『8番出口』映画化が示唆する新トレンド 2025年はインディーADVの“メディアミックス元年”に?

 2024年12月27日、『8番出口』の映画化が発表された。

 発売されるやいなや注目の的となり、多くのフォロワー作品を生んだゲーム『8番出口』。満を持して発表された意外とも言えるメディアミックスは、原作の求心力をさらに高められるだろうか。本稿では「インディーゲームのメディアミックス」という観点から、新たに生まれつつあるトレンドを紐解いていく。

「リミナルスペース」を題材にした間違い探しアドベンチャー『8番出口』

8番出口

 『8番出口』は、ゲームクリエイターのKOTAKE CREATE氏が手掛けた、「リミナルスペース(※)」を題材とするホラーアドベンチャーだ。プレイヤーは、無限に続く地下鉄駅の通路から脱出するため、繰り返される景色のなかに隠された異変を探していく。

 特徴となっているのは、現実と見紛うほどの精細なグラフィックと、狭いエリアで小さな間違いを探すというシンプルでわかりやすいゲーム性。実況・配信文化とも親和性の高いこうした要素が発売当初から話題となり、瞬く間に人気のタイトルとなった。以降は、他のプラットフォームへと移植されるとともに、「8番出口ライク」のジャンルが確立されトレンド化。多くのフォロワー作品を世に生み出している。2024年5月には、続編『8番のりば』もリリースに。前作で好評だったシステムを踏襲しつつ、新たな要素も盛り込んだ同作もまた、多くのプレイヤーに遊ばれた。

 配給を担当する東宝によると、映画版『8番出口』は、2025年の公開を予定しているとのこと。原作でおなじみの“スーツ姿のおじさん”も登場することが明らかとなっている。

※簡素さ、静けさによって見慣れた場所が非日常的で不気味なものと感じられてしまう現象を指すインターネットミーム。

映画『8番出口』は原作ゲーム同様、トレンドを生み出せるか

【映画『8番出口』】全世界向け 映画化発表映像 <2025年公開>

 ゲームの界隈では昨今、「インディー」という言葉に熱い視線が注がれている。本来は、市場に長く君臨してきた大手企業の対義語として、小規模な制作組織に使われてきたものだが、最近ではそこから転じ、タイトルそのものを同様に表現するケースが増えてきた。業界動向にアンテナを張っている方なら、誰しもがいくつかのヒット作に思い当たるはずだ。2024年には、カナダの個人開発者・LocalThunk氏が手掛けた『Balatro』が飛躍。同作は、年末に開催された『The Game Awards 2024』において、最優秀作品賞にあたる「GAME OF THE YEAR(GOTY)」部門にノミネートされた。

 本稿で扱う『8番出口』も、そのようにカテゴライズされるタイトルのひとつだ。先にも述べたとおり、同作はKOTAKE CREATE氏によって開発されている。ボリュームこそ低価格相応のものとなっているが、そのアイディアや作り込みには目を見張るものがあった。そうした点が評価されているからこそ、現在の地位を確立するに至ったのだろう。今回の映画化は、『8番出口』の文化的/商業的成功の延長上に存在していた記念碑のようなものであるとも言える。

Balatro [Indie World 2024.8.27]

 一方、「インディーゲームを原作としたメディアミックス」という観点では、別の大きな功績も見えてくる。これまで同カテゴリから映画化に至った作品はほぼ存在せず、『8番出口』が「インディーゲームの映画化」というムーブメントの草分けとなっていく点だ。原作同様、成功を手にした暁には、そうした流れがトレンド化する可能性もある。決して道のりは平坦ではないだろうが、そのような明るい未来を期待させられることもまた事実だろう。

 原作者のKOTAKE CREATE氏は今回の発表に際し、「発売から約1年後に映画化が発表されるとはまったく思っていなかった」「世界観や雰囲気を壊すことなく、映画として面白いものに仕上がっている」とコメントしている。その発言内容を見るかぎり、映画『8番出口』もまた、ジャンルに違いはあれど、エポックメイカーとしての役割をまっとうできる、魅力的なコンテンツとなっているのかもしれない。

「小規模制作×ホラー/サスペンスADV」の分野で広がるメディアミックスの流れ

 他方、映画の分野にこだわらない「インディーゲームを原作としたメディアミックス」では、2024年12月1日、『グノーシア』のTVアニメ化も発表されている。また、年末には、インディー系でこそないものの、小規模制作であることが『8番出口』との類似点に挙げられる『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』コミカライズ版の続報も話題を集めた。

TVアニメ『グノーシア』ティザーPV | 2025年放送開始

 3作品のあいだには、開発体制の大きさのほか、ホラー/サスペンスをテーマにしたアドベンチャーゲームであるという共通項も存在する。そうしたなかにあって、ひとつは映画化、もうひとつはTVアニメ化、さらにもうひとつはマンガ化という、それぞれの形で新たな展開を模索していることには、また違った面白さを感じられるのではないか。それぞれの結果からは、「『小規模制作×ホラー/サスペンスアドベンチャー』と親和性が高いのは、どの分野であるのか」といった現時点での傾向も見えてくるはずだ。

 どのメディアミックスが成功を手にするのか。失敗に終わってしまう作品も出てくるのか。一連の結果の根拠に「小規模制作」「ホラー/サスペンス」「アドベンチャー」「展開先の分野」などの構成要素はどのように関わってくるのか。気になるポイントを挙げればキリがないだろう。多くの共通項を持つ人気ゲーム3作すべてが、別の分野ながら近い時期にメディアミックスされることで、それぞれはそのポテンシャルを主戦場とは別の舞台で比較されていくのかもしれない。

 『8番出口』を含む、3作品のメディアミックスは、いずれも2025年内の発表を予定している。ゲーム業界から新たに生まれそうなメディアミックスのトレンド。手に取ったフリークたちの反応に注目したい。

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