスをスタート。最初こそ、あくまで”ついで”感覚だったが、どんどん注文が入ってくるようになり、ついに2016年からダビングサービスの専門業者へと舵を切った。
「一部ではデジタルからデジタルへのダビングもやっていますが、基本的にはアナログメディアからデジタルへのダビング。さすがに50年後の未来を語ることはできませんが、現状、掘り起こせていない需要はまだまだたくさんあると考えています」
全部で約150台あるソニー製などのプロ仕様の再生デッキを稼働させ、再生したビデオ映像をそのままビデオキャプチャを使ってPCに取り込んでデジタル化している。デッキのなかには知る人ぞ知る名機、ソニーの『DSR2000』の姿も。
「これはミニDVテープ用のデッキですが、中古市場で出回ると業者感で取り合いになることが多い機種でもありますね」
持ち込まれるテープで多いのはVHSテープとミニDVテープだという。
「本数自体はミニDVテープの方が多いかもしれません。ただ、1本の録画時間でいうと、VHSテープは3倍録画できますからね。120分テープで実際には360分録っているケースも多いわけです。毎月2万本強という数字は実はキャパシティのマックス。倍速ダビングなどができるわけではありませんので、とにかく1本をダビングするのに時間がかかります。なので、あまり個人の方にダビング作業をすることはオススメしません。作動する再生デッキをお持ちで、想い出のテープを観ながらついでにダビングをするということであればいいと思いますが」
ところで、これまで持ち込まれた膨大な数のビデオテープのなかでダビングできないテープはどれくらいあるのだろうか? いわゆる、”賞味期限切れ”のビデオテープのことだ。
「実は感覚的には100本に1回あるかないかくらいの割合なのです。ただ、ビデオテープの場合、テープと再生デッキに相性があって、同じテープでもデッキの機種によって再生できる、できないというケースや、ダビングの仕上がり品質が大きく変わることが結構あります。
なので、テープに合わせて最適な使用デッキを選別することもわれわれの重要な仕事。ある種の職人感覚的な部分もありますね。また、ビデーテープの劣化の要因として、カビなど保管環境の問題もよく言われていますが、われわれの経験ではカビに関しては、当然100%OKとは言えませんが、大抵の場合は大丈夫だったりします。
別料金をいただきますが、カビ取り専用にしているデッキで一度再生し、テープに付着したカビを拭き取る作業をした後に再生すると、なんとかなるケースも多々ありますね。もし、ウチでダビングできなかったビデオテープがあるとすれば、ウチの所有している機材では再生ができなかったという表現の方が的確かもしれません」
なんとも、頼もしい言葉ではないか。
思い出が詰まったホームビデオをこの機会に保存替え
「持ち込まれるテープの内容はほとんどがホームビデオ。この仕事をやっていてよかったなと思うのは、ダビング中に映像にうつった当時のお子さんの姿を見て少しでもキレイに残したいなと思ったり、お客さまの気持ちに寄り添えるところですね。少し前になりますが、東日本大震災で津波にのみこまれた土砂混じりのビデオテープが持ち込まれたことがありました。作業的にはかなり大変でしたが、テープを解いてケースを入れ替えたりなどして、なんとかビデオテープを修復して映像が出たときは感慨深かったですね」
ダビング現場の話を聞く限り、完全にぷっつりと2025年でビデオテープの賞味期限とは断言できなさそうだが、そうはいってもテープ内の磁気に寿命があるのも事実だし、前述したように機器との相性もある。個々のテープの実際の寿命は神のみぞ知るといったところだ。
ただ、粋な想いでダビングを手がけてくれる専門業者がいるのなら、大切な記録は早めにデジタル化しておくに限る。2025年のビデオテープ問題は、あなたや家族の思い出をどう残すのかを問うきっかけになるだろう。
◯参考情報
ダビングコピー革命
年間約25万本を手がける国内最大級のダビングサービス
住所:東京都台東区元浅草3-1-1-4F
TEL:0120-980-192
https://dubbing-copy.com
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