Z世代女子を中心にTikTokで“推し活まとめ動画”が流行っている背景とは?

 2024年も終わろうとしているいま、アイドルファンのZ世代女子を中心に自身の1年間の推し活を「推し活まとめ動画」としてTikTokにて投稿することが流行している。その盛り上がりは「#現場まとめ」が約2万件、「#テンプレート」が約13万件「 #推し活」が約53万件、「#オタ活」が約9万件とハッシュタグの使用件数からもわかる。そのうち「推し活まとめ動画」として投稿されているものは一部だが、体感としておすすめ欄への表示件数は日に日に多くなっているように感じる。

 そもそも「推し活まとめ動画」とは、ファンが自分と推しとの思い出の写真や動画を、音源編集と歌詞入れがされている現場まとめ用のテンプレートに挿入して作成する動画である。多くのテンプレートが投稿されているため、CapCutさえあれば誰でも簡単に作成することが出来るものだ。2021年頃から存在し、ここ1年ほどで見かける件数が増えてきた。

テンプレート動画の例

テンプレートを使用して作成した動画の例

 このような自身の推し活をまとめた動画がTikTokでZ世代女子を中心に流行している理由について、本記事では様々な切り口から分析していく。

SNSの普及と推し活ブームによる影響

 ここ数年の若者を中心とした推し活ブームの影響により、推しがいること(=オタク)への社会的な理解度や受容度が高まっている。その結果、SNSの普及と相まってそれらを利用して推し活を他人に見せるムーブメントが広がったと考えられる。

〈2024年度〉
〈2023年度〉

 生活者を中心にしたマーケティング支援事業を提供する株式会社ネオマーケティングが実施した「推し活に関する調査 2024年」によると、推し活・オタ活をしている人は前年度と比べて全体としてやや落ち着きを見せたものの、20代の若い世代ではますますその勢いが増しているという。

 MERY Z世代研究所が実施した推し活調査によると、Z世代女性の約6割が推し活中であるという。

 また、株式会社minor roleが実施したZ世代に分類される若年女性の推し活層のSNS利用事情に関する調査によると、ほとんどの人が推し活のためだけのSNSアカウントをもっているという。アカウント分ける主な理由は、SNSを通して気兼ねなく推し活を発信するためだと推測する。

 さらに株式会社ネオマーケティングが実施した「これまでにおこなったことがある『推し活』」の調査結果によると、10代~20代は「SNSで情報発信する」と答えた人が全世代の中で最も多く、また「推している対象の画像や動画を作る」と答えたが20%を超えた唯一の層となっている。若者は、自分の好きなものについて発信することや、それに関する動画・画像を作成することに積極的であることがわかる。

SNSで推し活を発信するその理由とは

 今回取り上げているTikTokだけではなく、InstagramやXなどのSNSで推し活を発信することが当たり前の時代になっている。

 では、なぜ若者は自信の推し活をSNSで世の中に向けて発信するのだろうか。

 推しの存在は今や生活の一部であり、人生そのものだという人も多い。そのためSNSで自分の「好きな推し」及び推し活を世の中に発信することは、自分自身が何者であるかというアイデンティティを示すことになるが、それによって得られるものは主に二つあると考える。

 まず、自分自身を肯定してくれる場所や存在が得られる。

 推し活をまとめた動画は、従来の推し布教のための動画とは異なり、基本的に動画のメインは推しではなく、推し活をしている自分であることが特徴だ。このような動画には「素敵で憧れます」「幸せのお裾分けをありがとう」といった投稿主の推しへの愛に対して、あるいは「主さん雰囲気可愛すぎます」「スカートかわいすぎる!どこのですか?」といった投稿主自身への賞賛のコメントが寄せられている。このようなコメントが来れば、誰しも自己肯定感が上がるだろう。Z世代の推し活女子がSNSで推し活を発信する背景には、「自分が何者かを示した自分」を肯定してくれて認めてくれるような精神的に満たされる居場所が欲しいと思う気持ちがあるのではないか。

 一方で、最近SNSでは「キラキラオタク」という推し活をしている自分の姿をSNSに載せて楽しんでいる女性ファンを揶揄するようなワードも飛び交っている。推し活をしている自分を見せることに対して「推しが好きなのではなくて推しを推している自分が好きそう」「承認欲求が強い」と捉えられ、批判的な見方をされてしまうことがあるのもまた事実である。

 また、SNSで推し活すなわち自分の「好き」を世の中に発信することは、共通の「好き」をもつ周囲の人と繋がってコミュニティを形成することに繋がる。

 推し活は基本一人で行うもの、という文化は未だ根強いが、最近ではSNSを通じて出会った共通の「好き」をもつ人たちと一緒にライブやイベントに参加する人も増えている。ファン同士でつくるコミュニティは、今や推し活に欠かせないものとなりつつあるのかもしれない。

 推し活をしている様子を載せた動画は、自分の推しと同時にどのくらいの熱量をもって推しを応援しているか、さらには自分の好きな服の系統や雰囲気なども情報として発信することができる。その結果、この種の動画は自分と趣味や系統、価値観や熱量が合いそうな人を見つけて繋がるきっかけとなっている。

 実際、動画には「おすすめに流れてきて気になったのでよかったら繋がりませんか?」「私も○○ちゃん/くん好きです!」「私も○○担です。基本単番なのでもしよかったら仲良くしてください」といったコメントが多く寄せられていた。

動画で使用される楽曲からの分析

 TikTokで「#現場まとめ」や「#推し活」をみると、実に多くの推し活まとめ用テンプレートが投稿されており、使われている楽曲も様々であった。

 ここでは、テンプレートで音源の使用件数が多い人気曲をいくつか抜粋して取り上げる。

初音ミク『妄想アスパルテーム』

 「ありえない幻想 あふれだす妄想 とまんない つまんない 欲が散らばって 求めてる愛情 隠してる劣情 君以外全部いらないわ」

宝鐘マリン『美少女無罪♡パイレーツ』

 「キュートは正義 美少女無罪 キミの一番 目指してヨーソロー! 本当は自信ないけど頑張っちゃう」

=LOVE『絶対アイドル辞めないで』

 「責任取ってね 大好きです 絶対 アイドル辞めないで (ずっと) 優しい目も 真面目顔も 全て知ってる私が言う! 」

FRUITS ZIPPER『超めでたいソング~こんなに幸せでいいのかな?」』

 「まずはトゥデイをブチ上げよ? (おめでとう!) 私こんなに幸せでいいのかな? (いいのかな?) なんて本当はそんなこと悩んでないけど だって、ちょっとくらいのマイナスもなきゃ って思うくらいにいい感じ (なんです!) まあねこんなに幸せでいいのです (いいのです) だってわたし自分で選んだんだから」

Girls²『センチメートル』

 「あと少し 30センチの片想い 届きそうで、届かなくて こんなに近くにいれるのに 掴めなくて」

ドラマチックレコード『君はソナチネ』

 「そう何度だって考えた 君と特別な関係になんて 一生なれない わかってる、わかってるけど そう何度だって会いにゆく ステージから見える景色の中に ねぇ 僕はいる? 残さない 後悔 悔いない 絶対」

ChocoLate Bomb!! 『推しが優勝』

 「推しが絶対優勝 (ユウショウ) 推しが絶対優勝 (ユウショウ) 怖がらず この想い 届けるよ」

TWS『If I’m S, Can you be my N?』

 「僕がSなら君は僕のNになって どんな瞬間でも君を見つけられるように 反対同士が惹かれる千万番目の理由を 明日の僕らは知ってるかもしれない」(日本語訳)

 上記を見て分かるように、グループのジャンルも知名度もバラバラであるし、倍速にしたり、キーを変えて使用されている楽曲も多い。このことから、投稿者は誰の曲であるかということよりもスピード感と歌詞で選曲していると考えられる。さらに、各曲の歌詞を細かくみていくと、「推しへの想いが綴られた歌詞」や「自分自身の気持ちを昇華できる歌詞」、「自分が推しへ抱く感情/推し活をしている自分をどことなく肯定してくれるような歌詞」の曲が多いという特徴がみられた。

 このことからも、やはり推し活している自分を肯定してもらいたい、そんな想いから推し活まとめ動画の投稿は広がりをみせたのではないかと考える。

推し活の在り方は変化する?

 TikTokでの「推し活まとめ動画」をはじめ、推し活をしている自分をSNSへ投稿することが流行っているのは、「推し活」が推しを応援すること・愛を伝えることに留まらず、自分のアイデンティティを示すものや自分を生き生きとさせるものへと進化したからだと考えられる。

 変わりつつある推し活の在り方。今後また新たなかたちの「推し活」は生まれていくのだろうか。

関連記事